ジパングの魔物使い   作:gamika

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03.騎士と大王とボス

 グルルァァ、とうなりを上げる『ごうけつぐま』に対峙しているのはピンク色のとんがり帽子とローブを着た横に太いババアだった。その手には全体がピンク色に塗りつぶされた箒がある。

 

 魔女といえば箒。確かにそれは間違っていない。間違っているのは色彩センスだ。どうなってんの、あのババアの感覚。

 

 こそこそとババアの後ろに隠れながら、僕はそんなことを考えていた。

 

「何をそんなにいきり立ってるんだね?ごうけつぐまの」

 

「グルああああ!!」

 

 今のを要約するとこんな感じのセリフだった。

 

『そいつがいい気分で寝てた俺の鼻先で聖水のくっせええ匂いを嗅がせやがったんだよォ!おまけに気持ち悪ぃ糸を絡ませやがって!!』

 

 えっ、マジ?そんな理由で怒ってたの?

 

「匂いくらいで僕を殺そうとしたの?とんでもねえな魔物」

 

「カカカ、見た目の通り、暴れん坊が多い種族だからねえ。でもな、ごうけつぐまの。ここは引きな。この人間の小僧はアタシと取引したんだよ。実験台になるっていうねえ」

 

「グォオオオ!!」

 

「失礼な熊っころには少しばかりお仕置きが必要かね……?」

 

 ピンク色のババアはそう言って箒を槍のように構えた。

 

「閃熱魔法───ギラッ!!」

 

 箒の先がばちっと音を立てたかと思うと、光がほとばしった。閃光は目にもとまらぬスピードでごうけつぐまの肩にぶち当たった。

 

「グルァアアア!!」

 

 突き抜けまではしなかったが、ごうけつぐまの体毛は焼けて消し飛び、熊肉も間違いなく焼け焦げている。けれどもさすがは魔物か、その程度ではひるまない。叫びながら突進してくる。

 

「ばーちゃん!危ない!」

 

「ちょっ、小僧!?」

 

 瞬間、周りがとてつもなくスロウリィになった。思わず飛び出してしまった僕の手がまほうおばばのピンクローブに触れる。おばばはその年に似合わぬ素早い反応で、右に跳び退ろうとしていた。

 

 それに合わせるように力を込め、跳ぶ勢いを後押しする。けれども僕の体はそのまま前へと進むだけだ。そして、そこには凄まじい勢いで迫るごうけつぐまがいた。

 

 まるでトラックの真正面に出たみたいだ。あの勢いならぶん殴られる以前に、跳ね飛ばされてご臨終は間違いない。つまり、このスロウリィ現象は死ぬ間際に見るというアレに違いない。

 

 このままいけば数瞬後には空の彼方で走馬燈か。冗談じゃない!

 

 何かないか、と思ったが、子供の僕に肉体面でここから立て直す方法などあるわけもない。であれば、先ほど見たアレにかけるしかない。

 手の平に力を集約するイメージ。できるはずだ、できなければ僕は死ぬ。死ぬ間際の、火事場の馬鹿力よ!今こそ僕に!

 

「ギラッ!!」

 

 手の平でぽすん、と情けない音が鳴った。

 

 マジかよ。

 メラにすれば良かった────

 

 そんな後悔が胸に広がっていく最中、視界が白銀に覆い尽くされた。

 

「いい気合いだ、少年」

 

 流麗なイケメンを思わせる声。その声と共に、剣戟が始まった。それもひどく一方的な。美しい剣閃が弧を描き、空中を走る。その度にうめき声と鮮血が舞った。

 

 体感時間がいつの間にか通常に戻り、気付けばごうけつぐまは満身創痍で立ちすくんでいる。僕の目の前の奴がやったのだろうか。

 

 その姿は一言でいえば白銀の騎士だった。左手に盾を構え、右手には美しく輝く、手入れの行き届いた刀剣を持ち、背中の白いマントは風を受けて優雅にひるがえる。

 

 命の危機に現れたそいつは間違いなく───

 

「『さまようよろい』……!」

 

 ちょっとだけ勇者を期待して、残念に思った僕を責める者はいまい。

 

「ぐっ、グゴオオオオ……!」

 

「やれやれ、ナイスタイミングだよ、我が騎士。小僧が飛び出してきた時にはどうなるかと冷や冷やしたけどねえ」

 

「アッ、ハイ。無謀ですみませんでした」

 

 素直に頭を下げると、白銀のさまようよろいは気にするな、とでも言いたげに剣を軽く振った。

 

「さて、どうするかい、ごうけつぐまの。我が騎士が来て二対一。それでもやるかねぇ?」

 

 ひひひ、と意地悪く笑うピンクババアはまるっきり悪役の面だった。まあそうだよね。魔物だもんね。そもそも悪役だったよね。

 

 でも悪役といえば、向こうの熊だってそうだ。このままおとなしく引き下がってくれるだろうか。どうせなら「覚えてろー」ってお決まりのセリフ吐きながら逃亡してくれるとありがたいんだけど。

 

 ごうけつぐまは、ふしゅるる、と荒い息をつきながら、血走った眼で僕らを見ていた。完全に頭にキている感じだ。こりゃダメだ。説得無理。

 

「無力化できるかい、我が騎士よ」

 

 無言だったが、白銀のさまようよろいは頷いたようだった。

 

 対峙する魔物三体。裂ぱくの気合がはじけ飛ぼうとした瞬間、

 

「あいや待たれい皆の衆!!」

 

 少々甲高い、何者かの声が水を差した。

 

 まだ出てくるのか。さすが魔物だ。一匹いたら百匹はいるな。

 

 きょろきょろと辺りを見回してみれば、あからさまに揺れている木々があった。それと一緒にどすんどすんと、重々しい音も響いてくる。

 

 やがて、大きな木々を掻き分けて現れたのは、もう一匹の豪傑熊だった。そいつは僕を追ってきた個体よりも一回り体が大きかった。首の下あたりには白い毛が十字模様に生えていて、巌のようにずっしりとした、どこか威厳すら感じるような個体だ。

 

「ボスだ」

 

 自然とそんな感想を抱くほどに強烈な存在感だった。まさに豪傑。その名に相応しい。

 

「おや、帰ってきたのかい、大王」

 

「うむ!しかし吾輩、帰るなり闘争に巻き込まれるとは思わなんだぞ!」

 

 妙に甲高い声だった。このボスっぽいクマには全然似合わない。

 

「ぐおお」

 

 そうそう、こういう重低音の方が似合っている。

 僕を追いかけていた方のごうけつぐまも、ボス熊が現れてからはどこか二の足を踏んでいるように思えた。

 

 ボス熊はどすんどすんと相変わらず音を立てながら僕らの方に近づいてきて、その場にどっかりと腰を据えた。器用にも胡坐をかいている。

 

 その熊の頭から何か小さいものがぴょんと飛び降りた。

 

「さてさて、事情は大体そこらの魔物から聞いておるぞ!そこなごうけつぐまよ!相手が人間とはいえ、それは襲うにも足らぬ理由!その上、ここなおばばが仲裁に入って尚止まらぬか!無作法にもほどがあるぞ!!」

 

 甲高く喚き散らしているのは小さな赤いカエルだった。

 

「ねえ、ばーちゃん。このちっこいの何?」

 

「何とはなんだこの人間の子供め!吾輩は大王である!!」

 

「大王って……大王ガマ?」

 

「うむ!ゆえに大王よ!」

 

 変な笑いが出てしまった。

 

「おやおや、所詮は人の子よ!吾輩の威厳でちとおかしくなってしまったようだのう!」

 

 なんて幸せな頭をしてるんだろうこのカエル。これで大王ガマって。手のひらサイズじゃないか。

 

「ごうけつぐまよ!ここは我等に免じて、ちょっと可哀そうな頭の人の子を、許してやっては……あ、くれまいか!」

 

 えっ?かわいそうなのはカエルさんの方ですよね?

 

「ぐおお」

 

 ボス熊さんもどこか苦笑してらっしゃる。

 

 そんなカエルさんに、キレていたごうけつぐまさんも毒気を抜かれてしまったようで、「グァァア」と、やる気のない声を出した。振り返って四足で歩き始める。

 

「うむ!これにてぇぇぇ、一件落着!!」

 

 いい感じにカエルさんが締めようとしたが、僕はそれを完全に無視して帰り始めたごうけつぐまへと駆け寄っていく。

 

「小僧、危ない真似をするでない!!」

 

 ピンクババアの焦った声も聞かず、僕はごうけつぐまを呼び止めた。

 

「その、なんかケガさせて悪かったよ。これはお詫びだ。癒しの力よ───ホイミ」

 

 今までの僕ではできなかった魔法。その力は淡い光となってごうけつぐまの体を包んだ。優しく、優しく。できる限りその痛みを和らげてやろうと力を込めた。

 

「ほお、あの小僧、やりおるわ」

 

 光が収まると、ごうけつぐまは首だけをこちらに向け、

 

「ガルァアアア」

 

 もっと寄こせと言った。あれ、足りてない?仕方ないなあと思いつつ、もう一度力を込める。込めるが、うんともすんとも言わない。代わりに妙な倦怠感が身を包む。

 

「あっ、そうか。たぶんMP切れだコレ」

 

 微妙な空気が辺りを包んだ気がした。

 

「さっ、さまようよろいさん!!あの、ホイミスライムを……!」

 

「こいつにホイミスライムを呼ぶ力は無いよ」

 

「なんて……ことだ……!!」

 

 常識を覆されて、僕は膝をついた。恥ずかしくて、少し泣いた。

 




 ゼンクロウ は レベル が あがった!
 ホイミ を おぼえた!
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