零の飛空士   作:葛葉

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零の初陣

昭和15年7月

 

才人たちは正式採用されたばかりの零戦と共に漢口飛行場に来ていた。なぜ、漢口に居るかと言えば、新鋭機の実戦テストである事と陸攻の護衛であった。

 

 

当時、中国は日本軍が南京に樹立した汪兆銘政権と中国国民党が重慶に遷都した国民政府に二分されていた。そこで、重慶に大規模な爆撃を行うと決定したが、当時の重慶は遠く戦闘機は護衛に付く事は出来ず、爆撃機が単独空襲を行わなければいけなかった。

 

重慶には、有力な対空砲と迎撃機により、多くの陸攻・爆撃機が散って行ったという。漢口から出撃するが、いつも帰還した爆撃機たちはボロボロだったという。そこで、新鋭機の性能を聞きつけた現場が配属を望む声が大きくなり、まだ少改修が必要とする零戦であるが、才人たち2個小隊16機は才人の古巣、第12航空隊に配属された。

 

 

「坂井、零戦で凱旋しようぜ!」

「ああ、零戦はすごい機体である事を見せてやるぞ!」

才人と坂井は盛り上がっていた。

 

零戦部隊は才人だけでなく、横山保大尉を初めとする、当時海軍航空隊で有力な若手で集まっていた。この若手たちは後の太平洋戦争で活躍し、多くが散って行った。

 

 

「しかし・・・「ああ、先まで言うな。平賀、この後言う言葉は分かる。」

坂井はそう言うと、二人は横を向いた。そこにいたのは

 

 

「ふふ、見ているか!紫苑。この武雄がこの新鋭機で立派な戦果を上げるから、自慢話を楽しみに待っていろよ!」

零戦の前で顔を二ヤケながら何か誓いを立てる佐々木がいた。

 

ここにいるメンバーの中で恐らく最も実戦経験が少ないであろう、佐々木が零戦の先行部隊に入れたのは謎だ。

 

 

「見事にニヤケているな。まあ、妹がいるから自慢したい気持ちが分かるんだがな。」

「おい、平賀!佐々木に妹なんていたのか?初耳だぞ!」

とまあ、こんな感じで盛りあがっていた。

 

 

零戦は確かにまだ、改修を必要とする機体であった。代表的な例は、エンジンの気筒異常、ピストリングの焼損、機銃不調、脚が引っ込まない、増槽が落ちないなどなどと不備が出ていた。現場に来てもあい変わらずで、テストをしながら改修を行うという並行作業だった。

 

 

そんなこんなで、粗方不備が解消したところで、第1回目零戦の出撃となった。陸攻を護衛しながら、敵機が来たら空中戦を行うつもりだったが、敵は戦闘機を察していたのか戦闘機はいなかった。

 

これは2回目も同じくであり、ようやく零戦との初陣となったのは3回目であった。

 

 

 

この日、才人は出撃していた。坂井も出撃していた。才人たち14機は重慶に向けて陸攻を護衛しながら進撃していた。やがて、重慶が見えてくると同時に才人が前にも感じた違和感を感じた。(以後、殺気と称します。)

 

 

――っ!来るな戦闘機が!

才人はそう判断すると殺気を感じた方向に目を向ける。するとそこには、およそ30機ほどだろうか敵機がいた。

 

 

――敵機発見!

才人は素早く先頭を見た。指揮官は敵機にまだ気づいていなかった。才人はそれを確認するや否な、前に出てバンクを振る。

 

指揮官も敵機に気付いたであろう、バンクを振ると増槽を落とし、敵機に突っ込んでいく。列機もそれに付いていく。敵機も突っ込んでくる。ここに空戦史に残る戦いが始まった。

 

 

才人はすれ違いざま1機に照準にいれて、機銃を撃った。その機は左主翼に収集して命中したであろう。左主翼がちぎれ飛びながら墜落して行った。

 

 

――撃墜とは、容易く成せる事なのか?

才人は驚いた。敵機はイ-16で7,7ミリでも撃墜する事は出来るが、ある程度の弾を必要としたのだ。それを短時間で撃墜できたのだ。これは15ミリ機銃の威力に付する事が大であった。

 

 

才人は操縦棹を左に回し、左旋回し、敵機を素早く探す。やがて、空戦の渦から少し離れた1機を発見し、素早く接近する。敵機に気付かれないように近づく、やがてあと150mというところで敵が気付き、何か行動しようとしているのが分かったが、すでに照準に入れていた。

 

才人はちらっと後ろを確認した。才人の初陣で危うく撃墜しかけた事を戦訓としていたのだ。幸いにも後ろには敵機はいなかった。改めて前を向き、左旋回で逃げようとする敵機に照準を入れ撃つ。

 

 

15ミリは敵機の後部に直撃し、尾部・尾翼・胴体がちぎれ飛び、きりきり舞いながら墜落して行った。これで撃墜2機であった。

 

才人は目を細めた。

 

2時方向に1機の敵を撃墜させようとする零戦があった。

 

その零戦は、前方の敵機に夢中になっているであろう、後ろに忍び寄る敵機に気付いていない様子だった。

 

才人はその敵機を撃墜する事を決意すると、注意をそらすために敵機に向けて威嚇機銃を発射する。

 

 

敵機も才人を認めたであろう、猛然と機首を翻って突っ込んでくるのが見えた。才人はそれを避けながら、旋回へともってくる。敵機も乗ってきた。

 

1回・・2回・・。まだ決まらない。まだ周る、空戦という名のワルツはまだ終わらない。

 

 

――ここで、勝負をかける!

 

 

旋回中に宙返りをする。敵機も宙返りに追随する。才人は宙返りの頂点で操縦棹とフットバーの操作を行い、小さい半径で周っていく。水平に持ってきた時、敵はふらつきながらも前に出ていた。

 

 

――・・・・・。

才人は無言で照準に入れ機銃を撃つ。機銃弾がパイロットに直撃したのか煙を吐かずに真っすぐに地面へと墜ちていく。

 

 

やがて、いつの間にか空戦が終わっていたであろう。周りには味方しかいなかった。陸攻も爆撃を終えて帰還しようといている。零戦もそれに付いていく。

 

 

ふと、才人が気付いて横向けば、坂井がニコニコ顔で指を2本差していた。これは、“おれは2機撃墜したぜ”という意味であろう。才人も笑いながら指を3本差した。

 

 

 

 

この日が零戦の初陣であった。戦果は撃墜32機で敵機を全て落としながらも、味方は2機被弾したのみで被撃墜無しという、見事な戦果であった。

 

 

ここに、零戦伝説が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

余談  この日は15機出撃予定であったが、彼は初期トラブルで出撃出来なかった。

 

「何でじゃー。」

 

誰とは言いません。決して頭文字がSとは言いません。

 

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