東方太陽史   作:ほくまる

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邂逅

『綺麗だ』

 

 第一印象はそう思った。しかし、女の子のその顔から何も表情は読み取れなかった。ただ空を見つめて休んでいただけだった。

 自分は殴られたり蹴られたりした自分の体の痛みを耐え、村の子供たちから逃げてきてこの古びた神社までやって来た。ずっとずっといじめられて、もうたくさんだった。その時の自分にはどんな人も敵に見えていた。一人になりたかった。なのでその場から逃げようとした。

 

 しかし、誤って茂みに引っかかり、音が出てしまった。彼女にばれたのかと冷や汗をかいた。だが彼女をもう一度見ても、先ほどのように空を見つめているだけだった。見つかっていないと分かり、ほっと溜息をついた。

 

「なんでそんなところに隠れているの?」

 

 彼女はずっと同じところを見つめながらそう言った。途端に自分の顔が火照ってくるのを感じた。隠れているのが急に恥ずかしくなり、素早く茂みから顔を出した。彼女はすごい早さでこちらを向いた。顔色一つ変えずに。

 

「ごめんなさい」

 

 自分は咄嗟に謝った。問い詰められているようで、目頭も熱くなっていた。

 

「あなたじゃなくて、あっち」

 

 彼女はそう言いながら、自分がいたところとは真反対の方向に指を指した。彼女が指さした茂みから、兎が一匹飛び出してきた。兎は彼女の膝の上に飛び乗った。彼女はその兎を無表情で撫でながらこう言った。

 

「あなたはどうしてここに来たの?」

 

 今度は自分を見て尋ねてきたのだから間違いなく自分に向けた質問だったと感じ、自分は返した。

 

「逃げてきたんです」

「どこから逃げてきたの?」

 

 彼女は間髪入れず質問してきた。まだ泣きそうだったが、自然と口から言葉が出てきた。

 

「村から……友達にいじめられて、痛くて痛くて逃げてきました」

 

 彼女は何も言わずまた無表情で兎を撫でた。

 自分は彼女に質問をした。

 

「ここにいてもいいですか?」

 

 そう尋ねても彼女は答えなかった。やっぱり勝手にいると迷惑なのだろうと思いながら自分はその場をそっと立ち去ろうとした。

 

「あなたも触ってみる?」

 

 彼女は質問してきた。自分の顔を先程のような何も読み取れない表情で見つめてきた。また少し恥ずかしくなって目を背けようと思ったが、彼女は自分をいじめるようなことはしないだろうと思ったので、履いていた草履を脱いで神社に上がった。そして彼女の隣に座った。

 自分が隣に座ると彼女は兎を自分の膝の上に乗せた。自分の膝の上に乗っても兎は警戒心を見せない。自分も彼女がやったのと同じように兎の頭を撫でた。

 

「この兎はいつもここに来る」

 

 彼女は口を開いた。そしてこう続けた。

 

「冬の寒い日、この子は凍えていた。ある洞窟の中で。長い間母親の傍に寄り添っていたのだろう。でも顔からは不安も恐怖も感じられなかった。おそらく死ぬということを心の底から確信していたのだろう」

 

 さらに続けた。

 

「人間も動物も同じだ。いつか必ず死ぬ時は訪れる。心の底からそう思えれば争いも諍いもしたくなくなるのだろう。

 

しかし、人間は自分が死ぬということを心の底から思わず、ただ今の生きることに執着し続け、幸せを求めている。だから争い、そして貶しあう。私もこの兎のように生きればどんなに幸せだろう。自分の欲に忠実に生きるよりも、自分がたった一つの生き物であるということを受け入れ、いつか死ぬということを心の底から思えるようになれば」

 

 そしてまた静寂が訪れる。彼女の言っていることは、当時の自分にはあまり分からなかったが、少しだけ心が軽くなった気がした。

 気が付けばあたりは暗くなり始めていた。カラスも遠くで鳴いている。 

 

「もう日も暮れてきたわ。早くここから去りなさい。魔物が湧くから」

「君は大丈夫なの?」

「私は大丈夫」

 

 そう言うと彼女は兎を逃がし、神社の奥に入って行こうとした。自分は最後にこう質問した。

 

「君の名前はなんていうの?」

 

 彼女はまっすぐ自分を見てこう言った。

 

「博麗霊夢」

 

 それが覚えている限りの、博麗の巫女と出会った最初の時。

 




追記 2016.6.14
ちょっと読みにくいので、行間や多少文章を直したりする予定です。
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