零の飛空士   作:葛葉

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ミッドウェー海戦 運命

『そうですね。平賀1飛曹は(当時の階級)不思議な人でした。私は各地の戦場を駆け巡り、様々な撃墜王と出会い、共に戦ったこともありますが、平賀1飛曹ほどの強烈な印象を持った人はいなかった。

 

平賀1飛曹は、我々が持っていない何かを持っていた。私はある日に平賀1飛曹に質問をした事があるが、答えはこうであった。

 

「俺は敏感で、離れていても敵からの殺気が分かる。」

 

私も、何度か殺気を読もうとしましたができませんでした。こうしてみると与太話に思われるかもしれないが、この後に続く空戦の結果を見ると彼の話を信じるほかなかった。そして、あの日も彼が敵の殺気を感じ取れたから、阻止できた。

 

・・・もしも、平賀1飛曹が居なかったら、ミッドウェー海戦の結果は変わったのだろうと思います。そう、あの時に平賀1飛曹がいなかったら・・・。』

 

ミッドウェー戦記より  北条3飛曹(当時の階級)の回想

 

 

 

 

 

 

昭和17年6月5日

 

 

ミッドウェー攻略として、夜明け前からミッドウェー空襲機を発艦させたが、効果不十分で、空母攻撃に備えて対艦用を搭載した、第2次攻撃隊の装備を陸用に換装する命令が下ったが、その直後に偵察機から空母を発見するという報告が入り、再び対艦用に戻すという2度手間をかけ、更にミッドウェーからの攻撃隊も戻り、格納庫の整備士はより一層混乱を招いた。

 

その混乱で、弾薬庫から上げられた陸用の爆弾は格納庫の隅に放置された。

 

 

その情勢の下、蒼龍から2式艦偵が空母確認のため発艦し、才人が2度目の直掩任務に発艦した。

 

 

 

 

才人が発艦して間もなく、蒼龍の左舷側の高角砲が発砲するのが見えた。左を見れば、まだ、距離は遠いが単発機が魚雷を抱えて、蒼龍に突撃するところだった。

 

先ほどの単発機を比べて、小型で貧弱に見えたが、識別表の中で見た事がある機体だった。それはダグラスTBD“テバスター”であった。艦上攻撃機というジャンルで世界初の引き込み脚を持った機であった。(97式艦攻は2番目)

 

1936年の時点では高性能機であったが、1942年では空を飛ぶカモでしかなかった。

 

 

それを証明するかのように才人はそのTBDの前方上部に占位し、1機に照準を合わせて撃つ。最初の1連射は外し、その機は狙う事は出来なくなったが、後続の1機にずらし撃ちし、曳光弾が機体に吸い込まれたと見るや簡単に炎上した。先ほどの単発機と比べると大違いだった。

 

 

才人はTBDの群れを突破し、才人は機首を翻しTBDの後方から襲いかかる。

 

TBDの後部から旋回機銃がささやかな反撃し、横滑りし何とかかわそうともがくのが見えた。だが、才人たちの戦闘機乗りから見ても、緩慢で遅かった。

 

才人は1機に狙いをつけ、機銃を放つと同時に操縦桿とフットバーを勢いよく倒し、機体を右に横滑りさせる。

 

狙われたTBDと右のTBDは偶然にも接近してしまい、2機とも炎に包まれて落ちた。才人は一度の攻撃で2機も落としたことになる。

 

 

才人が2機落としたところで、他の零戦たちがやってきて、残されたTBDは蒼龍を目指しながらも、1機すつ櫛の歯が抜け落ちるかのように零戦が叩き落とし、蒼龍の目前で最後のTBDが燃えながらも近づいたが力尽きたかのように墜落した。

 

 

蒼龍の脅威を排除を確認したのか他の零戦隊はすぐさま、他の空母の所に移動した。どうやら多方向から敵はやって来ているようで、加賀の右舷側が黒煙に彩られていた。

 

3番機の柴田1飛が速く行きましょうと急かしている様子が零戦の様子から分かった。

 

 

才人は苦笑しながら移動をしようかと考えた時、突然背筋が冷えるような殺気を感じた。

 

 

――っ!・・・・どこから感じる。

才人はしばらく呆けたかのような表情をし、すぐさま周りを見た。

 

 

先ほどの加賀からの方には感じなかった。ここでは何も見えなかった。

 

 

 

ただ・・・。

 

 

才人が殺気を感じたのは上空の方に感じたのである。

 

列機がいぶかしげな表情をするなか、才人は突然急上昇を始めた。列機は慌てながらも、何とか付いてこようと機首を上がるのが見えるが、才人はそれを無視するかのように急上昇を続ける。

 

先ほどの殺気は今まで感じた中で最大の冷たさであった。数日前に感じた予感と合わさって、急がねばならないという焦燥感に囚われていたのである。

 

 

ただ、才人はひたすら上昇を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

蒼龍艦長柳本大佐は満足していた。柳本大佐は着任以来操鑑訓練を重ね、蒼龍の運動特徴を十二分に把握していた。急降下爆撃機だろうと、雷撃だろうと、蒼龍の機敏さを生かして、ことごとくかわしてやろうと身構えていた。

 

だが、TBD相手に操艦の腕を発揮する前に直掩の零戦が全て叩き落としてしまった。柳本大佐は極力操艦しないなら、これでいいと思った。

 

 

「新たな敵機!右60度!」

見張員から新たな報告だ。柳本大佐が反射的に操艦を下令しょうとしたところで、

 

「敵全機、加賀に向かう!」

詳しい状況が入り、柳本大佐は回頭命令を止め、双眼鏡を加賀に向ける。

 

 

確かに加賀の右舷側に黒煙が上がっているのが見え、先ほど蒼龍を守った零戦たちが加賀に向かうのが見えた。

 

 

柳本大佐の意識がそちらに向かう寸前

 

「零戦1小隊!急上昇しています!」

「何?」

柳本大佐はその見張員の報告につられて、双眼鏡で上空を見た。確かに零戦の1小隊が急上昇するのが確認でき、先頭の零戦の尾翼の番号を見る事が出来た。

 

それは先ほど、蒼龍に着艦した平賀1飛曹である事が分かった。柳本大佐は彼が何故、急上昇するのか分からなかったが、報告した見張員にその零戦の小隊の動きを見張るように命令を下した。

 

 

柳本大佐はラジオや新聞で平賀1飛曹の事を知っていた。その彼が何かをしている事は何かがあるのだろうと注意を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

才人は急上昇をやめたのは5000mの高度をとった後であった。才人は荒くなる息を整え、酸素マスクすることで火照った口が急速に冷やされるのが分かった。

 

5000mの上空は時折、雲が見えるものの真下は空母に丸見えであった。空母から光が伸びるのが見え、その空母に向けて黒い点が突撃するのが見えた。時折、黒い点から赤い光が見え、海に落ちるのが見えた。

 

 

2番機も3番機も何とか付いて来れているようだった。才人は先ほどの殺気を確認するために周りを見ていく。

 

 

才人は眼を細めた。前方1万mの下方に約30機の単発機が見えた。先ほどの攻撃が艦載機の雷撃機である事を考えれば、次の攻撃は爆撃機だろうと才人がそこまで思案した時、背筋が氷の剣にさされるような感触を感じた。

 

 

現在の空母の状況を思い出したのだ。4空母は敵機動部隊を撃沈するために対艦用に換装中で、今だに攻撃隊は発艦していないのだ。今や4空母は海に浮かべる爆弾庫になっているのだ。もしも、爆撃を許せば、想像を絶する事が起きるであろう。

 

 

才人はあの爆撃機を落とさねばという焦燥感にかわれ、バンクを振るのも忘れ、ただひたすら、愚直に真っ直ぐ、敵に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

――我々はツイている!

エンタープライズから発艦した爆撃機の総指揮管マクラスキー少佐は思った。

 

最初は雷撃機と戦闘機とひと固まりとなって、攻撃させる予定が雲に阻まれて散り散りとなり、気がつけば我々急降下爆撃隊SBDだけが飛行していた。

 

燃料も後5分で引きかえしなければいけないという状況となり、せっぱ詰まった心境に追い込まれていた。

 

 

マクラスキー少佐は戦果無しで帰還しなければいけないという絶望感に包まれた時、眼下に一筋の航跡が見えた。それは駆逐艦のようで高速で走っているのが見えた。

 

マクラスキー少佐はその駆逐艦の先に南雲機動部隊がいると思い、藁にすがる思いで駆逐艦の先を飛行した。

 

 

その先には空母があった、艦上に黄色い塗装が塗られて大きい赤い円が見えた。雷撃機の攻撃をかわしているようで大きく回頭しているのが見えた。

 

それでも、自分たちの所に硝煙が来る様子もなく、戦闘機の姿も見えなかった

 

 

マクラスキー少佐は奇襲を確信し列機に合図を送ろうとしたところ、後部から悲鳴が聞こえた。

 

「隊長!左からジークです!!」

「何!」

マクラスキー少佐が左を見れば、黒い影が高速で通り過ぎるところだった。

 

黒い影は自機ではなく後続機を狙っていたようで、バックミラーに赤い光が見えた。

 

「旋回機銃を出せ!敵は何機だ!」

マクラスキー少佐は後続の零戦を警戒するかのように周りを見ながら怒鳴った。

 

「今のところ!3機です!」

「とにかく目標はすぐそこだ!俺に続け!」

 

 

 

 

 

 

――くっ。2機撃墜するつもりが焦って1機しか落とせなかった。

才人はコクピットの中で舌打ちした。

 

才人ははやる気持ちを抑えて、上昇しながら下方からすくいあげるように撃つ。

狙われた爆撃機は左主翼半ばから折れて落ちた。

 

 

そのまま、勢いよく抜け出した途端、敵の防御機銃の曳光弾が周りに飛び交う

才人は、怖じづけることなく、クルっとロールし、すとんと落ちるかのように

1機の後ろに付き、そのまま機銃を撃つ。

 

後ろにいた人がのけ反るかのように倒れ、そのSBDはそのまま火を吹いて

海に落ちて行った。

 

その間に才人は別の機体に取り掛かり、また別のSBDに火を吹かすのであった。

 

 

 

 

才人たちはそれぞれ超人的な活躍を見せて、才人が8機、北条が4機、柴田が2機落とした。

 

 

だが、惜らむは零戦の数が少なかったことである。才人の活躍が無駄だったのではない。敵機の数が多すぎたのだ。

 

 

 

 

「隊長!敵空母の真上です!」

「行くぞ!俺の後に続け!」

 

 

生き残ったSBD18機が急降下する。狙われた空母は2隻で、2隻とも艦橋は右側に見えた。

 

 

 

 

 

「面舵一杯―!」

蒼龍艦橋で柳本大佐が声をからしながら操舵命令を下した。

 

才人の様子を見る様に命令を下していたおかげで、急降下爆撃機が来るのを予感する事が出来た。蒼龍は柳本大佐の命令で大きく右に傾いた。

 

 

柳本大佐は衝撃に備えた。やがて、次々と急降下爆撃機がやってきて、次々と爆弾を落としていったが、いずれも当たる様子もなく、艦の近くに大きな水柱が立っていくのみであった。

 

柳本大佐は新たな操舵命令を下そうとしたところで大音響を聞いた。見れば、加賀が大爆発と共に燃えていた。

 

 

 

マクラスキー少佐のSBDが狙った空母は蒼龍・加賀で前者は4機、後者は14機狙われた。蒼龍は大きく転舵し直撃弾を得る事が出来なかったが、加賀は2発の至近弾と3発の直撃弾を得た。

 

加賀は前部・中部・後部とまんべんなく1発づつの爆弾を喰らい、特に後部に直撃した爆弾は魚雷を抱いた97式艦攻に命中し、爆弾がさく裂した瞬間、魚雷が誘爆した。

 

その瞬間97式艦攻の周りにいた整備士や手空きの乗組員は大量の破片と熱を喰らい、ほとんどが悲鳴を上げるも間もなく即死した。誘爆は誘爆を呼び、97式艦攻が次々と爆発した。

 

やがて、漏れ出したガソリンに火が付き、火の蛇は格納庫の隅に片付けておいた爆弾に及び赤く熱せられ、次の瞬間、爆発した。

 

次々と爆弾が誘爆が起こり、もはや手がつけれない状態となった。

 

 

だが、攻撃は終わったわけではなかった。

 

 

 

男は上機嫌だった。今朝からの迎撃戦で4機も落としており、今は赤城に燃料と弾薬を補給していた。

 

赤城に着艦中に雷撃機が来て、他の零戦が次々と落としていく様子に羨ましがっていた。

 

やがて、補給が終わり、先頭機が発艦を始めた時、大音響が聞こえた。

 

 

男が何事かと見れば、先ほど赤城と航行していた加賀が大爆発と共に燃えていた。

 

 

男が茫然としていると、艦橋から叫び声が聞こえた。反射的に上を覗いたら、敵機が突っ込むのが見えた。

 

「何てこった。」

次の瞬間男が、気付いた時には、零戦から飛び降り、機銃座に向かって走っていた。

 

衝撃を感じたのは男が機銃座に転げ落ちるように飛びこむのと同時だった。男は揺さぶられ、背中に熱い物が感じられた瞬間、佐々木武雄の意識は失ってしまった。

 

 

 

赤城を襲ったのはヨークタウンのSBDであった。彼らの何機かは整備不良で爆弾を失ったものの全機が急降下し、赤城に1発の至近弾、2発の直撃弾をこうむった。

 

 

加賀と同じように魚雷と爆弾の誘爆が起こり、赤城の後部は赤々と燃えあがっていた。

 

 

飛龍は離れたところにいたため、急降下爆撃を免れたのだ。

 

 

 

南雲機動部隊はSBDの奇襲により、赤城・加賀がやられ、戦力が半減された。南雲中将の生存は不明であった。

 

 

残された戦力は飛龍・蒼龍2隻のみであった。飛龍に座乗する山口多聞少将は赤城・加賀の被爆する様子を見て、すぐさま全艦に打電するよう命令した。

 

 

「我、今ヨリ航空戦ノ指揮ヲ執ル」

 

 

龍の反撃の狼煙が上げられた。

 

 

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