ジパングの魔物使い   作:gamika

34 / 39
34.全てを汚染する竜の息吹

 荒れ狂う吹雪がヒミコ様の顔をした何かを物理的に凍らせていく。凄い形相だ。怒りよりも驚愕の方が強いようだが、めっちゃ不細工だった。どんな美人でも変顔したらすげえ顔になるもんね。思い知らされたわ。

 

 なんて、間抜けな感想は置いといて、この好機を逃す手はない。すかさず声を張り上げる。

 

「大王!続けてヒャダイン!十文字も一発凄いのぶちかまして!」

 

「ゲロゲーロ!吾輩のヒャダインを食らうのである!」

 

「ゲロゲーロって何!?」

 

「ぐおお」

 

 そうだよ。そんなキャラじゃないでしょ、大王。

 

 思わず叫び返したけども、大王が唱えた呪文は確実にヒミコ様モドキを凍てつかせていく。僕のヒャダインと合わせて相乗効果でなかなかの威力が出てるっぽい。

 

「吾輩貴種とはいえ、元を正せばカエルである!蛇は天敵ッ、憎し捕食者ッ!そやつすら手玉に取る吾輩はまさしく大王ッ!そう知らしめるためのアッピールであるッッッ!」

 

「なるほど!つまり煽ってるってことだね!すげえ分かりづらいよ!」

 

「なんと!」

 

 あっ、うなだれた。

 落ち込むのはいいけど呪文の手は緩めないでほしい。パキパキとヒミコ様の皮膚が凍り付いていくが、どうやらそんなに効いているわけでもないっぽい。驚愕多分な表情が徐々に怒りの表情に変わっていく。具体的にはめっちゃしわくちゃになっていく。ばーちゃんみたい。

 

「貴様らあぁ!よくも……」

 

「ぐおお」

 

 どごん、ともの凄い音がして、何かを叫びかけたヒミコ様モドキが吹っ飛んでいった。十文字が吹雪の中に突っ込んで、腰の入った正拳突きをぶちかましたのだ。凄いね。マジであんなゲームみたいな音出るんだ。あんなん食らったら腹に穴空きそう。

 

 実際すさまじい威力だったらしく、温泉の脇に壁として組み上げておいた岩石が、ヒミコ様モドキ衝突の影響であらかた吹っ飛んでしまっていた。なんてことだ。

 

「ああっ、僕のっ、僕の温泉が……ッ!」

 

「この期に及んで湯の方が心配とぬかすか!確かに!心地よくはあったが!」

 

 僕の嘆きに呼応するかのようにヒミコ様モドキがただの瓦礫と化した石塊の上に立ち上がった。もうほとんど人の顔をしていない。口は裂けたように広がり、眼球は爬虫類特有の縦長瞳孔と化してしまっている。

 

「やっぱり!ヒミコ様の顔が化け物だ!」

 

「ぬうっ!騙して食ろうてやろうと思ったがここまでか……!」

 

 ギチギチと身を軋ませながら、ヒミコ様モドキが徐々に姿を変えていく。人の体は崩れ去り、巨大な体躯を成そうと筋肉が盛り上がる。人肌は緑色に染まり、せり出す鱗が歪に光を反射した。その怪物の首は五本。五対の眼光がとてつもない威圧感を伴って僕らを鋭く射貫き、それぞれの首からおぞましい唸り声が五重になって響き渡った。ああ、やっぱりこれは、間違いなく────

 

「やまたのおろち……!」

 

「そうよ!我こそやまたのおろち!人間の小僧よ、なにゆえ気付いた!我が擬態呪文(モシャス)は完璧だったはず!」

 

「気づかないはずがないッ!だってヒミコ様は……ヒミコ様は、もっと残念な人なんだッ!!あんなオボコいお嬢さんが色気なんて出せるはずもない!つまり偽物だッ!」

 

「その言われようは聞き捨てならんぞゼンクロウ!」

 

 ごおっと炎が音を立てて大蛇に襲い掛かった。すさまじい熱気と風が巻き起こる。その間隙を縫うようにして、対峙する僕らの間に躍り出た巫女装束の女性は、今度こそヒミコ様その人だった。

 

「本物?」

 

「ああ、本物だとも!しかしな、ゼンクロウ、その本物に色気がないとはどういう事かえ?ことと次第によってはお尻ぺんぺんじゃぞ!」

 

「どういう事って……ただの事実ですけど」

 

「尚のこと納得いかぬわ!もうよいっ!あとでお尻ぺんぺんじゃ!」

 

「ヒミコ様って子供をいたぶる趣味あるんです?こわぁ……」

 

「人を特殊性癖みたいに言うでない!大体、色気むんむんな方が本物のわらわであったらどうするつもりだったのかえ!?」

 

「前提がありえないです。僕がヒミコ様を見間違えるわけないから」

 

「こっ、こやつ、(わらし)のくせに殺し文句のようなことを……!」

 

「でも、そうですね。本当にヒミコ様があんな感じになったその時は……うん、成長したなあって感慨にふけると思います」

 

「おぬしはわらわの父親か!」

 

「やかましいわ人間ども!我を前にいい度胸だ!消し炭にしてくれる!!」

 

 ヤマタノオロチは大してひるむことなく、五つの口から炎の息を放った。どうやらヒミコ様の炎は効き目が薄いらしい。もともと炎に耐性があったのだろう。けれどもそれは火巫女たる彼女だって同じだ。すかさず神聖なる炎の壁が噴出して、竜の息吹を遮った。

 

「ぬぅ、人間のくせにやりおるわ!」

 

「邪龍めが!炎の神域においてこのわらわを討ち取るなど、そう安々と叶わんと知れ!」

 

「ヒミコ様、油断しないで。あれが以前説明した災厄そのものだよ」

 

「分かっておる!バルナスという輩から聞いたのでな!」

 

 バルナスさんここまで来てくれてたんだ。しかもヒミコ様に説明までしてくれていた、と。さすがだ。やっぱりできる紳士は違うなあ。

 

「くはは、炎で有利に立てずとも我にはこの鋼のごとき肉体がある!」

 

 邪竜の首が奇妙にうごめいて、高く伸び切ると、地面に突き刺すような勢いで振り下ろされた。噛みつくとかそういうレベルじゃない。首だけの体当たりのようなものだけど、十分な力が乗ったそれはたやすく僕らを押しつぶす勢いがある。その先には極限まで鍛え上げられた筋肉を持つ、獣のボスがいた。

 

「ぐおお」

 

 よっこらせ、と微妙に気が抜けるような声を出して、十文字がその頭にかち上げるようなアッパーを放った。岩同士がぶつかるような激突音が響く。なんというパワー。拳と顎が互いに弾かれ合い、顎は再び上空へ、拳は熊の体ごとずざざと地面を盛大に彫り削りながら後退した。

 

「ぬうう!熊ごときがよくも我の一撃を……!」

 

「ぐおお」

 

「いやまあ、確かにあっちだって蛇ごときなのはそうだけどさ。もうスケールが違うじゃない」

 

 竜と蛇は似て非なる者だよ。僕の感想に言葉も返さず、十文字は地面に埋まった足を器用に引っこ抜いた。そんなことをしている間に再び竜の頭が振り下ろされる。今度は噛みつきだったが、十文字は牙を避けて上手いこと鱗に覆われた部分を叩き、危なげなく跳ね返していく。何度も何度も、五本ある竜の首が振り下ろされては打ち返され、あっ、これ揺れるサンドバッグ打ち返すボクサーだ。

 

「ぬう。どう見る、ゼンよ。お主が言うよりずっと善戦しておるのである」

 

「そだね。なんか十文字強すぎない?」

 

「吾輩のバイキルトその他もろもろ補助呪文のおかげであるな!」

 

 フフン、と鼻を鳴らす大王は調子に乗りつつもたまにヒャダインとか打ってるけども、邪竜はびくともしない。タフすぎる。危なげないように見えて、これはちょっとまずいね。完全に消耗戦だ。ヒミコ様の炎は効きが悪いし、炎の息を打ち消すのが精いっぱいだ。

 途中からガンマ君を《しょうかん》したみたいだけど、ガンマ君も炎属性メインだから竜の鱗に攻めあぐねてる。十文字だってそうだ。僕らを守るために竜頭を一手に引き受けて攻勢に出れていない。回復呪文があるとはいえ、十文字が体力の限界迎えたら一気に突き崩されかねない。

 

 現状を打破するためのもう一息が欲しい。何かないか。必死に考えて、考えて、そして思い……出した!

 

「大王!睡眠呪文だ!あいつは眠気に弱い!」

 

「うぬっ!ラリホー!」

 

「ぬぅ!?」

 

 酒飲ませてたから倍率ドンだ。これならきっと……!

 

 ちょうど十文字の一撃を食らって跳ね返った頭がくらりとよろめき、盛大な音を立てて墜落した。完全に伸びてる。

 

「ぬおお!我が首の一つが……!いや、これはまさかッ!?」

 

「効いた!でも頭一つだけだ!大王!ラリホーマは!?」

 

「大王たる吾輩ならば使えるとも!ラリホーマ!」

 

「ぬうう!そこのカエルよ少し待て!」

 

「待てと言われて待つカエルなぞいないのである!」

 

 びたーん、びたーんと竜頭が次々と沈んでいく。いいリズムだ。これなら勝てる!

 

「えっ、ええい!目を覚ませ!」

 

 真ん中の首が叫ぶと同時、地べたに這う首に次々と体当たりを始めた。まるでもぐら叩きだ。叩かれた方はとろんとした目を一瞬で見開いて首をもたげた。覚醒が想像以上に早い。脳みそが5つあるせいとかだろうか。でも寝起きのせいか、明らかに動きに精彩を欠いている。

 

「やっ、やはりこれは!貴様らのせいで今までのいい気分が……!」

 

「大王続けて!少しでも隙が出来れば十文字も攻撃に移れる!」

 

「任せよ!」

 

「ぐおお」

 

 眠った首を起こす役目と十文字をとどめる役目。遠距離から呪文を放つ僕らに向けて炎で牽制する首も必要だ。役割が増えたことで、明らかに十文字の負担が減った。残念ながら僕のヒャダインじゃ大した影響与えられないけれども、十文字のパワーなら!

 

「待てと言っておるだろうがぁあ!うぐっ!」

 

 邪竜の叫びにも構わず、熊の巨体が雄々しく駆け抜けていく。それを押しとどめようと度々牙が襲い掛かるが、さすがは十文字式熊殺し格闘術の開祖だ。熊のくせにやたらと体の使い方が理論的で、実践的で、技巧的だった。紙一重で躱し、いなし、撃ち落とし、それこそ熟練の武闘家のように巨体に見合わぬ恐ろしい速度で拳を振るう。サモハンかよ。

 

「くっ、熊よ!ちょっと待て!待たぬか!我は今……」

 

「ぐおお」

 

「いやそうではなく!ぬぐう!」

 

 ついに竜の足元に肉薄した熊は、その両目に気迫をみなぎらせて、大きく一歩踏み込んだ。っていうか、踏み砕いた。地からの反動をそのまま上空へ向け、熊毛に包まれた拳に乗せて、打ち、抜く!

 

「ぐおお」

 

 抉り大槌(ハンマー)って言ってた。技名らしい。名前付いてるだけあるようで、その威力は見るからに今までで一番だった。何しろ吹き飛んだ竜頭の勢いが違う。首が折れちゃうんじゃと思うほどにのけ反って、あろうことか邪竜の前足が浮き上がり、そのままひっくり返りそうになって……ギリギリのところで持ちこたえた。

 

 けれども、今の一撃で竜頭の表情は明らかに憔悴し、青くさえなっているように見える。持ち上がった足が地面に戻ってこない。後ろ足どころか全身がぷるぷると震えている。

 

「うぶっ」

 

 邪竜が大きく口を開いた。今までにない予備動作……まさか灼熱の!?

 

「ぎっ、気持ち、悪……げはあ!」

 

 高く高く掲げられた竜の口から、どろどろとした何かがあたり一面に盛大に飛び散った。びちゃびちゃと音が鳴る。なんだこれ、くさっ!臭い!

 

「ゲッ、ゲロだこれーーーー!!」

 

「ぎゃあああああ!」

 

 頭から被ったヒミコ様が女性が出しちゃいけないような悲鳴を上げた。

 

 

 

 






酒飲んだ後の急な運動は厳禁です。マジで。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。