レミリア・スカーレット・・・・スカーレット家の現当主にして、強力な吸血鬼。そんな彼女は、己の屋敷『紅魔館』の吹き抜けホールを歩いていた。何をする訳でも無いが、すこし落ち着く一時。失敗を重ねながらも働く妖精メイド達を見ているだけでも、当主である彼女の心は、なんだか穏やかなものになる。
だけど、こうして少し時間があると、思い出す事もある。それは彼女の妹の事だ、最近はあまり騒ぎを起こしたとは聞かないが、それでもそうとう鬱憤は溜まっている筈だった。
「あの子、どうしてるかしら・・・」
少し様子でも見に行こうかな・・・?そう思った瞬間・・・・
「お姉様、あぶなああああぁぁぁい!」
「避けてくださいお嬢様あああああ!!」
頭上から、声が降り注いだ。
「へ?フラnへがっ!?」
その瞬間、なにかとてつもなく重い物が、レミリアの身体を押し潰した。踏まれたカエルのような声をあげ、床にめりこんだレミリア。
降って来たものの正体、それは巨大な・・・・鉄球だ。それから愛する妹。
「ふ、フラン!何をするの!?てかこの鉄球どこから・・・」
「死すべし!」
「ふが!?」
顔をあげたレミリアの、その形の良い顎を足蹴にしたフラン。続けざま、おまけとばかりに頭上で腕を交差させ、声とともに振り下ろした。
「我は呼ぶ破裂の姉妹!!」
ぐわっ———空気がひしゃげ、無差別な爆発がレミリアを中心としたあちこちで巻き起こる。石畳を砕き、床に穴を空け、柱をなぎ倒してやっと、それはなりを鎮めた。
ぼこっ 何かしら崩れる音がして、何かと思えば・・・・
「きゃああああああ!?」
鉄球によりひび割れた床に、先ほどの爆発、当然ながら床に穴があいた。そして鉄球の下敷きになっていたレミリアは、そのまま床下へ真っ逆さまである。紅魔館は地下室もいくつかあるため、そのうちの何処かへと落下したのだろう。
「お嬢様あああああッ!?」
フランと共に落下してきた銀髪の小悪魔は、主の親友が妹からうけた仕打ちに対し、悲痛な声をあげた。
「勝った!第三部完!」
「終わるかあああ!?終わらせませんよ絶対!これどうするんですか妹様ぁ!?」
「あははははははははは!!」
そして暗い地下室の片隅、鉄球の下敷きとなったレミリアの意識は、絞り出したかの様な一言によって締めくくられた。
「うちの妹が・・・ぶっ壊れました・・・・・」
第一話 〜しばらくそこで眠ってて!〜
「お嬢様ご無事ですか!・・・お嬢様?!」
騒ぎを聞きつけ、不幸なレミリアのもとに一人のメイドが駆けつけた。地下室の天井・・・・屋敷の床に空いた大穴から戸惑う事無く飛び降り、主の元に華麗に着地すると、意識の無い主を繰り返し呼んだ。
「・・・・はっ!?・・・・ああ、来たわねアリア。早くこのデカブツを退かしてちょうだい」
沈没した意識を引き上げ、眠りから覚めたレミリアは、眼前の己が従者を見てほっと一息つく。下敷きからまぬがれ、まだ自由な方の手でくいくいと己の背中を踏みつける鉄球を指すと、力持ちの従者に助けを求めた。
「イエス・ユア・マジェスティ!」
当然ながら、返答はイエスだ。なにしろこの従者、レミリアが「カラスは白いな」と言えば「はい、純白でございます」と即答するような忠犬である。そんな灰色の髪に焼け付く様なオレンジ色の瞳を持つ、大きな三つ編みが特徴の彼女は、前述の通り、実はとても力持ちだ。
「・・・・よいしょっ、と!」
重さ数トンに達するであろう巨大な鉄球を、まるで水バケツでも持ち上げるかの様な気安さで、軽々とその場から横に退かしてみせた。
陥没し、何本もの亀裂が入った床から這い出て、ホコリを払ったレミリア。これだけの衝撃を受けても尚骨折の一つもせず、服が破れるに留まっているあたり、流石は吸血鬼といえよう。
「はぁぁ〜・・・酷い目にあったわ。フランのやんちゃにも困ったものね」
「お嬢様、お召替えを」
「ええ、それから紅茶も淹れてちょうだい・・・なんだか疲れたわ」
「イエス・ユア・マジェスティ」
薄暗い地下室を後にし、自室へ向かうレミリアとアリア。破れた服を着替え、アリアの紅茶を飲みながらも、レミリアは頭を悩ませるのだった。
「繰り返すけど、妹がぶっ壊れたわ。どうしたらいいいのよコレ・・・」
ベランダの机の上、ゲンドウポーズをとるレミリアは、がっくりと、力なくうなだれた・・・。
当主瞑想中・・・
続いた・・・?嘘だろ。