零の飛空士   作:葛葉

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ミッドウェー海戦 龍力尽きる時

アメリカ海軍、エンタープライズの乗組員の士気は沈んでいた。

 

 

世界最強だった南雲機動部隊に打撃を上げて、歓声を上げたのがほんの数時間前だった。

 

彼らは、南雲機動部隊を打ち破った英雄を待ち構えた。

 

 

彼らは、帰ってきた。

 

 

帰ってきた数が非常に少なく、どの機もボロボロだった。

 

乗組員は茫然とするほかなかった。TBDは1機も帰らず、全滅し、今回の主役である、SBDも今朝33機出撃したのに、帰ってきたのはたったの4機であった。

 

才人たちの奮闘もあるが、急降下爆撃した後に残された零戦が寄ったかって、次々に落とされたのだ。

 

 

 

アメリカ軍も数時間の間に、次々と驚愕する出来事があった。

 

約40機のヴァル(99式艦爆)がヨークタウンを狙い、14発の命中弾と4発の至近弾をこうむり、同艦は廃艦状態の様にボロボロになった。最悪だったのが、ある1機が投弾した爆弾であった。

 

その機は投弾直後に撃墜されたが、爆弾は吸い込まれるかのように煙突の中に突入した。薄い装甲をぶち抜き、機関部に到達し、1つのボイラーの直上で爆発した。

 

ボイラ―は衝撃と爆発により、大爆発し熱せられた高圧水蒸気が勢い良く噴き出し、機関部の機材・人員を殺傷して行く。それにより、残ったボイラー全てが停止に追い込んだ。

 

やがて、火災が発生し、もはや手が救えないと知るや総員退艦命令が出された。

 

 

 

次に襲われたのは、ホーネットであった。ホーネットには約20機のケイト(97式艦攻)が襲撃した。ケイトは次々に落とされながらも、左舷に3発、右舷に2発の魚雷を受けた。

 

一度に5発の魚雷を受けながらも、かろうじて、沈没の危機を逃れ、駆逐艦に曳航されながら真珠湾に帰港することになった。

 

 

彼らは数時間の間に一挙に2隻の空母を無力化され、当初は3対4で始まったミッドウェー海戦が、3対2に好転しながらも、1対2という最悪な状態に追い込まれた。

 

 

それでも、彼らは諦めなかった。エンタープライズの格納庫にあった予備機のSBDを引っぱり出したり、ヨークタウンに着艦する寸前に爆撃されて、エンタープライズに着艦したヨークタウンのSBDや、空母会敵失敗しミッドウェーに着陸したホーネットのSBDもかき集めて、数を揃えようとした。

 

 

彼らの努力はエンタープライズの飛行甲板に並べられたSBD36機という形で実った。

 

やがて、彼らは発艦して行った。誰もが悲痛な表情で・・・。それを見た乗組員は黙って見送るほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

才人は疲れた体を押して、この日4度目の発艦をしていた。任務は上空直掩であった。

 

 

飛龍・蒼龍の反撃により2隻の空母を撃沈破させたが、彼らの犠牲も大きかった。

 

第2次攻撃隊として蒼龍から出撃した攻撃隊は、99式艦爆5機、零戦3機撃墜され、第3次攻撃隊は97式艦攻7機、零戦2機撃墜された。

 

撃墜されないまでも、損傷により、再出撃不能の機体が出てくるので、最終的に蒼龍の稼働機は99式艦爆9機、97式艦攻3機に落ち込んだ。飛龍も似たような状況で、このまま白昼攻撃は難しいとして、薄暮攻撃として、時間をずらすことになった。

 

その間の守りとして、才人たち零戦が直掩として発艦されたのだ。蒼龍は度重なる迎撃・空戦により、零戦は4機しか発艦出来なかった。柴田1飛は蒼龍に着艦できず、駆逐艦に拾われ、第3次攻撃隊に出撃した赤城の大尉は97式艦攻を狙うF4Fからかばって、戦死した。

 

他にも似たような理由で零戦は消耗してきた。

 

 

それでも才人は発艦した。第4次攻撃は薄暮となるので、迎撃戦闘機は無いと案断され、爆撃機だけが行くので、これが最後の発艦となるのだ。

 

 

直掩機は飛龍と蒼龍合わせても零戦は9機しかなかった。その数少ない直掩機も、疲労がたまっている搭乗員がいるのか、時折ふらついていた。才人たちはSBDを警戒して高度5000mで哨戒していた。

 

 

やがて、誰かがバンクを振った。それは緩慢な動きであった。やがて、彼らは遠くから黒粒が見えてきた

 

才人たちは気付かれないように、彼らの上を占位し待ち伏せする。

 

 

時を見計らって次々と急降下する。SBDが驚き慌てる様子が見えたが、遅かった。

 

才人は照準機に大きく膨れるSBDを照準に入れて、撃つ。狙ったSBDが胴体から炎を上げて墜ち行くのが見えた。

 

才人たちは初撃で6機落とす事が出来た。だが、機首を上げて2撃を掛ける事は出来なかった。なぜなら彼らにはF4Fが護衛機としてついていたからだ。

 

数は6機と少なかったが、才人たちの行動を妨害するのに十分な数であった。

 

 

才人たちがF4Fに拘束されて動けない事をしり目に、SBDは次々と急降下する。才人はその様子に歯噛みする他なかった。

 

 

――逃げろ!蒼龍!

才人は蒼龍が逃げ切れる事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼龍の乗組員は遅い昼食を食べていた。彼らは朝食を食べて以来、敵が波状攻撃に迫ってくるため、ろくに食事が取れなかったのである。

 

彼らは疲れっきた体で黙々と握り飯を食っていた。

 

ある機銃座の配置の男が慌てて食べたのかのどを詰まらせた。それを見た周りの戦友が笑う。男が胸を叩きながら空を見たとき、男の表情が凍った。

 

 

 

上空から、敵機が突っ込んでくるのだ。

 

 

 

 

「敵機―!直上!急降下―!」

男は声をからしながら叫んだ。周りの戦友たちも固まるのが気配で感じた。

 

だが、男はそれを無視し、機銃に飛び付き、慌てて旋回する。じれったいほど遅い速度で機銃が回転する。

 

やがて、旋回が終わった時に機銃を発砲始めるが、敵機はもう間近に迫っていた。

 

――だめだ。間に合わない。

男がそう思った時、艦が傾いて回頭するのが感じ取れた。だが、男が予想した通り、間に合わなかった。

 

 

 

 

急降下爆撃機は金属音を奏でながら、次々と爆弾を投弾する。1発目は遠弾になり、蒼龍から離れたところで水柱が上げられた。

 

2、3、4機目も同じ結果で、蒼龍から離れたところで水柱を上げたのみであった。5,6,7機目はやや艦に近づき、至近弾となったが艦に命中する気配がない。

 

しかし、8機目はかわせなかった。男は急降下爆撃機から爆弾が離れて、その爆弾が前部に吸い込まれる様子をスローモーションのように見ていた。

 

爆弾が飛行甲板から姿を消すと、衝撃を感じた。男は機銃座に身を投げ出された。苦痛をあえぐ間もなく、もう一度衝撃を感じ、周りから絶叫が聞こえてくる。

 

 

男が意識を取り戻すと、何かがのしかかるような感じがして重たかった。男は声を掛けるが動く気配がない。

 

しょうがないとばかりに体をどけると、首から上が無い死体があった。

 

 

男は、ひゅっと息を飲み、悲鳴を上げると、機銃座から飛行甲板に起き上がった。

 

 

そこには

 

 

たくさんの戦友が折り重なって倒れて、飛行甲板の前部が燃えていた。蒼龍から離れたところにいた飛龍が炎上していた。

 

 

男は一瞬茫然となるも、我に帰り、すでに消化を始めている戦友の手伝いに駆け付けた。

 

 

 

 

蒼龍を襲ったのは12機のSBDであった。SBDの攻撃をごととくかわすも、かわしきれず被弾してしまい、2発命中弾を喰らった。しかし、蒼龍は幸運であった。

 

 

2発とも飛行甲板の前部で、戦闘機もない空の格納庫であったため、火災が発生したものの被弾から30分で消火する事が出来た。

 

飛行甲板前部に大穴ができたものの、後部を使って着艦する事は可能だった。

 

 

 

 

だが、飛龍は蒼龍ほど幸運ではなかった。

 

 

 

飛龍は18機のSBDに襲われた。飛龍も回頭でかわすも、6発も直撃弾を喰らってしまった。前部に4発・中部に2発と前部に集中したため、エレベータが吹っ飛び艦橋にのしかかるような形となった。

 

また、中部の直撃弾は煙路をぶち抜いて炸裂し、飛龍のボイラーを瞬時に停止させ、火災が発生したため、機関部に熱をこもった空気が流れ込んだ。その高熱を浴びて次々と機関員が倒れ出した。

 

機関部が壊滅したため、飛龍の動力がなくなり、間もなく洋上に漂流する艦だけとなった。

 

 

 

飛龍の損害はこれだけではなかった。あるSBDが爆弾投下後、離脱する時、後部旋回機銃が機銃をばらまいていった。

 

その機銃が艦橋に入り込んで、跳弾となり、ある人物の胸部に命中した。

 

その人物は胸部を抑えてよろけるように倒れ、人が掛け寄るのを感じた。その人物は山口多聞少将であった。

 

 

 

山口少将はどくどく流れる血を抑えながら、衛生兵を呼ぶが、医療室は火災で通行が不可能だということだ。そして山口少将は意識を失ってしまった。

 

そこで、飛龍艦長、加来止男大佐は、司令部を間もなく消火が完了する蒼龍に移ってはどうかと具申し、司令部は具申を受け、搭乗員と共に蒼龍に移った。

 

加来止男大佐は、窓ガラスが割れた艦橋で彼らを敬礼で見送った。これが第2航空戦隊司令部と加来止男大佐の別れであった。

 

 

 

炎上する飛龍は残された乗組員と呼び寄せた駆逐艦が協力して、消火作業に従事した。やがて、夜になり、火災も下火になり、消火完了だと誰もが安堵した時

 

突然、飛龍が大音響と共に、大爆発が起こり、飛龍は大傾斜し、ゆっくりと傾きながら後部から沈んでいった。飛龍の周りには総員退艦命令が出されたのか、脱出する乗組員があった。

 

 

飛龍の沈没原因は、火災が弾薬庫を誘爆したとも、ガソリン庫に引火して大爆発したとも伝えられている。近年ではアメリカ潜水艦が炎上する飛龍に魚雷攻撃したという証言が上がっているが、真実は未だに分かっていない。

 

 

 

才人は、その景色を蒼龍飛行甲板で目撃していた。才人はSBDが爆撃された後にも燃料ギリギリまで直掩し、空襲しに来たB-17を追い払い、蒼龍の無事な後部を使って着艦する事が出来た。

 

 

才人は茫然として、眺めるほかなかった。才人の働きにより、蒼龍が助かった。だが、その分他の艦に不幸をまき散らしてしまったのではないかとすら、考えてしまうほどだった。

 

才人の周りには飛龍から脱出した搭乗員が蹲って、涙を流していた。

 

 

やがて、飛龍が波間に消えた時、別れを告げるかのように最期の爆発音が轟いた。

 

 

その時、どこからともかく

 

「飛龍――!バンザ―イ!」

 

という声が聞こえてきて、その声が続くうちに一人、二人と続くようになり、やがて、乗員全員が万歳をしていた。

 

 

 

 

 

ミッドウェー作戦は失敗に終わった。

 

加賀は被弾後、乗員が消火に努めたが消火できず、総員退艦命令が出され、午後4時に大爆発を起こし、沈没して行った。

 

赤城は、誘爆を起こし消火が不可能となるも、今だに沈没せず、赤城艦長青木大佐は赤城は救えるではないかと考え、一度総員退艦をだすも、もう一度赤城に乗り込み消火作業を行う。

 

しかし、火災を消す事が出来ず、飛龍・蒼龍が被弾したため連合艦隊司令部より、作戦中止命令が下り、午前2時に赤城の処分命令が出された。

 

青木大佐は退艦を拒むも、部下に説得されて、一緒に赤城を退艦した。

 

駆逐艦から魚雷が発射し、3本の水柱が立ち、赤城は急速に傾いて沈没した。青木大佐は涙を流しながら赤城に別れを告げていた。

 

 

 

確かにミッドウェー海戦は敗れた。多くの犠牲も出た。だが、多くの犠牲の中で、幾つかの希望が残された。

 

蒼龍が生き残り、蒼龍に積まれた13試艦爆も日本に持ち帰る事が出来た。

 

これは、開発が遅延していた事も相まって13試艦爆の貴重な実戦データにより、艦爆化への実戦配備を早める事が出来た。

 

また、意識不明とはいえ、山口少将が生還したことも希望の一つであろう。蒼龍に移った後、一命を取り留め、日本に帰還してからは、しばらく病養していたが、太平洋戦争後期には大活躍をする。

 

 

 

 

本来ならば、勝利者として名乗り上げるアメリカ海軍であるが、彼らもまた犠牲が大きかった。

 

ヨークタウンを失い、ホーネットを大破させられ、しばらく戦線に出てくる事はなかった。

 

 

そして、何より彼らの大きな問題となったのは搭乗員であった。ミッドウェー機や南雲機動部隊の攻撃に行った空母搭乗員の大半が戦死したのだ。特に雷撃隊は全滅であるといってもいい大損害を喰らい、主役SBDも半数は帰らなかった。

 

エンタープライズに残された艦載機の数は少なかった。

 

 

これは、翌日のミッドウェー海戦追撃戦でも影響を及ぼした。昨日の夜、衝突した日本の巡洋艦最上・三隈にエンタープライズの艦載機が襲撃したが、機数が少なく、彼女らは直撃弾を喰らいながらも日本に帰還する事が出来た。

 

 

この時にも、少なからずの数のSBDが落とされたため、しばらく作戦行動不能となった。

 

これには、後の南太平洋に大きな影響を及ぼした。

 

 

 

ミッドウェー海戦は終焉した。だが、そこには勝利者の姿は無く、日本側に不利な痛み分けであった。日本の攻勢はここで止まった。後の歴史家はここが太平洋戦争ターニングポイントであったという。

 

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