ジパングの魔物使い   作:gamika

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04.魔法おばばの小間使い

 ひょんなことから『魔法おばば』のばーちゃんの小間使いとして働くことになった僕だったが、それはとても前途多難なものだった。

 

「ひぇっひぇっひぇっひぇっ。練れば練るほど色が変わって……」

 

「不味いッ!」

 

 大瓶(おおがめ)をかき混ぜるばーちゃんの姿は完全無欠のアレだった。そして混ぜられているその中身は完全無欠に不味かった。マジでどうしようもないくらい不味かった。

 

 おごごご、と変なうめき声をあげる僕にかまわず、ばーちゃんは目をキーラキラさせて(かめ)の中を練りまわしている。

 

「ね、ねえ、ばーちゃん。これなんの薬?」

 

「魔力が回復する薬さね」

 

「魔力減らさないと効果わかんないじゃん!」

 

「おーっと、そうだったねえ。じゃあホイミでも唱えてから飲んでみておくれよ。も・う・い・ち・ど」

 

「ぐっ、このクソババア……!わざと言わなかったな……!!」

 

「はぁん?あたしゃ最近耳が遠くてのう。何言っとるかとーんと聞こえんのー」

 

「じゃあ魔力使ってやるよ!メラッ!」

 

「マホカンタ!」

 

「熱ゥッ!」

 

「ほほ、こりゃおあつらえ向きの火傷したねえ。ほれ、ホイミ唱えて治すがいいよ」

 

「うぐぐぐ、そして薬を飲めと……?」

 

「そうさね。まったく、アンタは素晴らしい実験台だよ」

 

「くっそぉおおおおお!ホイミ!そしてまっずぁあああああ!!」

 

 日々こんな感じだ。しかもこういう薬、効果だけはマジであったりするのが性質悪い。ここ数日で僕はどれだけ叫んだだろう。ゼンクロウさんのクールなイメージが台無しだよ。

 

 そんな風に苦しむ僕を横目に、すぐそばのテーブルでは大王と白銀の彷徨う鎧がチェスっぽい何かをやっていた。

 

 カツン、とルークっぽい駒を動かして、大王が舌をびろんびろんと伸ばした。

 

「ゼンが来てからというもの、吾輩、真の平穏を得た気分である」

 

「なんだよ、大王だって飲めばいいじゃん」

 

「嫌なのである。ゼンが来る前に散々味わったのである。マジで地獄の日々であった……」

 

 遠い目をする大王は心の底から平穏を享受しているようだった。僕という尊い犠牲があることを忘れないでほしい。

 

「シロガネさんも飲んでたの?」

 

 尋ねると、白銀の彷徨う鎧はポーンっぽい何かを一マス進めてから、ふるふると兜を横に振った。まあそうか。口とかないもんね。

 

「んで、ばーちゃん。今日の分は終わり?」

 

「残念だけどねえ、もう試すようなもんはないよ。明日にはできるけどねえ」

 

 ひひひ、と笑うばーちゃんの顔はマジで魔女そのものだ。でも太ってるせいか怖さは微妙な感じだった。

 

「ねえばーちゃん」

 

「なんだい小僧」

 

「痩せなよ」

 

「うるさいわ!用は済んだんだからとっとと帰りな!!」

 

「雑用はいいの?」

 

「ああ、今日はいいのさ。あいつがそろそろ来るからねえ」

 

「あいつって?」

 

「しばらく待ってりゃ来るだろうさ。ほれ、帰る気がないんなら、邪魔だから外でシロガネと稽古でもしてな」

 

 追い立てられるように家の外に出されてしまった。

 

 でもまあいいか。誰か知らない人が来るみたいだし、せっかくなのでシロガネさんに稽古つけてもらいながら待ってみよう。食料は山の幸で賄えるし、畑仕事は休みってことで。パっつぁんに後で怒られるかもしんないけどまあいいや。

 

「そんじゃ、シロガネさん、よろしくお願いシャース」

 

 シロガネさんは盾を投げ捨て、片手で剣を構えるとゆっくりとうなずいた。シロガネさんはとても無口だ。でもそれを補って余りあるほど、その物腰、所作で雄弁に語ってくれる。

 

 僕はばーちゃんの家の中に転がっていた刀っぽい、こんなのあったっけっていう感じの剣を上段に構えて吐息を練る。

 

 一刀目。袈裟に切りかかると、シロガネさんはそれに合わせて軽く受け流す。絶妙な力加減でそらされたそれを、切り返す形で振り上げて二刀目。けれどこれもまた、簡単に弾かれる。

 

 僕の剣技はものすごくお粗末だけど、それでもシロガネさんの技の冴えは常人をはるかに超えた域にあるのが分かる。たぶん、ただの『さまようよろい』じゃないんだろうなあって感じさせるものだ。まあそれを言い始めると、ここに住んでる魔物達全員がそうなんだけど。

 

 あ、でも大王だけはよくわかんないなあ。ちっちゃいカエルだし。喋れるのはびっくりしたけど。

 

 とかく、シロガネさんは魔物以前に凄まじい腕を持つ剣士で、その上、教えるのがめちゃくちゃ上手い。剣を合わせている間、完全に無言なのに、なんか知らんが僕という素人でもめっちゃ剣技のアレコレが理解できるのだ。自身の技量が上がっていくのを明確に自覚できる僕はきっと幸せ者なのだろう。

 

「ありあとやしたー!」

 

 大量の汗を垂らして、僕が限界だ、というところになると、決まってシロガネさんは先に剣を引く。僕自身ですら気づかないそれをきっちり見据えて指導してくれるのだ。シロガネさんマジ尊敬する。パネェっす。

 

 そして、ここから始まるのは僕と森のグラップラー、豪傑熊(ごうけつぐま)十文字(じゅうもんじ)との相撲だ。

 

 十文字はここら辺りの『ごうけつぐま』の中でも頭一つどころか三つ四つ飛び出た最強の存在らしい。思った通りだった。だって存在感からしてパネェもん。

 

 そんな十文字だが、普段は非常におとなしい。そんでシロガネさんに負けず劣らず無口だ。

 

 今も定位置の芝生の上に座って、周囲を飛び交うちょうちょに空猫パンチして遊んでいる。決してちょうちょには当てないが、腕を振るう度に風圧で軽くちょうちょが吹き飛んでいるのはご愛嬌ってやつだ。

 

 僕はとてとてと十文字に駆け寄って、その大きな体に抱き着いた。

 

「毛がふかふかでとても気持ちいい……でも獣くせえ……」

 

 十文字は心外だとばかりにふんす、と鼻息を鳴らすが、臭いものは臭い。

 

「風呂入ろうよ、十文字。せめて水浴びとかさー」

 

 またもふんす、と鼻を鳴らして十文字はぷいと横向いた。

 

「つれないなー」

 

 そんな何でもない会話をしながらも僕は全力で十文字の体を押していた。

 

 十文字が言うには、まずは体を作らないと話にならないんだそうだ。なので、基礎体力をつける走り込みなんかに加え、こうやって十文字をこの芝生から押し出す、という稽古?をつけてもらっている。これが相撲の正体だ。

 

 もし押し出せれば十文字式熊殺し格闘術を教えてくれるらしい。ちょっと燃えるよね。

 

 で、一時間ほど休みを挟みながら押したけど、やっぱり今日も十文字を押し出すことはできなかった。

 

 十文字って体格から考えると体重一トンぐらいあるんじゃねえの?

 だったら、そもそも無理じゃんこれー。

 

 と、愚痴を吐いたらシロガネさんが無言で十文字に近づき、片手で押し出した。

 それから、ぐっと親指を立てて僕にサインをくれる。お前ならやれるってことですね。

 シロガネさんやっぱパネェっす。

 

 

 

 

 

 その後は、ばーちゃんの薬の完成を遅らせようと、たまに茶々入れながら魔法の練習をしていたのだが、そこへ変な二人組が現れた。

 

 一匹は青白い肌に蝙蝠の羽を持つ吸血鬼っぽい魔物。口に収まりきらない飛び出した牙がなんかキモイ。

 

 もう一匹はその吸血鬼の周りをうろちょろする、小さな悪魔っぽいベロ出し小僧。装備がフォークなのがなんとも……農作業に使えそうだな。パっつぁんにあげたら喜ぶかな。

 

 うーん、なんだか二匹とも口から余計なものが飛び出してる感が凄いなあ。

 

「あの、どちらさまで?」

 

「おー、オメーが婆様の下僕になったって人間かァ!ヒュー!なんだか弱そうなヤツだなァ!」

 

「アッ、ハイ。下僕じゃないですけど、ゼンクロウと言います」

 

「オウ、オレッチはベビーサタンのベヒモンよォ!そんでこっちのお方が……」

 

「初めまして。バーナバスのバルナスでございます」

 

 僕らが簡単な挨拶を交わしたところで、家の扉が勢いよく開いて怒鳴り声が響いた。ばーちゃんマジうるさい。

 

「ほら、とっとと入って話を済ませな!あたしゃ忙しいんだよ!」

 

 バルナスさんは肩をすくめると、それでは、と言葉を残してそそくさと家の中に入っていった。何を話すか知らないけども、ばーちゃん相手に一人で大丈夫かな。あ、よく考えたら大王もいるか。

 

「というか、君はいかないの?ベヒモン……君?」

 

「オウ!オレッチが行ってもわからねー話だかんな!それよっかゼンクロウ!オメー、オレッチがバー様の一番弟子って知ってっかァ!?」

 

「マジで!?」

 

 あのババアの弟子だと!?正気かこのベロ出し小僧!!

 

 僕が驚きをあらわにすると、それに満足したのか、小さな羽をばたつかせて空中でくるくると回り、ベヒモンは尊大に言う。

 

「くひひ、そうともヨォ!オメーのようなポッと出の新弟子なんぞオレッチの足元にも及ばねえンダゼェ!?」

 

「お、おお、そうですか。ちなみに弟子とはどういったことを……?」

 

「ああん?修行の内容かァ?そいつぁオメーとそう変わらねえだろうよォ。掃除、洗濯、炊事に薬の被検体……巻き割りや畑の手入れもやってるぜェ!?」

 

「くうっ!」

 

 なんて悲しい人なんだ。完全にアゴでこき使われてる……ッ!僕より酷いッ!

 

「ヘヘェ、悔しいのかァ?そりゃそうだろうなあ!なんたってオレッチはメラが使えるんだからよォ!」

 

「えっ、メラだけ?」

 

 あからさまにショボい感を出して僕が言うと、ベヒモン君もまた、あからさまに慌てだした。羽めっちゃバタついてる。

 

「あっ、いっ、いやっ、もっ、もももも勿論ヒヒヒャドだって使えるぜェ!?」

 

「メラとヒャドだけです?」

 

「ななななんでェ文句あんのかバッキャロォ!そういうオメーは何が使えんだヨォ!言ってみやがれェ!」

 

「え、僕?メラとヒャドとギラとホイミと、あ、補助系だとピオリムも覚えたよ」

 

「マジでェ!?ちょ、おまっ、つつつつ、使って見せろォォッ!!」

 

「アッ、ハイ。じゃあ順に行きまーす」

 

 メラとヒャドとギラを使い、シロガネさんに全部無効化して弾いてもらう。ホイミとピオリムに関してはベヒモン君本人にかけてあげた。

 

 ベヒモン君は約二倍になったスピードで空中をくるくると転げまわり、何やらひとしきり叫んだあと、僕につかみかかってきた。

 

「どうしたの?」

 

「あっ、ああ、ああああ兄貴と呼ばせてくださいッ!!」

 

「えーっと……」

 

 チョロすぎるよ、この小悪魔。

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