さつばつぐらし!   作:備品猫

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「どうした! 血が足りんぞ!」
「すいません! バトルも足りません! お陰で正直胡桃ちゃんの力量が把握出来ません!」
「よろしい! 内容も薄いな! 戦争映画の見直しだ!」
お気に入りや評価ありがとうございます。


第8話

「……」

 

 重たい足取りで彼等が近付いて来る。

 ゾンビ。生ける屍。人間の成れの果て。

 人間を襲い、噛まれた人間を同じ存在へと堕とす怪物。

 彼等にはもはや人間としての意識は無く、説得や交渉は無意味だ。

 だから、殺さなければならない。

 逡巡もなく、躊躇もなく。

 自分が人間として生きる為には当然の事なのだ。

 それは棒で足を払われると、無様にうつ伏せに倒れる。

 そして、その背中を足で踏み付ける。

 何度とした行為であり、いつも通り体重をかけ動けないようにする。

 そして、手にした棒の先をその頭に向ける。

 振り下ろす。

 何度も振り下ろす。

 彼等は頭を潰さなければならない。

 腕や足、下半身を失ってさえも彼等は獲物を求めるからだ。

 脳を半分以上潰す。それが彼等を葬る方法。

 そうこうしているうちに頭蓋が割れ、その内側の灰色の塊にずぶりと棒が刺さる。

 駄目押しに足でその頭を踏み付ける。

 穴が空いた頭蓋は脆く崩れ、足がその頭の中に侵入した。

 泥を踏んだ様な抵抗感と、水が跳ねる様な音が響く。

 

「……」

 

 後頭部が崩れた頭から、血がとめどなく流れていく。

 綺麗な血溜まりに映る自身の姿を足立はじっと見る。

 いつもの顔。何の変哲もない、いつもの日常の顔。

 彼等を殺した後の足立の顔は、友達と話す時や授業を受ける時、家で家族と話す時の顔と何ら変わりは無かった。

 *

 

「……」

 

 薄暗い部屋の中で足立は目を覚ます。

 首筋に触れると、じっとりと汗ばんだ感触を感じる。

 悪い夢を見ていた、気がする。

 偶に有る。夢の中では別に何とも思わなかったが、目を覚ましてみると奇妙な夢だったというものだ。

 彼等を殺す自分の姿。

 それは別段何の事もない。一階で生きていた頃の日常だ。

 だが最近、それを可笑しいと感じる事がある。

 昔の自分ならあんな事をしたのだろうか、と。

 しなかった。というより、出来なかっただろう。

 彼等の体は四肢が欠損していたり肌に死斑が出ていたりと、確かに生きている人間には見えない。

 だが、その形や輪郭はどうしようもなく人間と同じだ。

 彼等は元は人間。

 当たり前の事過ぎて、つい忘れてしまう。

 彼等を殺した後は元の人間を哀れにも思っていた。

 なのに、どうして彼等を殺す時は何も思わないのか。

 

「……」

 

 硬い床に敷かれた寝袋から這い出る。

 分からない問題は頭の隅に置いておくことで、いつか答えが出てくる。

 18年間で培われた人生経験に従い、思考を止めた足立は欠伸をしながら生徒指導室から出ていった。

 *

 比較的汚れの少なかった生徒会室と放送室、生徒指導室を確保した慈達は、そこを三階での生活の拠点とした。

 放送室は女子の部屋として、生徒指導室は唯一の男子である足立一人に、生徒会室は食事やそれ以外の時間を過ごす場所として当てられた。

 当分はそこで生活し、並行するように二階を制圧しようと慈達は考えていた。

 最終的には学校の校舎内だけでも安全な生活圏にしておきたいと思っているからだ。

 

「電気も無くなるし、節電しないといけないわね」

「やっと昔のような生活に戻れると思ったのになぁ」

「シャワーも使い過ぎは良くないわね」

「うわあああ!」

 

 文明の利器に頼りきった生活の胡桃には、なかなか耐えられるものでは無かったのだろう。

 太陽電池の発電量や雨水の貯留量を確認した悠里達は、生徒会室で今後どのように遣り繰りしていくか考えていた。

 色々な問題は有るが、正直余裕を持って対処出来る。屋上での籠城生活とは大きな違いだ。

 節電節水を心掛ければ、当分は持つことも分かっている。

 

「おはよう……」

 

 生徒会室に挨拶しながら入ってくる足立に、三人も挨拶を返す。

 

「でも足立君……もうお昼よ。流石に寝過ぎよ」

「りーさん、足立は私達が寝てる時に見回りして貰ってんだ」

「あら、本当? ありがとう、足立君」

「……いいよいいよ。女子は何か……美容の天敵なんだろ?」

 

 いいながらパイプ椅子に座る足立。

 

「足立君……眠たいの?」

 

 由紀が心配そうに足立の顔を覗き込む。

 足立の顔は、寝起きらしく目を細めている。

 

「いやぁ……朝は弱くてなぁ」

 

 いいながら大きな欠伸をする足立。

 

「足立お前……女子の前なんだからさぁ。もっとこう……慎みとかないのかよ」

「ん〜……」

 

 返事も億劫なのか、口を開こうともしない。

 

「低血圧かしら」

「女子かよ」

 

 胡桃と悠里は改めて足立が頼りになるのか少々不安になってきた。

 

「……すぐ直るよ。……多分」

「よし足立! 顔洗ってこい!」

 

 とうとう舟を漕ぎ出した足立を立たせ、生徒会室から放り出す胡桃。

 足立はそのまま生徒指導室に戻って二度寝したい気分だったが、素直に男子便所に向かって行った。

 

「全く……」

「……ところで胡桃。めぐねえは?」

「あぁ、めぐねえも足立と一緒に夜見回りして、それから……まだ寝てるのか」

「はぁ……由紀ちゃん。めぐねえ起こして来てくれる?」

「うん、分かった」

 

 それから足立が完全に目を醒まして戻ってきてから十分後に、寝惚け眼の慈が由紀に連れられて来た。

 *

「行けるか?」

「ああ。陸上部を舐めるなよ?」

「恵飛須沢は階段の昇り降りの大会に出るのか?」

「そんな大会ねえよ! 足立も本当に大丈夫かよ」

「大丈夫だよ。……多分」

 

 昼食後の休憩を取り終えた頃。

 胡桃と足立の二人は、踊り場のバリケードから二階の方へ出ていた。

 購買部へまた食料を取りに行く事になり、二階の彼等を一階へ誘き出す準備をしているからだ。

 防犯ブザーで二階へおびき寄せられた彼等は、時間を経てその数を減らしている。濃度勾配に従うようにゆっくりと、彼等は階段から離れている。

 だが、それでも二人で殲滅できる数でも無い。

 

「お前って本当に締まらないな……まぁいいや」

 

 胡桃は呆れた顔を真面目な顔に戻し、足立に目で合図を送る。

 

「行くぞ」

 

 胡桃が階段から駈け出すと同時に足立は、左右の廊下に栓をした丸底フラスコを転がす。

 ガラスの破片やら何やらを入れたそれは、長い廊下を音を鳴らしながら転がっていく。

 その音に興味を引かれたように、彼等は階段から廊下の奥へと体を向ける。

 その間にも胡桃は階段を降り、一階へと着いていた。

 廊下に転がる死体を見ない様にしながら、目的の物を探す。

 

「……あった」

 

 薄暗い廊下の中でも不気味に光る赤い光。

 その周りにも彼等がいる為、足立と同じ様に破片を入れたフラスコを転がして注意を逸らす。

 彼等が自分に気付かないよう忍足で光へ近付く。

 廊下の壁に直接設置されている白い物体。

 あの事件で血や汚れが付いているが、赤い『消火栓』と書かれた文字は胡桃にはハッキリと読めた。

 

「ボタンは……っと」

 

 赤いランプの横、カバーガラスをされた非常ベルのボタンを強く押す。

 けたたましいベルの音が辺りに鳴り響く。

 二階まで聞こえるそれは、彼等の多くをおびき寄せてくれるだろう。

 

「よし」

 

 胡桃は非常ベルが正常に作動していることを確認すると、元来た道を戻り階段を二段程飛ばしつつ駈け登って行った。

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