昭和13年初夏
あれから才人はガンダルーヴの力に頼らず自分の力でできることをやろうと決意し、仲間との研究や先輩たちの体験談を今まで以上に真剣に聞きやっていた。
――あのめんどくさがりの平賀が真剣にやっている。何があったのだ?
これが、先輩・仲間の感想であった。
そう、才人は仲間たちとは一歩離れたところに居たのである。これは、才人の目的の事もあるが、自分が未来人であるという意識があったため、何となく混ざりにくかったのである。
今回の敗北で歩み寄ったかと思えば、完全に混ざりきれなく、一匹狼の様な雰囲気が出来て、のちにエースの由来となる。
また、空戦練習も、極力ガンダルーヴの力に頼るなと自己暗示し、訓練に挑んだ。
「最初にあった巧さは消えたが、今の平賀は憑きものが落ちたかのように、最初になかったモノを持っている。」
これは後に空戦練習相手となった。黒岩一空曹の言葉であった。
こうして、才人は延長教育を終え三空曹として任命され、大村空、高雄空を経て、中国で作戦中の第12航空隊に配属された。ここまでに来る間、仲間たちはバラバラになり、才人と共に来たのは3人であった。
「坂井、頑張って初陣しようぜ!」
「ああ、お前も一緒にだぜ!」
坂井は才人と共に12航空隊に配属されていた。
「しかし・・・・。いらんな・・・・。」
「ああ・・・・。いらんな・・・・。」
その言葉と共に横に振り向いた。そこにいたのは
「うるせー!俺をいらん扱いすんな!」
佐々木であった。
そう、才人と坂井だけでなく佐々木も配属されたのである。前述した大村空や高雄空も共に配属されたので、これも腐れ縁と言うべきだろう。
「まあまあ、そんなにクサるなよ佐々木。」
そう佐々木を宥めたのが、高雄空から来た宮崎儀太郎三空曹であった。
「ぐぐっ、しかし・・・。」
「そんなに悔しいなら実績を上げたら、あいつらも認めてくれるだろうよ。幸いにもここは前線だしな。」
これは高雄空から見慣れた光景だった。
数日後、才人たちは何回か出撃したが、空戦の機会がなく基地哨戒か地上銃撃だけであった。これには戦地であるが古参兵たちが敵を消耗させたからであった。
ある日の午後だった。分隊長荒井大尉が指揮所の黒板に何かを書いていた。その様子にあちこち散らばっていた搭乗員たちが集まってきた。才人たちもその一人である。
漢口空襲搭乗割 黒板にはそう書かれており、続けて指揮官荒井大尉 二番機は古参の搭乗員が書かれ 3番機に坂井の名前が書かれた。
「やったな坂井、空戦できるぞ!」
「ああ・・待て、まだ名前が書いているぞ。」
その後つらつらと書き第4小隊の3番機に平賀が記された。
「平賀、お前もいけるぞ!」
「ああ、今度こそ敵にあって初陣飾ろうぜ!」
才人は互いに励ましあった。なお、宮崎と佐々木は今回の搭乗割は外れた。
才人の搭乗機は96式艦戦であった。
96式艦上戦闘機は海軍初の全金属単葉戦闘機で、ほぼ同時期に設計・採用された96式陸上攻撃機と並んで、欧米各国の模倣を脱して、日本独自の設計思想の下制作された最初の機体であった。また、艦上機でありながら、陸上戦闘機と同等以上の性能を有りする機体となった。後の零戦の設計技師にもなった堀越技師いわく快心の作であったという。
出撃する機は才人と坂井を入れて15機であった。1小隊に3機ずつ編体し、進撃する。やがて、漢口の上空にやってきた。才人は訓練通りに機銃に弾丸を装填する。飛行場が見えてきた。飛行場の上には機体がない。空中退避していなくなったのであろうか?
ふと、才人はある方向から何かを感じ取った。
――何だ?この感じは
才人は疑問を感じた瞬間
先頭の指揮官がバンクを振り、大きく右に旋回して行くと同時に増槽を落としていった。もちろん才人も増槽を落とすと同時に右へと旋回した。それは先ほど才人が違和感を感じ取った方向であった。すると、向こうから20機ほどの敵がやってくるのが見えた。
――敵?
才人はドラゴンと空戦した事があるとはいえ、飛行機とドラゴンではもともと同じ土台にいるわけではないので、実戦をしたことにはならない。実質上、初空戦となるのだ。
――落ちつけ・・・。落ち着け・・・。あの時と違って、みんな俺と同じ土俵に居る。敵も同じ数だ。
才人の脳裏に浮かべるのは、アルビオン上空での囮作戦だ。ルイズの虚無の魔法の一つであるイリュージョンを発動させるためにルネたちと共に飛行した事がある。そこに待ち構えていたのは無数のアルビオンのドラゴン騎士だった。ルネたちは才人が乗る零戦を逃すために文字通り肉壁となり全滅した。
後日、テファの治療によりルネたちは全員生還したが、才人にとってあの出来事は数多くあるトラウマの一つだった。
――もう、あんな思いをしないためにも、もう仲間をやらせはしない!
才人がそう決意すると同時に敵機が突っ込み、味方が散開するのと同時だった。
才人がフットバーを蹴り、横滑りをすると同時に操縦棹を引き旋回する。その一瞬火線が通り過ぎた。才人は大きく旋回しやり過ごす。その後にずんぐりした敵が通り過ぎる。才人は敵機を見極める事が出来た。それはソ連製のイ―16であった。
すかさず、才人に機銃を放った敵機を追跡する。敵は水平飛行したが、才人を認めるとすかさず反攻し、旋回しようとする、もちろん才人も旋回する。
どれほど旋回しただろう5回?10回?いやそれよりも多くぐるぐると回ったに違いない。そう思わせるほどの旋回であり、実戦の空気は重たかった。
――まだ・・・。まだ!俺はできる!
才人は歯を食いしばっていた。
やがて、競り勝ったのは才人であった。敵が耐えきれずに敵が水平飛行して離脱しようとする。その隙を逃さず自機も水平飛行し、距離を詰める。
――これが、俺が落とす機体か。
望遠鏡を覗きながらつぶやく。望遠鏡には敵機と完璧に軸が合い、敵機ははみ出さんばかりであった。
――悪く思うなよ。
機銃の把柄を握り機銃を放つ。最初の1連射は外れた。だが、もう1連射は敵に当たり、敵は黒煙を上げつつ落ちていく。才人はそれを見送る。
才人はハッとして周りを見渡した。1対1の時はともかく、今は空中戦である。それに推定とはいえ5機ほど敵は多かったのである。才人たちが1機ずつ相手していれば、5機余るのは道理である。
案の定であった。才人の後ろにイ―16があり、距離は近かった。
――どうする?ここで終わるのか?
才人の脳裏に様々な事が走馬頭の様に流れる。
――サイト・・・。死んじゃ・・・。駄目だから・・・。
ルイズの声が聞こえたような気がした。
――ここで・・・。ここで・・・!死んでたまるかー!
才人には見えなかったが左手のルーンが力強く輝いた。
――東洋鬼めこれでおしまいだ。
イ―16を操るパイロットはそう嘲笑った。
――中国の空は俺達の物だと教えてやる。
彼は敵機を照準に入れて機銃を放そうとした。
「なに!?」
放そうとした瞬間敵機の姿がかき消えた。
「いかん!平賀があぶない!」
彼は後悔していた。いかに敵機が突っ込んだとはいえ3番機の平賀を見失うなんて、なんて無様な!彼は目の前にフラフラとやってきた、敵を1機落としつつ平賀を捜していた。
やがて、平賀を見つける事が出来た。後ろに敵機が付いていた状態で。
――このままでは間に合わない!
彼はそう思いつつ、その敵機を落とすために機動しようと瞬間
「何だー!ありゃ?」
平賀は信じられない機動をした。
「あああああ
才人は敵機の後ろに付ける事が出来た。
あああああ
どうやってできたかは分からない。
あああああ」
ただ、分かる事は敵機を落とせる事であった。望遠鏡をのぞく必要なんてなかった。それほど敵機と近かった。把柄を握った。折れるほど、強く握った。弾丸が次々と敵機に当たるのが見えた。やがて、敵機が火炎を上げるのが見えた。敵機は錐もみつつ落ちてゆく。その時になってようやく落ち着く事が出来た。
「フゥ・・・ハァ・・・・。」
短いだが、長い空戦であった。
――俺は・・・。今・・・何を・・・?
才人がどう操縦したかは覚えていなかった。ただ、分かるのは才人の機体が機首を大仰角にもってきて高速失速させて、敵機が通り過ぎた後に水平に持ってきただけだった。
才人が茫然としていると96式艦戦がやってきて才人に大丈夫かと手信号をやる。
才人もハッと気づき大丈夫だと返信する。
周りを見渡した時、いつの間にか空戦が終わっており、来る前と同じような静けさがあった。ただ、空戦があった証拠に幾筋の黒煙があった。
――終わったのか?
才人が信じられない気持でいると、横にいる友軍機がついて来いとバンクする。
空戦を終えた96式艦戦が集まり編隊する。やがて、自分の基地へと帰っていく。奇跡的にも1機も被撃墜機はでなかった。
自分たちの基地が見えてきた。被弾した機体から順番に降り、指揮官が最後に着陸した。
帰還したパイロットたちが指揮所に集まり報告して行く。
今回の才人たちの出撃戦果は11機撃墜・4機不確実であった。
才人が撃墜した2機は司令部より公認とされた。坂井も1機撃墜しこれも公認とした。
司令部より初陣祝いとして、酒を一升褒美を出されたので、これを兵舎に持って帰ってみんなで飲むことにした。
「坂井やったな!」
「ああ、平賀の方がすごいよ。2機だって。」
「どうやって敵を落としたか教えろよ!」
才人と坂井と宮崎はワイワイと騒げていたが佐々木は
「ふん、俺はいらない扱いですよー。」
拗ねていた。
「まあまあ、次はお前の番だってよ。」
「そうそう、落とせば認めてくれるかも。」
「そうか・・・!俺が才人よりも多く落とせば俺を認めてくれるんだな!そうだろ!」
佐々木はそう言って振い上がる様子を才人たちはやれやれと見て、酒盛りの続きをやった。
後日、宮崎と佐々木も初陣を飾るも、宮崎が1機撃墜する事が出来たのに対し、佐々木は無駄弾を出した揚句、1機も落とせず、燃料も無駄に消費したので不時着寸前であった。