零の飛空士   作:葛葉

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出港

昭和17年5月

 

呉にはAF作戦と名付けられた一連の作戦に参加する艦艇であふれていた。まず、ミッドウェー島空襲と敵機動部隊撃滅の任務を担った南雲機動部隊、最新鋭戦艦大和を加えた連合長管山本五十六大将直率の主力部隊、ここには姿はないがダッチハーバー空襲の陽動作戦を担った角田部隊、サイパンから上陸部隊を積んだ輸送部隊を中心とする攻略部隊があった。

 

参加艦艇350隻・航空機約500機・参加将兵10万と膨大な兵力で、この当時の人々は勝つと信じて疑わなかった。負ける要素が見当たらないからだ。

 

 

この作戦の主役である、南雲機動部隊の1空母蒼龍に才人の姿があった。

 

才人は先ほど岩国基地から蒼龍に着艦し、艦長柳本大佐に着任報告を終えて、搭乗員室に移動している途中だった。乗員の案内で何本もラッタルを降りて、隔壁も何本か潜りぬけてようやく搭乗員室に到着した。

 

 

搭乗員室にはベッドに寝転がる人、将棋をしている人、本を読んでいる人と様々な人がいたが、彼らは開戦日の真珠湾空襲を初めとする南方の作戦に潜りぬけてきた歴戦の搭乗員だからか、彼らの眼は鋭かった。

 

 

才人は怖気づかず入ろうとした時、

 

「おおー!平賀じゃないか!久しぶりだな。」

懐かしい声が聞こえた。才人はその声の方向に向けると、霞ヶ浦飛行場で才人の教官を務めてくれた、東教官がいた。

 

 

「あ・・・東教官!お久しぶりです。」

才人はそう言ってお辞儀をした。

 

「おう、平賀も元気そうだな。ラジオで貴様の活躍は聞いたぞ。お陰で俺の鼻も高いよ。」

と、ここでニヤリと笑う。才人は恩師から褒めてくれた事により、照れくさそうに笑っていた。

 

「東、こいつが噂の平賀か?」

「そうだ、俺が今まで受け持って生徒の中で一番優秀な奴だったぞ。」

「ほお、あの東がそう言うなら、こいつの腕前は相当なものだな。」

とわいわいガヤガヤとなり、才人はミッドウェー占領までとはいえ、蒼龍搭乗員に認めてもらえたようだ。

 

 

5月27日出港日が来た。蒼龍は前進微速をかけながら、ゆっくりと岸を離れていく。前方には巡洋艦長良を旗艦とする駆逐艦で形成された警戒部隊が先頭になっていた。

 

その後に戦艦榛名・霧島 巡洋艦利根・筑摩が続く。そして、空母4隻も後に続く。南雲中将が指揮する第1航空戦隊赤城・加賀 山口少将が指揮する第2航空戦隊飛龍・蒼龍である。

 

これが南雲機動部隊の全てであった。

 

 

出港するのは彼女たちだけであって、主力部隊は後から出港することになっていた。戦艦の艦上で乗員が帽振れを行っていた。才人も飛行甲板に上がって帽振れを返していた。

 

ゆっくりと遠ざかる艦艇を見ながら才人はある戦艦を見つめていた。その戦艦は戦後の日本人なら誰でも知っている大和であった。

 

 

戦争に詳しくない人でも、大和は世界で一番大きく、強く、そして悲劇的な最期を遂げているのを知っていた。また、沈没した後に活躍する宇宙戦艦ヤマトを見た事があり、大和に対しては憧れ意識が強かった。

 

目の前にある大和は大きく、塗装に塗られている黒色と合わさって、まさに海に浮かぶ黒金城と錯覚するほどだった。

 

 

「凄く大きい艦ですね平賀1飛曹。」

才人と同じく蒼龍に乗り込んだ北条3飛曹が声を掛けた。

 

「ああ、すごく大きいな・・。おそらく世界一だろう。」

「そうでしょう。あれは海軍が創りだした至高の一つです。この戦争は私たちの勝ちに終わりますよ。」

と無邪気な声で返された。才人は本当の事を言えないため何とも言えない表情をする他なかった。

 

 

やがて、豊後水道に入ってきた時、海の上で漁師たちが漁をしており、彼らはこちらに向けて手を振っていた。今が戦時下である事を忘れさせそうになる光景であった。

 

 

やがて、全艦艇が太平洋上に抜けた時、南雲機動部隊は潜水艦警戒態勢で一路、東に向けて進撃を開始した。

 

 

ここに戦史に残るミッドウェー海戦の主役が移動を始めた。才人という異邦人はミッドウェー海戦にどの様な結果をもたらすのか誰にも分らなかった。

 

 

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