ジパングの魔物使い   作:gamika

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40.レーベにて

 戦いは人の歴史の一部である。生きる事そのものがある種の闘争であることを鑑みれば当然ではあったが、何よりも敵対種の存在が大きい。

 

 魔物。

 通常の生命とは一線を画す不可思議な存在。その歴然たる差異は死の訪れに起こる、とある現象にあった。

 

 逆毛黒髪の少年が振り下ろした剣がスライムを両断した。

 青い水滴のような形状の魔物は絶命の声を上げることもなく、びちゃりと地面に広がった。と同時、金色の硬貨が転がり落ちる。

 

 魔物はゴールドを必ず落とす。いまだその理由は不明のままであるが、「魔物」と呼称される生物と、他生物との学術的な差異はその一点のみである。

 

 呪文を使う、毒を放つ、炎を吐く等々、様々な生態を持つ動物がいるが、それは生命としての機能差であり分類の理由には当たらない。でなければ人間も魔物の一種となってしまう。

 

 とはいえ、世間一般における「魔物」という言葉自体が持つ意味合いは、「恐ろしい怪物」という認識で正しい。生物学としての呼称など一般には浸透していない。

 

 少年は黙したままその金貨を拾い上げると、手持ちの袋へと収めた。よどみない仕草だがその道行はフラフラとしていた。

 

 当初、レーベの北に位置する海岸沿いの港に行き、大陸へ向かう船に乗船しようとしたのだが、時期を大きく外してしまっていたらしく船自体がなかった。船が戻るのは1ヵ月以上先と告げられたのである。

 そもそも乗れたとして、その船旅は長い。少年はそれほど悠長に待つ気もなかったのだろう。この先どう進めば良いのかを思案しているようであった。

 

 船以外でアリアハン大陸から出る方法は?と問われると、誰もがこう答えるだろう。

 

 いざないの洞窟ならばあるいは、と。

 

 そこは別大陸へ行ける何かがある、という噂があった。

 しかし、洞窟の入り口は、衝撃に強い特殊鉱石と結界魔法による二重防壁で蓋をされている状態である。とある研究者によると、受ける衝撃をそのまま跳ね返す……いわば永久マホカンタがかかっているようなものだという。

 

 アリアハン王からは、自力で何とかするのであれば結界を壊しても構わぬという言質を受け取っていたものの、残念ながら強力な呪文で破壊という手段は取れない。物理的に破壊するしかないだろうが、それを剣でやるなど無謀だ。ならば、と槌を持ち出して地道に削るにしても、どれほどの時間が必要となるか。

 

 少年は時折襲ってくる魔物を簡単に処理しながらレーベに戻った。

 広場にある大岩の上に腰かけて思案する。

 

「あらエニクス、そんなところに座ってどうしたの?」

 

 少年に声をかけたのは女魔法使いのチコであった。

 彼女は小柄だった。見る角度次第だが、帽子の大きなつばでその姿が隠れてしまう程度には。

 

 チコは赤い前髪をかき上げながら、改めて久しぶりね、と微かに笑った。

 

 彼女はアリアハンの城下町出身で、母方の実家はこのレーベ村にある。そもそもが少年との知り合いであったのだ。ルイーダの酒場が久々の再会でもあったのだが、幼い頃からの繋がりがあったためか、少年に対するチコの態度は随分と気安かった。

 

 外にはねた赤い髪を揺らして、少女は感情豊かに色々なことを語った。

 少年は石造のように大人しく聞きに徹するも、いいところで続きを促すように相槌を打っていた。そのせいもあるのか、彼女の話は止まらない。

 

 話題は故郷を出てからに始まり、冒険者としての苦労、失敗、楽しかったことを通して、やがてつい最近の、帰郷してからの話に変わる。チコは改めて少年をまじまじと見据えた。

 

「エニクスも随分成長してたから見違えちゃったよ。でも、相変わらずなところもあるかな」

 

 年齢の大小にかかわらず、幼い頃から少年はやたらと頼りがいがあった。無口ではあるのだが、周囲の人間の様々な悩みを解決してくれる、まさに勇者だった。

 そういった背景もあり、最近祖父が家に閉じこもって出てこないのが悩みなのだと、聞いてもいない少年にチコは愚痴をこぼした。

 

「工房にカギかけて閉めちゃって、家に入れもしないのよ。爆発する玉作るとかなんとか言ってたのは覚えてるんだけど、いよいよ完成間近になって集中したいとか言って、お父さんもお母さんも入れてくれないんだって。せっかく可愛い孫が帰ってきたのにね、会おうともしないだなんて」

 

 ぷんすかと、かわいらしく頬を膨らませるチコの話にうなずくと、少年は大岩から飛び降りた。チコを手招きすると、彼女は素直に少年に寄って行き、その頭が帽子ごと乱雑にかき回された。

 

「子ども扱いすんな!」

 

 それこそ子供のように怒鳴り散らすチコだったが、途端にその勢いが弱まる。別の女三人が来たからだった。女戦士ファグナ、女武闘家ジーシェン、女僧侶アルリタ。パーティメンバーに気づいたチコは、とんがり帽子のつばを下げて、赤く染まった顔を隠すようにうつむいた。

 

「チコと……おぉ?坊主じゃないか!この間はのうのうと逃げやがって、今日こそ勝負を……!」

「ファグナは頭筋肉」

「まぁまぁ、そう言わずとも……そうですね、穏便な勝負ならどうでしょう?例えばこの大岩を動かすとか」

「アルリタ、いい案出す。シェンもちょっと見てみたい」

「やったろうじゃないか!いいね、坊主!」

 

 頷いた少年は、実にあっさりと大岩を一つ分横に動かして見せた。縦横奥行き大人一人分以上はあるものが動いたことで、たまたま周囲にいた村人が沸き立つ。

 

「へっ、次はあたしの番だな。フンッ!ぬおおお!」

 

 腕の筋肉を大きく震わせて、女戦士ファグナはずりずりと大岩を動かしていく。今度は岩二つ分横に動いていた。さらに周囲が湧いた。

 

「どうだ!これでアタシの勝ち……っていねえ!?」

 

 少年は注目が逸れる一瞬のスキをついて逃げ出していた。

 

「またかよ!!」

 

 またである。

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