抜刀術のあの人が異世界から来るそうですよ?   作:rearufu

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黒ウサギが居なくなった後一行は茶屋と思わしき場所に来ていた。個人用の腰掛にそれぞれ座り机を挟み向かい合う。

 

「コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。若輩ですがよろしくお願いします」

 

「春日部耀」

「久遠飛鳥よ。そこで眠そうな眼をしているのが」

「ん、ああ。宇練銀閣だ」

 

ジンが礼儀正しく自己紹介をし、それに倣い三人もそれぞれ名乗った。初対面の時に自己紹介をスルーした前科があったせいか、銀閣は促されてではあったが。

 

「それでは二人が戻るまで軽く食事でもしながらお話しでも。店員さーん」

 

ジンの呼びかけに店の奥から猫耳の少女が出てくる。

 

「いらしゃいませー。御注文はどうしますか?」

「紅茶のセットを三つお願いするわ」

「緑茶と饅頭を頼む」

「にゃー」

「はいはーい。紅茶のセット三つに緑茶一つと饅頭あと猫まんまですねー」

 

……ん?と全員が首を傾げる。銀閣は態度には出さず心の中に留めたが。

 

「……もしかして、三毛猫の言葉がわかるの?」

 

春日部耀が信じられない物を見るような眼で猫耳の店員に問いかける。

 

「当たり前じゃないですか。私も猫族なんですから」

「にゃーにゃー」

「やだもーお客さんったら……にゃーにゃー」

「にゃー!?」

 

店員は三毛猫とのやりとりを終えると店の奥へと戻っていく。

 

「箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉分かる人がいたよ…あと三毛猫は反省して」

 

耀は汚物を見るような眼で三毛猫を見る。

 

「にゃー…」

 

堪忍やでお嬢と言いたいのだろうか弱々しく鳴く三毛猫。

 

「えっ…ちょっと待って。あなたもしかして猫と会話できるの?」

「…うん」

 

飛鳥の問いかけに耀はコクリと頷く。

 

「ち、ちなみにさっきの店員さんと最後のやりとりはなんて言ってたのかしら」

「にゃー!」

「わかってる。三毛猫の名誉の為にもセクハラ発言したなんて言わないようにする」

「にゃー…」

 

言っちゃったよと言わんばかりに弱々しくうなだれる三毛猫。

 

「…ちがう。誘導されたの」

「してないわよ!」

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画最底辺コミュ名無しの権兵衛のリーダージン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですかぁ?」

 

品の無い上品ぶった声が、和気あいあいとしかけていた場の空気に水を差す。

声の聞こえた方に視線を向ければ、そこには2mを超える巨体をピチピチのスーツで包む変な男が居た。

 

「僕らのコミュニティはノーネームです。フォレス・ガロのガルド=ガスパー」

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ──そう思わないかい、お嬢様方」

 

ガルドと呼ばれた男は四人が座る机の空席に腰を下ろし、飛鳥と耀に愛想笑いを向ける。言葉といい態度といい男は目に入らないのだろうか。いや女性優先なだけかもしれないが。

 

「失礼ね。同席を求めるのならまずは名乗ったのちに一言添えるのが礼儀じゃないかしら?」

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ六百六十六の「ケダモノ」傘下である「烏合の衆の」コミュニティ…」

 

ガルドの話にちょいちょい言葉を挟むジン。

 

「マテやゴラァァァァア!誰がケダモノで烏合の衆だ小僧ォ!口を慎めや小僧ォ…「変態」紳士で通ってる俺にも……………聞き逃せない言葉があ、あ、る、ん、だ…ぜ!」

 

さらに言葉を被せるジンに顔を獣のごとく豹変させたガルドが襲い掛かる!

 

『止まりなさい』

 

飛鳥の警告に、ガルドの動きが止まる。

 

「……あん?か、体が!?小娘、何をしやがったァァ!」

 

ガルドは襲い掛かろうとした態勢のまま動かない。いや、動けないのだろうか。

 

「紳士のくせに言葉遣いがなってないわよ。まぁさっきまでのうわっつらだけの言葉よりはよっぽど貴方に似合ってはいるけどね。事情は良く分からないけど、あなたたち二人の仲が悪い事は良く分かったわ。それを踏まえたうえで質問したいのだけれど」

 

アスカはガルドに向けていた視線をジンに向ける。

 

「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘しているコミュニティの状況を説明していただける?」

「そ、それは…」

 

ジンは言葉を詰まらせ黙り込む。

 

「レディ、貴女の言う通りだ。よろしければフォレス・ガロのリーダーであるこの私がジン・ラッセル率いるノーネームのコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

「……そうね。お願いするわ。あと別に猫被って喋らなくてもいいわよ」

 

飛鳥はそう言うと不意に指をパチンと鳴らす。

それが合図であったのか、襲い掛かろうとしたままの態勢であったガルドの硬直が解ける。

 

「…ハハハ。猫なんて被っていませんとも」

 

顔を引きつらせながらもガルドはジン率いるノーネームの現状を説明していく。

名を無くす前のコミュニティは箱庭上層に食い込むぐらい凄いコミュニティだったことを。

しかしそのコミュニティは箱庭最大にして最悪の天災『魔王』と呼ばれる存在に一夜にして滅ぼされたことを。

そして現在ノーネームとなったジンのコミュニティが如何に不遇であるかを。

 

「なるほどね。大体理解したわ」

 

ガルドは飛鳥のその言葉を聞き、手を広げ笑う。

 

「そうですレディ。名も、旗印も失い、残ったのは膨大な居住区画の土地だけ。その土地にしたってそのほとんどは雑草も生えない死んだ土地だ。そんなところに人が集まると思いますか?」

「そうね……誰も加入したいとは思わないでしょう。…銀閣さん?」

 

先ほどまでずっと目を瞑って寝ているのか起きているのか分からない銀閣であったが、今はその目を開きガルドを見ている。その事に気づいた飛鳥は何かあるのかと銀閣に声をかけたのだが。

 

「彼は出来もしない過去の栄華に縋る恥知らずの亡霊でしかないのですよ。旦那もそう思いませんか」

 

銀閣の反応に興味を持ったと思われたのか、そうガルドが話の矛先を銀閣に向ける。

 

 

 

 

 

ガルドは笑う。嗤う。

それはきっとジンのコミュニティに向けてであったのだろう。

だがソレはきっとおれだ。

 

「わるいのかよ」

「…は?」

 

見苦しいのかもしれない。

恰好悪いのかもしれない。

 

「縋って、守ろうとして悪いのかよ」

 

それでも見かたを変えればソレはきっと必死なだけだ。

守りたいのに何も出来ない。それでも必死に縋り抗う。

 

「おれはお前が気に入らない。勧誘なら他をあたれ」

 

そう言い銀閣は腕を組み再び目を瞑る。

 

 

 

 

 

「……で、レディ達はどうですか?」

 

銀閣に脈なしと思ったのか、ガルドは飛鳥と耀にそう問いかける。

 

「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」

「春日部さんは今の話どう思う?」

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの」

「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」

「………うん。飛鳥は私の知っている女の子とはちょっと違うから違うから大丈夫かも」

「にゃー」

 

ガルドそっちのけで盛り上がる二人と一匹。

ガルドは顔を引きつらせつつも負けじと二人に問う。

 

「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」

「だから間に合ってるのよ。春日部さんは聞いての通り友達を作りに来ただけだからどっちでも構わない。そうよね?」

「うん」

「そして私、久遠飛鳥は──裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払ってこの箱庭に来たのよ。それを比較する為なのだろうけど、人を貶めたうえで迎え入れてやるなどと慇懃無礼に言われて魅力を感じると思ったのかしら。だとしたら自身の身の丈を知った上で出直して来て欲しいものね、このエセ紳士。いえ、変態紳士だったかしら?」

 

ガルドは怒りで体を震わせていた。一度ならず二度までもの変態呼ばわり。

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞ小娘がァァァ

『黙りなさい』

 

ガルドの口が自分の意志を無視したかのごとく不自然に閉じる。

 

「私の話はまだ終わってないわ。貴方からはまだ聞きださなければいけないことがあるのだから。『貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさい』」

 

勢いよく椅子に座り込むガルド。何故自分が言葉通りに椅子に座ったのか分からないとばかりに困惑を顔に浮かべる。何か言葉を発しようとしているようだが、その口から声が発するような気配は見られない。

 

「無駄よ。私の問いかけ以外には喋れないし、今の貴方には座ること以外に身動きをすることはできないわ。私ね、不思議に思ったの」

 

ノーネームを取り巻く状況を説明された際にガルドは可笑しなことを言った。コミュニティの両者合意でゲームをしかけ、そうやって自分のコミュニティを大きくしてきたと。

 

「ねえ、ジン君。コミュニティそのものをチップにゲームすることは、そうそうあることなの?」

「やむを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです」

「そうよね。訪れたばかりの私達でさえそれぐらい分かるもの。そのコミュニティ同士の戦いに強制力を持つからこそ主催者権限を持つ者は魔王として恐れられているはず。その特権を持たない貴方がどうして強制的にコミュニティを賭けあうような勝負をすることができたのかしら。『教えてくださる?』」

 

抵抗もできずにガルドの口から語られた内容は、身の毛もよだつものであった。

 

「ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えないわよ。人質を取って無理やりコミュニティを賭けたギフトゲームの強制。挙げ句には人質を殺すだけでは飽き足らず食べたですって?その上そのことを人質にとられたコミュニティの人たちはその事を知らないと。ここまでの外道は生まれてこの方見たことがないわ!」

 

汚物を見るような。いや、ガルドという名の汚物を見てそう言い放つ飛鳥。

 

「ジン君。今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるのかしら?」

「厳しいです。ガルドのした事は犯罪であり訴えれば箱庭も動くでしょうが、裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げてしまえばそれまでです」

「追放と考えれば裁きと言えなくもないけどそれじゃあ納得いかないわね。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。そこで提案なのだけれど──私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の”フォレス・ガロ”存続と”ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」

 

 




変態紳士
変態でありながら紳士。相反する存在が一体となった究極の存在。起源はたぶんクマ
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