ジパングの魔物使い   作:gamika

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書けてしまったので勢い任せで3話同時投稿。3/3


37.召喚されし者達

 強すぎる光があると、人は視力を失う。何も見えなくなる。だから、それが現れた瞬間は誰にも分からなかったはずだ。

 怒りに燃える僕の呼び声に応えて現れたのは、間違いなく僕が望んだ最高の人外の力を持つ破壊者だった。

 

 けれど、それは人でもあった。

 

 青い服と青い帽子。その帽子の上から押さえつけるように付けられた特徴的なゴーグル。そして、彼が手にしている剣には鳥を模した美しい装飾の鍔があった。

 

「ロトの……」

 

 あまりのことに、先ほどまで僕の全部を塗りつぶすほど燃え上がっていた怒りが一気にしぼんでいく。同時に立ち続ける力もしぼんでいく。僕はへなへなとその場に座り込んだ。頭が、思考が、ぼやける。

 

「ゼンよ、大丈夫であるか?」

 

「おい、ゼンクロウ?聞こえておるのか?」

 

「小僧め、またとんでもない者を呼び出しおって……」

 

「兄貴!なんスかさっきの呪文!?」

 

 次々に周りのみんなが声を出すが、僕はそのどれにもこたえられなかった。ただ、目の前の信じられない存在を見つめ続けることしかできない。マジか。マジでか。僕はなんて、なんて───!

 

「君、大丈夫かい?」

 

 目の前の青年が僕に声をかける。かけてくれている。ブンブンと首を縦に振って、僕は最初の一言を思い切って口にした。

 

「あっ、ああああのっ!サインくださいッッ!」

 

「サインって何のことかな?」

 

「あっ、そうか、そういう文化ないのか!えと、サインと言うのはそう、出会った記念に直筆の名前を書いて渡すってもので……!」

 

「良く分からないけど、それじゃあ僕の場合はロランって書いて渡せばいいのかい?」

 

「はい!はい!そうですそうです!」

 

「うぬ、何をそんなに興奮しておるのだ」

 

「ばっか、わかんないの!?この人勇者だよ勇者!伝説の!破壊神を破壊した!」

 

 そう、彼は間違いなく勇者だ。きっと、大王を除いて知らない者はいないに違いない。ローレシアの王子にして、世界を救ったロトの血脈の一人。師匠とはまた別の意味で、僕が憧れた本物の勇者!

 

「……なんというか、君は中々に変わった子供だね」

 

「よく言われます!あ、色紙ない!だったら服、服に!!ばーちゃん!ペンとかないの!?この際墨でもいいよ!」

 

 ばーちゃんが呆れたようにため息をついた。なんでか知らないけど、ペンの代わりに拳骨もらったし。意味わかんない。まあいいや。今この場にペンがないなら後でばーちゃんちに来てもらって、そこでサイン書いてもらおう。

 

「まぁた良く分かんねェところに来ちまったな……」

 

「これもルビス様の導きなの……?」

 

 あ。ロランさんの後ろにお仲間の二人までいた。召喚時の閃光のせいもあるけど、あまりのことにくらくらして、視界が狭まってたみたいだ。

 

 この際だからじっくりと二人を眺めさせてもらう。

 男性の方は緑を基調とした服を着ていて、前掛けのようなその服にはロランさんの剣と同じく、鳥を模した紋章が描かれている。髪は金髪。ロランさんと同じくゴーグル装備。

 女性の方は紫のほっかむりにゆったりとした白いローブ。ちょっとくせっけのあるブロンドの髪がなんともチャーミングだ。手にした杖が何か光を放ってるけども、何か呪文でも使ったのだろうか。

 

 いやまあ、こんな詳しく説明しなくてもいいよね。あの人達だよ、あの人達!

 

「すげえ本物のサマルさんだ!サマルさんまでいる!」

 

「サマルじゃねえ、サトリだ。俺の国知ってんのか?お前、本当に変な子供だな……」

 

「うっひょぉお!犬姫様ぁ!こっち向いてー!」

 

「うー、あんっ!……こほん。私はルーナ。正真正銘の人間です。犬扱いしないで欲しいな。というか、なんでその事知ってるの?」

 

「まあまあ、二人とも、今は───」

 

 ロランさんはそう言って鋭い視線を背後に向けた。途端に邪悪な竜が怯えたように息をのむ。気持ちは分かる。魔にとって、彼らはまさしく天敵。それも、この感じだと、破壊神を破り、頂点に上り詰めた後、更なる領域に至った人達だ。

 

 だからこそ、やまたのおろちは動かなかった。いや、動けないでいた。

 何気ない振舞いの向こうに、常に臨戦態勢。何をするでもなく、ただそこに在るだけで、そのオーラは既に邪気をねじ伏せ───圧倒した。

 

「ぬ、ぐう……!!」

 

 有無を言わさぬ威圧を前に、やまたのおろちはたたらを踏んだ。己が力に絶対の自信を持っていた邪竜が怯えている。ああ、やっぱりこれが、これこそが僕の、僕らの望んだ───

 

「ま、わかりやすい状況だわな。あの五つ首の竜から邪気が溢れかえってやがる」

 

「他の魔物は……ああ、クリオ君達と同じなのか」

 

「みたいね。合縁奇縁、不思議なものだけど、私達の旅はまだ終わりじゃないみたい。ふふ、とりあえず回復してあげる」

 

 ルーナさんが杖を軽く振ると、淡い緑色の光が僕らを包んだ。これはベホマラーかな?暖かい。身体的な傷だけじゃなく、彼女の慈愛が僕の傷心を癒してくれているようだ。

 

「ここに来る前に君の嘆く声が聞こえたんだ。よく耐えたね。あとは任せて欲しい。ええと、名前……」

 

「ゼンクロウです!」

 

「ゼンクロウ君だね。君は皆を守ってあげてくれ」

 

 かっけぇ……

 僕は陶然とした目で彼らを見ることしかできなかった。手伝う?ううん、そんなこと考えるまでもない。師匠の時は、まだ発展途上だったというのもあって僕が手伝うなんて小生意気な真似もしたけど、この人たちは既に完成しているんだ。

 

 三人で一人の勇者は僕らの前に出て並び立ち、巨大な竜に向かい合う。

 

「邪悪なる竜よ。僕らは彼らのように正しい心を持った魔物がいることも知っている。だから、あえて言おう。これまでの悪行、反省するというのなら少し痛い目を見る程度で留めてもいい」

 

「いや、反省も何も、我はせいぜい家屋を一つ壊しただけ───」

 

 言いかけて、やまたのおろちはハッとしたように五つの首を横に振った。

 

「否!否ッ!断じて否ッ!我が人間に媚びへつらうだと?そんなことがあってたまるかぁ!我のチカラは常に高まり続けている!何者が相手だろうと負けるはずがないッッ!がああああ!」

 

 大蛇は大きく息を吸い込み、そして、今までになく強力な炎を吐きだした。三人の姿が炎の中に沈んで、一瞬で見えなくなる。なんて熱風だ。直撃を受けていない僕の髪がちょっと焦げてしまった。これもしかして《しゃくねつ》レベルなんじゃないか?急激に強くなりすぎだよ。オーブってマジチートアイテムだわ。

 

 こんなもの受けたら普通はただじゃすまない。というか死ぬ。僕だったら多分死ぬ。でも、目の前にいる人たちは違った。何の痛痒も受けずに同じ場所にたたずんでいる。

 

「無駄とは言わないけど、この程度で私達は殺せないわ」

 

「ほう、あの一瞬でこれほどまでに強力なフバーハを張るとはね。やるじゃないかあのお嬢ちゃん。後継者に欲しいねえ。小僧よりもよっぽど見込みがありそうだ」

 

 けひひ、と笑うばーちゃんの言葉通り、ルーナさんが張ったフバーハはとんでもない威力のはずのしゃくねつを完璧に受け流していた。地面を見ればわかりやすい。光の薄膜を境界として、おろち側に転がっていた石はさっきの炎でドロドロに溶かされているが、勇者側は草一本すら燃えていない。すげえ。

 

 まあでも、ちょっと範囲外にいた僕の髪は焦げちゃってるんですけどね。

 

「あ、ごめんね。ゼンクロウ君達の方にちょっと炎が漏れちゃったかも」

 

「ったく、あっちは俺が張っておいた。手ェ抜いてんじゃねえよ。オレはルーナに比べりゃ補助呪文はヘタクソなんだ。攻撃に集中させて欲しいもんだぜ」

 

「サトリ……君は本当に変わったよ。昔はむしろのんびり屋だったのに、今じゃ一番に切り込もうとするほど気性が荒くなって……」

 

 もう違和感もないけどね。そう続けたロランさんが溜め息をつくと、サトリさんはカラカラと笑った。

 

「ははは!あんな激戦続けてりゃ男なら多少荒っぽくなるわな!つーわけで早速行くぜ!」

 

 サトリさんが駆け出したと思った瞬間、どういうわけかその姿を見失ってしまった。目も瞑らずにじっと見ていたのに。唖然とする間もなく、彼の猛りが聞こえてきた方向に視線を流すと、邪竜の首が四本ボトリと落下した。おいおいおい、今の一瞬で切ったの?どうやって?

 

「これが古流剣殺法二文字(にもんじ)。ちゃんと見てたかあ、ゼンクロウ君よ~!」

 

「見てたんですけど見えませんでした!どうやって四回も斬ったんです!?」

 

「はっはー!俺の(つるぎ)は二度『破壊』の風を起こす……ってな!まあ二回斬ったらこうなるわけだ!」

 

「その二回すら見えなかったんですけど……十文字は見えた?シロガネさんは?」

 

「ぐおお」

 

「……」

 

 どうやらシロガネさんだけはかろうじて見えたらしい。たぶん僕の周囲で一番強いのはシロガネさんだ。そのシロガネさんも見るだけですら厳しいのか。すげえ。

 

「チェ……見えてなかったかあ。じゃあロランの番だ!残りの首一本、わかりやすい一撃頼むぞー!」

 

「ああ、分かった。竜よ、覚悟はいいかい?」

 

「まっ、まままま待て!!わわ分かった!反省する!反省するからやめてくれ!」

 

「そうか……」

 

 邪竜が怯えるように後ずさると、ロランさんは構えかけた剣を下ろし、少しばかり安堵したように息をついた。

 

「ロラン、いいの?」

 

「ああ。ゼンクロウ君からはクリオ君と同じような気配がするから、きっと大丈夫だよ」

 

 そう言って僕へと笑いかけた瞬間だった。邪竜の瞳が紫色に怪しく輝き、大きく大きく息を吸い込んだ。途轍もなく邪悪で、強大で、震えそうなほど恐ろしい闇の力が一点に収束していく。

 

「ロランさんっ!」

 

「残念だ」

 

 聞こえたのは心底残念そうな響き。見ていたのは神々しく光りを放つ剣。一旦は散漫になったはずのロランさんの力が一気に刃へと集中し、聖なる力が闇を払うべく振るわれる。

 

 一瞬のことだったが、今度は確かに見えた。

 

 振り下ろした剣から迸った光が、闇の炎を切り裂き、浄化し、その先にあった邪竜の頭部を粉々に吹き飛ばしてしまっていた。いや、頭だけじゃない。首の根元から胴体の中ほどまで、根こそぎ消滅してしまっている。

 

「すげえ」

 

 凄まじい光景を前にして、ただ呆然とすることしかできない。立ち尽くして、あんぐり口を開けた僕の頭を誰かがぐしゃぐしゃと掻きまわした。見上げてみれば、快活に笑うサトリさんがそこにいた。

 

「どうだ、ゼンクロウ。今度ははっきり見えただろ?」

 

「はい……はいっ!すげえ!!」

 

「ふうっ、これで終わりかな」

 

「ですね!すっげえ!マジすげえ!!」

 

 さっきから僕すげえしか感想言ってない。すげえ。

 

「ゼンクロウ、おぬし……」

 

「はっ!?」

 

 興奮して叫び続けて喉が疲れてきたところで、みんなから生暖かい視線を向けられていることに気付いた。僕はわざとらしく咳をして居直った。

 

「これで災厄は回避できましたね、ヒミコ様」

 

「お、おう……ゼンクロウも男の子じゃのう」

 

 言わないで。恥ずかしいから。

 なんにせよ、本当にこれでヒミコ様は助かったと言えるだろう。あとは本物のヒミコ様にパープルオーブを保管してもらって……あっ。

 

 冷静になると、改めて見えてくるものもある。

 パープルオーブ、さっきの一撃で消し飛んでないよね?

 

 慌てて竜の死骸に向かって駆け出そうとして、ルーナさんに肩を掴まれた。細い手なのに力強い。ピクリとも動けなくなったし、僕より筋力あるよ絶対。

 

 不満を込めてルーナさんの顔を見上げると、その顔は明らかに強張っていた。まだ魔物と相対していた時の顔のままだった。

 

「みんな気を付けて!あいつまだ生きてる!」

 

「マジか」

 

 どんだけしぶといんだよ、やまたのおろち。

 

 確かにまだ終わっていないようで、竜の死骸の肉が盛り上がり、ぐねぐねと奇妙にうごめいていた。吹き飛んだ首を再度形成するかのように細く、硬く引き絞られ、地面にぐいんと伸びていく。その先には紫がさらにくすんで闇色に近くなった光があった。アレがオーブかもしれない。

 

 肉塊はオーブを取り込むなり、筋繊維むき出しの首を高く掲げた。紫紺の光が一層輝き、筋肉の上から徐々に鱗が生えていく。

 

「はぁー、こりゃ驚いたぜ。あの一撃でまだ生きてやがるのか。さすが腐ってもドラゴン。大した生命力だ。それともロランよ、闘い続きで疲れて仕留め損ねたか?」

 

「それは否定できないね。アレも激しい戦いだったし……僕はともかく、向こうの事が少し不安かな」

 

「大丈夫よ。あっちはあっちで、あの人達がどうにかしてくれてるわ、きっと。今は目の前の事を優先しましょう」

 

 なにそれ。どんな戦いをしてたのかめっちゃ聞きたい。けど、確かに今はルーナさんの言葉通りやまたのおろちを片付けることの方が重要だ。

 

 じゃあ、どう始末をつけるか。

 僕が思うに、ロランさんの攻撃力が足りてないというのは違うんじゃなかろうか。あれは言うなれば魔力(MP)を使って再生するゾンビとか、その辺だと考えた方がいいような気がする。

 で、たぶんだけど、再生の仕方見る限り、今のMP供給源はパープルオーブ。操ってるのは闇の波動の根源である魔王。オーブは破壊できないし、今すぐ魔王をどうこうする事も不可能。

 

 だったら、オーブへ向かう闇の波動を断ち切ってしまえばいい。その手段として考えられるものといえば。

 

「邪なる威力よ退け。《破邪呪文(マホカトール)》」

 

「そうそう、例えば《破邪呪文(マホカトール)》とかで───はい?」

 

 神々しい光の柱が天へと立ち昇り、オーブにまとわりついていた邪悪な波動が浄化されていく。それと共に復活しかけていた邪竜の死骸は力を失い、今度こそただの肉塊と成り果てた。僕の考えは当たっていたようだったが、それを実践した人物は予想外だった。

 

「なんでここに……?」

 

「久しぶりだな、ゼンクロウ。そして……」

 

 白く清廉なローブの上に空色のマントを着こみ、智慧(ちえ)を司りしサークレットを身につけた人物。彼ならば確かに破邪呪文を使えるだろう。勇者ではないけど、勇者と同じくらい尊敬できる人だ。

 

「この世界へようこそ、異なる時空の勇者達よ」

 

 三人の勇者へ向けて、にこやかに笑いかける賢者カダルさんが、そこにいた。

 

 




完全パクリだけど、あのシーンめちゃくちゃカッコいいんだもの。真似したくなっても仕方ないよね。
(あいつ勇者の話になると早口になるの気持ち悪いよな)
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