そのゆきちゃんの癒しもあるかどうか分かりませんが。
(もう一つの連載の方は……待ってください)
第1話
太陽は沈み、黒い影達はそれを追うよう動き出した。
人の営みが消えた街。
灯りの灯らない家々は形骸化した廃墟だ。
生命の営みを感じないそれは、まさに墓標でもあった。
そこに向かう影は墓に還る死者達だろうか。
人間性を失い、生きている者を襲う獣達。
「……」
夜になり彼等が学校から離れて行く。
足立陸は扉をそっと開け、廊下を確認する。
暗闇の中、確認出来たのは一体。背を向けてノロノロと歩いている。
得物を確かめて教室から出る。ゆっくりと足音を殺して背に近づく。
「……」
心拍数が上がる。口に中が渇く。荒い息を抑える。
数回した程度では慣れない。結局のところ、これも殺す行為なのだ。
十分な距離に近づき、棒を構える。
狙うは足。不安定な片足になるタイミングで力を込めて叩く。
支えを失い踏ん張りも出来ぬままうつ伏せに倒れた体を、動けないように踏んで抑えつける。そして両手で握った棒でその頭を何度も叩く。
突き刺すように何度も何度も叩く。
脆くなった後頭部から黒い液体が出てくる。
足元のそれは苦しそうな声をあげ、手足をジタバタと動かす。だが足立は止めない。もう人間の常識の通用しない化け物になった彼等には、動きや声が止まるまで攻撃をやめてはいけない。狂気に犯されたように棒を何度も振るう。
「……」
何度目かで彼等は動かなくなり、突き刺していた棒は脆くなった殻を破って柔らかな脳を潰した。
足立は荒くなった呼吸を落ち着けて、屍体を仰向けに転がす。
服装から三年生の女生徒だと分かった。
醜くなった顔の面影と髪型から、クラスメイトの何度か話した事のある人だと思い出す。
「……ごめんな」
少しだけ黙祷を捧げる。
どんな人物だったのかよく憶えていない。
どんな性格で、どんな交友関係を持っていたのか。
知っていた所で悲しくなるだけだろう。知っていたところでどうしようもなかっただろう。
ただ、弔うには少し寂しかっただけだ。
女生徒だったその足首を持つと、足立はそれを引きずって校舎から出た。
*
足立が今まで生きていたの単なる偶然だった。
人が人を襲い始める事件から、無事だった数人で何とか教室で立て籠もっていたが、油断し始めた矢先に一人が犠牲になった。
次に助けようとした者が。怒りに狂った者が、英雄のように気取ろうとした者が。地獄のような現実に狂った者は自ら命を絶った。
足立が生きていられたのは、希望に縋っていたからだ。
生きていれば助けがくるかもしれない。生きていれば自分で活路を見出してここから逃げ出せるかもしれない。
生きていれば。きっと。
これは悪夢だと、目が覚めればいつもの日常が帰ってくる。そうも思ったが終わり方も分からず、自殺するにはまだ絶望しきってもいなかった。
生きていれば。
孤独な足立の心は少しずつ磨耗していた。
*
屍体を処分した足立は一階の生存者を探した。
彼等を見つければ奇襲を仕掛ける。
夜になって数も少なくなり、夜目が効かない彼等を一方的に倒すのは簡単だった。
夜は長い。
一つ一つの教室を丹念に調べる。
机、椅子、教卓の下。ロッカー、掃除道具入れ、トイレ。
しかし何処を探しても誰も居ない。誰も生きていない。無惨な程に食い千切られた遺体に蛆が湧いているだけだ。
(そりゃあ……居ないよね)
昨日の夜も一階を探索したのだ。遺体の場所から何まで憶えている。
それでも見落としがないかの確認のつもりだった。だが、結局足立には何も変わらない現実を突き付けられただけだった。
(二階なら……)
一階に見切りをつけた足立は二階へと続く階段をゆっくりと登り始めた。
*
「うっ……うっ……」
「……ゆきちゃん? きっと大丈夫よ。生きていれば、きっと」
「……屋上で篭るのも、そろそろ限界だな」
「……そうね。でも、外も学校と同じ状態なら……」
「それでも此処だけじゃあ早死にしちまうよ。……わたしはまだ生きたい」