【問題児たちが異世界から来るそうですよ?~え?御一人様追加ですか?~】   作:湊クレナイ

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「な、なんであの短時間に『フォレス・ガロ』のリーダーと接触して喧嘩を売る事態になったのですか!?」

夕方、噴水広場にて十六夜と共に飛鳥達と合流した黒ウサギの怒号が響き渡る。

「しかもゲームの日取りは明日!?」
「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」
「準備している時間もお金もありません!」
「一体どういう心算(つもり)」があっての事です!?」
「聞いているのですか四人とも!!」

「「「ムシャクシャしてやった。反省も後悔もしていません。」」」

「黙らっしゃい!!!」

問題児三人だけならまだしもジンまで彼等に毒された様に無駄に息ピッタリな返答を返した事で黒ウサギの怒りが更に加速する。
その様を見ながら飛鳥、耀、ジンは黒ウサギと狛を見比べながらある事を思う。

(正直、来馬君の怒った時と比べるとイマイチ迫力が無いわね)

(……アレの方が怖かった)

(あの時は本当に心臓が止まるかと思いました……。)

一方、その狛はというと……。

(虎の美味しい調理法ってどこで調べれば分かるかな? あっ、あんなのマズイに決まっているか、やっぱり止めとこ)

お茶目な笑顔の下、割と物騒な事を考えていたのであった。



【第四話:千の瞳の夜叉】

「別に良いじゃねぇか。見境なく喧嘩を売った訳じゃねぇんだから許してやれよ」

 

コレ以上、黒ウサギの怒りが加速する前に十六夜がヤハハと笑いながら仲裁に入るが、逆に黒ウサギにキッと睨まれる。

 

「十六夜さんは面白ければ良いと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるモノは自己満足だけなんですよ!?

この『契約書類(ギアスロール)』を見て下さい!」

 

黒ウサギが見せた『契約書類(ギアスロール)』っというのは『主催者権限《ホストマスター》』を持たないモノ達が『主催者(ホスト)』をする為に必要なギフトの事である。

其処にはゲームの内容、ルール、チップなどが明記されており、『主催者(ホスト)』の『コミュニティ』のリーダーが署名することで成立する。

 

今回の賞品の内容はこうだ。

 

「【参加者(プレイヤー)が勝利した場合、『主催者(ホスト)』は参加者(プレイヤー)の言及する全ての罪を認め、『箱庭』の法の下で正しい裁きを受けた後、『コミュニティ』を解散する】―――まぁ、確かに自己満足だ。時間を掛ければ立証できるモノを、わざわざ取り逃すリスクを背負ってまで短縮させるんだからな。」

 

因みに飛鳥達のチップはガルドの【罪を黙認する】っというモノだ。

それは今回に限った事では無く、それ以降もずっと口を閉じ続けるという意味である。

 

「確かに十六夜君の言う通り、時間さえ掛ければいずれ罪は暴かれマス。

人質になった女の人や子供達はアレの『コミュニティ』の人間に殺されているんデスカラ」

 

「………っ」

 

狛の言う事実に何も言えず俯く黒ウサギ。

彼女も風の噂で『フォレス・ガロ』の悪評は聞いていたが、此処まで惨いものだとは思わなかったのだろう。

 

「そう、来馬君の言う通り人質は既にこの世に居ないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。

だけど、それだと少々 時間が掛かるのも事実。

あの外道を裁くのにそんな時間を掛けたくないの。」

 

『箱庭』の法はあくまで『箱庭』の都市内でのみ有効である。

証拠を集めている間にガルドが『箱庭』の外に出てしまったら、ガルドの罪が裁かれる事は永遠に無い。

しかし、『契約書類(ギアスロール)』による強制執行ならば、どれだけ逃げようとも強力な『契約(ギアス)』でガルドを追い詰める事が出来る。

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされていることも許せないの。此処で逃せば、何時また狙ってくるか分からないモノ」

 

「同じク。今回は何とか踏み止まれましたが次に合った時も我慢できるとは限りまセン。

……今度はうっかり殺しちゃうかもしれないし」

 

一瞬、ホンの一瞬だが見せた冷たい殺気に黒ウサギは身奮いし、十六夜ですら咄嗟に臨戦態勢に入る。飛鳥達に至っては顔面蒼白だ。

 

「ま、まぁ良いでしょう!腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。

『フォレス・ガロ』程度なら十六夜さん1人いれば楽勝でしょう」

 

狛の殺気に身の危険を感じた黒ウサギは咄嗟に話題を変えて無理あり気持ちを持ちあげる。

実際、黒ウサギの言った言葉に間違いは無い。

なにせ、この【逆廻(さかまき) 十六夜(いざよい)】は水神を相手に素手(・・)で完勝した規格外の化け物だ。

『フォレス・ガロ』程度の規模の『コミュニティ』なら束になっても負ける事は無いとの確信が黒ウサギにはあった。

しかし、当の十六夜、そして飛鳥は黒ウサギの言葉に怪訝そうに眉を顰める。

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねぇよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす二人。

その二人に対し黒ウサギは慌てて食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ!御二人は『コミュニティ』の仲間なんですからちゃんと協力しないと!」

 

「そういう事じゃねぇよ黒ウサギ」

 

十六夜が真剣な顔で黒ウサギを手で制する。

其処には有無を言わせない確かな迫力があった。

 

「いいか?この喧嘩は、コイツ等が売った(・・・)。そして奴等が買った(・・・)

なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ。」

 

「あら、分かっているじゃない」

 

「……ああもう、好きにして下さい」

 

丸一日振り回されてもう良い返す気力も無い黒ウサギ。

疲弊しきっている彼女の肩に狛がポンと手を置く。

 

「大丈夫だよ、黒ウサギ。ガルドの事なら肉体的にも精神的にもズタズタのボロボロのゴミ屑にして屈辱と絶望を味合わせた後で……徹底的に潰すからさ」

 

―――ゾクリ!

 

彼の言葉と殺意にその場がたちまち凍りつく。

その言葉は黒ウサギを慰める言葉なのか、はたまた単なるガルドへの処刑宣告なのか定かではないが、コレだけは確信した。

 

―――【来馬(くるま) (はく)】っという人間を決して怒らせてはならないと。

 

(やっべぇ。その光景、超見てぇ)

 

(し、心臓に悪いから程々にしてほしいわ。)

 

(カタカナログアウト怖い……。)

 

(心強いんですけど、何故だかガルドの方が可哀想になって来ました……。)

 

(っというか、こんな物騒な殺気を黒ウサギの傍で放つのは止めて下さい!!)

 

上から順に十六夜、飛鳥、耀、ジン、黒ウサギがそれぞれ感想を抱き、少しばかり距離を置いていた。

 

****

 

なにはともあれ、五人と一匹は『ノーネーム』の本拠地に行く前に、『ギフト』鑑定をする為、黒ウサギ達が日頃 お世話になっている『サウザンドアイズ』という大手商業『コミュニティ』に足を運ぶ事になった。

因みにジンは一足先に『コミュニティ』に帰っている。

道中、十六夜、飛鳥、耀、狛は興味深そうに町並みを眺めながらが歩く。

商店へ向かうペリベッド通りは石造で整備されており、脇を埋める街路樹は桃色の花を散らして新芽と青葉が生え始めている。

日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を眺めて、飛鳥は不思議そうに呟く。

 

「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていても可笑しくないだろ。」

 

「……?今は秋だったと思うけど」

 

「アレ?今は春満開の桜の季節だった筈でシタヨ?」

 

「「「?」」」

 

噛みあわない会話に四人は首を傾げる。

そんな四人の疑問に答える様に黒ウサギは笑って説明した。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。

元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所がある筈ですよ。」

 

「へぇ?パラレルワールドって奴か?」

 

「近しいですね。正しくは立体交差平行世界論というものなのですけども……今からコレの説明を始めますと1日2日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

曖昧に濁して黒ウサギは振り返る。どうやら店に着いたらしい。

商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。

あれが『サウザンドアイズ』の『旗印』なのだろう。

 

日が暮れて看板を下げる割烹着姿の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、

 

「待っ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません。」

 

……ストップを掛ける事も出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

流石は超大手の商業『コミュニティ』。押し入る客の拒み方にも隙が無い。

 

「なんて商売っ毛のない店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間前の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ余所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます、出禁です。」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐め過ぎでございますよ!?」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに女性店員は冷めた視線と侮蔑が籠った声で対応する。

 

「なるほど、『箱庭の貴族』であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。

中で入店許可を伺いますので、『コミュニティ』の名前をよろしいでしょうか?」

 

「うっ……。」

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。

すると、狛がさり気ない動作で黒ウサギの前に出て彼女と代わる形で女性店員と向かい合う。

 

「営業終了前に失礼、ワタシ達は『ノーネーム』っという『コミュニティ』デス」

 

「ほほう。ではどこの『ノーネーム』様でしょう。

よかったら『旗印』を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「残念ながらワタシ達の『コミュニティ』はとある事情で『旗印』がありまセン。

強いて言うナラ“サウザンドアイズ専属審判”の黒ウサギが所属する『コミュニティ』デス。」

 

「っ!」

 

敢えて“サウザンドアイズ専属審判”の部分を強調してそれを告げると、それまで無表情で対応していた女性店員の顔が一瞬 強張る。

実は黒ウサギ達と合流する前にジンから予め彼等の『コミュニティ』の主な収入源を聞いていたのだ。

彼等の『コミュニティ』は黒ウサギが大手商業『コミュニティ』である『サウザンドアイズ』の専属審判をさせて貰う事で、ギリギリ安定した収入を得ているとの事。

『ノーネーム』所属とは言え、黒ウサギにはゲームを公平に進める事が出来る『審判者権限(ジャッジマスター)』のギフトは勿論、彼女の美麗な容姿に多くのファンがいるらしい。

それが無くとも“サウザンドアイズ専属審判”っという肩書は例え『ノーネーム』所属でも身元を確認するには十分な材料になる。

何せそれが事実なら、自分の『コミュニティ』にとって有益な人材を無下に扱ってしまった事になるのだから。

それだけ『箱庭の貴族』は『箱庭』の中で大きな影響力を持つのである。

 

「我々も此方にご迷惑をお掛けしまシタシ、今日ご都合が悪ければまた後日お伺いしまショウカ?」

 

「……いえ。店長に確認を取りますので少々、お待ちください。」

 

狛がニコリと下手に出て伺うと、女性店員は一瞬だけ此方を睨んだ後、直ぐに無表情になり、店長に確認する旨を伝えるとペコリとお辞儀をして店内に入って行く。

女性店員の後ろ姿を見送った後、黒ウサギはガッツポーズをとってピョンっと跳ねる。

 

「凄いです狛さん!おかげで黒ウサギはスッキリしました!!」

 

しかし、当の狛はそんな黒ウサギを憐みの眼で見つめた後、ハァっと溜息をつく。

 

「いえ、大した事はしていまセンヨ。それよりウサギさん……貴女、交渉下手過ぎデス」

 

「Σはうっ!!」

 

―――グサリと狛の一言が黒ウサギの胸を鋭く突き刺す。

しかし、それに構う事無く狛は黒ウサギに対して駄目出しする。

 

「まず1ツ。相手に拒否されたからと言って感情的になって怒鳴り散らしてはいけまセン。

それでは只のクレーマーデス。

今回はワタシ達が門前払いをされたのは営業時間終了間近なのト、ワタシ達が『ノーネーム』である事が理由でしタシ。

あの対応を見る限リ、本来ならこの『コミュニティ』は『ノーネーム』はお断り対象なのではないデスカ?」

 

―――グサッ

 

「2ツ。店員に身元の確認を求められた時、『名前』と『旗印』の代わりなる証明書を提示するコト。

今回、ウサギさんは“サウザンドアイズ専属審判”と『箱庭の貴族』の両方のネームバリューがあるんですからそれを積極的に使えば良かったんデスヨ。

もっと言うナラ『コミュニティ』にいる知り合い……出来るだけ立場の上の人に確認をとって貰えば済んだ話じゃないデスカ」

 

―――グサグサッ

 

「最後ニ。そもそも初めからウサギさんが怒鳴らずに素直に身元を明かしていレバ、もっとスムーズにお店に入れたと思うんですケド、違いマス?」

 

―――ドスンッ!!

 

「うぅ……、すみません皆様……。黒ウサギが不甲斐ないばっかりに。」

 

容赦のない正論と言う名の暴力に黒ウサギのハートは粉々に砕かれ、地面にのの字を書き始めて目に見えて落ち込む。

加えて狛の言葉は決して侮蔑や嘲笑、怒りを含めたモノではなく、憐みや同情、悲哀などと言ったモノが込められているのだから尚更だ。

その光景を見て飛鳥と耀が呆れた視線を送る中、十六夜だけが何か考え込むように腕を組む。

 

(成程な。『名前』と『旗印』の代わりになる『目印』、か……。)

 

「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!!」

 

そんな雰囲気を豪快に壊すのは店内から爆走して来る着物風の服を着た真っ白い髪の少女だ。

少女はその勢いのまま傷心中の黒ウサギに抱きつき(もしくはフライングボディーアタックをかまし)、彼女と共にクルクルと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。

 

「きゃあああああーーーー……!」

 

―――ポチャン

 

そして遠くなる悲鳴。

予想外の出来事に十六夜達が目を丸くしていると、先程の女性店員が頭痛を抑える様に頭に手を置きながら店の奥から出て来た。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?

なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません。」

 

真剣な表情の十六夜に対し、同じく真剣な表情で断る店員。

一方、フライングボディーアタックを仕掛けて来た白髪の少女は自分が濡れている事も気にせず、幸せそうな顔で黒ウサギの豊満な胸に顔を押しつけ頬ずりする。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!

フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのぅ!

ほれ、此処が良いか此処が良いか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れて下さい!」

 

加速するセクハラに耐えられなくなったのか黒ウサギは白夜叉と呼んだ少女を力任せに引き剥がし、頭を掴んで全力で店がある方角に投げる。

クルクルと縦回転した少女を十六夜が足で受け止める。

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし!飛んで来た初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!?」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

一連の流れに呆気を取られていた飛鳥がハッと我に帰り、白夜叉と呼ばれた少女に問いかける。

 

「貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この『サウザンドアイズ』の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。

仕事の依頼ならおんしのその年齢の割には発育が良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ。」

 

「オーナー、それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります。」

 

何所までも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

そのやりとりの傍ら黒ウサギが濡れた服やスカートを絞りながらトボトボと歩いてくる。

 

「うぅ……今日はなんだか踏んだり蹴ったりです……。」

 

「……殆ど自業自得、かな?」

 

「にゃー。(お嬢の言う通りや)」

 

悲しげに耳を垂らす黒ウサギ。

反対に濡れても全く気にしない白夜叉は、店先で十六夜達を見回してニヤリと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の者が私の元に来たという事は……遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!!」

 

白夜叉のペット発言にウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。

何所まで本気か分からないが白夜叉は笑って皆を店に招く。

 

「まぁ、良い。話しがあるなら店で聞こう。

おんしも案内ごくろうだったな。」

 

「いえ、それでは私は引き続き店仕舞いをしています。」

 

女性店員は若干、不満そうにそう告げるとペコリと会釈し、閉店の準備を進める。

彼女にしてみれば『コミュニティ』の規則に乗っ取り、マニュアル通りの対応をしただけなのに訳の分からい口調で話す胡散臭い性別不詳の者に言い包められた挙句、オーナーがあの様な珍行動を起こすのだから気を悪くするのも仕方ない。

女性店員に睨まれながらも暖簾を潜った五人と一匹は、店の外観からは考えられない不自然な広さを持った中庭に出た。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人と一匹は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。

障子を開けて招かれた部屋は香の様な物が焚かれており、風と共に五人の花を擽る。

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから十六夜達に向き直る。

気が付けば彼女の着物は何時の間にか乾き切っていた。

 

「もう一度、自己紹介しておこうかの。

私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている『サウザンドアイズ』幹部の【白夜叉(しろやしゃ)】だ。

この黒ウサギとは少々、縁があってな。『コミュニティ』が崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女だと認識しておいてくれ。」

 

「はいはい、お世話になっております本当に。」

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。

その隣で耀が小首を傾げながら問う。

 

「その外門、って何?」

 

「『箱庭』の階層を示す外壁にある門ですよ。

数字が若いほど中心部に近く、同時に巨大な力を持つ者達が住んでいるのです。」

 

此処、『箱庭』では大きく分けて七つの支配層に分けられおり、その区切りとしてそれぞれの門に数字が与えらている。

その数字は外側から内側に行くほど数字は若くなり、四桁以上の外門となれば名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境の地となる。

黒ウサギが説明しながら上空から見た箱庭の図を描いていく。それを見た五人は口を揃えて、

 

「超巨大玉ねぎ?」

 

「いえ、超巨大バウムクーヘンじゃないかしら」

 

「そうだな。どちらかと言えば、バウムクーヘンだ」

 

「バウムクーヘンの方が美味しそうデスナ」

 

っと、身も蓋も無い感想を言う。

それにガクリと肩を落とす黒ウサギ。

対照的に白夜叉は愉快そうに笑いながら二、三度頷く。

 

「ふふ、うまいこと例えるな。その例えなら七桁の外門はバウムクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は『世界の果て』と向かい合う場所になる。

あそこにはコミュニティに属さないものの、強力なギフトを持つもの達が住んでおるぞ。例えば――-その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉がは薄く笑って、黒ウサギが持つ水樹の苗に目を向ける。

それは、白夜叉が指すのはトリトニスの滝を棲みかにしていた蛇神の事だろう。

しかし、その蛇神を十六夜が力づくで殴り倒して手に入れたと黒ウサギから、その事実を聞き、白夜叉は声を挙げて驚いた。

 

「なんと!?試練をクリアしたのでは無く直接倒したとな!?

では、その童は『神格持ち』の神童か?」

 

「いえ、そうは思えません。『神格』なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。……しかし、『神格』を倒すには同じ『神格』を持つか互いにパワーバランスがある時だけのはず。

種族の力で言えば蛇と人間ではドングリの背比べだぞ。」

 

『神格』とは生来の神様そのものではなく、種の最高ランクに体を変幻させる『ギフト』を指す。

例えば蛇に与えれば巨躯の蛇神に、人に与えれば現人神(あらひとがみ)や神童に、っといった形に成す。

更に『神格』を持つ事で自身の持つ『ギフト』そのものが強化される。

『箱庭』にある多くの『コミュニティ』は各々の目的の為、『神格』を手に入れる事を第一目標とし、彼等は上層を目指して力を付けているのだ。

 

「割と凄い事やらかしてたのね、貴方。」

 

「そんな神様を倒したとか十六夜君ガチのチートじゃないデスカ、ヤダー。」

 

「ヤハハ、まあな!」

 

「否定しないんだ……。」

 

「事実だからな。」

 

白夜叉から神格についての詳しい話を聞いた後、皆それぞれ十六夜のチート加減に若干引く。

当の十六夜本人は否定する事無くケラケラ笑う。

その光景を眺めながら白夜叉は目を細めて眺める。

 

(どうやら面白い童を連れて来たようだの黒ウサギや……。

しかし、おんしの『コミュニティ』の目的を考えれば十六夜と言う童はともかく、残り三人は果たして生き残れるかの。)

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

知らず知らずの内に思考に没頭していた白夜叉は黒ウサギの声に現実に意識を引き戻され、何事も無かったかのようにカラカラと笑う。

 

「知り合いも何もアレに『神格』を渡したのは私だぞ?もう何百年前の話しだがの」

 

その言葉を聞いた瞬間、十六夜は物騒な瞳を光らせて問い質す。

 

「へぇ、じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」

 

「当然だ。私は東側の『階層支配者(フロアマスター)』だぞ。この東側の四桁以下では並ぶものはいない、最強の『主催者(ホスト)』だ。」

 

『最強の主催者(ホスト)』―――その言葉に十六夜・飛鳥・耀は一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう……フフ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば私達の『コミュニティ』は東側最強ってことになるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう。」

 

「そりゃ、景気のいい話だ。探す手間が省けた。」

 

三人は立ち上がり闘争心を剥き出しにして白夜叉を見る。

―――ただ1人、狛だけは正座をしたままのんびりとその光景を眺めていた。

 

(皆さん血気盛んデスナー。コレが若さデスカ)

 

こんな事を言っているが狛はまだ16歳だ。つまり十六夜達と同年代。達観し過ぎである。

 

「抜け目が無い童達だ。依頼しておきながら私に『ギフトゲーム』を挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

慌てて止めようとする黒ウサギを片手で白夜叉は制する。

 

「よいよ。私も遊び相手には常に飢えとる。なんなら其処のおんしも参加するか?」

 

「んー、内容によりマスナ。

ただのゲーム(・・・・・・)ならともかく、本気のゲーム(・・・・・・)で闘ったら勝てる自信ありまセンシ。」

 

「そうか、分かった。」

 

狛のあっさりとした返答に黒ウサギはホッと胸を撫で下ろすが、白夜叉は狛の判断に内心、感心していた。

 

(ふむ、この姿に惑わされる事なく私が己より格上である事を認めたか……。年若い割に中々の修羅場を潜ってきているようだの。)

 

狛に対してそう評価を下しながら、再び十六夜達に向き直る白夜叉。

 

 「さて、ゲームの前に確認することがある。」

 

白夜叉は懐から『サウザンドアイズ』の『旗印』の紋が入ったカードを取り出す。

そして、今までと打って変わった壮絶な笑みを浮かべる。

 

「おんしらが、望むのは『挑戦』か? もしくは――――――『決闘』か?」

 

刹那―――その場にいる全員の世界が一転する。

視覚は意味を無くし、様々な情景が脳裏に駆け廻る。

脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

記憶にない場所が何度も流転を繰り返された後、四人が放りだされたのは白い雪原と凍る湖畔。

そして、“水平に太陽が廻る世界だった“

 

「……なっ……!?」

 

余りの異常さに十六夜達は同時に息を飲む。

まるで星一つ、世界を一つ作りだしたかの様な奇跡の顕現。

唖然とする四人に対し、白夜叉は改めて口上を述べる。

 

「今一度名乗り直し問う。

 私は【白き夜の魔王】―――太陽と白夜の精霊【白夜叉】。

 おんしらが望むのは試練への『挑戦』か? それとも対等な『決闘』か?」

 

其処に居たのは最早、黒ウサギに対してセクハラをしていた変態幼女ではない。

数多の修羅神仏が集うこの『箱庭』において最強種と名高い『星霊』にして『神霊』。

『箱庭』を代表ともいえる巨大な力を持った『魔王』――――太陽と白夜の精霊【白夜叉】であった。

 

 

=つづく=

 

 




*本編の蛇足*
白夜叉様登場!
この方のギャップは書いていて楽しかったです♪
それから……黒ウサギと女性店員さんごめん。
ああいう対応になっちゃったけど、二人共大好きですよ、本当に!

それでは蛇足失礼しました。


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