零の飛空士   作:葛葉

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開戦準備

昭和16年9月

 

 

海軍1等飛曹長(昭和16年6月1日より改正)に昇進した、才人は高雄空に戻って行った。これは、坂井も同じくであった。

 

 

高雄には、新品の零戦21型があった。零戦21型は零戦11型にはなかった、艦上戦闘機には必要な着艦フックなど装備を追加し、翼端の50cmほどを折り畳められる様になっていた。

 

 

それから1カ月の間は、目の回るような忙しい毎日だった。新しい飛行機の整備、兵員の補充、武装整備、などと忙しかった。こうして、1カ月が過ぎた後、高雄基地の近くに台南基地ができあがった。

 

 

高雄航空隊の部隊員全員が台南基地に移住し、司令斎藤正久大佐、副長兼飛行長小園安名中佐、零戦108機に98式陸上偵察機12機を加えて、新しい大戦闘機航空隊『台南航空隊』がここに編成されたのである。

 

 

その隊員の中に才人や坂井・宮崎の姿があった。そして、なぜか佐々木もいた。前話の佐々木は教官として内地に呼び戻されて、彼の悲願である初撃墜は達成できなかった。このたび、台南航空隊に呼ばれたのである。

 

 

才人たちは連日猛訓練が行われていた。訓練は黎明、午前、午後、夜と四回に分けて訓練が行われていた。戦闘訓練はもちろん、航法、編隊訓練が行われ、海軍お家芸である、着艦訓練も行われていた。

 

 

着艦訓練は当初は空母に積んで攻撃する事も考慮されたが、零戦の航続力によりボツとなった。

 

この中で、最も重視されたのが、渡洋作戦準備訓練で、燃費を節約するために気化器のAMC(自動混合気調整装置)をほとんど爆発不調の寸前まできかせて、飛行するのだが、平均80リットルで飛行するのができた。

 

 

最初は少数の編隊で、やがて大多数の編隊で飛行訓練するようになった。できるだけ、早く離陸し、早く編隊を組むのだ。早ければ早いほど、消費する燃費の量が少なくて済む。

 

 

編隊を組むのに最初は40分だったが、やがて35分、30分と早くなり、最後の総仕上げでは編隊を組むのに15分で済んだ。

 

 

隊員のほとんどが、なぜ、このような激しい訓練が行われるか分からなかったが、才人は分かっていた。

 

アメリカと戦争するのだ。

 

もうすぐ、12月8日の真珠湾奇襲攻撃の時間がきているのだ。

 

 

――俺の歴史では成功したようだが、この世界でも成功するのかな?

才人は、ミリタリー知識についてあまり詳しくはなかった。だが、テレビなどのドキュメント番組などで、真珠湾攻撃がいかに大変だったかは知っていた。

 

 

――俺が、心配してもどうにもならない。俺は出来ることをやるだけだ。

才人は改めて、そう思った。

 

 

カンのいい隊員は今作戦が何であるかは、理解しているようだった。アメリカと戦争が行われると噂話が立った。その噂話に気合が入ったであろうか、より一層訓練に熱を入れるようになった。

 

 

 

 

才人は大空を仰いで見ていた。大空には2機の零戦があった。戦闘訓練が行われているようだったが、1機の零戦は常に劣戦を強いられているようだった。やがて、訓練が終わったのか、2機は着陸して行く。

 

 

才人はその内の1機のパイロットに近づいていく。

 

「おい、坂井。新任の中尉はどうだったか?」

「おー、平賀か。いや見ての通りまだまだってことだな。」

そう、彼らは新任の中尉に空中戦の訓練をやっていた。

 

彼だけでなく他にも4名いるのである。彼らは、近い将来リーダーとなって、小隊長、中隊長となるのだが、彼らは戦闘機教程を終えたばかりで、腕前はお粗末な限りだった。

 

 

「ふむ、この様子だと、他の物も望めんか。」

「いや、あいつだけは凄いぞ。他の中尉達は変わらんが、彼だけが並々さを持っているぞ。粗削りだが、磨けば、将来凄いエースとなるかもしれん。」

「ほう、坂井がそこまで評価するのか。あの中尉は誰だ?」

「ああ、笹井、笹井醇一中尉だ。」

これで、才人と坂井の笹井の評価は終わった。

 

 

笹井は後に海軍兵学校出身でありながら、零戦の撃墜王の一人となる。

 

 

 

 

 

11月末のある日、各小隊対抗の地上的掃射競技会が行われた。

 

海岸に零戦大の布板が張られ、小隊毎に日頃の猛訓練の手並みを競おうというのである。優勝した小隊には司令賞がかけられた。

 

才人の小隊は、坂井と同じく下士官だけの小隊であった。

 

「他の士官組みなんぞに負けるな!」

「「はい!」」

2番機の中田2飛曹長、3番機の藤村3飛曹長に発破をかける。

 

 

競技が始まり、前の小隊が次々と舞い上がり、次々と地上的に向かって降下しながら機銃弾を浴びせかける。

 

 

やがて、才人小隊の番が来た。才人たちは離陸しながら高度を500mに取る。そして、機首をひるがえして左へ切り返し、たちまち一列の縦陣となる。

 

照準機にはたちまち、大きく膨れる大地と標的があった。才人はその標的に向けて機銃を撃ち、2番機、3番機も続く。

 

才人は手ごたえを感じた。2番機の中田が近づいてきて、「どうですか」と手信号をしてきた。才人は「大丈夫だ」と返礼した。

 

 

着陸し、成績発表があった。残念ながら、優勝は坂井小隊であったが、第二位は才人小隊であった。これは、快挙であった。司令部より賞品として、坂井小隊にビール2ダース、副賞として、才人の小隊に半ダースプレゼントした。

 

 

才人たちは、ビールを分け合いながら戦友たちと騒いだ。

 

 

 

 

 

 

余談 この競技会で一番ビリであったのは、やはり佐々木が所属している小隊であった。彼らの命中率が酷いということで、罰として、飛行場周囲走り込みであった。

 

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