ジパングの魔物使い   作:gamika

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09.小粋な暖を取る方法

 最近やたらと寒くなってきた。

 

 気付けば夏が過ぎて秋も終わりに近づき、やがては雪も降るだろう。僕がこの村に居座るようになってから数ヵ月。季節と同様、ゆっくりとだが、人もまた確かに変化していく。ミトさんに抱きかかえられたヨミは相変わらず小さい女の子だが、最近はたどたどしい口調も取れ始めている。

 

「おにいちゃん、もっと燃やしてー」

 

「はいはい、メラメラ」

 

 夜の寒さをしのぐため、ぞんざいにメラを放ちながら、息を吐く。囲炉裏の上の鍋は一度空になり、今はただのお湯と化している。メラメラとくすぶるオレンジの光の上で立ち上る白い蒸気をながめて、僕はふと思った。

 

「そうだ、温泉に行こう」

 

「なんだい、藪から棒に。温泉って?」

 

「あれ?知らないの?この辺、火山あるから見たことくらいあるよね?お湯の水たまり」

 

「そんなもんあるのか。毎度のことだけどよ、ゼンは妙なことばっか知ってんなあ」

 

 お前は何者だ。パッつぁんに改めてそう問われた気がするが、ぶっちゃけ僕も分からないんだってば。

 

「そうでもないって。そう、巫女様が祈祷してる場所も溶岩が煮えたぎる洞窟の中のはずだし、そこの近くなら温泉もきっと……」

 

 そう言えばあそこに『やまたのおろち』とかいるんだっけ。都から離れてるせいもあるかもしれないけど、生贄の話とかも聞いたことないし、もう討伐されてんのかなあ。あとでばーちゃんにそれとなく聞いてみよう。

 

「ようがんてなにー?」

 

「ぴぇー?」

 

 ヨミが首を傾げれば、抱きかかえられたキョロちゃんも首……がないので体ごと斜めった。よくよく見れば、その一人と一匹をさらに抱え込んだミトさんも首を捻っている。

 

「溶岩も知らないの?」

 

「おう、オレぁ聞いたことあるぜ。なんでも火を吹く岩らしいな。つっか、そんなもんがあるところに巫女様は行ったりしてんのか?」

 

「えーっと……」

 

 パッつぁんの顔がちょっと怖い。気持ちはわかる。巫女候補の愛娘をそんな危険な場所にはやれんぞってことなんだろう。これが口が滑ったって奴か。気まずさ半端ない。ごまかすために思わずヒャドらせようとしたが、さすがに思いとどまった。頭冷やすのは僕ですね、うん。ここで出すべきは手ではなく口でした。

 

「巫女様が皆行くとは限らないよ。そういう人もいたって聞いただけだし。祭壇はあるらしいけど、そもそもあそこは魔物がいっぱいいるはずだから、滅多なことじゃ行かないんじゃないかなあ。行くとしたら、それこそ世界がヤバいって時じゃない?」

 

「だったらまぁいいけどよ……」

 

「それに大丈夫だよ。世界が本当にヤバいとしたら、その時はきっと」

 

 勇者が世界を救う。

 

「きっとー?」

 

「ヨミのとーちゃんがどうにかしてくれるよ。だからヨミは危ないところに行く必要もないんだ」

 

「おいおい、無茶言うなよ。さすがに世界は無理だぜ?俺が守れんのは家族だけだ」

 

「そんだけ言えれば大したもんだよ。さすが、パっつぁんは男だね」

 

「よせやい、照れるぜ」

 

 鼻の頭を擦りつつ、身をくねらせて本当に照れるパッつぁんを笑っていると、ミトさんがなんかもの凄い冷たい目で見ていた。

 

「大の男がもじもじすんじゃないよ。キモイ」

 

「ひでえ」

 

 態度はともかく、凄くいいこと言ってたのに。しゅんと肩を落とすパッつぁんから漂う哀愁が物悲しい。僕めっちゃ笑ったけどね!

 

 拳骨食らった。

 

 悲しい事件のあった翌日、有言実行とばかりに温泉を探しに出かけた。岩塩探索で痛い目を見た記憶は比較的新しいものだが、今回の僕は一味違う。なにしろ、十文字と大王同伴なのだ。

 

 普段から修行みたいな真似をしているので、単純に僕自身のレベルも上がっているだろうけど、そんなもの数の前にはクソの役にも立たないだろう。ならば数すら打破しきる絶対戦力を引き連れていけばいい。あわよくば、ばーちゃんとシロガネさんも連れていきたかったが、ばーちゃんが腰痛いって寝込んだもんだからそれは叶わなかった。

 

「ばーちゃん、万能薬飲もうよ、虹色のアレ。そうすれば一発で治るよ。効果覿面だよ。保証するよ。ばーちゃんの薬凄いよ、本当に凄い。味が凄い。匂いも凄い」

 

「絶対に飲まんわ。あんなもの飲むくらいならあたしゃ死を選ぶよ」

 

 あの時の僕の怒りがお分かりになるだろうか。あのクソババア、自分の時に限って我がまま言いやがって。シロガネさんが付きっきりで看病する様子に毒気を抜かれて乱暴なことはしなかったけど、いっぺん勇者に懲らしめられればいいんじゃないかな。改心が必要だよ。

 

 と、ばーちゃんの愚痴を零しながら山をいくつか越え、この国の中枢とも呼ぶべき都にほど近い場所まで来ていた。道中は大王と一緒に四足で駆ける十文字の背に乗ってたので疲れはほぼない。というか着くの早すぎるだろ。山越えするレベルの遠出なのにまだ太陽が頂点過ぎたくらいなんだけど。

 

「十文字どんだけ足速いの?」

 

「ぐおお」

 

 知らんか。そうか。

 

「うむ、確かに十文字は足が速いのであるが、それ以上に進み方が豪快よ!まこと天晴(アッパレ)である!」

 

「そうだねえ。僕も初めて見たよ。こんなでっかい獣道」

 

 振り返ると、今まで通ってきた森が十文字の体の大きさに抉られて、簡易的な道になってしまっている。獣道と呼んだはいいが、なんというか、こう、無理やり押し通って作ったこれはそう呼んでいいのだろうか。

 

 崖みたいなよっぽどの通行止めがない限り、本当に村から真っ直ぐに突き進んできた結果だ。十文字曰く、「回り道とか面倒くさい」らしい。

 

 この旅路のおかげで僕はスカラを覚えた。そうせざるを得なかった。だって木の枝とか思いっきりぶつかってくるんだもの。しかも車並みの速度出てるっぽかったから、一撃一撃の衝撃がマジ半端ない。『つうこんのいちげき』の不穏な効果音が頭の中で鳴りっぱなしだった。

 先読みのバギでいくらかは切り飛ばしたりしてたんだけど、それも全部が全部うまくいくというわけでもなく、せっかく切り飛ばしたのに結局僕の方に飛んでくるのは変わらなかったりして、この時ばかりは当たり判定の小さい大王が羨ましかった。

 増える擦過傷やら打撲にホイミも使いまくる羽目になり、いつの間にか唱える呪文がべホイミに変わってたくらいだ。戦ってもいないのにレベル上がってるんだけど、喜ぶべきなの?

 

「とにかく、目的の場所には着いたみたいだね」

 

「うむ、括目して見よ。あれがこの国の中枢となっている都だ」

 

「塀と堀に囲まれてるね。やっぱそこらの村とは違うなあ」

 

 僕たちが山の上から見下ろすそこは大きな川が流れていて、その川に沿うような形で家々が点在している。家のつくりは竪穴式住居ではなく、見慣れた木造建築が多い。ま、僕らが住んでるのもそうだしね。基本的には藁葺(わらぶき)屋根みたいだが、奥まった方には瓦が乗っているような家もあるみたいだ。あの赤くて大きいのはもしかして鳥居かな。

 

「思ったよりしっかりした作りの家が多いなあ……さすがにレンガはないか」

 

「ぐおお」

 

「うん、あそこには今回用は無いから。とりあえずは溶岩洞窟に向かおうか」

 

「それは構わんのだが、吾輩達はその場所を知らんぞ?どちらに向かえばいいのであるか?」

 

「腐った卵のような匂いがする方」

 

 思いっきり嫌な顔された。

 




なんかめっちゃお気に入り増えてて吹いた。
あっざーす!
評価ついでに一言くれてる人もいて、めっちゃ嬉しかったです!
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