抜刀術のあの人が異世界から来るそうですよ?   作:rearufu

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「これでやっと…ぐっすり眠れる。」

 

そのはずだった。

 

斬刀「鈍」(ザントウ・ナマクラ)は虚刀流と共に俺の手から去り、後はただ死を待つだけのはずだった。

ふと気付けば、手には紙切れが。

 

『悩み多し異才を持つ老若男女に告げる。己の才能を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を。世界の全てを捨てて我らの箱庭にこられたし』

 

そんな文が書かれていた。

 

宇練 銀閣(うねり ぎんかく)は捨てるまでもなく、すべてを無くしていた。

家族同然とまでは言わないが、俺なりに好きだった因幡の民を。

宇練家に代々受け継がれてきた斬刀「鈍」を。

 

「こりゃ何かの皮肉かねぇ…」

 

そう苦笑した銀閣は、その言葉を最後にこの世界から姿を消した。

 

 

 

気が付けば銀閣は落ちていた。

これが死ぬ間際に見る走馬燈だろうかと考えているうちに、湖と思わしき場所に着水した。

何がどうしてこうなったかは分からないが、銀閣はどうでもいいと考えるのをやめた。

もはやこの身は死を待つのみ。

出血死が窒息死になろうがさして変わりはない。

そうして意識を手放そうとする寸前、何かに腕を掴まれ水面から引き揚げられる。

 

「おいおいオッサン。その年で泳げないとか言わねぇよな。ゲームオーバーにはまだ早いんじゃねぇか?」

 

「し、信じられないわ!溺れて死にかけてる人になんて言いぐさなの!何処の野蛮人よ、貴方は?」

 

目を開けると変な服を着た子供が、ギャーギャーと喚きながらずぶ濡れの姿で俺を岸へと引っ張り上げていた。

 

「うるせぇよ。」

 

終わるはずだった。

その最後を邪魔されキツイ物言いになってしまったが知ったことではない。

早く俺を休ませてくれ。

 

「ハハッ、このオッサン俺より失礼じゃね?」

 

そう言って金髪の少年は、引き揚げる為に握っていたその手を離す。

水の中に逆戻りした銀閣は、しかし2人の少女の手によって再び岸に引き揚げられる。

銀閣を引き揚げた少女のうちの1人は、金髪の少年に文句を言う。だが少年も負けじと反論。

銀閣は2人の騒音を聞きながらダルそうにポツリと呟いた。

 

「うるせぇよ」

 

 

 

「んでオッサン。あんたにもあの変な手紙が来たのか?」

 

あれから数分。言い争いが終わったのか、金髪の少年がそう問いかけてきた。

 

「手紙?…ああ、あの変な紙切れか。ああ、来たぜ。」

 

そう答えながら、銀閣は体の調子を確かめていた。

と言うのも銀閣はつい半刻前までは死にかけていたはずであり、しかし気が付けば傷は何処にも無いという有様だ。

しかも腰には持ち去られたはずの「鈍」まである。

 

「いや、違うな。」

 

刀を鞘から抜き見つめる。

其れは斬刀「鈍」では無かった。たぶんコレは俺が「鈍」を受け継ぐ前に使っていた模造品。本物の「鈍」を受け継いだ後は、城の何処かにしまっておいたはずだがなぜ此処にあるのだろうか。

宇練家では代々斬刀「鈍」が受け継がれてきたが、受け継げるのは成人した後。刀に魅入られた成人前の俺は、少しでもその欲求を満たそうと「鈍」の模造品を作らせた。だが出来あがったのは、見た目だけはそっくりの刀。決して悪い刀では無いのだが、切れ味は本物と比べればナマクラと言いたくなってしまう。

まぁ守るモノの無い今の俺にはお似合いかと苦笑し、刀を鞘に納める。

 

「…!おい、聞いてるのかオッサン!」

 

金髪の少年が何やら喚いている。どうやら考えに耽るあまり回りの声が聞こえていなかったようだ。

 

「歳をとっている事は否定しないが、オッサンはやめろ。宇練銀閣だ。オッサン以外なら好きに呼べ。」

 

「自己紹介無視したのそっちなのに理不尽じゃね?逆廻十六夜だ。まぁよろしく頼むぜ、銀閣のオッサン!」

 

悪気が有るのか無いのか、にこやかにそう言い放つ十六夜。

 

「言ったそばからそれは無いんじゃない。久遠飛鳥よ。よろしく、銀閣さん。」

 

十六夜に注意してからそう自己紹介をしたのは、育ちの良さそうな服を着た少女。

 

「春日部耀です…以下同文。」

 

と猫を胸に抱いた気の弱そうな少女。

 

「じゃぁな。」

 

そして用は済んだとばかりに別れを告げ去っていく銀閣。         

 

「おう…はっ!?」

 

十六夜はつい合いの手で返事をしたが、数瞬して我に返る。他の2人の少女も似たような反応だった。

 

「ちょちょちょっ!何処行くんだよオッサン!」

 

オッサン呼びは直らないらしい。

 

「そうよ!貴方も迷子?なんでしょ!」

 

「…何処いくの?」

 

「いきなり去るとかあり得ないのですよ!待ってください!」

 

去ろうとする銀閣を4人が服を掴んで引き止める。いや、4人の他に何故か猫も着物の裾を噛んで引き止めるかのごとく引っ張っていたが。

 

「行く当てなんてねえよ。ただ別に此処に居る理由も無えしな。」

 

此処が何処だかは分からない。

何処に行けばいいのかも分からない。

今はただ誰も居ない場所で、静かに眠りたい気分だった。

 

「と言うかアンタ誰だ?ずいぶん前からずっと隠れてこっち見てたよな」

 

十六夜が銀閣にしがみつく4人目にそう言い放つ。

 

「…はっ!出て行くタイミングを伺っていたのに、つい出てきてしまいました!」

 

ギャーギャー喚く回りに、銀閣は今日何度目かになるのか数えるのも馬鹿らしくなるセリフを呟く。

 

「うるせぇよ…」

 




斬刀「鈍」(ザントウ・ナマクラ)
名前に反してあらゆる物を抵抗なく一刀両断できる。
知ってる人のほうが多そうだけど、一応軽く補完
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