零の飛空士   作:葛葉

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ミッドウェー海戦の後始末

――木津更基地

 

才人達は修理のために横須賀に寄港した蒼龍から退艦し木更津基地へ行く汽車に乗っていた。

 

 

才人達は疲労困憊の表情で言葉を交わすこともなく、ただ、黙々と座っていた。

 

 

数人の戦友と木更津基地に帰ってきた才人達を待ち構えていたのは大勢の記者たちであった。

 

 

 

 

 

6月上旬に行われた海軍が全力を挙げた決戦、AF作戦は正規空母3隻喪失・1隻大破という大敗北を経験した。

 

日本海軍もヨークタウンを葬り、ホーネットを大破させたので一見、日本海軍に不利な引き分けと見えるが基礎工業力が違いすぎるため、正規空母喪失は日本海軍にとっては大きな痛手であった。

 

 

上層部は敗報に右往左往しながらもいくつかの対策を立てた。

 

・空母及び航空機の増長に努める

 海軍の建艦計画はどちらかというと戦艦を中心とする艦隊決戦主義であったが、今戦争は空母・航空機が活躍したので、この計画を取りやめ新たな建艦計画を立てた。それが改マル5計画である。

 これは、戦艦・超甲巡の建造を取りやめ、空母の建造を優先とするものであった。それを受けて建造中であった大和型3号艦は空母へと改装が決まった。また、ミッドウェー海戦から帰還した最上・三隅は航空巡洋艦へと改修された。

 さらにミッドウェー海戦で喪失した空母の穴埋めのために改飛龍型である雲竜型を15隻という大量建造が決定された。しかし、終戦までに起工できたのは6隻で竣工したのはたったの3隻であった。

 

・主力艦に電探を装備する

 これは、空母の喪失の原因の一つである、上空からの奇襲を防ぐためであった。あの時誰もが低空からやってくる雷撃機に注目して、上空からやってくる敵に気付かなかったのである。

 そこで、ミッドウェー海戦から帰還した、蒼龍艦長柳本大佐が「電探があれば奇襲は未然に防げれた」と主張し電探が注目されたのである。

 海軍上層部は全空母に電探を装備する工事が行われた。それに合わせて、戦闘機隊と連絡がスムーズに行えるように無線電話の整備も力を入れるようになった。

 

 

こうして、敗北しながらもより良くしようと努力が行われた一方で、悪しきの影があった。

 

まず、国民にはミッドウェー海戦の敗北を隠したことであった。国民に厭戦気分を起こさせないという、もっともな理由をつけて損害をひた隠ししたのである。

 

次に、沈没した空母の乗組員・搭乗員は各基地に隔離された。これも敗戦を隠すための一策であった。

 

 

そして、上層部は敗戦を隠すためには大きな派手な戦果がほしかった。

 

 

その戦果はあった。

 

 

 

平賀才人一飛曹であった。

 

 

 

平賀一飛曹は4月の本土防空戦に活躍したし、今海戦の直掩も大活躍している。彼らは再び、才人の戦果を大々的に発表し、新聞記者に平賀一飛曹という餌を与えて、敗北からそらし続け、責任を取らなかったのである。

 

 

上層部にとって才人は都合のいい駒であった。

 

 

 

 

そんなわけで才人の前に大勢の記者たちが群がってきて、戦場の感想や武勇伝を聞きたがっていたのだ。

 

 

才人は、その様子に内心苦々しく思っていた。

――ここに来る前に司令から詳しくしゃべるなと訓示していたが、こういう事かよ。

 

記者たちは、才人の内心のことを知らないのか

「今海戦はどうですか?」

「あなたはどのように敵を落としたのですか?」

「どの様に勝利に貢献しましたか?」

 

ここにいる記者たちはミッドウェー海戦の真実を知らない。ただ、勝利をしたという事だけしか知らない。

 

赤城・加賀・飛龍が沈んだことも知らない。大勢の戦友たちが戦死したことも知らない。才人の恩師が戦死したことも知らない。それどころが敗れたことすら知らない。ただ、歪曲された勝利と戦果だけが伝えられていた。

 

 

才人は、悪意を持たずに話しかけてくる記者たちに

「この海戦は負けだった。大勢の戦友たちが死んだんだ」と大声を出して叫びたかった。

 

 

それでもなお、多くの記者たちは群がってくる。

 

 

しかし、それは才人だけであった。ほかの隊員は見向きもせずに才人だけ質問を掛けてくる。

 

それは、才人に注目していることに他ならないのだが、才人は元の世界のある友人を思い出した。

 

 

その友人の親と妹が飲酒運転による交通事故で亡くなったが、それからというのも大勢のマスコミ関係者が、連日のようにTVで取り上げられたり、自宅や学校までも押しかけられて多大な迷惑をかけてきた。連日あることないことを書かされて、友人はつらい思いをした。それなのに、熱がさめたら謝罪もせずに帰って行った。

 

それからというのも友人はマスコミ嫌いとなった。

 

 

 

―――過去の世界であっても、マスコミの迷惑さは変わらないか。

才人は目の前にいる記者たちが嫌いになりそうだった。

 

 

―――4月の俺はバカだったな。

東京湾海戦の時も大勢の記者たちが、集まってきたが、あの時は大勢の記者たちが囲まれるのは初めての経験だったため、浮かれて、調子に乗っていたんだ。

 

 

そのツケがこれであった。

 

 

彼らはあの時のように、すぐに何でもインタビューできると思っているのだ。

 

「ほかの隊員には聞かないのですか?」

才人が質問するとこんな返事が返ってきた。

 

「いえ、あなたが一番に活躍したと聞いたのです。ほかの隊員の話を聞いてもつまらないです。」

 

 

才人はその記者に殴りたそうになった。

 

戦争は一人で勝てると思っているのなら、それは大間違いである。零戦を戦場までに運んでくれた艦船や人員がいる。燃料や弾薬を補給してくれる整備員がいる。才人をサポートしてくれる仲間がいる。才人の援護の元、安心して攻撃に向かえる艦攻・艦爆乗りがいる。大勢の人々がいる。

 

そんな、彼らと合わせることによって、初めて戦果が生まれるのである。

 

 

それなのに、目の前にいる記者はそんな彼らを蔑にする様な発言をしたのである。

 

 

才人は殴りたくなる衝動をグッと堪えて

 

「話すことはありません。急いでいますので」

 

その場から記者を押しのけて、足早に基地に向かった。才人の後方からざわめく声が聞こえてくるが、才人は無視して進んだ。

 

 

 

 

 

数日後

 

才人達の6空は補充に奔走していた。本隊の零戦はミッドウェー海戦により空母もろとも喪失した機体が多く、僅かに蒼龍に着艦できた6機だけであった。分遣隊の隼鷹の零戦はそのまま隼鷹部隊に譲渡したため、零戦は前述の6機だけであった。

 

才人達は手分けしながら零戦の補充に駆り出され、その合間を縫って補充員に対しての厳しい訓練も行われた。部隊の零戦は「東京湾海戦」(ドーリットル空襲の日本名)で活躍し、晴れて正式採用された零戦21型甲が半数を占めた。

 

 

 

才人はその厳しい訓練の合間にある病院に訪れた。

 

病院独自の雰囲気の中を歩きながら、時々すれ違う入院患者や看護婦さんに会釈しながら、目的地の病室の前に立ち止まりノックする。

 

 

コンコン

 

「おう、入れ」

「失礼するぞ」

 

才人は声をかけながら扉を開けて中に入る。

 

そこには、ベッドの上に体中を包帯でぐるぐる巻きになっていたミイラ男がいた。

 

 

「体の加減はどうだ?佐々木」

「おう、大丈夫だ。」

 

そう、この部屋で入院しているのは佐々木であった。

 

 

 

佐々木は、あの時、爆撃により背中に破片をもらい、その後に続いた大火災によって全身大やけどを負ってのである。

 

佐々木は意識もうろうとし、生命の危機であったが、近くにいた乗組員が救助をしてくれたおかげで、何とか一命を取り留め赤城から退艦することができた。

 

 

その後、主隊と合流し戦艦長門に収容して、治療を受けることができた。

 

 

それでも重傷に変わりなく、1年間入院とリハビリを余儀なくさせられていた。

 

 

「佐々木・・・。本当に大丈夫か・・・?」

「俺が大丈夫ったら、大丈夫だ!」

佐々木本人は気にもとめてないようだ。

 

 

「まあ、元気そうだからいいか。それでも俺は訓練で忙しいからな。」

「ああ、それは、飛行場から聞こえてくる爆音で分かるぜ。」

佐々木は音だけで察しているようだ。

 

 

「佐々木・・・。すまんな。俺が五体無事でお前が重傷を負ってしまうなんてなんか悪いことをしてしまった気になってしまうよ。」

「ああ、それは構んってこった。それはある意味俺の運が悪かったからだしな。それよりも訓練で忙しいという事は、近くお前たちも戦場に行く日が近いぞ。お前も俺のような大けがをするんじゃないぞ。」

 

佐々木は真剣な目で才人をみる。

 

 

「ああ・・・。分かっている。」

才人も真剣な表情で言う。

 

 

二人はその後、世間話をして時間が迫ってきたので才人は基地に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

8月

 

才人は今日も厳しい訓練を終了させて、宿舎に戻ろうとするとき、司令部に呼び出された。

 

才人は疑問を持ちながら司令部に行くとそこには数人の隊員と司令官がいた。才人は何事かと思うと司令官から、訓示が行われた。

 

それは、海軍が次期作戦である米豪遮断作戦を立てており、そこで前進基地を建設した。そこで、才人達は基地航空隊として進出することが決定した。

 

だが、一つ問題が起きた。乗せるべき空母と船がその当時なかったことである。戦況でのんびりと待っていられないので、この当時は、まだ未開発である空路による日本本土からその目的地へと進出することが決定した。

 

そこで、開戦当初に行われた渡洋作戦の経験があるものを中心に集められた。彼らを先遣隊とし、後から来る本隊は船で輸送することが決められた。

 

 

才人たち18名は準備のために退出した。

 

 

残された司令官は才人達に目的地を示すために広げられた地図を見ながら、ある1点をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

その目的地はガダルカナル島であった。

 

 

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