抜刀術のあの人が異世界から来るそうですよ? 作:rearufu
銀閣は流されていた。
流されるまま一行についく
銀閣は自分で自分が今何をしたいのかが分からなかった。
かつては守るべきモノがあった。それが銀閣を剣士たらしめんとさせていた。だが今は。今の俺は何なのだろうか…
答えは出ない。出せない。
故に流され続ける。
「零閃」
──しゃりん
微かな鍔鳴りの音。
音が鳴った刹那には、眼前にあった大木は既に斬られていた。数秒してやっと気づいたかの如く、大木は緩やかに倒れていく。
確かな手応え。これならば剣の消耗は無いだろうかというぐらいの快心の手応え。それ故に銀閣は落胆した。
かつて銀閣の使用していた斬刀『鈍』はあまりにも鋭い切れ味のため、何を斬っても手応えを感じないほどの切れ味を誇った。それ故にその落差に落胆する。
「いきなり何しやがりますか、この御方は!びっくりしたじゃないですか!」
大木の倒れた思いのほか大きな音に驚き、非難の声があがる。
現在一行は黒ウサギの説明終了後、これから所属するであろうコミュニティのリーダーと合流するべく街に向かって移動していた。
その途中で銀閣はふと刀の切れ味が気になり、ちょっと試し斬りをと相成ったわけだが。
「あー、悪い。思ってたより大きな音で俺もびっくりだ。ウサギの姉ちゃんのんびっくりと俺のびっくりで、おあいこってことでひとつ勘弁してくれや」
「それっておあいこって言うのかしら?」
銀閣の言い訳に飛鳥はあきれたような目を向ける。
「全然おあいこになってませんよ!銀閣さんのびっくりは自業自得じゃないですか!そもそ「おーい!」」も…」
文句を言う黒ウサギの言葉を遮るように聞こえてきた声の方を向けば、子供がこちらに向かって走ってくる。
「あ、ジン坊ちゃーン!」
「お帰り黒ウサギ。門の所で待ってたら大きな音がしたからもしかしてと思って来てみたんだけど。えっと、そちらの三人が?」
「ハハハ、ご心配おかけしました。はいな。こちらの御三人様が…三人?」
クルリと振り返る黒ウサギ。
カチンと固まる黒ウサギ。
キョロキョロと周りを見渡す黒ウサギ。
「えっ、あれ?もう一人居ませんでしたっけ。目つきが悪くて口の悪い問題児を体現したような殿方が」
殿方と聞いて何故かこちらに視線を向ける飛鳥と耀。俺は問題児じゃ無いと思いつつも、面倒なので声には出さない銀閣。
「殿方って聞いてつい銀閣さんの方見ちゃったけど違うわよね。問題児って十六夜君よね。彼ならちょっと世界の果てを見てくるぜ!って言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
と指さす。
「なんで止めてくれなかったんですか!」
「止めてくれるなよって言われたから」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか?」
「黒ウサギには言うなよと言われたから」
「…ふあ」
「うそです。絶対うそです!はい、ソコ寝ない!実はめんどくさかっただけでしょう御三人さん!」
返事を聞きもうやだとうなだれる黒ウサギとは逆に、ジンが蒼白になって叫ぶ。
「た、大変です!世界の果てにはギフトゲームのために野放しにされている協力な幻獣がいるんです!」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても普通の人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
「はあ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、お三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
黒ウサギはため息を吐きながら立ち上がる。
「うん。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに―――箱庭の貴族と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
銀閣の理解を超えどうやってか黒髪を赤く染め、近くにあった木々を駆け上がり天辺に辿りつくと空に跳び上がる黒ウサギ。
「一刻ほどで戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」
全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に四人の視界から消え去っていった。
零閃(ぜろせん)
目にも留まらぬ速さの抜刀術