アメリカ海軍は対日反攻作戦のために、ミッドウェー海戦を無傷で生還したエンタープライズとサラトガを中心に機動部隊を繰り出してきた。
本当は、8月上旬でも出撃することができたが、ミッドウェー海戦で多くの搭乗員が戦死及び戦線復帰ができなかった。
そのため、補充員の錬度を上げることが急務とされたため、8月中旬にまでずれ込む結果となった。
その結果、日本海軍の基地部隊の到着を許す結果となった。
また、アメリカ海軍にも油断はあった。エスピリットサントから飛行した偵察機の報告によれば、まだ基地航空隊が展開する前の状態を報告して来たため、相手は無戦力状態と信じ切っていた。
現実には、すでに基地航空隊が展開しており、しかも先制攻撃を受けた。
F4Fを42機直掩として上げたが、22機が撃墜され、3機が着艦後廃棄されるという大打撃を喰らい、更には大きくて目立ったであろうか、サラトガが集中攻撃を受けた。
サラトガはまず、ヴァルによる250kg爆弾の2発による被弾から始まった。これは飛行甲板に穴をあけただけで被害はなかったが、わずかに行き足が遅くなった。
そこを付けられたのか雷装したベティー(一式陸上攻撃)が突撃してきた。双発機ながら単発機並みの海面スレスレの低空飛行をしかけてきたが、図体の大きな機体だ。
全艦が両用砲・機銃を持って全力で阻止にかかる。ベティーは次々と撃墜していくが、臆した様子もなく突撃していく。
死を恐れぬその姿に機銃座にいた兵士は、
「クレイジー・・・。クレイジーだ・・・」
と呟き、魚雷を投雷し、飛行甲板ギリギリフライパスする姿を呆然と見送る他なかった。
比較的身軽なエンタープライズは魚雷をかわすことに成功するが、舵の鈍いサラトガは回避することができなかった。
魚雷は2本命中し、1本は中央部に命中し、機関部を半壊させ、もう1本は前部に命中する。
前部に命中した魚雷は多大な浸水を招いたが、二次的なことも招いた。すなわち、ガソリンタンクにひびが入り、気化したガソリンが漏れ出したことだ。
ここまでなら、ダメージコントロールさえすれば、助かっただろう。
だが、最後の水平爆撃隊がサラトガの命運を断き切った。
最後の水平爆撃機が投下した爆弾は1t爆弾であった。
投下した爆弾は8発であったが、そのうちが2発命中した。1発は前部に命中し上甲板を貫通させ、艦低部近くで起爆し、ガソリンを誘爆させる。もう1発は中央部に命中し、弾薬庫の近くで起爆させる。
どちらも、致命傷であった。
次の瞬間、サラトガは大爆発を起こし、火災がサラトガ全体を包みその場に大きな火の鳥が誕生したようにも見えた。周りの僚艦の将兵はこの様子を信じられない思いで見ていた。
サラトガはあちこちで誘爆をおこしながら数時間後には前部から静かに沈んでいった。
呆然とした彼らであったが、立ち直りは早かった。
炎上したサラトガに駆逐艦による救助艦をさし向け、エンタープライズは出撃準備をかける。
エンタープライズにいたパイロット達は、口々に「ジャップに復讐してやる!」「薄汚いイエローモンキーどもに俺たちを怒らせたらどうなるか思い知らせてやるぜ!」と怒鳴りあった。彼らの士気は高かった。
やがて、出撃準備の整った、F4FとSBDの混成部隊32機が出撃していった。
ギャギャッーーー!!
爆音と間高い金属音が飛行場に響き渡る。
1機の陸攻の脚部が出ず、胴体不時着した音だった。
「消火急げーー!」
「負傷者もいるぞ!早く担架を持ってこい!」
「ここでは、飛行作業の邪魔になる!片付けを急がせろ!」
と負傷者を救助する場面もあれば。
「急げ!燃料と弾薬の積み込みを完了させろ!」
「戦闘機が最優先だ!攻撃機は損傷が少ない機体から優先的に補給しろ!」
「馬鹿やろう!その部品じゃねえ!あっちの部品だ!早く持ってこい!」
1秒でも早く、戦闘準備完了させようと奮闘していた。
飛行場は整備士たちの戦場であった。
手空きの者も四方周囲を監視したり、対空機銃座について即座の奇襲にも対応できるようになっていた。
その様子を才人は離れた所から見ていた。そばには鈴木中尉がへたりこんだ状態でいた。
「鈴木中尉、大丈夫ですか?」
「はははっ・・・。情けねえよな。今頃になって恐怖がやって来ているんだぜ。足が震えて立てねえよ。」
鈴木中尉は先ほど命が狙われた所を思い出していた。あの弾が、どこかずれていたら自分がやられていた。戦闘中の意識はハイになっていたが、冷静になるとそれが恐怖となって帰ってくる。
陸攻から、体の一部がない負傷者や戦死者を降ろすところを見て、その思いはますます増加していた。
「平賀のような撃墜王はこの恐怖は分からないだろうな。」
どこか羨むような声で聞いてきた。
「・・・・・・・・。」
才人は黙って聞いていた。
やがて、口が開く。
「いえ、鈴木中尉。それは間違いです。」
「えっ?」
才人の言葉が意外だったのかきょとんとした声が帰ってくる
「俺も、死ぬのが怖いんです。自分よりもベテランパイロットたちが前日まで何事もなかったのに、突然ぽっかりと空いてしまったかのように、死んでいくのを何人も見たことがあります。」
そう言って、手を見つめる。
「俺は、本当は臆病者なのです。自身ありな態度を取っていますが、取らなければ、気が狂いそうな世界から帰れそうもないのです。だからこそ続けているのです。」
鈴木中尉は、しばし絶句した後に尋ねてくる。
「では、平賀。お前は、なぜ戦い続けれる?」
その質問に、才人は微笑を浮かべながら答える。
「仲間がいるからです。自分と同じように恐怖心と戦い続ける仲間がいると知っているから戦えるのです。貴方も一人じゃないのです。それに」
手を、拳に作り、前に出しながら
「俺は、待っている人がいるんです。泣かせてしまった彼女を。彼女との最後の思い出が、涙じゃ後味が悪い。彼女は、泣き顔なんて似合わない。笑顔のほうが似合っている。
だからこそ、俺は生きて帰り、迎えにいきたいです。彼女を笑顔にさせるためにも。」
鈴木中尉はその言葉の迫力に飲み込まれたのか無言になる。
お互いに言葉を交わさない。その空気は唐突に破られた。
甲高い、サイレンの音が響き渡る。全員一瞬止まったが、バッと一斉に走り出す。
才人も駆け出す。鈴木中尉も分けも分からない表情しながら走り出し、走りながら才人に尋ねる。
「何が起こったんだ!」
鳴り響いているのはサイレン。それを意味するのは一つでしかない。
「敵の空襲です!まわせーー!まわせーー!」
才人は走り出しながら、自分の機体へと駆け出す。機体にいた整備士にお礼を言いながら乗り込み発進準備に取り掛かる。
整備士も手伝いながら申告する
「平賀一飛曹!燃料と弾薬は満載です!ご無事で!」
「ありがとう!」
才人は、発進準備が完了したと判断し、大声を出す。
「チョーク外せ!」
整備士がチョークを外し、一目散に退避するのを確認し、滑走路へと向け、猛然とエンジンを掛ける。
ガダルカナルの上空には、急ぎ補給をした零戦2機とツラギから来た、零戦を水上機化させた2式水上戦闘機6機が上空直掩していた。
そこに、アメリカ海軍の艦載機が襲撃して来た。
数機が零戦と格闘しているのを尻目に飛行場へと殺到してきた。
すでに、零戦の大部分は発進に成功していたが、数機が滑走路で発進中だった。
F4Fは発進中の零戦の上空からかぶるように迫り、銃弾を撃つ。発進中の機体は一瞬で松明と化した。
SBDが猛然と急降下し、F4Fが機銃を撃つ。急造の対空機銃座から、機銃を放ってくるが、命中する様子もない。逆に銃撃によって破壊される始末だった。
飛行場の上空はアメリカの艦載機が乱舞していた。
しかし、その乱舞は長続きしなかった。十分に高度をとった零戦達が反撃してきたからだ。
雲からの一撃離脱を仕掛け、F4FやSBDを数機撃墜させると、猛烈な空中戦となった。
格闘戦は、やはり零戦が一日長あり、徐々に零戦が有利となり、不利と見たかアメリカ海軍の指揮官は撤退の信号を出しながら、撤退していた。
飛行場は、ひどい有様だった。1式陸攻の数機が被弾し、周囲の施設も銃撃でバラバラにされたのも多かった。機銃掃射により、人員に被害が続出した。
滑走路も多少穴だらけにされたが、かろうじて爆撃穴をよけながらの離着陸は可能だった。
これから日本海軍によるこの日最後の攻撃を仕掛けようとしていた。