不意にガラリと教室のドアが開き、息を切らせた女子生徒が現れた。
「あ、あの、遅れて、すみま、せん」
『えっ?』
誰からともなく、教室全体が豆鉄砲を喰らった鳩のようになった。
「丁度良いですね。みなさんに自己紹介して貰っているところなので、
姫路さん、あなたもお願いします」
「あ、はい! えと、姫路瑞希です。よろしくお願いします……」
つぐみ程ではないものの、小柄な身体を縮こまらせ、恥ずかしげに自己紹介する瑞希。
白い肌と柔らかそうな長い髪は、いっそ小動物的な保護欲をかき立てる。
「はいっ! 質問良いですか?」
「あ、はい。どうぞ」
いきなりの質問に、少し驚いているようだ。
「なんでここにいるんですか?」
失礼極まりない質問だ。しかし、クラスの大半が感じている疑問でもあるだろう。
この可憐な少女は、入学後に行われたテストで、
学年三位を記録しており、その後も必ず上位一桁以内に名前が残るという才女だからだ。
だれもが彼女はAクラスに違いないと確信しているに違いない。
「えっと、その、ですね……」
緊張した様子で、瑞希が口を開く。
「振り分け試験の最中に高熱を出してしまいまして……」
文月学園では。試験途中での退席は、かならず0点扱いとなる。
そのせいで彼女はFクラスとなってしまったのだ。
『そう言えば、俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに』
『ああ。化学だろ?あれは高難度だったな』
『俺なんか、事故にあった弟が心配で集中できなくて』
『黙れ? 一人っ子♪』
「実は、朝まで彼女に求められて……」
「うん♪ 今年一番の大嘘をありがとう♪」
Fクラスはバカばっかりである。
「で、では、一年間よろしくお願いしますっ!」
ピンクの髪が跳ねるほどの勢いでお辞儀すると、パタパタと恥ずかしそうに明久と雄二の後ろの、空いている卓袱台に着いた。
「はあ、緊張しましたぁ~……」
瑞希は、安堵の表情で卓袱台に突っ伏した。
巨大ましゅまろがちゃぶ台にのっかり押しつぶすかのような状態になっているが、彼女は気づいていない。
「あ、あの姫「姫路」」
彰仁が瑞希に声を掛けようとすると、それに被せるように、強い声で雄二が声を掛けた。
「あ、はい。なんでしょうか? えっと……」
人間はとっさの場合、より力強い言葉の方に反応する。この場合は雄二だ。
瑞希は丁寧に雄二の方に身体を向けた。
「坂本だ。坂本雄二。よろしくな」
「あ、はい。姫路です。よろしくお願いします」
そして、深々と頭を下げる。その所作ひとつひとつに、育ちの良さが表れていた。
「ところで姫路。体調の方はもう良いのか?」
「あ、それは俺も気になる」
「ぼくもかな」
「私もです」
「実はあたしも気になっていたりして」
と、次々と手を挙げて会話に加わるつぐみ達
「あ、彰仁くんに明久くんにみあちゃん‼つぐみちゃん!」
瑞希はようやく気づいて彰仁達を見て驚きを顕にしていた。
この時は周りがよく見えていなかったのだろう。
すかさず雄二が、
「あー、姫路。明久と彰仁がブサふがふが」
さりげにチャチャをいれようとするができなかった。
熊の人形に口を引っ張られていたようだ。