鳳翔提督のお艦日記   作:サッドライプ

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正座する奴多すぎるんですが一体………




川内に託される

 

「夜戦夜戦夜戦~♪夜戦~を~して~ると~♪」

 

 頭が良くなるし体に良い、的なサムシングらしい。

 

 よくよく考えるとそら怖ろしい替え歌を歌いながら、川内型軽巡洋艦『川内(せんだい)』は、軽い足取りで鎮守府の廊下を進んでいた。

 前線基地なので突貫工事だった割には壁も床も真新しくて綺麗なものだ。

 清掃業者を呼ぶ訳にもいかないので、『鳳翔』が音頭を取って交代制で掃除をしているが、たまに専門家に頼るより毎日自分達でやる方がいいということなのだろう。

 

 薄くワックスの掛かった床にローファーがきゅるきゅる音を立てる。

 半袖のセーラーにスカートを翻し、トレードマークのツインテール(厳密には違うがその辺はどうでもいいだろう)がぴょこぴょこと跳ねる見るからに活動的な様子は、青春真っ盛りの女子学生と形容して差し支えない。

 

 オレンジというド蛍光色のセーラー服を採用している学校があるならば、の話だが。

 

 イメクラじゃあるまいし、と言いたいところだが仮に海に落ちても見つけやすい色ではあるので、鎮守府という場所柄には合っているのかもしれない。

 大体黙って神妙にしてさえいればその服装に年齢的な違和感を感じるくらい美人な顔立ちを、気楽というか人生楽しそうというかぶっちゃけ馬鹿っぽい笑顔で台無しにしている様からは、そういうイメージから最もかけ離れたものだろう。

 

 そんな風にからかわれた時、それはそれで川内さんの魅力ですから、と言ってくれた(馬鹿っぽいの否定はしていないが)“女性”のいる部屋が、今の彼女の目的地。

 

 現在時刻はフタヒトマルマル、窓から上弦の月が覗く夜の時間。

 文字通りの夜型―――日が沈む時間に一番元気になって、戦いたくて戦いたくて体がムズムズするのが川内(かのじょ)だ。

 だから…………。

 

「鳳翔さん、夜戦しよっ!!」

 

 『鳳翔』“提督代理”が鎮守府の事務作業を執り行う司令室、その内開きの木製ドアを叩き開け、開口一番に陳情する。

 ただし性的な意味ではない。

 

…………そして、それが成功することも予期していない。

 

 “寄せ集め”の艦娘達が集まるこの鎮守府は大本営に戦力として然程期待されておらず、役割としては他の提督率いる艦隊が深海棲艦を退け切り拓いた海を確保し続ける為の拠点防衛だ。

 前線といえど戦闘の過酷さで言えば第一線に遠く及ばない、故にこそ『鳳翔』一人で鎮守府を回すなどという無茶が出来ている。

 そんな中無理に戦闘を増やせばどうなるかなど………川内にも当然理解できていた。

 

 だから毎晩行っているこれは、戯れと、あとは『鳳翔』があまり深夜遅くまで働き過ぎていないか確認する、ついでに書類整理を手伝う、夜更かしが苦ではない川内の仕事。

 定型の口上ももはや習慣で、それでも申し訳なさそうに訴えを却下する『鳳翔』の姿も毎度の話だった。

 地味にかなり良い子な川内のお願いだから、その分断るのが申し訳ない気持ちが『鳳翔』にあるのかもしれないが。

 

 しかし、この日は少しいつもと違っていた。

 

「くすくす………それを言うのは無しですよ」

 

『―――――』

 

「そういえばそうですね。でもあれは………あら、川内さん」

 

「あり?鳳翔さん電話中?」

 

 備え付けのごつい受話器を両手で支えながら笑顔で何か話していた『鳳翔』が、川内に気付いて視線を扉の方に向ける。

 

「少し失礼。――――川内さん、ごめんなさい。少しソファーに掛けて待っていてください」

 

「いいけど………誰とお話してるの?鳳翔さんのいいひと?」

 

「そんなわけがありますか。ただの軍学校時代の同期です。速成提督コースで半年の付き合いでしたけれど」

 

「――――っ!?」

 

 その時、川内に電撃走る――――!

 

 『鳳翔』は艦娘→軍学校に行っていたことなんてある筈がない→同期の桜なんて存在しない。

 ではなぜ?→『鳳翔』は自分は男で提督であるなどと意味不明な供述をしており→結論、わざわざ小芝居をしてまでそれを自分に信じさせようとしている。

 

 それこそ電撃が走るくらい刹那の内に、川内の思考がこんな経路を辿った。

 そして、その反応として胸に来てしまった哀切を吐き出すように、今度は本気の訴えを『鳳翔』にぶつける。

 

 

「鳳翔さん、ダメだよっ!それは、エア友達だけは………越えちゃいけない一線なんだよ!?」

 

 

「誰が哀しいぼっちですか!?」

 

 

『~~~~~~っ!』

 

 はっきり言って、『鳳翔』は今キレていい。

 それこそ色んなものを投げ捨ててでも。

 

 慕われている割に、そして配下の艦娘達を本当に大事に大事に想っている割に。

 夕張といい暁といい、結構なレベルの暴言を吐かれる提督なのである。

 

 そして受話器越しに爆笑している男の声が聞こえるあたり、その向こうの提督も友人というより悪友と言った方が正しそうだった。

 

「そっちも、笑わないでください!ああもう、だったら代わりますからね!実際にお話すれば、川内さんもそんなこと言わないでしょう!?」

 

 そう言って、常になく乱暴に川内に受話器を押しつけ―――それでも痛くない程度に手を引っ張って握らせる程度なのだが―――いきり立つ『鳳翔』。

 珍しく怒る姿に……川内は、その背後に「ぷんすか」という擬声語を見た。

 

 某れでぃな駆逐艦と同レベルの怖さにしか見られていないとはつゆ知らず、取り乱して迂闊な行動に走った『鳳翔』がそれを後悔するまで、あと数分。

 

 

 

…………。

 

 『鳳翔』の友人は、正しく悪友である。

 

「あの、川内さんに何を吹き込んだのですか?」

 

『吹き込んだとは失礼な。ただお前の言う通り“お話”しただけじゃないか』

 

「ですから、なんの話をしたかと訊いているんです~!」

 

 悪友と川内が少し話しこみ始め、なんだか長いな、と思ったあたりでだんだん不安になり始め。

 きらきらした笑顔で『鳳翔』を見つめながら受話器を返却し、そのまま駆けるように部屋を出て行った川内に、早くもその不安はピークに達していた。

 

『大した話じゃない。お前の望み通り、前いた所で一緒だったこともちゃんと証言したぞ?』

 

「でもそれだけじゃないんでしょう?」

 

『おうっ!』

 

 とてもとても明るい声で、悪友は川内に語った内容をリピートする。

 

―――曰く、難関である敵との連戦においても、決して挫けず、へこたれず。

―――周囲を常に励まし、希望を切り拓く魁となった。

―――俺はそんな鳳翔という艦娘をかつて部下に持った。

―――(それはそれとして 注:小声)、鳳翔(そいつ)のことを、よろしく頼む。

―――俺達の誇り(かなぁ? 注:超小声)を、川内、君達に託す。

 

「………………あの、あなたの下で活躍したのは、艦娘の“鳳翔”ですよね?」

 

『ふふ、今は俺の嫁カッコカリだ。羨ましいか?』

 

 不安は嫌な確信へと切り替わっていた。

 どやあ、という表情が目に浮かぶくらい露骨なのろけを無視して、『鳳翔』は問いを重ねる。

 

「あなたの言い方だと、艦娘の“鳳翔”が昔たしかにあなたの鎮守府にいて、今ではこちらに移籍しているように聞こえないですか?それが、“俺”だと」

 

『………。おう、確かにそんな風に“勘違い”するかもなっ!!』

 

 がちゃり。

 

 白々しい悪友のしらを断ち切るように受話器を置く。

 脳裏に浮かぶのは、一刻も早く勘違いを正さねばという焦りだ。

 

「かなり、まずいです……っ」

 

 あれでもかなり成績優秀で、実戦も経験している以上、言い回しや雰囲気の出し方などそれっぽくするのは苦ではないだろう。

 たんじゅ………もとい素直な川内なら、きっと綺麗に騙され、信じ切っている。

 

 ただでさえ、自分が艦娘というか女という意味の分からない誤解をされているというのにっ!!

 

「急がないとっ」

 

 『鳳翔』もまた、川内を追うべく慌てて司令室を後にした。

 機密書類はちゃんとまとめて引き出しに入れ、ドアにはしっかり施錠をした上で。

 

 

 

 

…………。

 

 見失った。

 

 というか初めから川内の姿なんて見える訳がなかった。

 タイムロスの間に彼女がどこに行ったかなど、『鳳翔』には分からない。

 

 まだ皆が寝静まる時刻には少し早く、それだけに各自思い思いの場所で寝る前の一時を過ごしているのだから。

 

「うぅ………」

 

 こういう時こそ焦りは禁物、と一度自分に言い聞かせても、冷静になれずに唸る。

 そもそも行方を考えて追跡しようにも、皮肉にも清掃の行き届いた廊下には手掛かり一つ無い。

 

 と思いきや、もじもじしながらもどちらへ行けばいいのか分からずに途方に暮れる『鳳翔』に、手掛かりが向こうの方からやってきた。

 

「あ、良かった、鳳翔さんいたのです!」

 

「電さん?」

 

 背の小さな大人しい艦娘、電が珍しく満面の笑みで手を振りながら走り寄って来る。

 

「あ、ちょっと……廊下で走っちゃダメです、危ないですよっ?」

 

「え?…………あわわ、わぷっ」

 

 滑らせたのか、バランスを崩した電がつんのめる。

 慌てて手を伸ばした『鳳翔』がなんとか間に合って受け止められたので、その勢いのまま抱き止める体勢になった。

 

「もう。電さん?」

 

「ぷはっ。えへへ、ごめんなさいなのです」

 

 一回か二回、無意識なのだろうか顔をぐりぐりと『鳳翔』のお腹に擦りつけて甘えた後、電は上目遣いに『鳳翔』を見上げた。

 いつもなら過度に申し訳なさそうにしながら謝るところなのだが、よほどテンションが高いらしい。

 

 最初の言葉からして、自分に用事があってそれに関連しているのだろう、とアタリを付けた『鳳翔』はその内容を尋ねる。

 

「あ、そうでした!鳳翔さん鳳翔さん、さっき川内さんに聞いたのです!!」

 

「……………、え?」

 

 川内さん。

 求めていた手掛かりの筈の名前がやけに不吉に聴こえたのは何故だろう。

 

 電の表情が、やけに“きらきら”した笑顔で………つい先ほど司令室で見たものとそっくりだからだろうか。

 憧れの視線が当社比数倍増しで注がれているのも、ああ、そっくりだ。

 

「鳳翔さんの武勇伝!川内さんが以前鳳翔さんがいた所の司令官さんとお話して、その方も鳳翔さんっていう“艦娘のことを”誇りに思ってるって!凄いのです、嬉しいのです!」

 

「あ、あはは………ありがとうございます。それでその、川内さんは?」

 

 

 

「他の皆さんにも、鎮守府中にこのお話を広めるんだって言ってました!きっともう、大体の方が知ってると思います!」

 

 

 

「―――――」

 

 何故だろう。

 何故『鳳翔』の部下たちはこんなにも悪意なく心を抉ってくるのだろう――――。

 

 やや赤らんだ顔で、純真に『鳳翔』を褒め称える電の頭をそっと撫でながら。

 時既に遅かりし、と勘違いが更に深く染み渡ったことを理解し。

 

 

 おおとり かける は めのまえが まっくらになるのを かんじた。

 

 

 





 本当はリアルに鳳翔さん(艦娘)が自分を提督だと勘違いしてるオチだったりしないよね?とか言われるんで人間としての繋がりを出してみた名無し友人提督。
 でもそれすらも鳳翔さんの思い込みとか言われたら…………。



 ぶっちゃけこんな頭の悪い話に作者がオチをちゃんと考えてるとか思ってるんだろうか、と返さざるを得ない()
 何故かきれいなサッドライプさんを信じられないド失礼な方々含めて。


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