零の飛空士   作:葛葉

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ガダルカナルの戦い

 

――昭和17年8月

 

 

ラバウルに移動した才人達は、そこで戦友と再会し、ガダルカナルへと移動待機の所に米軍の機動部隊の接近を知る。

 

 

そこで、台南航空隊と合同でガダルカナルへと至急移動し、迎え撃つことになった。

 

 

今、ここに半年間も及ぶ激戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

ガダルカナル島、それはソロモンの海に浮かぶ、小さな島であった。

 

かっては、探検家がソロモンの財宝を探し求めて、この島はソロモンの財宝が隠されているに違いないと注目されたが、違うとわかるや興味をなくし、イギリスの保護領となっても依然と注目を浴びることはなかった。この忘れ去られた島に、才人達の零戦が着陸しようとしていた。

 

 

 

 

ガダルカナルの飛行場、ルンガ飛行場は滑走路が1本できているだけで、後は何もできていなかったが、陸攻が楽々と離着陸ができるほど立派なものであった。

 

 

 

才人は危なげなく着陸し、そのまま、ジャングルの中に隠すとエンジンのスイッチを切る。上空から見ると木に隠れて零戦を発見するのは困難であった。

 

 

「うーん、ラバウルは何もなかったが、ここではますます何もない。」

もうすぐ、機動部隊がやってくるというのにのんびりとそんなことをつぶやく才人。

 

 

才人は、即席のバラックへと移動しながら、台南航空隊の若い連中が「決戦だ!決戦だ!」と興奮しあっているのを目撃する。

 

 

才人は若いなーと、思いながら呟く。

 

「しかし、あの連中は本当に理解しているのかねぇ。」

 

なぜなら、ガダルカナル基地は、一応できているとはいえ、未完成である。

 

 

 

 

 

 

と言う事は

 

 

 

 

 

 

「ここには、部品や燃料、弾薬が無いんだよな。」

 

 

そう、敵機動部隊が来襲してきたので、防衛線を繰り広げて待ち構えていたのだが、対岸のツラギや一式陸攻の空いているスペースに燃料や部品を積みいれていたが、それでも足らず、数会戦の分しか確保できなかった。

 

長期戦に入ると、つらい戦いとなるだろう。

 

 

 

才人は、歩きながら向こうからやってきた、鈴木中尉と合流する。

 

「鈴木中尉、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。しかし、武者震いするか足が震えが止まらん。」

チラッと、足を見れば本当にがくがく震えていた。そして、顔色も悪かった。

 

 

才人は、これはいけないと思い発破をかける。

 

 

「中尉、しっかりしてください。あなたは、技量が抜群と認めてもらえたからこそ、ここにいるのでしょう。戦闘機乗りとして、もっと自信を持ってください。」

「そうだったな・・・。俺も戦闘機乗りだったな。ありがとう、平賀。」

顔色も先ほどよりも、ましになっていた。

 

 

 

「いえ、礼には及びません。今日はじっくり睡眠をとって明日の決戦に備えましょう。」

才人と鈴木中尉は、その後も言葉もなく歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日

 

 

 

飛行場は、準備に掛かりきりだった。あちこちに整備士が走り回り、ツラギからも応援が来て、準備を進める。

 

飛行場には、第6空の18機の零戦と台南航空隊の一式陸攻33機、99式艦爆9機、戦闘機18機と戦闘機36機、爆撃機42機と計78機がガダルカナルにあるすべての機体であった。

 

ツラギにあった、水上機部隊は索敵に勤め、其の内の1機が敵機動部隊を捕捉することに成功し、後はその目標に向かって攻撃するだけだった。

 

 

 

搭乗員一同が、飛行場の前に集合する。皆、決戦であると覚悟を決めているのか表情は硬かった。

 

 

指揮官が、前に出て、顔を動かして、搭乗員を見渡した後。

「諸君。いよいよ、米機動部隊と決戦だ!この中には初陣・経験が浅い者もいるだろうが、今まで培ってきた、技術を活用し、運を信じて全身粉砕に当たれ!1番機が撃墜されたら2番機、2番機が撃墜されたら3番機と先頭機に絶対に続け!」

 

 

その言葉に、搭乗員たちはビシッと身が引き締まる感が出された。

 

 

そこで、一旦きると、ニヤッとしながら、

「飛行場を盗みに来る、ミッキーの小僧を俺たちが懲らしめてやろうぜ。」

 

 

その言葉に搭乗員たちは、ドッと笑う。

 

 

ミッキーは、あの有名なネズミのキャラで、江戸時代の大泥棒、鼠の小僧とかけたのだ。

 

 

搭乗員たちは大笑いしながら、緊張が程よく取れたことを感じていた。

 

 

指揮官はそれを見ながら

「よーし、いい声だ。これより出撃する。掛れ!」

 

 

 

その声と共に、バッと散らばり、自分の割り当てられた零戦・陸攻・艦爆へと駆け足で駆け付ける。

 

 

 

才人も、自分の機体へと駆け付け、整備士にお礼を言いながら、乗組み、点検を行う。

 

 

エンジン音・油温・フットバー・ブレーキ・フラップ・エルロンと点検するがどこにも異常は見られなかった。

 

 

 

 

才人は、それを確認しながら、前方に並ぶ鈴木中尉を見る。

 

 

鈴木中尉も準備ができたようで、ぎこちない笑顔で親指を立てる。才人も返事しながら思う。

 

 

 

 

――中尉、あなたは俺が絶対に死なせませんから。

 

 

 

才人は、今までの戦闘で多くの戦友を無くしていたが、ミッドウェー海戦で才人の恩師であった東特務少尉を死なせた事が、大変ショックであった。

 

 

そのような思いを二度とごめんだった。

 

 

 

だからこそ

「俺が守りますから・・・・。」

 

 

やがて、陸攻が先頭になって、離陸を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、震えていた。

 

 

私は、まだ空戦という戦場を知らないのに、これから敵機動部隊へと殴りこみに行くのだ。

 

 

 

 

 

これで平常心を保つことができたら、化け物であるだろうと私は思う。

 

 

 

 

 

 

私は、ふと辺りを見回した。

 

 

 

前方には台南航空隊の零戦が飛び、その後に私たち、爆撃機という順序になっており、台南航空隊が、なぜ先行しているかといえば、私たちは到着したばかりで、錬度も十分ではないということから、熟練者たちがそろっている、台南航空隊が戦闘機撃滅の任務を請け負ったからだ。

 

 

 

 

正直、この話を聞いたときは憤った共に、心のどこかでホッとしていたのも事実だった。

 

 

 

 

 

多少遅くなるとはいえ、すぐに空戦をやるわけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、前方を進む台南航空隊が、不意にバンクを打ったかと思うといっせいに増槽を捨てて、増速して行った。

 

 

私が必死に目を凝らしていくと、台南航空部隊の前部にごつい黒い粒が見え、台南航空隊ともつれ合うかのように、交じり合った。

 

 

 

 

そして、はるか向こうに、航跡がいくつも見えた。始めて見る大艦隊であった。

 

 

 

 

 

私は、唾を飲み込んだ。

 

――いよいよだ・・・。

 

 

 

 

 

そして、先頭に飛ぶ指揮官がバンクを打ち、増槽が落ちるのが見え、私も落ち着いて増槽を落とした。

 

 

ゴッと振動とともに増槽が落ちて行った。増槽の中にわずかなガソリンが残っていて、周りにまき散らすとともに虹ができてきた。

 

 

 

これから、四方八方に注意を向けなければ、後ろに飛ぶ爆撃機達に損害が出てしまうだろう。

 

 

 

前方の空戦はいまだもつれ合っており、こちらに来る気配がない。黒煙がいくつも発生しているようだが、どちらが勝っているかは判別できなかった。

 

 

 

 

 

 

ふと空を仰ぎ見て、「あっ!」と声を出してしまった。

 

 

 

いつの間に忍び寄ってきたのだろう。黒い影が上空から急降下してきた。

 

 

 

私は慌てて、操縦桿を引こうとしたが、間に合わなかった。

 

 

 

 

 

 

急降下してきた機体は、アメリカ海軍の艦載機F4F4機で先に急降下してきた3機は外したが、最後の1機は見事に一式陸攻を捉えられた。

 

 

 

主翼から胴体へと舐めるかのように機銃が命中し、ボッと火災を発生させた。

 

 

火災を発生させた陸攻は、編成に付いていこうと必死についてきたが、力尽きたかのようにガクッと機首を下にして、海面へと突入していった。

 

 

 

 

 

私は、その様子を一部始終見せつけられて、カーッと血が昇ってしまった。

 

 

 

 

――くそう。あいつを絶対落としてやる。

 

 

 

私は、先ほど陸攻を落とした、F4Fを追いかけた。

 

 

F4Fは丁度急降下から、機首を起こしていたところであり、その頭上から、迫った。

 

 

照準環にすっぽりとF4Fが映し出され、それに向けて

 

 

「喰らえ!!」

銃把を握り、機銃を撃つ。

 

 

轟音とともに、撃ち出された弾は、エンジンから胴体へと満遍なく命中し、空中で力いっぱいもぎ取られたかのように両翼が吹き飛んで行った。

 

 

両翼をもぎ取られたF4Fは、機種を軸にコマのように回りながら、落ちて行った。

 

 

 

「ざまあみやがれ!」

私は、一瞬勝利の余韻に浸かっていました。

 

 

それがいけなかっただろう。

 

 

 

風防の上に赤い火線が通り過ぎた。

「っ!しまった!!」

 

 

 

気を取られた隙に、別の敵が忍び寄ってきたのだろう。

 

 

私は、咄嗟に左に倒した。同じ空間に機銃の曳光弾が通り過ぎる。もしも、直進したままであったなら、撃墜されたであろう。

 

 

 

左に旋回しながら、後ろを見る。案の定F4Fがいた。それも2機であった。

 

 

 

F4Fは、旋回力には零戦より劣るのだが、それは熟練搭乗員が操った場合であって、私の様な未熟搭乗員には、追従することができていた。

 

 

 

私は、追従してくるF4Fに嫌な予感を覚え、操縦桿を右に倒した。すると、同じ様に機銃が流れ込んできたが、また避わすことができた。

 

 

その後に、轟音と共にF4F1機が過ぎ去っていった。

 

 

 

だが、F4Fはもう1機ある。私は直感でフットバーを蹴る。

 

 

 

機体がロールし、天と地がひっくり返る。

 

 

 

ひっくり返った、零戦の腹の上を機銃が掠める。ビリビリと衝撃は来るが、命中した様子もない。

 

 

 

ロールの巻き終わりに近づき、天と地が戻りつつあるころに、機銃を撃ちかけてきた、F4Fが前に出てきて、咄嗟に銃把を握る。

 

 

 

轟音と共に機銃弾が出てきて、いくつか命中したが、致命傷にならなかったのか、そのまま飛び去ってしまった。

 

 

 

「くそっ!」

思わず、罵声が出る。

 

 

 

私は、何が何でも撃墜させねばという思いにかられていた。

 

 

 

ふと、左を見れば、陸攻に襲いかかろうとするF4Fが2機見えた。

その機体を目標に追随する。

 

 

 

F4Fは陸攻の旋回機銃を避けるために左右に揺れながら接近しており、そのロスをつけるかのように、後ろにつくことができた。

 

 

 

私は、陸攻に今にも襲いかかろうと見えたから、照準に入ったことをろくに確かめもせず。機銃を撃つ。

 

 

当然、機銃弾は2機の間を凪いだだけだが、2機いたF4Fの内、1機を慌てて離脱させることに成功させ、残った1機に対して、しっかりと照準を定めて、撃つ。

 

 

 

機銃弾は、左翼に集中命中し、エルロン、フラップといった、主翼の部品を吹き飛ばしながら、そのまま大きく弾け飛んだ。

 

 

一息をつく間もなく、また、別のF4Fが右からやってくる。私は、操縦桿を右に倒しながら、狙いをつけようとしたが、相手のほうが一足早かった。

 

 

 

両翼を発射炎で赤く染めながら、飛び出した機銃は私が先ほど救済出来たはずの陸攻に突き刺さった。

 

 

側面の機銃座のガラスが砕け、赤く染まるのが見えた。恐らく機銃座に就いていた人は戦死しただろう。だが、幸いなことに先ほどの陸攻のように火災は発生することはなかった。

 

 

先ほどのF4Fは、陸攻の腹の下を通り過ぎるつもりのようだ。

 

 

 

私が追いかけようとすると、別の方角から零戦がやってきて、鮮やかに撃墜させた。

 

 

 

その零戦はF4Fの上方を占めるや否や、たった1連射でパイロットに直撃させたのだ。

撃墜された敵機は錐もみしながら墜ちていく。

 

 

 

私は、その鮮やかさに思わず見とれていた。

 

 

 

 

その零戦が横並びになった時に、平賀1飛曹だと分かって、あの鮮やかな撃墜を納得できた。

 

 

 

平賀が手振りで離脱しましょうと合図するのが見えた。

 

 

 

私はその時になって、いつの間にか敵機動部隊の間近まで接近していたことに気づかなかった。

 

 

 

魚雷を抱えた陸攻が低空、爆弾を抱えた陸攻・艦爆が上へと、移動するの見えた。

 

 

 

私はそれを見ながら、大きく手を振りかぶった。

―――頑張れよと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸攻と艦爆は、敵の直掩隊との戦闘で陸攻が4機、艦爆が1機と被害が出たが、零戦達の奮闘により、26機も墜とすことができた。

 

 

 

 

この日の出撃に先立って、魚雷を抱えた陸攻が21機・80番爆弾を抱えた陸攻が12機であった。それぞれ2機ずつが、先ほどの戦闘機によって落とされてしまった。

 

 

 

第一次攻撃隊による敵空母の攻撃は苛烈に極まった。

 

 

敵機動部隊は大型空母2隻を基幹とする大艦隊であった。

 

 

雷撃の為に低く這う陸攻に先立って、艦爆が先に急降下する。空母を守らんとする、周囲の対空砲火により、3機がバラバラに砕け散ったが、残りは、爆弾を投下する。

 

 

5発のうち、3発は外れたが、2発とも空母の1隻に命中することができた。うっすらと火災を上げる空母に陸攻が突撃する。

 

 

低空を這う陸攻に熾烈な対空砲火が舞い上がる。図体の大きな機体であるために、何機かが火を噴きあげて落ちるが、それでも残った機体は魚雷を投下することができた。

 

 

その場にいた、日本軍の誰もが当たれと念じたが、無傷の空母は残念ながら外してしまった。しかし、もう1隻のほうは2本命中することができた。

 

 

舷側に高々と舞い上がる水柱に歓喜の声を上げる。

 

 

 

最後に80番爆弾を抱えた水平爆撃であった。そこで無傷の空母へと思ったが、確実性を持って、損傷を負っている空母へと攻撃を開始した。

 

 

ここでも対空砲火により2機が落とされたが、残った機体は全機投下する事に成功した。

 

 

落下した爆弾は空母の周囲に6本の水柱を上げ、2発命中させることに成功する。命中させた空母は大きな火柱を上げ、どす黒い黒煙を巻き上げながら大きく傾いていった。

 

 

撃沈確実に誰もが歓喜の声をあげ、涙を流した。

 

 

その後に復讐心に燃えるF4Fにより2機落とされ、その後はまっしぐらにガダルカナルへと帰還した。

 

 

 

こうして、第一次攻撃隊は空母1隻に撃沈確実と思われる戦果をあげたが、犠牲も大きかった。

 

直掩隊として行動した零戦は36機中3機だけしか落ちなかったが、攻撃隊の被害は甚大なものであった。

 

 

特に、雷撃した陸攻21機中15機が落とされるという甚大な被害となった。

 

 

 

 

しかし、この日のガダルカナル島を巡る戦いは終わりの鐘は、まだ告げてはなかった。

 

 

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