お艦vs.ロリおかん
ファイっ!!
『鳳翔』の現在の目標は、配下の艦娘達に自分が提督で男であると納得させることである。
それが事実か妄想かという認識の差異はさておき、その目標自体は当の『鳳翔』旗下の艦娘で知らない者はいないだろう。
故に、その目標に対する姿勢として、各自様々な反応を取っていた。
「そもそも信じない」は『鳳翔』手づから建造された山城を除いた全員に共通して言えることであるが―――、
「何を馬鹿な事言っているんですか。そんなことより早く今日のお仕事片付けましょ?その後は………くすくす」
呆れ半分でそのまま流す雷装巡洋艦『大井』であったり。
「その……ねえ。鳳翔さんがそれでいいなら付き合うのは吝かじゃないんだけど~、あんまり健全な気晴らしの仕方じゃないと思うわよぉ?」
懐の深さを見せているように見えてやっぱりやんわりとズレている軽巡洋艦『龍田』であったり。
「い、いくら鳳翔さんの言うことでももう騙されませんからね!?私、最初にそれ信じて大恥掻いたんですから!!」
折角一度は信じてくれたのに集団の暴力にしてやられた高速戦艦『比叡』であったり。
「ふふ、そうですね“提督”。ところで“提督”?もし“提督”が“提督”だったら艦娘とケッコンカッコカリなるものが出来るそうなのですけど、興味あります?」
いい笑顔で悪ノリし始める重巡洋艦『筑摩』であったり。
…………例示する艦娘達の選択がえらく恣意的で、一部発言の裏の意図が怪しいと感じるかもしれないが、気のせいだ。
それはさておき。
挙げたような例はだいたい「言いたいなら言っておけばいいんじゃないか、特に害は無いし」だとか、あるいはそこまで深く考えていない中立寄りであるが、逆に『鳳翔』が“自分を否定するようなこと”を言うことを快く思っていない者たちもいる。
そしてそれは決して悪意から来るものではなく、寧ろ『鳳翔』を慕っているからこそ厄介であった。
そう、例えば。
「今日は鳳翔さんが自分が提督だとか言い出すのをやめさせる方法を、ちゃんと話し合いたいと思いますっ」
「「わ~~~」」
議長・暁の号令に従い拍手を始める第六駆逐隊であったり。
無駄で馬鹿馬鹿しい努力という意味では『鳳翔』のそれと鏡写しであることを知る筈も無く、そしてなんだかあの馬鹿馬鹿しい『鳳翔』と夕張の工廠の会談を思い起こさせる出だしであることなど況やで、暁と響が二人で寝泊まる官舎(艦舎?)の一室に合流して輪になる雷と電。
お茶とお茶菓子を囲みながらいつものセーラー服で座布団に座り少女四人が姦しくするのは、話題にさえ目を瞑れば微笑ましい。
「鳳翔さんも、あの手この手で頑張ってるのです」
「そうね、こないだは新しく来た山城さんに真っ先に言い含めておいたんだっけ?」
「うん。山城さんもすぐに投げ出したみたいだったけど、それでも諦めないだろうね。
粘り強さは鳳翔さんの美徳だが、この場合は厄介だ」
余った座布団をクッション代わりに抱き枕にして呟く電に、眉をハの字にしながら溜息混じりに話を繋ぐ雷。
お茶を啜りながら、問題提起した響はここで発破を掛けるのが活発な議論の滑り出しとして相応しい流れだろうとその役目をまとめ役かつ発起人の暁に期待した。
静かにアイコンタクトをした、その瞳に捉えられた暁は…………、
「はぐはぐ、うまうま、……?ふぉうひはの、ひひき?」
茶菓子の最中を口いっぱいに頬張りながら、幸せそうに味わっているだけだった。
姉妹の絆というものの難しさを思い知らされた響は、「行儀が悪いよ」とちょっといらっとしながら彼女を窘め、自らも最中に手を伸ばす。
雷と電もそれに倣い、焼き立てならではのパリパリと心地いい歯ごたえの中に上手く同居する柔らかさの皮、そしてそれに包まれた粒あんの控えめな甘みを楽しむ。
ぺとっと口の中に残った甘味をお茶で流し込むのも、極楽気分でリラックス出来る心地を味あわせてくれた。
「「「「…………うまうま」」」」
そのまま、一瞬のどかな風が四人の間に流れるも、割と元凶である暁が我に返る。
「はっ!?ちょっと、こんなことしてる場合じゃないわ!」
「こんな?……その言い方は、忙しい合間を縫ってわざわざおやつを作ってくれた鳳翔さんに失礼じゃないかな?」
「う」
そして先ほどの苛立ちも合わせて響にじとっと細めた目で睨まれ、落ち込んだ。
「まあまあ響、食べながら喧嘩なんてもっと鳳翔さんに失礼よ?」
「………それもそうだね。悪かった、暁」
「べ、別に。こっちこそ、なんかごめん」
「ふふっ」
それを言い出したらわざわざ手間を掛けて面倒な和菓子の手作りをしてくれた『鳳翔』の言うことを疑い否定するような話し合い自体を、その手作り最中を食べながらするのがそもそも最強にド失礼なのだが。
善意100パーセントの四人は思い至ることもなく、そんなやり取りをして話を最初の流れに戻した。
「鳳翔さんに自分が提督だって言うのをやめさせる、かあ」
「意外に難題なのよね。ダメってもう何回も言ってるし、それは私たちだけじゃない」
「うんうん」
「何回言っても無駄だって、普通は悟りそうなものだけど」
「なんだか、絶対にいつかは私達がそう信じると確信しているみたいなのです」
「………そうだね。その根拠はさて、何だろう?」
「「――――」」
妙に核心を突いた電の発言に、話の空気が変わる。
響が水を向けながらも、ぴんと張った妙な緊張感の中、四姉妹は互いに居住まいを正した。
ごくりと唾を呑んだのは、果たして暁か雷か。
そして『鳳翔』がこの場にいれば、次の展開に自らの期待を乗せて、身を乗り出していただろうか。
そう――――、
「もしかして、本当に鳳翔さん、男の提督の人だったり、とかするのです……?」
お、と電の発言に小さくガッツポーズを取っただろうか。あるいは。
「「「「………ぷっ」」」」
「あはははははははっっ!!ちょ、ちょっと電、いきなり何言い出すのよっ!?」
「……っ、~~っ、い、息が、苦しっ」
「やめなさいよ、そんな、鳳翔さんが、本当に男の人だなんて、そんな……ぷぷっ!」
「けほ、けほ……言ってみただけなのです、そんなに笑わなくてもっ、けほっ」
崩れ落ちて、そのまま突っ伏しただろうか。
配下に自分が提督であることを爆笑ネタにされる『鳳翔』。
ひたすら哀れというか残念というか………取り敢えず泣いていいのは確かだった。
そしていい加減自分達の称号が第六鬼畜隊と化しつつあるのをなんとなく感じたか、互いに背中をさすったりなんとか笑いとひきつりを抑えて、真面目な意見の交わし合いに入る暁達。
あーでもないこーでもない、と知恵を出し合い取り得る手段を吟味していく。
四半刻ほど経っただろうか、細かい茶葉と共に湯呑の底に溜まった飲み残しの茶がすっかりぬるくなってしまう頃、結論がまとまった。
「やっぱり、ちゃんと鳳翔さんに「やめて」ってお願いするの、ダメかな?」
「確かに今まで“忠告”や“苦言”というある意味上からの立場でしか、鳳翔さんは制止されてこなかっただろうからね、効果的ではあると思う」
「それに鳳翔さんなら、私達が真剣にお願いすれば嫌とは言えないと思うのです。でも………」
「……そうよね。鳳翔さんなりに真剣に言ってるみたいだし、それを我慢してもらって止めさせても何の解決にもならないわ」
「じゃあ」
「ええ」
暁、響、電が一斉に雷に視線を送った。
雷は怯むどころか、胸をとんと拳で叩きながら不敵に笑ってみせる。
「大丈夫よ、この雷様に任せなさいっ!!」
そんなことがあった数日後。
「さて……効果は如何ほどかしら?」
「雷のあの自信からすると、いい結果だと思いたいね」
ふぁさ、と首を傾けながら髪を掻き上げて踊らせる“いかにもれでぃ”なポーズを取る暁(ただし背丈が足りない)と、それをクールにスルーする響。
時刻は夕刻前、『鳳翔』が夜ごはんの調理に取りかかるより少し早い時間。
場所は執務室前、閉じた扉より数歩離れた位置。
あの日意見を出し合った末の結論はこうだ。
結局『鳳翔』が頓珍漢なことを言うのは、鎮守府でのオーバーワークによる負担と吐きだしどころの無いストレスやプレッシャーを何らかの形で発散しなければいけないからだ(ということになった)。
だったら、もっと別のやり方でそれを癒してあげれば、肩の力も抜けて変なこだわりも無くすだろう。
この考えに、全員が深く賛同した。
そうでなくても世話になっている『鳳翔』を労うのは吝かではないし、何より暁型には………雷がいる。
ロリおかん、ダメ提督製造艦などと巷で噂される母性と甘やかしの達人、雷ならば誰よりも適任であろう。
この数日、交渉の結果俗に秘書艦と呼ばれる事務仕事をつきっきりで補佐する役目を連続して担当した雷は、その距離感を活かしお茶出しからマッサージ、気の利いた書類整理やタイミングのいい休憩の挟み方、ありとあらゆる手管を使い『鳳翔』に癒しを提供する手筈だった。
どんなに自制心が高くとも、無邪気でただでさえ断りづらい幼女の笑顔で善意を強く押されるのと、ちょこまかと動きながらもひとつひとつに真心のこもった気遣いを受けては、ずるずると雷のペースに引き摺りこまれること受け合いだろう。
口で言うのと裏腹に作戦の成功を疑っていない(成功すれば目的が達成される……訳がないが)暁と響は、扉に耳を付けて中のやり取りを覗う電と今度はアイコンタクトを成立させた。
『午後の部…終わり………』
『~~、疲れた…もう……』
『まだ夜……残って………』
『むぅ…お願い、いつもの』
『………仕方な……ほらっ』
『ぎゅ~~……もっと、ぎゅって。その後は?』
『はいはい………頑張れ、頑張れっ(はあと)』
『ふふっ、おでこにキス…もっと…嬉しい……』
若干どころではなく甘ったるいが、確かに一方がもう一方に癒されているやり取りだった。
あの『鳳翔』がこんなになるなんて、と電は姉妹の雷の実力に改めて戦慄する。
くぐもって全て明瞭には聞こえづらいが、上手く行っていると安堵しながら中のやり取りをもっと聞こうと耳を澄ませる。
そんな中、ふと思ったことがあった。
(そういえば、雷と鳳翔さんの声、似てる?)
はずみで扉を少し開けてしまったのは、そんな思考のノイズが原因だろうか。
違和感が鳴らした警鐘が、その隙間から中を覗き込む電の背中を後押しする。
暁と響もそれに続き、視界に映り込んだのは――――、
「えへへー、鳳翔さん、もっと、もっとっ!ぎゅ~!!」
「ああもう、そろそろご飯の支度しないと………仕方ない子ですね。よしよし」
ごろごろにゃーと『鳳翔』に摺り寄る雷と、それを優しくあやす『鳳翔』だった。
「「「…………」」」
雷の顔は幸せそのものといった感じに笑みで蕩け切っていて、姉妹も見たことがない程にだらしなくなっている。
小さな体をフルに使って『鳳翔』とスキンシップを試みる姿には、ちょっと知性とかプライドとかその他もろもろが足りてなくて、あまりのインパクトに揃って絶句してしまうほどだった。
見た目の年齢相応と考えれば、しかしこれは下手するとそれより更に一回り幼い。
「これは、一体……?」
「あ、電さん。響さんに暁さんも、そんなところでどうかしました?」
「むー、鳳翔さんっ、手…止まっ……………、ッ!!!?」
茫然とした三人の誰が発したとも判らぬ呟きに、『鳳翔』が雷の後頭部を撫でていた手を止めて振り返った。
そして構うのを中断された雷が不満そうに『鳳翔』の顔を見上げ、自然にその視線を追いかけて姉妹の存在に気付く。
暫し空白があり、その間に先ほどまでの自分の姿が目撃されていた事を悟ると、蕩け顔から一転さっと青ざめた。
「ち、違うの………これは違うのっ!!」
「……何が違うというんだい?」
「最初ははずみだったの……ただそれだけで」
「ずるずると行ってしまった、と?言い訳になってないのです」
「お願い、信じて!」
なんだか語弊のあるやり取りを繰り広げながら、『鳳翔』を甘やかすはずが全力で甘やかされている事への釈明という名の言い訳を、雷は並べ立てた。
話はそう複雑ではない、まとめれば一言で済む。
『鳳翔』の母性が雷より高かった……それだけの話だ。
お察しとは思うが、『鳳翔』のスペックは性根の天然さと境遇の残念さと裏腹に、特にそちらの方面では天蓋級に高い。
現にこの鎮守府で日々戦う艦娘達全員をまとめ上げてしっかり世話している以上、世話される側の雷とは勝負にすらならない程の差があった。
基本は雷が世話を焼く、すると『鳳翔』はいいこいいこと暖かく褒めながら、優しくなでなでするのだ。
随所で休憩と称して手習いを教えてあげたり、頑張った子にと自分のおやつを分けてあげたり。
そして仕事では上手く自分が貢献できていると実感できるような、かつ雷の能力で達成可能な作業を割り振る地味に理想の上司もこなし。
一日の終わりにお話や触れ合いで疲れを翌日に残さないように解きほぐす。
ずっと仕事で密着していればその触れ合いもどんどん深いものになって行く一方であり、それが何日も連続してしまえばずぶずぶとはまり込んでこの有り様だった。
ダメ提督製造艦がダメ艦になっていた。
「略式判決。雷、有罪」
「待って、仕方なかったの!鳳翔さんは、わたしのお母さんになってくれるかもしれない女性なの!!」
「何をとち狂ってるのですかこのバかずち!撤収です、さっさと引き上げてこの後みっちりお話するのです!」
「!そんな、待って!!まだ今日の分鳳翔さんになでなでしてもらうの終わってない……」
「知らないわよ!?いいから来なさいこの駄かずち!!」
「ほ、鳳翔さ~ん!!」
「え、ええと……」
両腕を電と暁に掴まれ、連行される雷。
次第に遠くなっていく呼び声に、突然の流れにぽかんとするしかなかった『鳳翔』はただ取り残されるだけだった。
「よく分からなかったけど、なんだったんでしょう……?」
結局この日をもって暁達の作戦は失敗という形で終了、翌日からは秘書艦も雷ではなく別の艦娘達が持ち回りの元の形式に戻った。
それ以前の問題として、この程度の騒動では『鳳翔』にとっていつもと何も変わらぬ日常であり。
「さて、おいしい夕食を作りましょう。出来上がる頃には、あの四人もいつもみたいに仲直りしてくれていればいいのですけど………」
何か喧嘩でもしたのだろうと自分がその渦中にあった自覚すらなく、『鳳翔』は今日もおかんであった。
ちなみに。
「ふぅ……母さまは素敵な方ですから、慕われるのはいいことです。
――――――でもあの方を母と呼んでいいのは、私だけ、ですよ?」
「…………(こくこくこくっ)!」
雷は山城が気を利かせて“お話”して、しっかり正気に戻していた。
なんて母親思いの(艦)娘だろうー。
俺の六逐はこんなんじゃない!って苦情は受け付けます。
でもはっちゃけさせるの楽しかった、今では満足している。
そしてぶっちゃけこの作品、雷に赤い人の迷言を言わせたかっただけで始めたから、早くもネタ切れ感が。
多分次かその次で最終回かな?