ジパングの魔物使い   作:gamika

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07.小鳥拾った

「たまごひおったー」

 

「でっかいねー」

 

 ダチョウの卵みたいだ。ヨミの体の半分ほどもあるが、それを抱えてにこにこと笑うこの子は本当にかわいい。

 

「たまごやきたべゆー」

 

「すげえでかいのができそうだ。豪勢だねー。食べきれる?」

 

「あいー」

 

 なんという食欲。卵を拾ったらどうするか?子供ならば一時の好奇心に従い孵化させようとする、というのが通説だろうが、ヨミにそれは通じない。弱肉強食を飲み込んだ笑顔がまぶしい。

 

「おなかへったー」

 

「カーチャンが作ってくれてるんじゃないの?」

 

「そんちょーさんがまだいゆのー」

 

「あー、そっかあ」

 

 ヨミを巫女様候補としてこの国の女王のところにやる話が盛り上がってるんだろう。今回、僕が取ってきた岩塩が原因の一端だ。実はその産地、これまでは余人の知るところではなく、ヨミがルビス様からのお告げを聞いたところで発覚し、それを僕が証明してしまったのだ。

 

 これでヨミの将来はほぼ決定的。通例ならば年を経て神託の能力が消えてしまう可能性があるので、12を数えるまでは親元で過ごすのだが、ヨミに関してはその能力が高すぎるので範例に従うべきかがそもそも問われていた。ていうか神託が頻繁すぎるのだ。ルビス様暇なの?

 

「ひまじゃないのー」

 

「やっぱ暇じゃん」

 

 僕の心を読んでまで神託する意味があるのだろうか。精霊神様の考えることは良く分からない。

 

 資質への期待値が大きいとはいえ、やっぱりヨミは幼い。奏上に乗り気な村長さんが今すぐにでもと進めて、カーチャンがふざけんな爺って感じで抗議してるんだろう。今が一番かわいい時期だもんね。気持ちは分からんでもない。

 

 年老いた爺さんを鬼のように怒鳴りつけている様子が目に浮かぶ。下手したらぶん殴ってるかもしれない。ああ、そうか。だから僕が返ってくるのを見越してヨミを遠ざけたんだね?怖いカーチャンの姿を見せて嫌われたくなかったわけだ。なんだかんだ言ってミトさんも人の子だったんだなあ。怒ったら完全に鬼だけど。

 

 そうなると、いい加減飯作ってよ、ヨミが待ちきれないって言ってるよ?とヨミを理由にして合議の場に割って入るのも憚られる。

 

 感慨に耽っていても遠慮なく、ぐう、と腹は鳴る。まあいいや。せっかく材料もあることだし、とりあえず卵焼き作ろう。塩をふんだんに使った濃い目の味付けの卵焼き。もともと、ヨミの功績みたいなもんだもんね。報いないと。

 

 よし、と太ももを打ち鳴らしてヨミに手を差し出す。

 

「割ろっか?」

 

「あいー」

 

 びしり、と音が鳴った。見ればヨミのかかえる卵にひびが入っている。割る前に割れるとはこれいかに。

 

 こつこつという音がひっきりなしに鳴りはじめ、ヨミの体が小刻みに揺れる。不思議そうな顔もまたかわいい。

 

 ぼんやりと眺めていると、黄色いくちばしと薄い紫色の羽毛が覗けて見えた。やっぱり鳥か。半分割れた卵の殻から、ぴょこんと飛び出す上半身。ヨミと向かい合ったそいつから、ぴー、という鳴き声が響いた。

 

 ヨミが抱いていた卵をおいて四つん這いにしゃがみこむ。

 

「とりしゃん?」

 

「ぴー」

 

「翼がない……」

 

 さすがにどきりとした。翼がなく、その足はダチョウのように大きく、まるで顔そのものが胴体かのような薄紫の雛鳥。

 

「『デッドペッカー』じゃん。どうすんだこれ」

 

「でっどぺっかー?」

 

 恐る恐る手を伸ばしたヨミの手を、小さなくちばしがつつく。その力は弱々しい。今は、だが。こいつは間違いなく魔物で、この先ヤバいくらい成長するだろう。人間と同じくらいの大きさにはなるはずだ。

 

 パっつぁんとミトさん怒るだろうなあ。

 

 

 

 村長さんが帰宅した後、ヨミを迎えに来た二人は案の定驚き、そして困り果てていた。

 

「ゼンがついていながらなんってこったい!」

 

「ああもう!ついてくるんじゃないよ!」

 

 ヨミを抱えたカーチャンの後をぴーぴー鳴きながら紫色のちっさいのが追いかけている。鳥の目的はミトさんじゃない。抱きかかえられたヨミだ。

 

 インプリンティングというやつだろう。鳥の習性である刷り込みだ。この小っちゃな魔物にとって、ヨミはまさしくカーチャンなのだ。すなわち幼女母。なにこの語感、凄く背徳的。新種の魔物じゃねえの?

 

「カーチャン餌くれって鳴いてるよ。食わせてやれば?」

 

「でもよ、こいつぁ小さいとはいえ魔物だぞ?あぶねえだろ」

 

「生まれたばっかりの子供じゃん。躾ければ問題ないんじゃない?ヨミを自分のカーチャンだと思ってるみたいだし、たぶん簡単に引きはがせないよ?なあ、カーチャンの傍にいたいだろ?」

 

「ぴぃ。ぴー」

 

「ほら、やっぱりカーチャンの傍がいいってさ。あとやっぱ腹減ったって言ってる。僕も腹減ったよ。いい加減ご飯にしようよ」

 

 今は何もかも放り出してとにかく飯だ。飯を食おう。さっきからぴーぴー鳴く音に混ざってぐーぐーという音が止まないんだ。

 

「ゼン、あんたまさか魔物の言葉が分かるのかい?」

 

「え、分かんないの?不便だね。ヨミも分かるのに」

 

 ぎょっとする二人の顔が面白い。ヨミはこくこくと頷いて、いつもの「あいー」という気の抜けたような声が返ってくる。

 

「よみもおなかへったー」

 

「ま、慌てても仕方ないよ。とりあえずご飯食べて明日考えようよ」

 

「いやでも魔物を飼うのはなあ……」

 

「今更だよ。大王や十文字みたいなあからさまな魔物もいるけど、村のみんな、もう慣れ切ってるじゃん。一匹や二匹増えたところで変わんないよ」

 

 ぐうの音も出ないのだろう。しかめっ面のパっつぁんがはあ、と嘆息した。ミトさんはぐう、と腹の音を立てた。さすがだ。ちょっと赤面してるのが笑える。

 

「……ご、ご飯の準備してくるよ」

 

 ミトさんが準備してくれたのは卵焼きだった。本当はデッドペッカーの卵を食うつもりだったらしい。それが小鳥に変化してしまったので、いつもの鶏っぽい動物の卵が食卓に並んだ。塩の卵焼き美味しいです。

 

 ぴーぴー鳴く小鳥も思うさまがっついている。卵焼き食うんだね、鳥なのに。

 

「あーあ、こんなにこぼしちゃってもう。汚いなあ」

 

「こぼしちゃめー」

 

「ぴぃ……」

 

 ヨミに叱られて縮こまるその姿に、魔物としての威厳は欠片もなかった。

 

 次の日の朝、一晩寝たら驚きもすっかりなくなったのか、腹を決めたのか、大人二人は『デッドペッカー』を飼うことに決めたらしい。村のみんなも納得済みだ。反対する者は誰もいなかった。

 

 ここだけの話、打算もあるんだろう。ここは『まほうおばば』という魔物とすでにつながった村なんだから。精霊神ルビス様もそのことについて怒るでもなし、きっとばーちゃんのご機嫌取りの意味合いもあるんだろうなあ。意味ないと思うけど。ばーちゃんは他の魔物が死のうがあんまり気にしないし。村も半分は実験台扱いしてるし。

 

「とにかく、このまま小鳥じゃ呼びづらいし、名前を決めよう。ヨミ、なんかいい名前ある?」

 

「きょろちゃん」

 

「ルビス様がそう言ってるの?」

 

「あいー」

 

 ちょっとは自重しろ、精霊神。確かに姿はそれしかねえって感じだけどさあ。

 

「きょろちゃん」

 

「ぴー」

 

 時既に遅し。完全に受け入れちゃってるよ、キョロちゃん。とてとてと走り回るヨミのあとをぴーぴーと鳴きながらついて回る姿が微笑ましくて、僕は笑ってしまった。

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