僕は幸せだっただろうか。
両親と兄弟、そして大切な友人達。
それらに囲まれて生きてこれた。
それが幸せというなら、僕は幸せだったのだろう。
僕はどんな人間に見えるだろうか。
人によって異なるだろう。
でも、僕という存在はこの世にひとつしかないのだ。
考えることは良い事だ。けれど時間は有限だ。
想像力は無限だが、現実もまた、有限である。
悲しいことだ。
ある日、いつものように目が覚めた。
少し寒くなりだした9月下旬の朝六時。
いつものように寝巻きのまま玄関から出て、ポストの新聞を取りに行く。
社会系科目が得意な僕は、大学入試の対策と、日々の習慣として新聞を読むことにしている。
その日、新聞の下に見慣れぬ封筒が入っていた。
新聞と一緒にというのは少しおかしい。昨日取り忘れていたのだろうか。
そんな事を考えながら封筒を裏返すとそこには、
“岡山県”と書かれていた。
大事な書類だろうか。それにしては薄かったが。
家に入る。
その瞬間、手から封筒が滑り落ちる。
「あっ・・・おっと」
拾う。運動しなさすぎて握力までなくなったか。
リビングに行き、新聞を読もうかと思ったその時、
封筒から一枚のカードが床に落下した。
なんだろうか、と思いカードを拾う。
すると拾ったカードから映像が飛び出した。
最近実用化されたホログラフィックカードというやつだ。
映像には弟の名前でも、親の名前でもなく。
「僕宛?」
自らの“水越 零”という名前が印字されていた。
その後出てきたメッセージは、
“本日23時、水越零様を御送りさせていただきます”
“本件は既にあなたのご両親にご説明させていただいております”
“このカードには電子マネー50万相当がチャージされております”
“ご自由にお使いください。ご旅行を心置きなくお楽しみください”
―――と書かれていた。
今日は高校の体育祭・文化祭の打ち上げの予定があった。
カードに書かれていたご旅行とはこのことだろうか。
確かに、親にかなり前から打ち上げの予定は話していたが、
その事を岡山県の役人に教えたのだろうか。
まさか。そんなわけあるかね。
半信半疑どころか、その時は全く、ただの悪戯だと思った。
きっと、悪質な詐欺か何かだろうと。
朝食をとり、歯を磨いて、顔を洗い、打ち上げに行く準備をした。
皆おしゃれして来るんだろうなぁ。
越智は、私服がジャージしかないから、やっぱりジャージで来るのだろう。
想像すると少し、笑いそうになった。
ところで、母と、歳の離れた弟はまだ寝ていた。
父はどうやら自分が起きる前に仕事に出て行ったようであった。
本当に仕事なのだろうか。
父はここ最近帰ってくるのも遅ければ、仕事に行くのも早い。
まるで家族を避けているかのようで、僕は浮気しているのではないかと疑っている。
当然ながら確かめられるはずもなく、僕にはそれがわかるはずもない気がしていた。
僕は、母に置手紙をして早めに家を出ることにした。
“ごめんなさい、まだ寝ているみたいだから置手紙しておく。いってきます。”
そう殴り書きして、机の上にバンッと置いた。
まるで離婚届を突きつける女のように。
心の中のモヤモヤを掃うように。
最寄の駅まで20分弱ほどの道のりである。
人通りは土曜日だが少ない、いや、であっても、の方が正しい。
朝早くから農作業をしているお年寄りと田んぼを横目に、僕は駅へと進んで行く。
ただ、ひたすらに歩いてゆく。
自分の人生もこんな感じなのだろうか。
エスカレーター方式で中高大と進んでゆく自分。
大学はまだ決まっていないけれど、通らなかったら就職だ。
そうなったらフリーターだ。お先真っ暗の危険もある。
でも、はっきりしているのは自分の人生のこれからの分岐は、大雑把に二つしかない。
それだけだ。
駅に着いた。田舎特有の無人駅だから、誰にも会わない。顔も合わせない。
定期を改札にタッチしてホームへ向かう。
あぁ、今日は皆と騒ぎまくるのか。それも悪くはないだろう。
人生は、まだまだ長いのだろう。
楽しんだもん勝ちだ。
打ち上げは昼前11時に岡山駅東口集合。
最近一気に普及したスマホを持っていないアナログな僕は、越智からそれだけを聞き及んでいた。
どこかの料理屋に行くらしい。
2次会もある。
そう越智は言っていた様な気がする。
小遣いは前にもらった分で足りるだろう。
オーバーするようなら急用が、とか言って退散しよう。
そんな事を危惧しながらも、この後のお楽しみを考えれば、
自然と気分も高揚するのだった。