【問題児たちが異世界から来るそうですよ?~え?御一人様追加ですか?~】   作:湊クレナイ

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「ジン坊ちゃーん!異世界からの同士を連れて来ましたよー!」

『箱庭』の外側と内側を分ける門の向こうから黒ウサギが手を振りながら三人(・・・)の同士を連れて来る。
黒ウサギの声にジンと呼ばれた緑色の羽根っ毛が特徴の小学生くらいの少年が顔を挙げて、立ち上がり、彼女達を迎える。

「おかえり黒ウサギ。そちらの女性三人が異世界から来て下さった方々ですか?」

「はい!こちら御四人様方が……」

ここで、黒ウサギがある違和感に気付く。
異世界から召喚された同士の数は四人、なのにジンは『三人』っといったのだ。
嫌な予感がして後ろを振り向いた黒ウサギは、十六夜の姿がないことに気付き、固まる。

「……え?あの、……皆さん?確かもう一人いませんでしたっけ?
ちょっと目付きが悪くて、かなり口が悪くて、全身から『俺様問題児!』ってオーラを出しまくりな殿方が」

「ああ、それって十六夜君?彼なら『ちょっと世界の果てまで行ってくるぜ!』って言いなガラ、あちらの方に走って行きましたヨ?」

性別を間違えられた事を敢えてスル―し、狛は十六夜が消えた方向を指差す。そこは、上空から狛達が落ちていく時に見た断崖絶壁の方向であり、それを聞いた黒ウサギは残った三人の問題児達に問い質す。

「な、なんで止めてくれなかったんですか!?」

「『止めてくれるなよ』、と言われたもの」

黒ウサギの言葉など何所吹く風っと言わんばかりに髪を弄りながら明後日の方向を向く飛鳥が言い

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「『黒ウサギには言うなよ』、と言われたから」

三毛猫を撫でながら黒ウサギと目線を合わせない様にしている耀が告げる。

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御三人さん!」

「「うん」」

「テヘペロ☆」

無駄に息の合った三人の言葉に地面に手をつけ、黒ウサギが完全に撃沈したようになる。特にウインクしながらお茶目に舌を出している狛なんかこの状況を楽しんでいる事など丸分かりだ。
数時間前に『コミュニティ』の事情を知った上で力を貸してくれると言ってくれた事に舞い上がっていた自分が恨めしい。……っと、どんよりとした重い空気を背負った黒ウサギとは対照的にジンが顔面蒼白で叫ぶ。

「た、大変です!『世界の果て』には『ギフトゲーム』の為に野放しにされている幻獣が……っ!」

「幻獣?」

「は、はい!『ギフト』を持った獣を指す言葉で、特に『世界の果て』付近には強力な『ギフト』を持ったものが居ます。
彼等にゲームを挑まれたが最後、人間では到底太刀打ちできません!」

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー……?斬新?」

「所謂 出落ちって奴デスナ。だからセーブはこまめにした方が良いというノニ……。」

「冗談を言っている場合ではありません!」

ジンは十六夜の安否を心配し真剣になって三人を叱るが、叱られた当人たちは全く堪えた様子は無く肩を竦めるだけである。
そんな四人の傍で黒ウサギがユラリと立ち上がり、無機質な低い声を出す。

「はぁ……ジン坊ちゃん。先に御三人様の案内をお願いします。
勝手ながら彼らには大方の事情を話してありますからご心配なく」

「あっ、うん……僕に異存はないけど……、話したって僕達の事、全部?」

「すみません。ですが、皆様は我々の事情を知った上で協力して下さると言って下さいましたのでご安心して下さい」

「……うん、分かった。彼女たちの案内は任せて。それで黒ウサギはどうするの?」

「問題児様を捕まえに参ります。事のついでに―――『箱庭の貴族』と謳われたこのウサギを馬鹿にした事!骨の髄まで後悔させてやります!!」

―――バヒュン!!

悲しみから立ち直った黒ウサギは艶のある青い髪を桜色に染めながら疾風の如く駆け出し、外壁に張り付いた後、ジン達の方に振り向く。

「一刻程で戻ります!皆様はゆっくりと箱庭ライフを楽しんで下さいませ!」

そして、また弾丸すらも置き去りにしそうな速さで駆け上がり、瞬く間に姿を消した。
残されたのは唖然と取り残された一同と黒ウサギが巻き起こした旋毛風のみだ。

「……『箱庭』の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ」

「ウサギ達は『箱庭』創始者の眷属。力もそうですが他にも様々なギフトの他に特殊な権限を持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の厳重に出くわさない限り大丈夫だと思いますが……」

「そう。黒ウサギも堪能して下さいっと言っていたし、お言葉に甘えて『箱庭』に入るといたしましょう。
エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

「え、あ、はい!若輩者ですが『コミュニティ』のリーダーをしている【ジン=ラッセル】です。
齢11になったばかりですが、よろしくお願いします。 お三人の名前は?」

「【久遠(くどう) 飛鳥(あすか)】よ。そこで猫を抱えているのが」

「【春日部(かすかべ) 耀(よう)】。隣にいる変わった喋り方をした人が」

「【来馬(くるま) (はく)】デス、以後お見知りおきヲ。
因みによく勘違いされマスガ、こうみえても立派な男性ですのでそこのところもヨロシクお願いシマス♪」

「「「えっ?」」」

自己紹介と共に明かされた狛の性別にジンだけでなく、飛鳥と耀までも固まり、数分間誰も動く事が出来なかった。




【第三話:フォレス・ガロ】

―――箱庭二一〇五三八〇外門・内壁

 

あれから数分後、飛鳥、耀、ジン、そして三毛猫は狛のカミングアウトの衝撃から立ち直りジンの案内の元、『箱庭』の幕下を歩く。

 

「すみません……すっかり女性と思い込んでしまって。」

 

「私はどっちか分からなかった」

 

「っというか、男性なのにどうしてスカートを履いているの?!」

 

申し訳なさそうに謝るジンと、性別が分からなくて少し落ち込んでいる耀、そして紛らわしい恰好をする狛に憤慨する飛鳥。

三人三色 違うリアクションを眺めながら拍はカラカラと笑いながら言う。

 

「いやぁ、紛らわしくてスミマセン。何せ性別不詳というのがワタシの売りの一つでシテ」

 

「……売り?」

 

「前の世界では何かの商売をしていたんですか?」

 

狛の言う『売り』っという言葉に飛鳥とジンが反応して首を傾げる。

その反応を見た後、狛は徐にコインを取り出す。

 

「ハイ。元の世界では若輩ながらマジシャンをしていまシテネ、ミステリアスな雰囲気を引き出す為に普段から性別が分からなくなる恰好をする様にト、オーナーに言われているンデスヨ。」

 

そして取り出したコインが何の変哲もないコインだと分かる様に確認させた後、人差し指と中指の間に挟んでクルクル回す。

すると、回したコインは回転するごとにトランプ、ナイフ、最終的にはシルクハットに変わり、それを鮮やかな動作で被ってお辞儀をすると、飛鳥、ジン、耀が目を輝かせながら拍手を送る。

 

「す、凄いわ!コレが奇術師のマジック!?初めて見たわ!」

 

「い、一体どんな『ギフト』を使ったんですか!?」

 

「全然、タネが分からなかった……。」

 

「にゃっ、にゃー……っ!(お嬢の五感を掻い潜るとはっ、あんさん只者やないなぁ……っ!)」

 

「そう言って貰えると光栄デス。今は手持ちの関係でささやかなマジックしか披露できませンガ、機会があればもっと凄いモノをお見せしまショウ。

っと、言っても天井のアレには負けマスガ。」

 

小さな拍手を浴びながら、狛が苦笑しながら天井に向かって指を指す。

そこから眩しい日差しが差し込み、その光に導かれるまま視線を上にあげると空を覆う巨大な天幕と、その向こう側の遠くに見える建造物。

建物の中では有り得ない光景はまさしく異世界の建造物だからこそ成せる業であろう。

 

「確かに。外から見た時は内側なんて見えなかったのに。」

 

「『箱庭』を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。

そもそも あの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族の為に設置されていますから。」

 

「それは何とも気になる話しね。この都市には吸血鬼でも居るのかしら?」

 

「えっ?居ますけど」

 

「……そう。」

 

(本当に何でも有りの世界なんデスネ、此処ハ。)

 

狛達の世界では空想上の存在である吸血鬼の存在をあっさりと肯定するジン。

幻獣や本物のウサ耳を持つ少女などが当たり前に存在している事から改めて此処が完全無欠な異世界である事を思い知る。

 

「……そろそろお腹空いて来た。」

 

「そうね、そろそろ昼食の時間かしら。ジン君、『コミュニティ』まではまだ遠いの?」

 

「あっ、すみません……。もう少し歩きます。 先にあちらの店で軽く食べて行きましょうか?」

 

「良いんデスカ?ジン君の『コミュニティ』の財政では外食するのも痛い出費になるのデハ?」

 

「少しだけなら大丈夫ですよ。それに、いきなり異世界に呼び出した上に、こちらの事情を隠して騙す様な真似をしてしまった 非礼もありますし、ささやかながら御もてなしさせて下さい」

 

そういうジンの目はとても真剣なモノで、微かだが其処には確かに皆を率いるリーダーとしての気迫が見えた。同時に彼の誠実さが真っ直ぐ伝わって来たので、『コミュニティ』の事情を考えて遠慮していた三人だったが、有難く彼の言葉に甘える事にした。

それなりに強がっているが、女性二人……特に飛鳥はそろそろ一休みしたかった所だった。

 

「そう。じゃあ、御言葉に甘えようかしら」

 

三人はジンの案内の元、一番手近のカフェテラスの席に座った。

御客様が来た事を機敏に察知した猫耳のウェイトレスの少女がトテトテと笑顔で駆け寄る。

 

「いらっしゃいませー♪ ご注文はどうしますか?」

 

「えーっと、紅茶二つと緑茶二つ。あと軽食にコレとコレと…」

 

「にゃー!(ネコマンマを!)」

 

「はいはーい。ティーセット四つとネコマンマ一つですね♪」

 

……ん?っと飛鳥とジン、そして狛が店員の言葉に首を傾げる。

しかし、それ以上に驚いたのは耀だ、彼女は信じられない様子でウェイトレスを問い質す。

 

「三毛猫の言葉、分かるの!?」

 

「そりゃ分かりますよー。私は猫族なんですから!

お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスしますよ♪」

 

「にゃーにゃにゃ、にゃあご♪(ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾(かぎしっぽ)やな、今度 機会があったら甘噛みしに行くわ♪)」

 

「やだもー!お客様ったらお上手なんだから♪」

 

猫耳ウェイトレスは上機嫌に尻尾を揺らしながら店内に戻る。

その姿を見送ってからは耀は嬉しそうに三毛猫の頭を撫でる。

 

「……『箱庭』って凄いね。私以外に三毛猫の言葉が分かる人が居たよ」

 

「にゃあご。(来て良かったなお嬢)」

 

「ちょっ、ちょっと待って!貴女もしかして猫と会話できるの!?」

 

「他にもお話出来る動物サンとかいるのデスカ?」

 

耀の言葉に飛鳥は動揺を露わにし、狛は興味深そうに彼女に質問する。

二人の言葉に耀はコクリと頷き、肯定する。

 

「うん。生きているなら誰とでも話しは出来る。」

 

「それは素敵ね。じゃあ、あそこに飛び交う野鳥とも?」

 

「鳩さんともお話できマスカ?」

 

「うん、きっと出来る……かも?鳩の他に鳥と話した事があるのは雀や鷺、不如帰ぐらいかな……でも、ペンギンがいけたからきっと大丈夫。」

 

「「ペンギン!?」」

 

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカとも友達。」

 

意外なラインナップに飛鳥と狛は驚く。

空を飛ぶ野鳥とは知り合う機会は何度かあるだろうが、まさかペンギンとも友達になっているなど思いもしなかったのである。

流石の狛もこれは予想外だ。

 

「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。

この『箱庭』において幻獣との言語の会話と言うのはとても大きいものですから。」

 

「そうなんだ。」

 

途中から耀の力に唖然としていたジンだったが、何とか気を取り直すと彼女の『ギフト』を素直に賞賛する。

その言葉に耀は意外そうに首を傾げる。

先程の猫耳のウェイトレスの件から、様々な種族が共存している『箱庭』の世界では、自分の様に動物の言葉が分かる人達は珍しく無いと考えていたからだろう。

しかし、実際はそうでもないらしい。

 

「はい。一部の猫族やウサギのように神仏の眷属として言語中枢が与えられていれば意思疎通可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。

同一種かそれ相応の『ギフト』がなければ意思疎通が難しいというのが一般です。

『箱庭』の創始者の眷属である黒ウサギでも、全ての種との会話は出来ない筈ですし。」

 

「そう……春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

笑いかけられて照れたように微笑む耀の横で飛鳥は憂鬱そうに呟く。

その表情が彼女らしくないと感じた耀は躊躇いがちで声を掛ける。

 

「えっと……、飛鳥はどんな力を持っているの?」

 

「私?私の力は……とても酷いモノよ。二人と違ってね」

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最低辺コミュ『名無しの権兵衛』のリーダー、ジン君じゃないですか。

今日はオモリ役の黒ウサギと一緒じゃないんですか?」

 

飛鳥が暗い表情で呟いた瞬間に品の無い上品ぶった声がジンを呼ぶ。

振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで身を包む変な男が居た。

変な男は不覚にも……不覚にもジンの知った声だ。

ジンは顔を顰めて男に返事をする。

 

「僕等の『コミュニティ』は『ノーネーム』です。『フォレス・ガロ』の【ガルド=ガスパー】」

 

「黙れ、この名無しめ!聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。

『コミュニティ』の『名』と『旗印』を奪われてよくも未練がましく『コミュニティ』を存続させる事が出来たものだ――――そうは思わないかい、お嬢様方?」

 

ガルドと名乗るピチピチタキシードの大男は四人が座るテーブルの空席に図々しくも座ろうとするが、その前に飛鳥の冷やかな声が彼を刺す。

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名の名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないでしょうか?」

 

「おっと失礼。私は『箱庭』上層に陣取るコミュニティ、『六百六十六の獣』の傘下である「烏合の衆の」『コミュニティ』のリーダーをしている、って待てやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧ぉおお!!」

 

ジンに横やりを入れら得たガルドの顔は怒鳴り声と共に激変する。

口は耳元まで大きく裂け、肉食獣の様な牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りと共にジンに向けられる。

 

「口を慎めや小僧ォ……紳士で通っている俺でも聞き逃せねぇ言葉はあるんだぜ……?」

 

「森の守護者だった頃の貴方なら相応しい礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの二一〇五三八〇外門付近を荒らす獣にしか見えません。」

 

「ハッ、そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらんだろうがッ。

自分の『コミュニティ』がどういう状況に置かれてんのか理解出来ているのかい?」

 

「ハイ、ちょっとストップ」

 

険悪な雰囲気で睨み合うジンとガルド。

それを遮る様に手を上げたのは飛鳥だった。

 

「貴方とジン君の関係がどういうものか良く分かったわ。

その上で聞くけど、貴方はこちらに何しに来たの?

ただ、ジン君の事を貶す為に来た訳ではないでしょう?」

 

口調こそ丁寧なモノだったが飛鳥の目はガルドへの敵意で満ちていた。

隣にいる耀も無表情ながらガルドへ送る視線は冷たいモノで、三毛猫が耀の膝の上でフシャーっと毛を逆立てて威嚇している。

拍は何時もの軽薄な笑みを消してジッと冷めた目でガルドを見つめていた。

明らかにガルドに対して拒絶の意を示しているにも関わらず、ガルドは全く意に介した様子も無くあくまでも紳士的に飛鳥の言葉に答える。

 

「失礼、レディ。私とした事が大事な事を忘れていました。

単刀直入に言いますと、【ジン=ラッセル】の所など見限って黒ウサギと共に私の『コミュニティ』に入りませんか?」

 

「……成程、私達をスカウトしに来た訳ね」

 

「ええ、その通りです。

かつては東区画最強と名を馳せていましたが、魔王に玩具の様に蹂躙され、『コミュニティ』の誇りである『名』と『旗印』を奪われ、残ったモノは瓦礫の廃墟と力の無い子供達が殆どの無力な組織……いえ、組織と言うのもおこがましい“寄せ集め”ですね。

そんな場所に貴女達の様な素晴らしい才能の持ち主を捨て置くのは余りにも惜しい、黒ウサギと共に其処のリーダー気取りの小僧に寄生虫の如く寄生されるのが関の山です。」

 

「っ!」

 

ガルドの言葉にジンは何も言葉を返せず、ただ強くローブを握りしめ悔しさを表に出さない様に必死で下唇を噛んで堪える。

実質、ガルドの言葉も嘘じゃない。今の『コミュニティ』のメンバーが何とか生存しているのは一重に黒ウサギの存在があったからこそだ。

彼女は『審判権限(ジャッジマスター)』っという特権の制約で、幾つかの条件をクリアしなければ『ギフトゲーム』にプレイヤーとして参加できないが、その特権を用いて『ギフトゲーム』の審判側で働き、子供達が生きる為に必要な路銀を稼いでいる。

ジンもリーダーとして、自分の出来る範囲で精一杯やっているが、それでも過去に偉大な功績を残した先代には敵わず、単独で『ギフトゲーム』を勝ち抜ける自分の力の無さに苛立ちと悔しさ、そして黒ウサギへの罪悪感だけが募る。

 

その様に気を良くしたのかガルドは下衆の笑みを浮かべながら続ける。

 

「それに引き換え私の『コミュニティ』は数多の『ギフトゲーム』を勝ち抜き。両者合意の元 多くの『コミュニティ』の『旗印』を手にし、この二一〇五三八〇外門付近で活動できる中流『コミュニティ』は全て支配下におけるほど強大な組織です。

我々の『コミュニティ』に参加して頂ければ手厚く歓迎しますよ。」

 

ガルドは胸のタキシードに張られている『旗印』を見せつけながら両手を広げ、歓迎の意を示す。

それはまるで飛鳥達が自分の元へ来る事をまるで疑っていないと言わんばかりの態度だ。

それに対して飛鳥達が示した答えは……。

 

「ふーん。つまり、崖っぷちのジン君達の所と違って、貴方達の『コミュニティ』はこの辺りの地域をほぼ支配下に置いてある訳ね。」

 

「そうです。」

 

「其処に行けば私達は裕福な暮らしが出来る、っと」

 

「はい、保証しましょう」

 

「そして目出度くこの地域の支配権を仲間内で共有できるっという訳デスナ」

 

「ご理解が早くて助かります。そういう訳ですから是非、我々『フォレス・ガロ』のメンバーに……」

 

「 「 「 だ が 、 断 る  」 」 」

 

彼女達が示した答えはNO.

ガルドに対する明確な拒絶。

それを目の当たりにしてガルドは信じられないっと言わんばかりに目を見開く。

 

「なっ!? 一体、どうしてそんな結論に?貴女方は正気ですか!?」

 

「ええ、勿論。その上でお断りしているの」

 

「私達はジン君の『コミュニティ』で間に合っているから」

 

「そーいう訳デス。我々とはご縁が無かったと思って諦めて下サイ。」

 

「ぐっ、失礼ですが理由を教えて貰っても?」

 

間髪いれず即答された言葉にガルドは青筋を浮かべるが、何とか怒りを堪えて引き攣った笑みで彼女達に問う。

だが、それに対する返答はどこまでも冷たいモノだった。

 

「私、【春日部 耀】は虎は好きだけど、貴方は嫌い。それだけ」

 

「ワタシ、【来馬 狛】は依頼者(クライアント)は慎重かつ厳選に選ぶ主義でしテネ。貴方と貴方の『コミュニティ』は私にとって何の魅力も感じなかっタ……それだけデスヨ。」

 

「二人に同意見だわ。

私、【久遠 飛鳥】は裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる全てを支払って、この『箱庭』に来たのよ。

それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端に迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じると思ったのかしら?

だとしたら自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、このエセ虎紳士。」

 

「しかしっ」

 

「【黙りなさい】」

 

―――ガチン!

 

飛鳥達の無礼な極まりない発言に反論しようと口を開いた瞬間、ガルドの口が飛鳥の【命令】と共に不自然な形で閉じられ、黙り込んだ。

ガルド本人は言葉を発そうと必死で口を開こうともがくが、全く声が出ない。

 

「………!?……!!?」

 

「私の話はまだ終わってないわ。貴方にはまだ聞きたい事があるもの。

貴方は【其処に座って、私の質問に答え続けなさい】」

 

 

―――ドスン!

 

飛鳥に命令されるがままガルドの身体は本人の意思を無視して、椅子に罅が入りそうな勢いで勢い良く座り込む。

ガルドは完全にパニックに陥っていた。身体が勝手に動いたかと思えば、今度は手足が拘束されている訳ではないのにどれだけ力を込めようと全く動かせないのだから。

 

その様子に驚いた猫耳のウェイトレスが慌てて飛鳥達の所に駆け寄る。

 

「お、お客さん!当店で揉め事は控えて下さ――」

 

「丁度良いわ。猫の店員さんも第三者として聞いて欲しいの。

―――多分、面白い事が聞ける筈よ。」

 

首を傾げる猫耳ウェイトレスを制して、飛鳥は再びガルドと向き合い言葉を続ける。

 

「貴方はこの地域の『コミュニティ』に“両者合意”の元で『旗印』を賭けて挑み、勝利して、組織を大きくしたって言ったわ。

だけど、それだと私が聞いた『ギフトゲーム』の内容と合わないの。

『コミュニティ』のギフトゲームは『主催者(ホスト)』とそれに挑戦する者が様々なチップを賭けて行う物の筈。

……ねぇ、ジン君。『コミュニティ』そのものをチップにしてゲームをするということは、そうそうにあるものなの?」

 

「や、やむ得ない状況なら稀に。しかし、これは『コミュニティ』の存続を賭けたかなりのレアケースです。」

 

ジンの言葉に傍で聞いていた猫耳ウェイトレスも同意するように頷く。

それを確認した後、飛鳥は改めて言葉を紡ぐ。

 

「そうよね。訪れた私達でさえそれぐらい分かるもの。

その『コミュニティ』同士の存続を賭けた戦いに強制力を持つ『主催者権限(ホストマスター)』を持っているからこそ『魔王』は恐れられている筈。

その特権を持たない貴方がどうして強制的に『コミュニティ』の存続を賭け合う様な大勝負を続ける事が出来たのか、【教えて下さる?】」

 

【ガルド=ガスパー】は悲鳴を上げそうな表情になるが、彼の意に反して己の口は飛鳥の【命令】を忠実にこなすべく開かれる。

この時、周りにいる人間達もその異変に気付き始める。

この女性……【久遠 飛鳥】の下す【命令】には絶対に逆らえないのだ、と。

 

「き、強制させる方法は様々だ。

一番簡単なのは、『コミュニティ』の女子供を攫って人質にし、脅迫する事だ。

これに、応じない相手は後回しにして、徐々に他の『コミュニティ』を取り込んで、ゲームを乗らざるを得ない状況に圧迫した。」

 

「まぁ、そんなところでしょう。貴方の様な小者らしい堅実的な手です。

でも、そんな違法な手段で買収した組織が貴方の下で従順に働いてくれるかしら?」

 

「各『コミュニティ』から、数人ずつ人質をとってある」

 

ピクリと飛鳥の片眉が動く。表には出さないモノの彼女の周りには彼への嫌悪感で溢れている。

基本、『コミュニティ』の事には無関心な耀でさえ不快そうに眼を細めている。

狛に至っては完全に表情を消して、ただ黙ってガルドを観察していた。

 

「……そう。ますます外道ね。それで、攫った子供達はどこに幽閉されているの?」

 

「……もう殺した。」

 

その場の空気が瞬時に凍りつく、ジンもウェイトレスも耀も飛鳥でさえ、一瞬耳を疑い思考を停止しさせてしまった。

ただ二人、飛鳥に【命令】されたまま真実を話すガルドと、その様子を冷えた眼で観察する狛だけが言葉を紡ぐ。

 

「何時殺したの?」

 

「初めてガキ共を連れて来た日、泣き声に頭が来て思わず殺した。

それ以降は自重しようと思ったが、父が恋しい、母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。

それ以降、連れて来たガキは全部まとめてその日の内に始末する事にした。

けど、身内の『コミュニティ』の人間を殺せば組織に亀裂が入る。

始末したガキは証拠が残らない様に腹心の部下が食――」

 

「【黙れ!】」

 

―――ガチン!!

 

ガルドの口が先程以上に勢いよく閉ざされた。

飛鳥の言葉は先程以上に凄みを増し、魂ごと鷲掴む勢いで締めつける。

 

「素晴らしいわ。此処まで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。

流石は人外魔境の『箱庭』っと言ったところかしら―――ねぇ、ジン君?」

 

「彼の様な悪党は『箱庭』でもそうそうに居ません。」

 

「へぇ、そうなんだ。ところでジン君。アレを『箱庭』の法で裁くことは出来る?」

 

「……厳しいです。吸収した『コミュニティ』から人質にとったり、身内の仲間を殺す行為は勿論、違法ですが……裁かれる前に彼が『箱庭』の外に出てしまえば、それまでです。」

 

「そう。なら仕方ないわ」

 

―――パチン

 

飛鳥が苛立たしげに指を鳴らす。

それが合図だったのだろう。ガルドを縛り付けていた力は霧散し、身体の自由が戻ると怒り狂った様子でテーブルを勢いよく砕く。

 

「この小娘がァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

雄叫びと共に人の手から虎のそれに変わった異形の手で飛鳥を切り裂こうと手を上げるが、その瞬間、ピィインと振り上げた腕と首元に何か細いモノに巻かれた様な違和感を感じる。

本能的に命の危機を感じたガルドはピタリと飛鳥に襲いかかろうとした姿勢のまま硬直する。

 

「駄目だよ。紳士がレディに手を上げちゃあ、ね?」

 

ガルドが辛うじて視線を動かした先に居たのはクスリと冷たい微笑みを浮かべる狛の姿だ。

拍はガルドが止まった事を確認するとクイッと指を引く。

それと同時に、ガルドの首筋に細いピアノ線の様な糸が軽く皮膚を破り、一筋の血を流す。

 

「ひっ!」

 

「その糸は特別製でね。鋼鉄だって簡単に切れちゃうような凄い糸なんだ。

下手に動くと……首、落ちちゃうよ?」

 

クスクスと愉しげに嗤いながらガルドに警告する狛。

何時ものカラカラした笑顔と独特の言葉遣いは無く、流暢な言葉で話し、冷たく嗤いながらガルドを手玉に取る。

明らかに今までとは別人だ。まるで冷酷な暗殺者が陽気な道化師の仮面を脱ぎ棄てた様な豹変振りだ。

その光景に誰もが固まり、動く事が出来なかった。

何故なら、ガルドが僅かにでも動けば、今の狛は躊躇いなく彼の首を落とす事を肌で感じているからだ。

 

「い、何時の間にこんな……っ、どんな『ギフト』を使いやがった!?」

 

「マジシャンの基本テクニックだよ?今回は皆、飛鳥さんに注目していたから特にやりやすかったよ」

 

観客が知らぬうちに、気付かぬうちに、彼等の死角でタネを仕込み、見事な幻想で華やかなショーを演じるマジシャンにとって、意識が散漫になっている相手にトリックを仕込むのは造作も無い事。

ましてや狛はあらゆる意味(・・・・・・)で一流の腕を持つ。この程度の事なら『ギフト』を使うまでも無く容易くこなしてしまう技量が彼にはある。

道化師の仮面を捨て、絶対零度の視線を向ける得体のしれない者の存在に生存権を奪われた、その危機から逃れようと必死で口を動かす。

 

「テメェら!どういうつもりか知らねぇが……俺の上に誰が居るか分かってんだろうなぁ!?

箱庭第六六六外門を守る『魔王』が後見人にいるんだ!!

俺に喧嘩を売るって事は、その『魔王』にも喧嘩を売るって事だ!!

この意味、分かってんだろうなぁ!!」

 

魔王に喧嘩を売る。それは間接的に魔王に滅ぼされた『ノーゲーム』の悲劇を繰り返すと脅している様なモノ。

この状況でガルドが出せる最大の切り札。

彼の後見人である箱庭上層部の魔王の名、それさえ出せば恐れ慄き、この拘束が外れ、自分に屈辱を味合わせた小娘共を思う存分切り裂く事が出来る。

そう淡い期待があった。

 

「で?」

 

しかし、狛はたった一文字(・・・)の元、それを切り捨てた。

予想外の言葉にガルドは空いた口が塞がらず、呆然と間抜け面で狛を見る。

それに構わず狛は冷たい視線を向けたまま、言葉を紡ぐ。

 

「貴方の上に誰がいようと関係ない。

だって、ワタシ達の目的は『ノーネーム』から全てを奪った魔王を倒し、奪われたモノを全て取り戻す事。

それなのに今更、その程度の事で怯える訳ないだろ。―――そうデショ、ジン君?」

 

「っ!」

 

ガルドの時と打って変わった軽やかな笑み。

内心、ジンは魔王の名に恐怖し、怖じ気づきそうになった。

しかし、狛の言葉で自分達が何を想い今まで生きて来たかを改めて思い出し、その恐怖を振り切る。

 

「……はい。僕達の最終目的は魔王を倒し、僕等の『誇り』と仲間達を取り戻す事。

今更そんな脅しには屈しません!」

 

「そういうこと。逆に自分がどういう立場にいるのか、思い知った?」

 

「く……、くそっ……!!」

 

自分の切り札が通じないと知ったガルドは動けない身体で悔しそうに歯軋りする。

法に裁かれる前に逃げ出すのは簡単だ。

しかし、リーダーを失った『フォレス・ガロ』は文字通り“烏合の衆”と化し、内部から徐々に崩壊していき、近い未来の内に完全に瓦解するだろう。

彼に残された道は最早、破滅しかないのだ。

 

「邪魔してスミマセン、飛鳥さん。まだ、アレに言いたい事があるんデスヨネ?

ワタシに構わず、どうぞ続けて下サイ♪」

 

「……いえ、返って話し易くなったわ。ありがとう、来馬君。」

 

先程まで狛の出す冷たい殺気に動けずにいた飛鳥だが、自分の知るおどけた様子で笑う彼を見て知らず知らずの内に安堵の息を漏らし、小悪魔っぽい笑みを向けてガルドを見る。

 

「ねぇ、ガルドさん。私、いえ私達は貴方の『コミュニティ』が瓦解した程度では満足できないの。

貴方の様な外道はズタボロになって己の犯した罪に後悔しながら罰せられるべきよ。

―――そこで、みんなに提案があるんだけど」

 

コツンとガルドの前に一歩踏み出し、動けないガルドの首元に女性らしいしなやかな細い指を添えて顎を上げ、不敵な笑みを浮かべる。

 

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の『フォレス・ガロ』の存続と私達『ノーネーム』の誇りと魂を賭けて、ね。」

 

 




=続く=

*本編の蛇足*
実は飛鳥とジン、耀と三毛猫とウェイトレスさんは『魔王』とガルドよりもガチギレした狛の方が怖かったらしいですよ?

因みに狛はガチギレすると敬語がログアウトして流暢に喋ります。
つまり、狛の口調が滑らか=ガチギレっという方程式が成立します。

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