零の飛空士   作:葛葉

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霞ヶ浦飛行場

 

数日後、才人は予科練の一つである、霞ヶ浦飛行場に来ていた。

今日試験を受けるというのだ。

 

 

本来ならば、第一次の学科試験、第二次の身体検査をしなければいけないのだが、昭三はどうやったのか、

それらの試験を受けることなく、いきなり本試験へと挑むのだった。

 

後に才人はこの事を聞くと、昭三は“ニヤリと”笑うだけなので、怖くて聞けなかった。

 

 

閑話休題

 

 

才人の帰還計画の一環である海軍航空隊入隊であるが、霞ヶ浦航空隊は全国から

第一次・第二次の試験を経て、集めただけあって屈強な者たちが多くいた。

 

彼らは、これからの先の事をしのばせているであろう希望にあふれた顔をしていた。

 

 

――俺でも採用する事が出来るのだろうか?

才人は不安に思った。

 

 

――しかし、俺にも目的がある。ルイズの下に戻るという目的が。

その為には絶対合格しなければと決意を新たにした。

 

と、不意に才人は誰かとついぶつかってしまった。

 

「あっすいません。」

「いや、こちらこそ。」

才人と青年は互いに謝っていた。

 

 

「いや、こっちもちゃんと周りを見ていなくて。」

「いやいや、俺もきちんと見ていなかったからな。」

「いや、俺がわ「よそう、いつまでも同じ事をするのはやめよう。

ところで、君も予科練受けに来たのか。」

青年は言った。

 

 

「ああ、俺は絶対受かると信じているぞ。」

「どこから来るんだ。その根拠のない自信は?」

青年は呆れ気味に言った。

 

 

 

ふと、才人は名前をまだ聞いていない事を思い出した。

 

 

 

「ところで、君の名前を教えてくれないか?俺の名前は平賀才人だよ。」

そういって、お辞儀する。

 

 

 

 

 

 

「おお、そういえばまだ、名前を聞いていなかったな。俺の名前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に才人はこの時の出会いを後にも先にも驚いた事はないと、手記に書いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐々木武雄だ。よろしく平賀。」

 

 

才人は、シエスタの祖祖父である、佐々木武雄に出会ってしまった。

 

本来ならば、出会わなかったであろう2人であるが、この世界では出会ってしまった。

未来から来た才人と将来異世界に行く武雄の出会いは何を意味するのか誰にも分らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんな事があり、翌日から様々な身体検査を受けた。厳しい検査が多かったが、才人はつつがなく検査を通過してきた。

 

 

才人は、視力検査を終えて、次の検査へと移動中にもうすでに終わった肺活量の検査で何度もやり直す青年を目撃した。

 

――なんだ、肺活量の規格が足りないのか可哀そうだが、あいつは落第だな。

 

 

才人は気にも止めずに移動して行った。

 

だが、この時の落第するであろう青年は後の日本を代表するエースになろうとは、居なくなった才人は知らない。

 

 

 

 

翌日の適性検査も難なく合格する事が出来た。こうして、100人以上が集まっただろう飛行適性者の内、80人が選抜された。

 

 

 

 

才人は周りを見回した。佐々木は当然合格しており、様々な青年たちがいた。

以外にも思ったのは、昨日肺活量の処に居た青年が合格していた事であった。

 

 

――これが、俺達と闘う仲間たちか。

才人は感慨深げに呟いた。

 

 

合格する事が出来た才人たちは残る空中適性検査のため、霞ヶ浦航空隊友部分遣隊に移動するためトラックに乗り

30キロかけて移動した。

 

 

 

才人たちは、ここで初歩練習機の教程を受けることとなっていた。

 

 

 

「いやー平賀、本当に受かっていて俺も心強いよ。」

「お前も受かっていてよかったな。」

初日に意気投合した佐々木と才人であった。

 

 

 

 

 

「これで、飛行機に乗れるな。」

「試験にへまをかまして、落ちるなよ佐々木。」

「お前もな平賀。」

こう言い合った後、2人は可笑しくて大声出して笑い合ってしまった。

 

 

 

 

 

ようやく着いた飛行場で降りて、兵舎に入っていく才人たち。そこに教官たちの説明があり、飛行服まで用意されていた。

 

 

「もしもサイズの合わないものがあったら、遠慮なく申し出るように・・・」

 

 

これには才人にはありがたかった。なぜなら才人の身長172センチは今の日本(2009年)では普通であると思うが

この当時の日本人にしてみたら長身に入るのだった。この当時の日本人の平均身長は155センチぐらいなのである。

 

 

もちろん、皆が低かったわけではない。零戦のパイロットを代表する西沢氏などは180センチもあったという。

 

 

 

 

とにかく、才人は最初の飛行服は皆小さかったので、これを大きめに取り替えてくれた。

才人たちは皆、飛行服で身を固め飛行場を見学し、簡単な飛行機の操縦座学を受け、その夜は、床に入った。

 

 

 

 

後に、興奮してなかなか寝つけれなかったと懐古する多くのパイロットがいたが

才人はそんなことかまいなしに、スッと寝ていた。

 

 

 

翌日、才人たちは飛行服に着替えて隊伍を組んで、駆け足で飛行場へ向かった。

 

 

飛行場にはすでに、練習機が運ばれており、列線を作っていた。

練習機は三式初歩練習機であった。

 

 

 

分隊長小林大尉の指揮によって、テストが開始された。練習生予定者は順番にしたがって

指定された練習機の後席に乗って、次々と離陸して行った。上空でテストが行われているであろうか

今まで直進した練習機が、突然ふらついたり、旋回したりと様々な事があった。

 

終わった仲間たちも誰もが、芝生の上に倒れこんだ。

 

 

 

「次、平賀操縦練習予定生!」

 

 

いよいよ才人の番がきた。

 

 

しっかりとした足取りで練習機の後席に乗り、整備員が、腰バンド、肩バンドを締めていく。

前席と後席をつなぐ伝声管が連結する。やがて、エンジン始動が駆けられた。

 

 

零戦と比べれば小さいものの心地よい爆音であった。

 

 

 

――ああ、やはり飛行機はいいものだ。

ガンダルーヴによって次々と入ってくる情報を捌きながら、心の片隅はそう思う。

 

 

 

やがて、その時が来た

 

「出発する!」

伝声管から伝わる教官の声、機体はゴトゴトと前に進み

やがて出発地点に到着した。

 

 

 

「これより、離陸する!操縦装置は絶対触るな!」

伝声管から大きな声。一拍置いてエンジンの音が大きくなったかと思うと、機体はスピードを上げて滑走していく。

 

才人は、興奮する事もなく冷静に見ており、やがて、フワッとした感覚がしたと同時に練習機は空へと上昇して行った。

 

 

「いま100メートル・・・・・いま200メートル・・・・・いま300メートル・・・・。」

伝声管から教官の落ち着いた説明。

 

 

 

「いま400メートル・・・・・・いま高度は何メートルか?」

教官から質問が来た。

 

 

 

普通のパイロットなら初飛行で何が何やらといった状態で、大抵は慌てるものである。

 

しかし、才人は落ちついていたので、

「600メートルです。」

すぐに、答える事が出来た。

 

 

 

やがて、高度計が800メートルを指したところで、水平飛行に入ったのが分かった。

「手足を操縦装置に添えろ!」

教官からの指示だ。

 

 

 

才人は手足を操縦装置に添えながらも、次の指示を待った。

「これが水平飛行の姿勢だ。よく、覚えとけ!」

操縦棹とフットバーが微妙に修正されているのがよく分かった。数十秒が経った。

 

 

「教官が手足を離すから、一人で水平飛行をやってみろ!」

教官の新たな指示が来た。

 

 

突然、操縦棹が軽くなったのを感じた。教官が手足を離したのである。

 

才人は、ぐらつかない様に微妙に舵を取りながら飛行して行く。才人の練習機はほぼ、真っ直ぐに飛んでいた。

 

 

 

「よーし、はなせー!」

教官からの指示だ。才人はふうっと、息づきながらも手足を離した。

ガンダルーヴのルーンが見えるからといって

力は使えないと思っていたのである。

 

 

「貴様、少しやった事があるんじゃないのか?」

教官からの質問だ。

 

 

才人は、少しドキッとした。本当のことは言えないので

「いえ、ありません!」

と言うほかなかった。

 

 

「そうか、それにしてもうまかったぞ。まるで、飛んだ事があるかのようだったぞ。」

才人は冷や汗で一杯一杯だった。

 

 

 

こうして、この世界の初飛行を終えて、着陸した時仲間たちは揃いも揃って俺の顔を見て唖然としていた。

 

なぜなら、彼らは皆真っ直ぐに水平飛行が出来なかったのに、才人は綺麗に飛んだのである。

 

 

 

才人は居心地が悪そうに離れて座った。そこに同じ頃に飛び終わった佐々木も腰かけてきた。

 

 

 

「平賀、俺ちゃんと質問に答えれたり操縦できたかな?」

「何だよそんなに自信がないのかよ?」

「ああ、自信がない。もうだめだ。」

というと頭を抱えた。才人は言う言葉がなく、その日は終わった。

 

 

 

 

 

 

一週間が経った。緩旋回、教官だけの特殊飛行などと様々な空中テストを受けて、いよいよ最後の「断」を下す日が来た。

 

 

 

才人は落ち着き払っていたが、隣に座っていた佐々木はこの世の終わりが来たような顔をしていた。

「もうだめだー、俺は絶対受からないー。」

 

 

才人はもはや掛ける言葉はなかった。

 

 

 

次々に名前が、呼ばれる。呼ばれた者は「はいっ!」と返事して、指定された場所に移動していく。

 

 

才人は未だ呼ばれていなかった。これには才人も焦り、まだか、まだか、と不安になってきた。やがて、「以上!」という言葉が掛ってきた。

 

 

才人はとうとう呼ばれなかった。佐々木も呼ばれなかった。

 

 

 

――俺は駄目だったのか?

 

 

才人たち呼ばれなかった者たちも、重たい足取りで指定された場所に移動する。

 

 

一瞬水を打ったかのように静かになった。

 

 

次の瞬間意外な事が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いま、呼ばれた者は、残念ながら適性検査に合格しなかった者である。」

 

 

 

 

才人は耳を疑った。

――俺の聞き間違いじゃ。

 

 

 

聞き間違いではなかった。今、名前を呼ばれた連中たちの顔色が変わった。

唖ぜんするもの、青ざめるもの、うなだれて目に涙を浮かべるものと様々であった。

 

 

一方、合格とされた才人たちは喜びの声は上がらなかった。ここまで一緒に来た友の悲運に対する同情が強かったのである。

 

 

 

こうして、才人は予科練に入隊する事が出来た。しかし、予想もしなかった出会いは後に何をもたらすのか才人自身も分からなかった。

 

 

 

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