ソードアート・オンライン~黒の剣士と絶剣~ リメイク版   作:舞翼

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OS面白かったですね(今更感)

では、投稿です。
本編をどうぞ。


第33話≪軍の徴税部隊≫

 第1層《はじまりの街》に降り立ったのは、数ヵ月ぶりの事だった。

 はじまりの街は、アインクラッド最大の都市であり、冒険に必要な機能は他のどの街よりも充実している。

 物価も安く、宿屋の類も存在し、効率だけを考えるならここをベースタウンにするのがもっとも適しており、戦う事が出来るプレイヤーは、はじまりの街に留まっている者はいない。

 そして、ここの中央広場に立って大空を仰ぐと思い出す。 全てが終わり、全てが始まった事を。

 俺たちは、転移門を出たところで立ち止まり、巨大な広場と、その向こうに横たわる町並を見渡した。

 

「ユイちゃん、見覚えのある建物とか、ある?」

 

 ユウキが俺におんぶされているユイの顔を覗き込んだ。

 ユイは難しい顔で、広場の周囲に連なる石造りの建物を眺めていたが、やがて首をふった。

 

「わかんない……」

 

「はじまりの街はおそろしく広いし、仕方ないんじゃないか。 まあ、歩いていればそのうち何か思い出すかもしれないし、とりあえず、中央広場に行くか」

 

「だね」

 

 頷き合い、俺たちは南に見える大通りに向かって歩き始めた。

 それにしても、歩きながら広場を見渡すが、意外に人がいない。 見える人影はゲートか広場の出口に向かってする移動して人ばかりで、立ち止まったり、ベンチに腰をかけたり掛けたりする者は、殆んどいない。

 

「ねぇ、キリト」

 

「ん、どうした?」

 

「はじまりの街って、今プレイヤー何人くらい居るんでしたっけ?」

 

「うーん、そうだな……。 生き残っているプレイヤーが約六千人、《軍》を含めるとその三割くらいがはじまりの街に残っているらしいから、二千弱ってとこじゃないか?」

 

「そのわりには、人が少ないと思わない?」

 

 はじまりの街はアインクラッドで一番広く、尚且(なおか)つ安全な層だ。 一般プレイヤー、戦えないプレイヤーは、はじまりの街に留まっているはず。

 

「マーケットの方に集まっているんじゃないか?」

 

 大通りに入り、店舗と屋台が建ち並ぶ市場エリアに差し掛かっても、相変わらず街は閑散としていた。 元気のいいNPC商人の呼び込みが、通りを虚しく響き渡っていく。

 どうにか、通りの中央に立つ大きな木の下に座り込んだ男性プレイヤーを見つけ、声をかける。

 

「あの、すいません」

 

 ユウキが口を開く。

 真剣な顔で高い梢を見上げている男は、顔を動かさないまま面倒くさそうに口を開いた。

 

「なんだよ」

 

 男は、俺たちを遠慮ない目つきでじろじろと見てきた。

 

「なんだ、あんたらよそ者か?」

 

「ああ……、この子の保護者を探しているんだ」

 

 俺は背中でうとうとしているユイを指し示す。

 男は、ユイを見やると多少目を丸くしたが、すぐに視線を頭上の梢に戻した。

 

「……迷子かよ、珍しいな。……東七区の川べりの教会に、ガキのプレイヤーがいっぱい集まって住んでいるから、行ってみな」

 

「ありがとう、おじさん」

 

 ユウキが男性プレイヤーにぺこりと頭を下げた。

 俺たちがこの場を離れようとした時、男が声を掛けてきた。

 

「お前さんたち、軍の徴税部隊には出くわすなよ。 奴ら、よそ者だからって容赦ないぜ」

 

 男の話では、体のいいカツアゲらしい。

 

「ああ、わかった」

 

 俺はマップを覗き込みながら教会へと向かい、その隣に、ユウキが並ぶようにして歩く。

 相変わらず人影が少ない広い道を、南東目指して数十分歩くと、やがて広大な庭園めいたエリアに差し掛かった。 色づいた広葉樹の林が、初冬の寒風の中侘しげに梢を揺らす。

 

「えーと、マップではこの辺が東七区なんだけど。……男が言ってた教会ってどこだ?」

 

「あ、あそこじゃない?」

 

 ユウキが道の右手に広がる林の向こうに一際高い尖塔を見つけ、視線でその方角を見やった。

 青灰色の屋根を持つ塔の天辺に、十字に円を組み込んだ金属製のアンクが輝いている。 間違えなく教会の印だ。

 

「あそこで間違えなさそうだ。 行ってみるか」

 

「ん、りょうかい」

 

 俺たちは頷くと、教会に向かって歩き出した。

 教会の建物は、街の規模に比べると小さなもので、二階建てで、シンボルである尖塔も一つしかない。

 ユウキが、正面の大きな扉に到着すると、右手で片方の扉を押し開けた。 内部は薄暗く、正面の祭壇を飾る蝋燭の炎だけが石敷きの床を照らしている。

 入口から上半身だけ差し入れ、ユウキが呼びかける。

 

「どなたかいませんかー?」

 

 だが、声の残響エフェクトの尾を引きながら消えていっても、誰も出てくる様子はない。

 

「誰もいないのかな……?」

 

「……いや、人がいるよ。 右の部屋に三人、左に四人……。 二階にも何人か。 ユウキも、索敵をしてみれば分かる」

 

「……あっ、本当だ。 それはそうと、何で身を隠してるのかな?」

 

「うーん、さっきの男が言ってた事に関係してるのかもな」

 

 俺たちは、そっと教会内部に足を踏み入れたが、静寂が周囲を包み、その中で息を潜める気配がある。

 

「あの、すいません、人を探しているんですけど!」

 

 ユウキがもう一度呼びかける。

 すると、右手ドアが僅かに開き、その向こうから細い女性の声が響いてきた。

 

「……《軍》の人じゃ、ないんですか?」

 

「違いますよ。 上の層から来たんです」

 

 俺がそう言った。

 俺とユウキは、剣はおろか戦闘用の防具ひとつ身に着けていない。 軍所属のプレイヤーは、常にユニフォームの重装備を纏っているので、格好だけでも軍とは無関係であることが解るはずだ。

 やがてドアがゆっくり開くと、一人の女性プレイヤーがおずおずと姿を現した。

 暗青色のショートヘア、黒縁の大きな眼鏡をかけ、その奥で怯えをはらんだ深緑色の瞳をいっぱいに見開いている。 簡素な濃紺のプレーンドレスを身に纏い、手には鞘に収められた小さな短剣。

 

「ほんとうに……、軍の徴税隊じゃないんですね……?」

 

 ユウキは、安心させるように微笑みかける。

 

「ボクたちは人を探していて、今日上から来たばかりなんです」

 

「だからまあ、軍とは何の関係もないですよ」

 

 ――その途端、

 

「上から!?ってことは本物の剣士なのかよ!?」

 

 甲高い、少年めいた叫びと共に、女性の背後のドアが大きく開き、中から数人の人影がばらばらと走り出て来た。 直後、祭壇の左手の扉も開け放たれ、同じく数名が駆け出してくる。 どれもこれも少年少女と言っていい若いプレイヤーたちだった。 下は十三歳、上は十五歳といったところだろう。

 

「こら、あんたたち、部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!」

 

 慌てたように子供たちを押し戻そうとする女性だけが、二十歳前後だと思われる。 もっとも、誰一人として命令に従う子はいないが。

 だが、真っ先に部屋から走り出てきた、赤毛で短髪のつんつん逆立てた少年が失望の叫び声を上げた。

 

「なんだよ、剣の一本も持ってないじゃん。 ねぇあんた、上から来たんだろう? 武器くらい持ってないのかよ」

 

「いや……、ないことはないけど」

 

 俺が答えると、子供たちの顔がぱっと輝いた。 見せて見せてと、口々に言い募る。

 

「こらっ、初対面の方に失礼なこと言っちゃだめでしょう。――すいません、普段お客様なんてまるでないものでしたから……」

 

 いかにも恐縮したように頭を下げる眼鏡をかけた女性。

 

「そういえば、幾つかアイテムストレージに入れっぱなしの武器があった気がする」

 

「ああ、あったかもな。 ドロップしてそのまま放置してたやつが。 んじゃ、頼む」

 

「OK」

 

 ユウキはウインドウを開き、指を動かした。 十五個ほどの武器アイテムがオブジェクト化され、傍らの長机の上に積み上げられていく。

 ユウキがウインドウを閉じると、子供たちは、剣やメイスに手に出しては「重―い」「かっこいい」と歓声を上げてその周囲に群がった。 中には、武器で遊んでいる子供もいる。

 圏内では、武器をどう扱おうとそれによってダメージを受けることは有り得ないので大丈夫だろう。

 

「……すみません、ほんとうに……」

 

 眼鏡をかけている女性が、困ったように首を振りつつも、喜ぶ子供たちの様子に笑みを浮かべて言った。

 

「……あの、こちらへどうぞ。 今お茶を準備しますんで……」

 

 礼拝堂の右にある小部屋に案内された俺たちは、振舞われた熱いお茶を一口飲んでほっと息をついた。

 

「それで……、人を探していらっしゃるということでしたけど……?」

 

 向かいの椅子に腰掛けた眼鏡をかけた女性プレイヤーが小さく首を傾げて言った。

 

「ええ、そうです。 あっそう言えば自己紹介をしていませんでした。 ボクはユウキ」

 

「俺はキリトだ」

 

「私はサーシャです」

 

 ぺこりと頭を下げて合う。

 

「で、俺の膝の上で眠っている子がユイです」

 

 俺は、膝で眠っているユイの頭を撫でながら言った。

 そして、ユウキが口を開く。

 

「この子、22層の森の中で迷子になっていたんですよ。 記憶を……なくしていて」

 

「まぁ……」

 

 サーシャの、大きな深緑色の瞳が眼鏡の奥でいっぱいに見開かれる。

 

「装備も、服以外は何もなくて、上層で暮らしていたとは思えなかったので……。 はじまりの街にこの子のことを知っている人がいるんじゃないかと思って探しに来たんです。 こちらの教会で、子供たちが集まって暮らしていると聞いたので」

 

「……そうだったんですか」

 

 サーシャは、お茶をひとくち飲んでから話し始めた。

 

「……この教会には、小学生から中学生くらいの子供たちが二十人くらい暮らしています。 多分、現在この街にいる子供プレイヤーのほぼ全員だと思います。 このゲームが始まった時……」

 

 サーシャは言葉を続ける。

 

「それくらいの子供たちの殆んどは、ゲームが始まってパニックを起こして、多かれ少なかれ精神的な問題をきたしました。 勿論ゲームに適応して、街を出て行った子供もいるんですが、それは例外的なことだと思います。 当然ですよね、まだまだ親に甘えたい盛りに、いきなりここから出られない、ひょっとしたら二度と現実に戻れない、なんて言われたんですから……。 そんな子供たちは大抵虚脱状態になって、中には何人か……、そのまま回線切断してしまった子もいたようです」

 

 サーシャの口元が固く強張る。

 

「私、ゲーム開始から1ヶ月くらいは、ゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げしていたんですけど……。 ある日、そんな子供たちの一人を街角で見かけて、どうしても放っておけなくて、連れてきて宿屋で一緒に暮らし始めたんです。 それで、そんな子供たちが他にもいると思ったら居ても立ってもいられなくなって、街中を回っては独りぼっちの子供に声を掛けるようなことを始めて、気付いたら、こんなことになっていたんです。 だから……、お二方みたいに、上層で戦っていらっしゃる方もいるのに、私はドロップアウトしちゃったのが申し訳なくて」

 

「……そんなことないですよ、サーシャさん」

 

「サーシャさんは立派に戦っている」

 

「ありがとうございます。 でも義務感でやっているわけじゃないんですよ。 子供たちと暮らすのはとっても楽しいです」

 

 ニコリと笑い、サーシャは俺の膝の上で眠るユイを心配そうに見つめた。

 

「だから……。 私たち、二年間ずっと、毎日一エリアずつ全ての建物を見て回って、困っている子供がいないか調べているんです。 そんな小さい子が残されていれば、絶対気付いたはずです。 残念ですけど……、はじまりの街で暮らしていた子じゃあ、ないと思います」

 

「「そうですか……」」

 

 俺とユウキは俯いてしまった。

 俺が口を開いた。

 

「そういえば、毎日の生活費、どうしているんですか?」

 

「あ、それは、私の他にも、ここを守ろうとしてくれている年長の子が何人か居て……、彼らは街の周辺のフィールドなら絶対大丈夫なレベルになっていますので、食事代くらいはなんとかなっています。 贅沢はできませんけどね」

 

「へぇ、それは凄いな」

 

「だから、最近目を付けられちゃって……」

 

 サーシャの穏やかな目が一瞬にして厳しくなった。 言葉を続けようと口を開けた、その時――。

 

「先生! サーシャ先生! 大変だ!」

 

 部屋のドアが開き、数人の子供たちが雪崩込んできた。

 

「こら、お客様に失礼じゃないの!」

 

「それどころじゃないよ!」

 

 先ほどの赤毛の少年が、目に涙を浮かべながら叫んだ。

 

「ギン兄ィたちが、軍の奴らに捕まったんだよ!」

 

「――場所は!?」

 

 別人のように毅然とした態度で立ち上がったサーシャが、少年に訊ねた。

 

「東五区の道具屋裏の空き地。 軍が十五人くらいで通路をブロックしている。 コッタだけが逃げられたんだ」

 

「解った、すぐ行くわ。――――すみませんが……」

 

「いや、俺たちも助けに行くよ」

 

「ボクたちは、こういうのは見逃せないんだ」

 

「――ありがとうございます。 お気持ちに甘えさせていただきます」

 

 サーシャは深く一礼すると、眼鏡を押し上げ、言った。

 

「それじゃ、すいませんけど走ります!」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 教会から飛び出したサーシャは、腰の短剣を揺らして一直線に走り始めた。 その背を、俺たちも追う。 走りながら後方を振り返ると、大勢の子供たちが付いて来るのが見えたが、サーシャは追い返す気はないようだった。

 木立も間を縫って市街地に入り、裏通りを抜けて行くと、前方の細い道を塞ぐ一団が目に入った。 最低で十人はいるだろう。灰緑と黒鉄色で統一された装備は、間違えなく《軍》のものだ。

 躊躇せず路地に駆け込んだサーシャが足を止めると、それに気付いた軍のプレイヤーたちが振り向き、にやりと笑みを浮かべた。

 

「おっ、保母さんの登場だぜ」

 

「……子供たちを返してください」

 

 硬い声でサーシャが言う。

 

「人聞きの悪いこと言うなって。 すぐに返してやるよ、ちょっと社会常識ってもんを教えてやったらな」

 

「そうそう。 市民には納税の義務があるからな」

 

 わははは、男たちが甲高い笑い声を上げた。 固く握られたサーシャの拳がぶるぶると震える。

 

「ギン! ケイン! ミナ! そこにいるの?!」

 

 サーシャが男たちの向こうに呼びかけると、すぐに怯えきった少年少女の声があった。

 

「先生! 先生!……助けて」

 

「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」

 

「先生……だめなんだ……!」

 

 今度は、しぼり出すような少年の声。

 

「くひひっ」

 

 道を塞ぐ男の一人が、ひきつるような笑いを吐き出した。

 

「あんたら、ずいぶん税金を滞納しているからなぁ……。 金だけじゃ足りないよなぁ」

 

「そうそう、装備も置いていってもらわないとなァ。 防具も全部……何から何までな」

 

 男たちは下卑(げび)た笑いを見せ、俺は路地の奥で何が行われているか咄嗟に察した。 恐らくこの《徴税隊》は、少女を含む子供たちに、着衣も全て解除しろと要求しているのだ。

 俺は、この屑野郎共に殺意にも似た憤りが芽生えるが、この場で爆発寸前なのはユウキだ。 そこら辺のモンスターならば、殺気だけで蹴散らす事ができるであろう。

 そして、ユウキはアイテムストレージから《黒紫剣》取り出し、鞘を腰に装備する。

 

「……キリト、後ろはお願いね」

 

「お、おう。任せとけ」

 

 頷き、無造作に地を蹴ると、敏捷力を全開にし跳躍する。 それを呆然と見上げるサーシャと軍のプレイヤーの頭上を飛び越え、四方の壁に囲まれた空き地へと降り立った。

 その場にいた数人の男たちが後ずさる。

 空き地の片隅には、十代前半と思しき二人の少年と少女が固まって身を寄せ合っていた。 防具はすでに除装され、簡素なインナー姿だ。

 俺はユイを右手で抱き上げ、アイテムストレージから《エリュシデータ》取り出し、背に装備した鞘から、柄を握り抜剣した。

 

「もう、大丈夫だよ。 装備を元に戻して」

 

 ユウキがそう言うと、目を丸くした少年たちは頷き、慌てて足元から防具を拾い上げ、ウインドウを操作し始めた。

 そして俺は、後ろに隠れているサーシャと子供たちの護衛をすることにした。

 

「おい……。 オイオイオイオイ!!」

 

 ユウキから見て、先頭に立っていた軍のプレイヤーの一人が喚き声を上げた。

 

「おい……。 嬢ちゃん……、《軍》の任務を妨害すんのか!」

 

「まぁ、待て」

 

 それを押し留め、ひときわ重武装の男がユウキの前に進み出てきた。 どうやらリーダー格らしい。

 

「あんたら見ない顔だけど解放軍にt「おじさん、うるさい……」」

 

 顔を引き攣らせた男は、腰から大ぶりなブロードソードを引き抜くと、わざとらしい動作で刀身を掌に打ち付けながらユウキに歩み寄る。

 

「……おじさん、剣を抜いたって事は、斬られる覚悟はあるんだね……」

 

 ユウキは、腰に装備している鞘から黒紫剣の柄を握り抜剣する。

 

「おぉ、解放軍と戦おうってかい、戦うんなら《圏外》でやるか!?」

 

 その一言を聞いた途端、ユウキの怒りが頂点に達した。

 

「……うん……、戦おうか。 圏外でやってもいいけどね……。 でも、そしたら君、死ぬよ……」

 

 そしてユウキは、軍のリーダー格の隣に瞬時に移動し、黒燐剣最上位剣技《マザーズ・ロザリオ》計十一連撃を放った。

 軍のリーダー格は、ユウキが放った攻撃を受け、後方の壁に穴を開けながら思いっきり後方へ吹き飛ぶ。 おそらく、十五の壁を突き破って吹き飛ばされたと予想される。 まあ、《マザーズ・ロザリオ》を受けて、それだけで済んだのは奇跡に近いけど。

 

「……安心していいよ、HPは減らないから。 さあ、次は誰」

 

 ユウキは、残りの軍の連中に言った。

 また、犯罪防止コード圏内では、武器による攻撃をプレイヤーに命中させても不可視の障壁に阻まれるのでダメージが届くことは無く、ソードスキルの威力によっては、僅かながらノックバックが発生するだけだ。

 だが、慣れない者にとっては、HPが減らないと解っていても耐えられるものではない。

 

「ひあっ……、た、助けて」

 

 ユウキの奴、今の攻撃で完全に恐怖を植え付けたな。 てか、《マザーズ・ロザリオ》はやりすぎだと思ったが、軍の連中の自業自得である。

 そして、軍の連中はリーダー格を見捨て、この場から逃走した。 まあ、当然の結果だけど。

 ユウキは、軍のプレイヤーの処理を確認してから、黒紫剣を腰の鞘に収めた。

 

「スッキリしたー」

 

 ユウキは伸びをしていた。

 振り返ると、先程の戦闘を見ていた、サーシャと教会の子供たちは絶句して立ち尽くしていた。

 

「あ……」

 

 ユウキは、先程の戦闘を思い出し息を詰めて一歩後ずさった。 だが突然、子供たちの先頭に立つ赤毛で逆毛の少年が、目を輝かせながら叫んだ。

 

「すげぇ……、すげぇよ姉ちゃん! 初めて見たよあんなの!」

 

「このお姉ちゃんは無茶苦茶強いだろう」

 

 俺はユウキの元へ歩み寄る。

 

「だけどまあ、《マザーズ・ロザリオ》を使うとは予想外だった」

 

「だ、だって、頭にきたんだもん」

 

「俺も否定はしないけど」

 

 俺はユイを右手で抱き、左手には剣を下げている。

 その時だった。

 

「みんなの……みんなの、こころが」

 

 俺の腕の中で、ユイが宙に視線を向け、右手を伸ばしていた。 俺とユウキは、その方角を見やったが、そこには何もない。

 

「みんなのこころ……が……」

 

「ユイ! どうしたんだ! ユイ!」

 

 俺が叫ぶとユイは二、三度瞬きして、きょとんとした表情を浮かべた。

 ユウキは、ユイの手を握る。

 

「ユイちゃん……。 何か、思い出したの!?」

 

ユウキが声を上げて言った。

 

「……わたし……わたし……」

 

 眉を寄せ、俯く。

 

「わたしは、ここには……いなかった……。 ずっと、ひとりで、くらいところにいた……」

 

 何かを思い出そうとするかのように顔しかめ、唇を噛む、と、突然――。

 

「うぁ……あ……あああ!」

 

 その小さな体が仰け反り、細い喉から高い悲鳴が迸った。

 SAO内で初めて聞くノイズじみた音が俺の耳に響いた。 直後、ユイの硬直した体のあちこちが、崩壊するように激しく振動した。

 

「ゆ……ユイちゃん……!」

 

 ユウキが悲鳴を上げ、その体を両手で必死に包み込む。

 

「ママ……パパ……こわいよ」

 

 かぼそい悲鳴を上げるユイを、ユウキは俺の右腕から抱き上げ、ユウキはぎゅと胸に抱きしめた。 数秒後、怪奇現象は収まり、硬直したユイの体から力が抜けた。

 

「なんだよ……今の……」

 

 俺のうつろな呟きが、静寂に満ちた空き地に低く流れた――。




SAO千年の黄昏に嵌まると、投稿が遅れそうで不安です……。
まあでも、SAO編は完結させます。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!
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