――――昭和18年5月
才人は、南方へと航空機を輸送する大鷹に便乗していた。
大鷹は戦前に決戦海戦での正規空母の補完のために、海軍が何割か支援金を出す代わりに、いざという時に空母へと改造してもいいという、補助空母であった。
大鷹は春日丸という客船で、戦前に改造を終えており、第一艦隊に配属された。
しばらくは春日丸の艦名であったが、ミッドウェー海戦での敗戦で
軍艦籍へと編入されて、大鷹へと改名された。
同級艦としては、沖鷹・運鷹などがある。
この時期には、南方で急増する航空機の損害を補充するために航空機輸送の
任務に就いていた。
大鷹は飛行甲板ぎりぎりまで、フルに積もうと思ったら、50機近く積むことができた。
なお、これらの補助空母たちは、ラバウル撤退までに陸海軍機合わせて
実に2千機近くも運び出されており、彼女たちの戦功を大いに評価してもいいだろう。
なお、運び出される機材は、零戦22型と33型であった。
零戦33型は、数奇な運命にあった機体であった。
―――――昭和15年
零戦21型の設計を終えた三菱の設計者たちや、上層部は零戦の改良計画に入っていた。
当初は、2号零戦と呼ばれ、後に零戦32型と呼ばれた機体であった。
大まかな改良点は、御覧の通りだった。
1、 空母の運用や速度向上を狙って、翼端を50センチずつ切り落とす。
2、 推力単排気管をやめて、集合排気管に戻す。
3、 栄21型に換装する。
1は、空母のエレベータでの制限をなくすため、折り畳み翼を切り落としたもので
抵抗軽減による速度向上やロール率の改善を狙った。
2は、推力単排気管は、確かに速度向上したが、成形技術の未熟により、胴体塗料やタイヤのゴムが熔けるという、事故が多発したため集合排気管に戻された。
栄21型の換装や翼端成形によって、損失分は補えると考えられた。
このように、大きな期待をかけられた、零戦32型であった。
ロール率は大いに改善され、上昇能力は上がった
しかし、肝心の速度はさほど変わらず、格闘能力は低下し航続距離も大きく減った。
設計陣は、多大な努力をしたが、なかなか改善できず、
成形技術の進歩により、零戦21型に栄21型を換装した零戦22型が後から飛行し
この性能に上層部が気に入られ、開発中止お蔵入りした。
そのまま、陽の目を見ないまま、忘れ去られると思われたがガダルカナルが
彼女の運命を変えた。
ガダルカナルでは、少しでも長い航続距離や格闘能力よりも、1秒でも早くたどり着ける速度と上昇能力を重視する局戦能力が求められていた。
当時の海軍機の試作機状況は、一四試局戦は三菱から川西へと移されていたが
未だに戦力化されておらず、三菱の一七試艦戦はまだ、基礎設計段階。
焦る上層部に陸軍に頭を下げねばならないのかと、悩んだところ零戦32型を思い出した。
翼端を切り落とした零戦32型は、速度を重視する局戦にうてつけではないかと考えられ、改良設計を空技廠に求められた。
更に3か月以内に戦力化させることという、無茶な要求も出された。
空技廠の設計陣は、海軍の要求に悩み、悩みぬき、一つの英断を出した。
速度性能を向上させるために、金星54型に換装させると共に、
設計時間を短縮するために、愛知で飛行試験中だった99式艦爆22型の機首を
そのまま零戦32型の機首へと持ってきた。
もちろん反対意見も多かったが、そのまま押し通し、昭和17年11月には初飛行した。
とにかく性能を見るため、初号機はそのまま換装したため、空力の無駄が多かったが性能は
素晴らしかった。
高度6千メートルにおいて、最大速度552kmを発揮し上昇能力も6千メートルまで
6分30秒を切る上昇能力を発揮した。
この性能は、機首や胴体の空力改善や推力単排気気管によって、最大速度568kmまで上昇した。
航続距離性能はかなり低くなったが、局戦として求められたため
必要犠牲と割り切られた。
むしろ、搭載する燃料が減ったため、間接防御能力は向上したのは
設計陣の嬉しい誤算であろう。
また、機首が太くなったことで、胴体銃は廃止され翼内に搭載することになったが
機首設計を急いだため、極最初期にはガンポッド式に収められ
翼に20ミリ機銃・ガンポッドに15ミリ機銃が収められたが
後に15ミリ機銃を翼内に収めた甲型、15ミリ機銃を20ミリ機銃に換装した乙型、
内側にあった20ミリ機銃を30ミリ機銃に換装した丙型などが登場した。
彼らの最大限の努力が払われ、昭和17年12月に採用されたがガダルカナルには
間に合わなかった。
しかし、ラバウルでの迎撃戦が多くなっており、ラバウルで運用される運びとなった。
なお、格闘能力が低いという理由で採用するのを反対した某大佐がいたが、彼の意見は誰もが無視した。
才人は、ホケーッと目の前に広がる海を見ていた。
海は、広々としていて、時折イルカが跳ねていてのどかな光景だった。
だが、この海域は敵潜水艦が紛れ込んでいて、今にも雷撃されるのではないかと
乗組員たちはぴりぴりとしていて、あちこちで見張りをしていた。
もちろん、才人も見張りをしている人の一人であるが、それほどやる気を出さず
イルカを眺めていてはあることを考えていた。
――――俺はこの空にまた戻ってきたか・・・・。俺は生きて帰れるのだろうか・・・
才人は、負傷した様子を思い出したのか、頬と左手の古傷が疼くのを感じた。
――――何くそ、俺はルイズに生きて帰ると誓ったじゃないか。あの空で
才人は新たな決意を胸に刻み、前を見つめるのだった・・・・・。
余談 佐々木は急ぐという理由で空路で移動させられて、スコールに連続で遭遇するなど天候不順に多大な苦労をしていた。