零の飛空士   作:葛葉

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渡洋 異常

 

 

――昭和17年8月

 

 

才人達はガダルカナル島へと渡洋しているところだった。

 

 

途中、才人は遭難しかけるが、無事に合流することができた。

 

 

サイパンで一日がかりで整備を行い、トラック諸島を経由し、ラバウルへとたどり着くことができた。

 

 

才人はそこで、古い戦友と再会する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひょー。なんとも不気味な場所だぜ。」

ラバウルの飛行場に降り立ちながら、そうつぶやく才人。

 

 

実際に、ラバウルの飛行場は火山の近くにあり、上空から見ても、火山灰が何度も吹き上げられていて、地獄のようあった。

 

また、飛行場は火山灰の土でできており、零戦が着陸や移動するたびに白い土が巻き上げられるのである。飛行作業を行う場所としては、最低な方だろう。

 

 

「まあ、しばらくの間だしな。」

最終目的地である、ガダルカナルへはラバウルから1000kmで、移送には十分ではあるが、ガダルカナルでは、最終ピッチ状態で受け入れ準備がまだ済ませてないため、最寄の基地ラバウルでしばらく待機となっていた。

 

 

 

一同は、基地所に集合し、司令官に到着報告と滞在報告を済ませて、兵舎へと移動中に声がかけられた。

 

 

「平賀?平賀じゃないか!」

声がかかったほうに振り返ると

 

 

「坂井?坂井じゃないか!」

そこには、戦友であった坂井が駆けつけていた。

 

 

「いやー、久しぶりだなー。元気そうでよかった。」

「ああ、お前も元気そうだな。」

二人は、近寄るとがっしりと握手しながら、挨拶を交わす。

 

 

 

「お前さんは、東京で派手に暴れまわったって?辺境地のラバウルでも轟いとるぞ。」

「やめてくれよ。あのときの話は。今から思い返すと俺が馬鹿に見えるから」

才人は、記者に対応した、過去の自分を思いながら言う。

 

 

「それでも、撃墜したのは事実なんだろ?その上で東京を守れたことは誇っていいじゃないか?」

「まあな・・・・。そうなんだけどな。」

その後の、ミッドウェー海戦の時も含めた、上層部の対応を語った。

 

 

 

「それは酷いな。自分達の不手際を、下の者に尻拭いさせるなんて。」

「そう、今の俺は、軍の狗だよ。」

才人は自嘲気味に言った。

 

 

 

才人が、語るようにどこ行っても、記者に追いかけられたり、何かしらよからぬ視線を感じ取れたりなどと様々であった。東京湾海戦後も度々あったが、ミッドウェー海戦後にそれが顕著となる。

 

上陸日に町へと繰り出しても落ち着くことができず、むしろ基地で過ごしたほうが落ち着くことができたという有様であった。

 

 

 

才人が望む・望まざるえないに軍・民から結果を出し続けねばならなかった。

 

 

 

「そうか・・・。」

坂井もそれ以上聞かなかった。

 

 

 

 

その場に、気まずい空気が流れ出したが、話題をうまく転換させて、ラバウルでの話となった。

 

 

 

 

「ここはいいぞ。敵基地に近い分何度も空戦ができる。まあ、俺は十分食ったから、撃墜スコアは若手に譲り渡しているんだがな。」

坂井は常々に個人の力量を伸ばすのではなく、若手に撃墜スコアを譲ってでも、隊員全体の力量を伸ばすべきだと考えており、個人で撃墜させたがる搭乗員においては例外的な人物であった。

 

「お前さんらしいな。所で中田はどうした?」

才人の開戦時からの部下で、ラバウルへと別れた中田2飛曹を尋ねる。

 

 

「ああ・・・。中田か。」

坂井は表情を暗くすると、語りだした。

 

 

 

 

1ヶ月前、敵基地ポートモレスビーへと空襲しに坂井たちが行ったが、その中に中田2飛曹も含まれていた。

 

 

空戦も終えて、その時までは、被害もなかったが、弾が空になった機も多く、帰り出そうとした時に、上空からP-40の奇襲を受けて、散り散りにされ、坂井達ベテランが再び纏め上げた時に、この日、初陣となる搭乗員がいて、その後ろにP-40の姿があった。

 

 

坂井達は、慌てて援護に出ようとしたが、誰もが弾切れで、躊躇した時に1機の零戦が躍り出て、P-40に体当たりをしたという。

 

 

件の零戦が中田2飛曹であり、P-40の胴体へと体当たりし、衝突した零戦とP-40はもつれ合うように落ちて行った。

 

 

坂井が墜ち行く零戦に近づきながら風防内を覗いたら、そこには穏やかな笑みを浮かべた中田2飛曹がいた。

 

 

 

 

 

その2機はやがてジャングル内へと消えて行った。

 

 

 

 

「あの馬鹿野郎が・・・。」

才人は、低い声で呟いた。

 

 

 

中田2飛曹は若手の前では、明るく振舞っていたが、才人達の古参の前では、いつも思いつめていた。

彼は、開戦初日に遼機を失った。それも、彼と同郷の者で弟の様に可愛がっていて、その日が初陣だった。きちんとした初陣を味わせてあげたかっただろうが、目の前で無惨に散ったのだ。

 

 

何とも残酷な運命だろう。

 

 

中田は、この事をずっと引きずっていて、「こうすればよかった。ああすればよかった。」と後悔の話を何度も聞いた事があった。

 

 

そんな彼からすれば、自分の命を引きかえに初陣の搭乗員を守りきれた事が、彼にとっては満足な事だっただろう。

 

 

 

 

だから才人はもう一度呟いた。

 

 

 

「あいつはホントに大馬鹿野郎だ。」

坂井も同じく思ったのか、小さくうなずいた。

 

 

 

 

会話も、そこそこに宿舎へと移動し、台南空時代の戦友達と再会し、その晩にはちょっとした宴で彼らは大いに盛り上がった。

 

 

 

 

しかし、彼らの休息は唐突に終わりを告げた。

 

 

 

 

 

翌日、才人が飛行場に行くと、多くの整備士達があちこちへと右往左往しており、怒鳴り声も聞こえてくる。

 

 

 

これは、ただ事ではないと才人は思い、指揮所に移動すると、他の隊員たちも集まっており、一同は戸惑いの表情を見せていた。

 

 

 

やがて、司令が姿を現し発言する。

 

 

「本日、未明にツラギ基地の水上航空隊から連絡が届いた。敵機動部隊が上陸船団を伴っているのを発見した。目標は、ガダルカナルとツラギの占領と思われる。諸君は、これより台南航空隊と合同でガダルカナルへと移動し、敵機動部隊の殲滅に当たれ。」

 

 

 

これが、約半年間ソロモン海をめぐって血みどろの戦場となる戦いの幕開けだった。

 

 

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