台座に刺さっている錆びた剣といえば何を思い出すだろうか。
僕の場合は伝説の剣だ。びっくりすることに伝説の剣でも錆びることがあるのだ。実際に見たアレは御大層にぶっ刺さってる割に見た目めっちゃしょぼかったけど、可能性は否定できない。
なんだかんだで妖精さん達の問題も解決して一安心していたら、ふとそんなことを思い出して大王に説明したのだが、大王はものすごい不審な目で僕を見る。
「雪の女王のところで見たモノを確認しに行きたいのであるな?」
「さっすが大王、話が早い!ちょっと余裕あるわけだし、せっかくだから。ね?」
「ダメなのである!いい加減ヨミを連れて戻らねばミト殿に殺されるのである!」
「えー?でもちょっとくらいならよくない?」
「ならんのである!ミト殿のご機嫌優先である!」
強い言葉を吐きつつも、その身はぶるぶると震えている。僕がされていたお仕置き(尻叩き)を思い出したのだろう。恐怖におののく大王には自尊に伴う威厳が欠片も見られなかった。
魔物のくせにただの人間であるミトさんに恐れをなしてしまうとは、なんと情けない大王様だろう。
「おなかすいたー。おうちかえるー」
「ぴぇー」
「ぐおお」
「そっか、三人がそう言うなら帰ろうか」
「吾輩と扱いが違う!!」
今更なのである。
「ゼンクロウ君たちはもう行くの?」
「はい。親が待ってるので」
「そっか。ちょっと寂しいけど、お父さんが待ってるなら仕方ないね」
「ゼンクロウは真面目ねー。もうちょっとくらいなら大丈夫なんじゃないの?」
ビアンカさんの言葉に黙って首を振る。大丈夫じゃないです。大目玉です、間違いなく。ばーちゃん達もさすがに心配してるだろうし。潮時というやつです。
「おにーちゃん、どっち行けばかえれるのー?」
ヨミに服の裾を引かれてその大きな瞳を見つめ返すことしばし。
「大王、そういえばここってどこら辺になるの?異世界?」
「分からんのである!」
「相変わらず役に立たねえ……」
「ぬう!この小童が!ゼンこそ分からんのであろう!」
「そうだけどさー、大王なりの所感があるんじゃないの?僕はそれが聞きたいなあ。博識な大王なら何かしら推測してると思ったんだけどなー」
「うぬ、しからば吾輩の考えを言わずにはおれぬのである」
ぴょん、と跳ね飛んだ大王は近くの岩の上に乗り上げると、両腕を組んでさも偉そうに語り始めた。いいね、調子出てきたんじゃない?
「確かにここはゼンの言う通り、吾輩らが住んでいる場所とは地続きの場所ではなかろうな。であるからして、異世界という呼び名はもっともである。
問題はこの時空が吾輩らの世界とどういったつながりを持つかである。おそらくはあの石版に座標を登録された世界の一つであろう。
となれば、あの遺跡を作った者達の意思が反映されているはずである。正確に読み解くには遺跡自体の調査が必要であるな。
しかし、現状判明しているのはアレが古代、グランエスタード時代のものであり、かつ目的が何らかの災害から逃れようとしたものであることのみである」
「ほほう。災害回避かあ。ありえそうだけど、その根拠は?」
「碑文である。たまたま残っていた一欠けらの石に『災厄への対策のためにこの遺跡を作った』と記載されていたのである。今回吾輩らが実際に体験した結果と、その碑文から推測するに、逃げ場を欲したのであろうな。避難民が流入しても、安全でかつ、食料を継続的に入手できるような場所が登録されていたのであろう」
もう少し言えば、原住民との対立も考慮したのかもしれない。妖精さん達なら割と人間に好意的だから。
と、大王はふんぞり返ってうんちくを垂れてくれた。
「ふーん」
「反応が淡泊すぎるのである!質問したのはゼンであろう!」
「そうだけどさー、帰るのには役に立たないなあって。やっぱルーラ試してみようかな」
「ルーラ?」
師匠とビアンカさんが同時に首を傾げた。あれ?まだ知らないのかな?
「ルーラは移動用の呪文ですよ、師匠。思い浮かべた場所にほぼ一瞬で飛べるっていう」
「え、そんな呪文があるの?」
「初耳だわ。ベラは知ってた?」
「私も詳しくは……古代呪文にそんなものがあったって聞いた気がするけども……」
古代呪文?いやいや、僕じゃなくてもちょっと習熟した魔法使いならバリバリ使ってるよ?そんな昔の────ん?あれ?昔の呪文なんだっけ?え?
ぐらり、と頭が揺れる。目の前がチカチカする。
「ゼン!」
気づいたら十文字のふわふわ毛皮にもたれかかるように埋まっていた。んー、何考えてたんだっけ。
「ごめんごめん、ちょっと疲れたみたい。やっぱりさっさと帰ろうか。みんな僕の所に集まってー」
やたらと僕の心配をするみんなに笑顔を見せつつ、四つん這いで伏せた十文字の背中によじ登る。大王もピョンピョン跳ね飛んで、珍しく僕の頭に乗らずに上っていった。ヨミとキョロちゃんも十文字が上りやすいように差し出した腕側からおっかなびっくり上っていく。
「ゼンクロウ君、本当に大丈夫?」
「無理しちゃだめよ?」
「分かってますよぉ、師匠。それよりも、残念ながらこれでお別れですけど、せっかくなんで僕のルーラの出来栄え、最後にしっかり見ててください」
師匠とビアンカさんが数歩後ろに下がると、僕らと師匠達の仲魔たち、そして妖精さんたちと対面するような形になった。
「気を付けてね」
「師匠達も、どうかお元気で」
そして僕らは一筋の光になった。
なんて、抽象的な表現したけれども、僕のルーラは間違いなく発動して、そんでみんな一斉にばーちゃんの家の前に投げ出されていた。
「あいてて……ホイミ」
反射的にヨミを抱きしめて落ちるのをかばったから、たぶん怪我とかはしてないだろうけど、念のため、目も開かない内に抱きしめた温もりに癒しを施す。
「ついたー?」
「ぴぇー」
「うぬ、ぬぅ……」
「ぐおお」
最後の十文字の唸り声はおかしかった。というか、完全に威嚇だ。何か目の前にいるの?
ふらつきながらも立ち上がり、その警戒に値する何かに目を向ける。
そこには────
「ゼンクロウ君……?」
「師匠……?」
紫色のターバンとマントを身にまとった、一人の青年が立っていた。