読者の信用の無さに全俺が泣いた。
なんだよう………別に精神にぞわぞわきたりしないライトで心あたたまるおはなし書いたっていいじゃないか………。
え?シュールで心なまぬるい馬鹿話の間違い?
……………。
工廠。
妖精……艦娘同様よくわからないがなんかそれっぽいという理由で便宜上そう呼ばれている存在の力を借りて、艦娘の武器や支援装備、時には艦娘そのものを“作成”する場所である。
作業場なので内装に特段のこだわりなどなく、人間には使用法もさっぱりな変な形の作業用具がごろごろ転がっている、そんな空間。
故に基本的にそこに妖精以外で立ち寄るのは、業務上の理由でそこを利用する鎮守府の管理者か、よほどの物好きかぐらいである。
それだけに、その管理者と物好きが二人きりで話すには都合のいい空間だった。
別に聞かれて困る内緒話、ということではなく、一対一でやりたい真剣な相談という話だった。
そう持ちかけられた物好き―――兵装実験艦『夕張』は、別に拒む理由もなく、また普段お世話になっている“彼女”にそこまで信頼されているのかと思うとむしろ無性に嬉しくなるくらいだ。
そう――――、
「今日は皆さんに俺が鳳翔じゃなくて『鳳 翔(おおとり かける)』で、艦娘じゃなくて男で提督だって分かってもらう為に必要な方法を、ちゃんと考えたいと思います」
この鎮守府の管理者、『鳳翔』がそんな世迷言を言い出すのでなければ。
挨拶もそこそこに単刀直入に述べられたお題に、夕張は自らの灰銀の髪をまとめる若草色の大きなリボンを心なしか萎れさせながら、深く重い溜息をついた。
「……………、はあああぁぁぁ~~~~~~」
「ちょっと、なんですか夕張さんその溜息は!?心なしか誰よりも対応が酷いですよ!?」
「つきたくもなりますよもう。誰のせいですか」
眉をハの字にしながら詰ってくる『鳳翔』に、夕張は言ってはなんだが男らしい気迫も何も感じない。
それどころかじゃれつく妖精―――ステレオタイプな羽の生えたパステルでカラフルな幼女―――を抱きかかえてあやしながらなものだから、ぬいぐるみを放さない少女のような可憐さと母性に裏打ちされた安心感の二つが絶妙に混ざり合いながら前面に出ていて、和みそうなくらいだ。
ちなみに、『鳳翔』の胸元から妖精が『いじめる?ほーしょーいじめる?ゆーばりワルいヤツ?』などとむ~っと睨んできているのも、見ているだけで気持ちのいい仲のいい母娘か年の離れた姉妹そのものの光景だった。
ていうか当然ながら妖精にも『ほーしょー』扱いである。
「………夕張さんなら、って思って頼ったのに」
「拗ねないでくださいよ……」
やや顔を背けながら、横目でちょっとだけ睨んでくる。
そういうところまで妬ましいくらいに様になる女性の仕草をしておきながら何が男なのかと頭が痛くなるが、夕張ははっきりと言うべきことは言うと決めた。
「あのですね鳳翔さん。私だって鳳翔さんのこと好きですから、できることがあるなら協力したいです。でもこれは鳳翔さんの為に言います」
「な、なんですか?」
真剣さが伝わったのか、少し身構える『鳳翔』。
それを傷つけることになるかもしれないと思うと少し怖くなる。
だが、彼女ならいつか分かってくれると思うから―――、
「設定もいいところで自重しておかないと、熱が冷めて正気に戻った時に悶絶するくらい恥ずかしい思いしますよ?」
「俺の存在そのものが厨二病(くろれきし)扱いされた!?」
いや厨二病ですから、とは返さない。
空想してでも自分は他人と違う、と悦に浸るのが厨二病だから、厨二病に厨二と指摘するのは実際あまり意味のないことなのである。
個性、拠って立つ想い、自分らしく生きること。
それは、空想ではなく現実に見出さねばならないことだ。
それに気付くことが、成長(そつぎょう)するということなのだ。
(大丈夫、こんなに魅力溢れる鳳翔さんだから、いくらでも糸口はある筈………!!)
どこか明後日の方を向いた信頼感を、夕張は『鳳翔』に向けた。
それを、『鳳翔』は察してしまった。
というより、「あ、これダメなパターンだ」と既に学習してしまっている。
しかし、ここで諦めるくらいなら最初からこうして相談の場など設けていない。
だから、ただこうだと言い張るいつものやり方よりも、自分なりに考えた精一杯のやり方をまず訴えることにした。
とりあえず、名残惜しげにくっつく妖精にしばらく離れているように言い聞かせた後。
「―――――夕張さん」
「は、はいっ!」
す、っと精神を落ち着かせる。
空気を凜と張り詰め、双眸に力を込め。
“提督”として、己の信念を語る。
「俺は、俺の鎮守府の艦娘に一度だって嘘をついたことはありません。比喩抜きに、なんて甘えたことは言わない―――貴女達の心に嘘をついて、自分に恥じるようなことも、決してしない。それが俺の、覚悟です」
「………知ってます」
知らない、などと夕張は口が裂けても言えなかった。
そうですか、なんて生返事は以ての外だ。
鎮守府の管理運営を一手に引き受ける。
これほど言うは易し、行うは難しを地で行くことは無い。
この鎮守府には、ある事情で『間宮』も『大淀』も『明石』もいない。
糧食の手配、部隊の維持、武具の整備。戦争をしているのに、それらの専門家が存在しない。
食事の準備、事務処理、それらに関してはいくらでも他の艦娘に手伝いを頼めるし、工廠での仕事は自分がなんとか支えになれる。
それでも、一任して何かを頼れる相手は、誰もいない…………すべての負担は、目の前の『鳳翔』の細い両肩に掛かっている。
みんなそれを知っているから、敬意を以て『鳳翔』をこの鎮守府のお母さんとして慕う。
どんなに大変な思いをしていても、笑顔を絶やさず皆を気遣う『鳳翔』を尊敬している。
「だから―――なんて卑怯なことを言うつもりはありません。ただ、俺が言っていることは嘘じゃない。どうかそれだけ、信じてください」
「鳳翔さん………っ!」
そのまま、深々と頭を下げる“彼女”に、夕張は訳も無く眼頭が熱くなるのを感じた。
もとより、『鳳翔』がただ戯けた妄言を言っているなどとは誰も思っていない。
だからこそ、周囲の艦娘達は“彼女”を心配して苦言を呈すのだ。
「でもっ、……………いえ、分かりました。そこまで言うのなら」
「っ!!夕張さん!」
正攻法―――誠意と真剣さを持った真正面からの説得が通じたと理解した『鳳翔』が、喜色を湛え顔を上げる。
夕張は、己の葛藤を呑み込んででも、そこに望まれた言葉を返そうと口を開いた。
そこまで言うのなら――――。
「この夕張、どこまでもその設定にお付き合いします。大丈夫、恥を掻くときは一緒ですから」
(信じます、鳳翔さん………いいえ、カケル提督)
「………………………、……………え?」
「あ」
その名が何万人もの人間が利用する掲示板の名として成り立つ、ある意味どんなキャラクターよりもビッグネームな某白饅頭のごとく。
夕張は盛大に、本音と口に出す建前を間違えた。
…………この話がシリアスだとでも思ったか。
ずーん。
たった三文字で、万の言葉を連ねるよりも今の『鳳翔』の様子を表すに足りただろう。
先ほどまで工廠の床に敷いた座布団に正座だったのが、袴なのに常に無くはしたなくも三角座りである。
更に大小さまざまな妖精の群れが『いたいー?ほーしょー、いたいのー?』なんて心配そうに周囲を飛び交っている。
ついでにうるうると半分以上泣いている『鳳翔』の顔を見て、この世の終わりのような顔をしながら夕張がぺこぺこ謝ったりなんとか『鳳翔』の気持ちを上向かそうと無理におどけたりしていた。
――――ちなみに、もしこの鎮守府内で『鳳翔』を泣かせたなんて話が漏れた場合、夕張の明日の命は無い。
それはもし自分がそれを聞いた場合泣かせた犯人に火砲を粉々どころかただの粉になるまでブチ撒け、コンクリで固めて海に沈めるくらいはする夕張にはよく分かっていた。
もちろん、それが嫌だとか怖いとか阿呆なことを言い出すつもりはない。
むしろ当然の処置である、だが何の償いも贖いもせずに消える訳にもいかない。
今の夕張の心境は、だいたいこんな感じである。
放っておけばそのうち「鳳翔さんが今後少しでも楽になるように、一匹でも多くの深海棲艦を道連れにしながら沈みます」とでも言いながら積載制限無視して火薬を満載し敵の巣に特攻し始めたかもしれない。
それを察した訳でもないが、自分よりよっぽど酷い顔をしている夕張を見て、『鳳翔』は手の甲で涙をぬぐい笑ってみせた。
「………そんな顔、しないでください。確かに信じてほしいですけれど、夕張さんを悲しませてまで望んだりしません」
「鳳翔さん……こんな私を、許してくれるんですか………っ?」
「許す事なんて―――何も、ありませんよ」
いつものように笑ってみせると、夕張の顔がくしゃくしゃに崩れる。
それをそっと隠すように『鳳翔』が抱きしめ、…………堰を切ったように、泣いた。
……………。
―――考えます。
―――?
―――鳳翔さんが、この夕張を頼って、相談してくれたこと。私も含めて、みんなが鳳翔さんのこと、『鳳 翔(おおとり かける)提督』だって信じる方法。せめてものお詫びに、考えさせてください。
―――………!ふふ、ありがとうございます。
―――かなり難題ですけど。
―――そ、そんなことないですっ!そこにある事実を認識させるだけなのに、何が難題ですか!?
―――でもそれが今まで出来てないんですよね?
―――う……。
―――それに、あの。鳳翔さん、今私にしてくれたこと、客観視できます?
―――客観視、ですか?
鳳翔の認識。
泣いている女の子を/艦娘を。
男として/提督として。
慰めた/ケアした。
―――我ながら立派に男として、提督としての務めを果たしましたっ!
―――え?
―――え?
ちなみに正解。
自分が男だと必死に事実を主張したけど信じてくれないので落ち込んでいたら、そうさせてしまったことで同様に落ち込んだ夕張がいて、八つ当たりするなり詰ってもいいのに自分の感情を二の次にして男として溢れんばかりの母性を発揮して夕張を慰めた。
そんな『鳳翔』の姿はさながら聖母のようであった。
作者も書いてて意味が全く分からないが、とりあえずそんな感じであった。
そして夕張にとっては最後の一文だけでそれ以上“余計なモノ”が付けられないくらい花マル満点である。
道のりは、長く険しい。
イイハナシダッタナー。
そしてサブタイ詐欺。相談が始まるまでに一話分の文量になったので、場面転換も無しに次回に続く、ん、だ、ぜ!
…………夕張がヤンデレっぽい?
ふーんだ、みんな信じてくれないからどうせならやってやるもん。
でも今回きれいなサッドライプだから、今回きれいなサッドライプなんだから(強調)、これが限界だわー精神圧迫する狂気とかドロドロの展開とかとてもじゃないけど書けないわー
やっぱり今回はきれいなサッドライプだった(確信)