零の飛空士   作:葛葉

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外伝  爆龍隊の長い一日 後編

 

『爆龍?ああ、実験十三試艦爆小隊のことですね。懐かしい響きですね。

 

私も艦爆の神様江草少佐と最新鋭艦爆小隊を率いる一員でしたから、鼻が高かったですね。

 

爆龍の由来ですか?ああ、それはですね、この機体を乗りこなしてから、ある日突然誰かがですね

 

「なあ、この機体は13試艦爆と呼ぶんやけど、なんとなく呼びにくく語呂が悪うないか?」

 

それは、他の隊員も同じ気持ちだったので、それじゃいっちょあだ名をつけようぜという話になりまして、ああでもないこうでもないと議論が交わされたんですよ。他の候補としては、金剛とか雪崩とか秋水とかありましたね。

 

すったもんだあげくに、艦爆の爆と、母艦であった蒼龍の龍から一字ずつ取って爆龍となったんですよね。

 

あの機体は名前に恥じない活躍を示してくれました。私も海戦を生き延びることができたのは、あの機体の性能のおかげだと思っちょります。

 

あの機体は、後に正式採用された際に彗星と名付けられたそうですが、私は爆龍のほうが勇ましくかっこ良いと思うんですよね』

 

 

元爆龍隊員 大野泰三3飛曹のインタビューより

 

 

 

 

 

 

ソロモンの制海・空権を懸けた南太平洋海戦が始まった。

 

ガダルカナル基地から204空の零戦隊が敵直掩隊のF4Fと空戦を行って大いに数を減らすと、そこに機動艦隊から出撃した攻撃隊が殺到した。

 

 

機動艦隊の一部には13試艦爆こと爆龍を率いた部隊があったが

従来の部隊に先立って、敵空母に強襲し、見事飛行甲板を破壊させるという

快挙を成し遂げ、高速で退避していった。

 

 

その隊員の一人に矢野1飛曹の姿があった。

 

 

 

 

「大野、無事か?」

 

「はい、大丈夫です。それにしても、アメさんの対空砲火は凄まじかったですね。

もし、乗機が爆龍でなかったら、お陀仏だったかもしれませんね。」

 

「ああ、今までの機体に乗っている、戦友たちが心配だな」

 

 

それ以後無言になった。

 

 

 

 

やがて、機動艦隊に到着していたが、出撃した時よりも様子が変わっていた。

 

 

まず、輪形陣が乱れており、旗艦の翔鶴が黒煙を上げていた。その周りを駆逐艦が忙しそうに走り回っていた。

 

 

どうやら、先ほどすれ違った敵攻撃隊がやった模様だ。

 

 

沈没する様子がないのは、不幸中の幸いか・・・。

 

 

 

やがて、スコールの中から現れた、蒼龍に着艦していく。まず、燃料に余裕のない者や負傷しているものから着艦し、江草少佐が最後に着艦された。

 

 

 

俺たちは、艦橋前で集合し、戦果のすり合わせをして、以下の戦果が判明した。

 

 

ヨークタウン型に5発命中、1機体当たり、大破確実が確実された。

 

撃墜された機体は、8番機と判明した。8番機は爆弾投下後、機首を起こし

水平飛行したところ、対空砲火で撃墜されたとのことだ。

 

 

また、それとは別に、殿の9番機が対空砲火により、機体がボロボロになっていて

よく帰ってこれたなという状態となっていた。

 

 

普通は海上投棄するのだが、試作機の頑丈さを調査する、貴重な実戦データ機ということで、そのまま格納庫へ仕舞われた。

 

 

俺たちは、江草少佐が、艦長に向かって報告をしている所を一部始終聞き終えると

食堂に行き、昼食をとる。

 

 

今は、戦闘状態であるので、おはぎしか無かったが、それでもありがたかった。

 

 

食堂には、午前中偵察に回された隊員がいて、俺たちを羨ましそうに見ていた。

 

 

 

俺たちは、あの激戦からの休息を取っていると、なにやら騒がしい声と共に、団員さんが食堂に入ってきた。

 

 

 

聞けば、翔鶴の搭乗員だったようで、母艦の翔鶴が被弾、離着不能になったことによって

蒼龍に降りたという。

 

 

 

そちらの、武勇伝はどうかと聞けば、敵直掩隊は、爆龍が引きつけたり、護衛の零戦隊の活躍によって、それほど大きな被害は出なかったが、やはりあの凄まじい対空砲火に被害がたくさん出たそうだ。

 

 

99式艦爆は、無傷の空母へと攻撃し、少なくとも3発命中するのが見えたという。

 

 

彼らは、艦攻乗りで、半数に分かれて、それぞれ攻撃しに行ったが、雷撃する前に撃墜された機体が多かったそうだ。

 

 

それでも、彼らは諦めることなく雷撃を敢行し、俺たちを攻撃した空母に

2本命中できたそうだ。

 

 

俺たちは、彼らの勇気に頭が下がる思いだった。

 

 

 

 

 

しばらく他愛もない話をしていると、放送が入った。

 

「爆龍搭乗員、艦橋前に集合」

 

 

その放送で、俺たちはすっと立ち上がると、ラッタルを駆け出す。

 

 

飛行甲板にはやはり、午前中と同じように、零戦と爆龍が並んでいたが

零戦の数は午前中より少なかった。

 

 

艦橋前に江草少佐が待ち構えており、俺たちの到着を持って口が開かれた。

 

 

「貴様ら、午前中の働きは見事だった。しかし、敵空母はまだ沈んでおらん。

疲れておるだろうが、もう一度出撃する。今度は全機、攻撃に参加する。

やられず帰って来い。以上解散!」

 

 

その言葉に、隊員たちは口々に「あの閻魔の釜にまた突っ込むのかよ」「敵さんもしぶといなあ」「いい加減沈んでくれへんかな」「今度は当てるぞ!」「俺は帰ったら結婚するんだ」などと口々に言い合った。

 

 

 

 

矢野も、ぶつくさ文句を言いながら、相棒の大野に問いかける。

 

「大野、2度目の出撃だが・・・・昼飯済んだか?」

 

「はい、大丈夫です!おなかが膨れるまで食べました!」

 

「ばーか、そんなに食ってるとおなか壊すぜ。調子は大丈夫だな、行くぞ!」

 

「了解であります!」

 

矢野はその返事に満足そうに頷くと、暖気運転をする自機に寄る。

 

 

矢野の爆龍は、午前中と変わり無く、力強くプロペラを回していた。

 

 

「矢野一飛曹!爆龍の整備完了です!主翼に少し開いた、穴を防いだ以外異常はありません!」

 

「ありがとう、いつも丁寧にやってくれて」

 

と返し、そのまま乗り組む。フットバー、操縦桿をいじっても然したる異常はなかった。

 

 

 

しばらく待っていると、発艦の刻が来た。

 

 

 

零戦11機と爆龍9機は、大空へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

周りには、瑞鶴から発艦した艦攻と零戦に囲まれながら進撃していた。

 

 

艦攻は、魚雷が間に合わず、爆装していた。

 

 

 

俺たちは、どこからでも奇襲に対応できるように、辺り四方をぐるぐると見張りを行っていた。

 

 

所々、雲は浮かんでいるものの敵機の姿はない。

 

 

 

やがて、敵艦隊がいると思われる、海域に到着したが、敵機の姿が見られない。

 

 

 

しばらく警戒しながら進むと、前方に黒煙が見えた。

 

 

その煙に向かって進むと、1隻の空母が火災を起こしながら、傾いていた。

 

 

 

更に、周りには護衛艦すらなかった。

 

 

 

 

その状況に誰もが困惑し、指揮官である江草少佐の指示を求める

 

 

 

「隊長!どうしますか?」

 

 

 

しばらくして、返答があった。

 

 

 

「この辺りに、ほかの空母がいるはずだ。全員散らばって探せ」

 

 

 

その命令と共に、散らばって探すが、ほかの艦艇の姿すらない。

 

 

探し尽くしたところで、先ほどの場所に戻り、集合する。そして、江草少佐からの命令が来た。

 

 

「あの空母は、間もなく沈むかもしれないが、万が一助かって、曳航されたら厄介だ。

杞憂をなくすためにも、あの空母を沈める!」

 

 

 

その命令と共に、爆龍は、単縦陣を取り、1機ずつ急降下する。

 

 

自分の番が来る。

 

 

 

「大野、今度も頼む!」

「はい!高度5000・・・・」

 

 

機首を空母に向ける。午前中の激しい対空砲火が嘘のように、ぐんぐん急降下する。

 

 

 

「4000・・・・・3500・・・・3000・・・・」

 

 

大野もそれが分かっているのか、軽い調子だった。

 

 

 

と、江草少佐の爆弾が投下された。やはり、艦中央部に命中し、爆炎を上げる。

 

 

2番機も同じように命中する。

 

 

 

 

そして高度が細刻なみになる。

 

 

 

「1200・・・1050・・・・900・・・」

「よーーーい・・・・」

 

 

投下レバーを握る。

 

 

 

「750・・・600・・・「てーーーーっ」」

 

 

投下レバーを引くと同時に、操縦桿を引く。

 

 

 

午前中と同じ様に、ブラックアウトするが、今度は大丈夫だ。

 

 

そして、報告が来た。

 

「命中!艦後方部に命中しました」

 

 

みれば、やはり、艦後方が燃えていた。

 

 

 

しばらく、旋回しながら、他の隊員たちが投下する様を見る。

 

 

やはり、ベテランたちが集められた部隊であるのか、爆弾は面白いように次々と命中し、最後の1機が惜しくも外した所で、なんと9機中8機が命中するという脅威の命中力を

あげることができた。

 

 

 

そして、最後に艦攻が水平爆撃して、2発命中する。

 

 

その攻撃が止めだったのか、空母は先ほどよりも大きく傾斜し、水泡をかき立てながら

ゆっくりと、後部から沈み始め、やがてその艦影が消えるのはそれほど時間が

かからなかった。

 

 

 

矢野達は、その空母の最後の様子を上空で旋回しながら、見続ける・・・・。

 

 

敬礼しながら見届ける・・・・・。

 

 

その艦影が没した後、最後の火柱が立ったところで、江草少佐からの電話が入った。

 

 

「これより全機、帰投する」

 

 

簡素な命令。だが、いろんな思いが詰まった命令に、誰も言わず江草少佐の後に続ける。

 

 

 

 

南太平洋海戦は、日本軍の勝利に終わった。

 

沈めた空母は、後にエンタープライズと判明した。もう1隻の空母ホーネットは

艦載機により、爆弾4発、魚雷3発命中するも、修理中に行った、水雷防御向上が効して真珠湾に帰ることができた。

 

 

また、日本軍もまた、翔鶴が被弾していて、他にも数隻、駆逐艦や巡洋艦に被害が出ていたが沈んだ船はなかった。

 

 

しかし、本当の被害は乗せるべき艦載機にあった。被害が少なかった爆龍を除くと、他の艦載機は多大な被害をこうむっており、出撃した99式艦爆の60パーセントが未帰還

となる大被害をこうむっていた。

 

 

これは、予想以上に多かった直掩と対空砲火が凄まじかった事が被害を大きくしたものと思われる。

 

 

真珠湾の英雄たちの多くが帰ってこなかった・・・・。

 

 

 

こうして、日本海軍は機動艦隊に再建を目指さなければならなかった。

 

 

 

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