【問題児たちが異世界から来るそうですよ?~え?御一人様追加ですか?~】 作:湊クレナイ
『箱庭』の外壁と内側を繋ぐ階段の前に戯れる子供達がいた。
「ジン~ジン~ジン!黒ウサの姉ちゃんまだ『箱庭』に戻ってこねぇの~」
「もう二時間近く待ちぼうけでわたし疲れたー」
口々に不満を吐きだす友人達に人は苦笑しながら指示を出す。
「……そうだね。みんなは先に帰って良いよ、僕は新しい仲間を此処で待っているから」
「じゃあ先に帰るぞ~、ジンもリーダーで大変だけど頑張ってな~」
「もう、帰って良いなら早く言ってよ!わたしの足なんて棒みたいよ!」
「おなか減ったー。ご飯先に食べていい?」
「うん。僕等の帰りが遅くなっても夜更かししたら駄目だよ。」
ワイワイと騒ぎながらジンの指示に素直に従い、帰路につく子供達。
その背中を見送った後、ジンは溜息を零す。
(それにしても……、黒ウサギ本当に遅いな……。外界に来た方達と何かあったのでしょうか?)
不安そうに門の外を見るジン。
彼は知らない、その不安が的中している事を。
知らない間に自分達の『コミュニティ』の秘密が暴かれようとして、黒ウサギが窮地に立たされている事を……。
「く、黒ウサギ達の『コミュニティ』の名前……ですか?」
「YES、だってワタシ達は黒ウサギの『コミュニティ』に招かれるんデショ?
だったら、どんな所か知りたいじゃないデスカ」
小首を傾げながらそう問いかける狛。
彼の疑問は最もであり、ある意味 異世界から招かれた者達が抱いても仕方ない疑問であり、通常なら即答しても問題ない質問だ。
――その疑問が黒ウサギにとってかなり都合の悪い事実で無ければ。
「そ、それは着いてからのお楽しみ♪では、駄目でしょうか?」
「んー、ウサギさんが言いたくないなら別に良いですケド、その場合ワタシはウサギさんの『コミュニティ』に参加しまセンヨ」
「ど、どうしてですか!?」
「そんなの当たり前じゃないデスカ、どんな組織でどんな活動をしているか分からない所にホイホイ行くほどワタシは冒険家ではありマセン。
『名前』すら言えない所なら尚更デス。」
「………っ!」
何の感情も無く、何の躊躇いも無く、息をするかの如く、当然の事だと断言する狛。
しかも言っている事は概ね正しい。
事実、黒ウサギは狛の言葉に何も言い返せず、狛の意見に賛同する者が出始める。
「確かにそうね。私達の力がそれほど貴重なモノなら利用したい人は山程いるでしょうし」
「……危ない所なら行きたくないな」
「そんな!黒ウサギの『コミュニティ』はそんな所ではありません!!」
「なら、とっとと事情話した方が良いんじゃねぇの。……それとも、俺が代わりに答えてやろうか?」
「えっ?」
黒ウサギに疑惑の目を向ける飛鳥と耀。その疑惑を否定する黒ウサギ。
しかし、十六夜の意外な言葉に黒ウサギは一瞬、硬直してしまう。
「あら?なにか心当たりでもあるの」
「あぁ、これは俺の勘だが。黒ウサギの『コミュニティ』は弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねぇのか?
だから俺達は組織を強化する為に呼び出された。そう考えれば来馬の質問に答えられない理由も、俺が『コミュニティ』に入るのを拒否した時に本気で怒ったことも合点が行く。
―――どうよ?100点満点だろ?」
「……っ!」
黒ウサギは内心痛烈に舌打ちした。この時点で知られる事は手痛かった。
しかし、此処で何も言わなければ狛達が自分に不信感を向ける中、下手に隠し事をし続けると彼等は『コミュニティ』に入る事無く、黒ウサギの前から去ってしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けたかった、苦労して手に入れた超戦力、自分達の『コミュニティ』の為にも彼等を手放す訳にはいかない。
「んで、この事実を今まで隠していたってことはだ。
俺達にはまだ他の『コミュニティ』を選ぶ権利があると判断できるが、その辺どうよ?」
「………。」
「……沈黙は是成、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。
それとも他の『コミュニティ』に行っても良いのか?」
「や、だ、駄目です! いえ、待って下さい!」
「だから待っているだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ」
「そうね。私達には知る権利があるわ」
「……うん。」
「早くしないとワタシ達どこかに行っちゃうかもしれませんヨー?」
四人は黒ウサギに視線を向けると、『ギフトゲーム』の説明を聞いていた時の様な真剣な表情で黒ウサギを見る。
その表情を見て黒ウサギは内心、溜息を吐きながら腹を括る。
本当は事後承諾した後でなし崩しに手を貸して貰いたかったが、こうなってしまったら全て包み隠さず話すべきだろう。
半ばやけくそ的な心情で問題児達を向き合う。
「……分かりました。それではこの黒ウサギも腹を括って、我々の『コミュニティ』の惨状を語らせて頂こうじゃありませんか!」
コホンっと咳払いをし、『ギフトゲーム』の時の説明とは打って変わって黒ウサギの顔は真剣になる。
「まず私達の『コミュニティ』には名乗るべき『名』がありません。
よって、呼ばれる時は名前の無いその他大勢、『ノーネーム』という蔑称で称されます。
狛さんの質問に答えられなかったのはコレが理由になります。」
「へぇ……その他大勢扱いかよ」
「成程、名乗って困る組織では無く、名乗る事が出来ない組織だったわけね」
「……そうだったんだ。」
「アチャー、知らない内に爆弾踏んじゃったみたいデスナ。
これはウサギさんに悪いことしましたカネ?」
「……いえ、考えてみれば狛さんの質問は皆様方にとって当たり前の疑問でしたから構いません。」
「それで?まさかそれだけで終わりじゃないよな?」
「YES. 次に私達には『コミュニティ』の誇りである『旗印』がありません。
この旗印と言うのは『コミュニティ』のテリトリーを示す大事な役割も担っています。」
「つまり、実質 黒ウサギの『コミュニティ』は縄張りを持つ事が出来ないんだね。」
「にゃー。(それはえらい不便やなぁ)」
「『名』と『旗印』に続いてトドメに、中核を成す仲間達は1人も残っていません。
もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは122人中、黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は10歳以下の子供達だけなのですヨ!」
「まさに崖っぷちだな!」
「想像以上に絶望的な惨状ね!」
「絶体絶命ってやつだね!」
「もう壊滅するのも時間の問題デスナ!」
「ホントですねー♪」
爽やかな笑顔と共に言われた言葉の数々に黒ウサギはウフフっと笑った後にガクリと膝から崩れ落ちる。
口に出して、第三者に指摘されると、本当に自分達の『コミュニティ』が末期なのだな―っと思わずにはいられなかった。
「でも、どうしてそうなってしまったの? 幾ら何でも残ったのが貴女と子供達だけって可笑しいわ」
「……その子達の親はどうしたの?」
飛鳥と耀の問いかけに黒ウサギは沈鬱そうに首を振る。
その光景に狛は嫌な予感を感じ、眉を顰める。
(まさかとは思いますガ、その子達はの親はもう……。)
そしてその考えは的中する事になる。
「いえ、彼等の親も全て奪われたのです。『箱庭』を襲う最大の天災―――『魔王』によって」
『魔王』―――それは箱庭に生きる者達にとって最大最悪の天災。
『魔王』は『
黒ウサギ達の『コミュニティ』は『
その敗北によって黒ウサギ達は全てを失った。
『名』と『旗』、誇りと地位と名誉……そして仲間達を。
彼女達に残されたのは空き地だらけの廃墟と大勢の子供たちだけだ。
その痛ましい姿に拍は何時からか自分を育ててくれた孤児院の院長に重ねた。
彼女もまた数千万の借金を抱え込みながらも、自分の様に親に見捨てられた子供達を養っていたのだから。
そして気付けば、彼は黒ウサギに問いかけていた。
「ウサギさんは『逃げよう』って思わなかったノ?」
「えっ?」
「『コミュニティ』を捨てル、もしくは新しい『名前』と『旗印』を作ル。
他にも楽に生きれた道は沢山あった筈なノニ、どうしてそれをしなかったんデスカ?」
「確かに、わざわざ『ノーネーム』でいるより、そっちの方が断然 楽だわな。
『箱庭の貴族』っていうぐらいなんだから黒ウサギ自身は『箱庭』の世界の中じゃそれなりに偉いんだろ?」
2人の言葉に黒ウサギは両手を胸に当てて言い淀む。
『名前』と『旗印』が無いという事は、『旗』を掲げて縄張りを主張する事も出来ず、『名前』を広めて信用を得る事も出来ない。
それどころか『その他大勢』として侮蔑され、身捨てられ、切り捨てられる。
加えて、『ギフトゲーム』に参加できるのは僅か2人のみ、その上 大勢の子供達の養わなければならないのだ、日々の生活でさえ苦しいモノだろう。
いっその事、黒ウサギだけでも今いる『コミュニティ』を脱退して別の『コミュニティ』に所属するという道を選んでも誰も責めはしないだろう。
『箱庭の貴族』である黒ウサギを欲する組織は山程いて、彼等の中に身を置けば自分達の為に心身を砕く必要はなくなるのだからな。
しかし、黒ウサギはその道を捨て、『ノーネーム』っとなった『コミュニティ』に残り、遂には異世界からの同士の召喚っという最終手段に出た。
それらの行為はある想いがある故に……。
「確かに『コミュニティ』の改名自体は可能です。
ですが、それは今ある『コミュニティ』の完全解散を意味します。
しかし……、それでは駄目なのです!
私達は何よりも……仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから……っ!」
仲間の帰る場所を守りたい、それは黒ウサギが異世界からの来訪者に向けて初めて打ち明けた彼女の本心。
『魔王』とのゲームによって居なくなってしまった仲間達の帰る場所を守るため、例え『ノーネーム』と呼ばれ、周囲から蔑まれようとも『コミュニティ』を守るという誓いを今いる仲間達と共に立てたのだ。
「茨の道ではあります。けど、私達は仲間が帰る場所を守りつつ、『コミュニティ』を再建し……、何時の日か『魔王』とのゲームで奪われた『名』と『旗』を取り戻し、掲げたいのです!
その為には皆様方の様な強力な力を持つプレイヤーに頼る他ありません!
どうか皆様方の力、我々の『コミュニティ』に貸して頂けないでしょうか……っ!?」
深く頭を下げて懇願する黒ウサギ。
彼女の必死の懇願に対する問題児達の反応は……。
「仲間と誇りの為……」
「『魔王』から奪われたモノを取り戻す……ねぇ」
「思っていた以上に大変そうね……。」
「にゃあ……。(お嬢……)」
「…………。」
狛は静かに瞼を閉じ、十六夜は気の無い言葉で返し、飛鳥は腕を組んで深く考え込み、耀は不安そうに自分を見上げる三毛猫を抱えながら俯く。
彼等がどんな返答をするか分からない中、黒ウサギは不安の気持ちで頭を下げ続ける。
(此処で断られたら……私達の『コミュニティ』はもう……!)
黒ウサギは強く唇を噛む。
自分達がどんな理不尽な願いを言っているか理解している故。
異世界から問答無用で召喚した挙句、壊滅寸前の『コミュニティ』の再建は勿論、全ての元凶である『魔王』と戦えっと言っているのだから。
周囲が静寂に包まれてから、たっぷり三分。その静寂はある人物の言葉を皮切り破られる事になる。
「いいな、それ」
無邪気な子供の声を出しながら立ち上がる十六夜。
その返答に対して黒ウサギは思わず目を丸くする。
「――――――………は?」
「HA?じゃねぇよ。協力するって言ったんだ、もっと喜べ黒ウサギ。」
不機嫌そうにいう十六夜、呆然と立ち尽くす黒ウサギに畳みかける様に残りの問題児達が次々に立ちあがりながら口を開く。
「少なくとも元の世界より有意義な力の使い方が出来そうね、そういう事情なら私も協力してあげてもいいわよ。」
「……私はこの世界に友達を作りに来ただけだから。でも、そこまで困っているなら手伝うよ」
「にゃあ!にゃっにゃあ!(ウサギの姉ちゃん!お嬢が味方になったからにはもう心配あらへんで!)」
「あら?じゃあ、私が春日部さんの友達候補に立候補しても良い?
コレから同じ『コミュニティ』に所属するのだから、是非 仲良くなりたいの」
「っ!……うん、久遠さんは私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」
「それは嬉しいわ、私の事は久遠じゃなくて飛鳥で良いわよ。友達になるのだから。」
「……うん、ありがとう…飛鳥。」
「にゃあ…。(よかったなお嬢……お嬢に友達が出来てワシも涙が出るほど嬉しいわ!)」
黒ウサギに協力すると明言した後、女の子同士で友情を結ぶ飛鳥と耀。
その光景に三毛猫はホロリと涙を流しながら喜ぶ。
そして、最後にある意味問題児達の中で一番の曲者である彼の返答も既に決まっていた。
(最低辺スタートですか……、まっ、何時もの事でデスネ)
親に捨てられた、借金まみれの孤児院に押し付けられた、ストリートで路銀を稼がざるを得なかった。
しかし彼はストリートからトップレベルのマジシャンに昇りつめ、数千万あった孤児院の借金を全て返済し、自分を捨てた親に堂々と絶縁すると言ってのけて見返した。
そんな彼にとって、黒ウサギの言う『コミュニティ』の再建は苦ではない、寧ろ心身を削ってでも『コミュニティ』を守る黒ウサギに好感を抱いた程である。
ならば、答えは一つだ。
「黒ウサギさん、先程の言葉の撤回と謝罪をさせて下サイ。
何も知らなかったとはイエ、ワタシも貴女達の『コミュニティ』を名無しである事を理由に侮辱シ、貴女の決意を踏み躙る言葉を投げかけてしまいまシタ。
その償いっというか埋め合わせとシテ、貴女の『コミュニティ』の再建を手伝わせて貰わせても構いまセンカ?」
「………っ!!」
彼等の言葉に黒ウサギは感動に打震える。
そして、青い髪が桜色に代わり、ピョンピョン跳び跳ねた後、再び両手を広げ、歓迎の意思を見せる。
「御四人様っ、本当にありがとうございます!!
改めてようこそ『箱庭の世界』へ!黒ウサギ達『ノーネーム』は貴方達の来訪を心から歓迎いたします!!」
こうして異世界から来た四人の問題児達は『ノーゲーム』に所属する事になった。
それは同時に『魔王』との、辛く厳しい戦いの序章でもあった。
=続く=
=あとがき=
こんにちは湊です。
狛の何気ない一言から原作より早い段階で『ノーネーム』の事情を知る事になった問題児達。
これからもちょくちょくこう言った改変要素が見られますので、生温かい目で見守って頂けたら幸いです。
次のお話はジン君登場と最初のボスキャラ ガルドに喧嘩を売ります。
不定期更新ですがどうかよろしくお願いします。
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