D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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善を行うことは、苦痛を受け入れることである。
心境の変化を終えた青年は、その苦痛が何たるかをまだ知らなかった。
誰かを助けることは、誰かを貶めるということだ。
きっとそれは、自分なのかもしれない。


≪加速運動(アクセラレート)≫

『薔薇に頼み事をされたなら、鼻にソーセージをつけてやれ』

 

予科1年A組の葛木清隆は、他の組の生徒会の立候補者と違い、ネームバリューがないため、選挙ではかなり不利になる。そこで、非公式新聞部という組織のリーダーである、杉並という男に参謀を依頼したのだが、その条件として出された暗号がこれであるらしい。

これをメアリー・ホームズ率いる探偵部が解読に成功したようで、その意味は、

『女王陛下の依頼は2番目のものを選べ』

というものであった。

そういう訳で、清隆は、不安がるクラスメイトを退けて、リッカにその旨を告げた。

リッカがあいつらしい、と零したことから、知り合いなのだろうと思われる。

果たして、杉並とはどのような人物なのだろうか。

そして、今回の依頼は。

ロンドン市内に潜む脱獄犯を確保すること。

 

特殊刑務所に服役中だったのだが、脱獄を試み、現在ロンドン市内に潜伏しているらしい。

 

「ったく、面倒くせえ奴が現れたもんだな……」

 

「そうね。そんなののさばらせてたら、今までの努力が無駄になっちゃう」

 

そんな2人などつゆ知らず、クラスのみんなは動揺しまくっていた。

脱獄をするということは、極悪犯である、という認識があるのだろう。

 

「大丈夫よ、脱獄犯と言っても、ちょっとだけ魔法をかじった程度の相手だもの」

 

その通りである。まともな教育を受けている魔法使いがそのような物騒なことはしない。

魔法使いの心得は、入学当初からしっかりと仕込まれる。

 

「なんか、ちょっと怖いですね」

 

「大丈夫だろ、リッカさんだっているんだし」

 

「それは分かってるんですけど、でも、不安っていうか……」

 

「安心してよ、姫乃ちゃんには俺がついてるからさ」

 

言葉の上では頼りになるかもしれないが、清隆たちにとって彼の認識とは、割と低く位置づけられているのだろう、周辺の人間は苦笑していた。

リッカはみんなに油断だけはしないように注意し、いざ、出陣した。

 

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単独行動、龍輝はそれを得意としている。

それは彼の立場を考えれば仕方のないことであった。彼は、何かを成す時、常に独りだった。

さて今回も適当に動かせてもらおうと考えているところをリッカに呼び止められる。

 

「アンタも例外じゃないわよ。まぁ、アンタはスリーマンセルまではしなくても大丈夫だろうけど、それでもペアで行動してもらうわ」

 

「何で……?」

 

「規則よ、規則」

 

「はいはい……」

 

リッカはそういうと、1人の少女を連れてきた。サラだった。

 

「それじゃ、今回はサラと一緒に行動してもらおうかしら。前回の爆弾テロでも一緒だったし、魔術的な知識はサラに任せて、その他のリードは龍輝がやってあげて頂戴。サラは優秀だから、間違いを教えるとそのまますぐに飲み込んじゃうから、注意しなさいよ」

 

「待て、俺はまだサラと行くって決めたわけじゃ……!」

 

「これはクラスで請け負った依頼なのよ?あなたも一応うちのクラスのメンバーなんだから、私の指示には従ってもらうわ」

 

「わあったよ、ペア行動すりゃいいんだろ?」

 

「分かればよろしい。じゃ、息ぴったりな活躍をして頂戴よ?」

 

「任せとけって……」

 

言葉とは逆に肩を落とす龍輝。軽くやる気をなくしたようだ。

 

「ちょっと、何やる気なくしてんのよ、ほら、サラ、龍輝を元気付けなさい」

 

「えっ、でも……」

 

「ああ、大丈夫だよ。ほら、いくぞ、サラ」

 

「えっ、はい」

 

リッカに軽く手を振ってその場を去る。サラもリッカに一礼し、龍輝に付いていく。

向かう先はロンドン市内で最も大きな駅である。ここを封鎖すれば、ほとんどの交通手段は絶ったようなものだ。

序盤、サラは聞き込みから始めようとしたが、龍輝はそれを止めさせ、最も効率の良い上記の方法を提示した。

 

「先輩、流石です」

 

「まぁ、これくらい出来ないと俺同行する意味ないしな」

 

この旨をリッカにシェルで伝え、とりあえず駅になるべく急いだ。

駅に着いた龍輝たちは、まず駅長に大まかなことを話し、状況を理解させ、手を打ってもらう。

駅を封鎖したら、次に逃亡しやすいのは水路である。というわけで、清隆たちにはテムズ川流域に向かうように指示した。

 

「やっぱり凄いですね、先輩。リッカさんが信頼するのも分かります」

 

「まぁな。危険なことはいくらでもやってきたさ。状況判断に関しては自信はある」

 

「危険なこと……ですか……」

 

サラが不安げな眼差しで見つめてくる。

 

「まぁ、そういうことだ。だから、何かあったら何でも相談してくれ」

 

「は、はい」

 

そんな時、近くにクレープ屋を見つける。

 

「なぁサラ、俺は大活躍をしたから小腹が空いたんだ。ちょっと付き合ってくれるか?」

 

「え?でも、任務中ですよ?」

 

「これも任務の一環だ。街の地理を知ることで今後の活動を効率良くするんだな」

 

「じゃあ、見て回るだけでよくないですか?」

 

「ばか者、体験が肝心なのだよ、ワトソン君」

 

「はぁ……」

 

という訳で、クレープ屋でクレープを適当に2つ購入、片方をサラに渡そうとするが。

 

「いえ、結構です。先輩だけでどうぞ」

 

「甘いものは疲れた体にいいんだぜ?」

 

この年頃の少女、それにいろいろなものを我慢してきたのであれば、こういうものは喉から手が出るほど欲しいだろう。

モノというのは、手元にないから欲しがるものだ。

そして、その素晴らしさを知っているものは、ますますそれに執着しようとする。

ぴくん、と、サラが反応するのを龍輝は見逃さなかった。だから煽る。とことん煽る。

 

「いらないのなら、全部食うかな。はむっ、ん~~~、うま」

 

「あぁあ……」

 

「んじゃ、こっちも。あーーーん」

 

「ちょっ、待ってくださいっ!」

 

「……さぁ、どうして欲しい?」

 

「参りました、クレープをください……。」

 

観念したサラの頬は、真っ赤に染まっている。

滅茶苦茶恥ずかしがるサラに、可愛いな、と思ってしまう。

さて、クレープをサラに手渡したのだが、その後サラがどうなったのかは言うまでもない。

龍輝たちはリッカ一行と合流し、テムズ川流域で聞き込みに当たる。無論、サラとクレープを食べながら来たことは内緒である。

ある程度時間を掛けたが、いい反応がないことから、まだこちらには来ていないようだ。

 

――さて、どうしたものか。

 

少し離れた隣の船着場を見る。そこでは清隆が聞き込みをしている。

風見鶏予科1年だが、その正体はカテゴリー4の魔法使い。何故そんな彼が魔法学校に通っているのか。きっと、彼なりに守りたいものがあるのだろう。

反対を見る。そこにはサラ。

危険だから待機しているように指示したのだが、危険なのはみんな同じだとかで、一緒に聞き込みをしている。

 

――と。

 

サラの背後から1人の人間が近づいてくる。場所が少し遠いのと、霧が濃いのが相まってその顔は確認できない。

その人影は戻ろうとするサラの影と交わり、そして離れる。

サラの陰が止まる。

 

「そこの人、ちょっと止まってくださいっ!」

 

「何……?」

 

「アンドリュー・ギャリオットさん、ですね?」

 

アンドリュー・ギャリオット、それが脱獄犯の名前である。

 

「その制服、風見鶏の生徒か!?」

 

「おっ、大人しくしてくださいっ!」

 

「ち、畜生!こうなったら……!」

 

男が懐から何かを取り出す。

 

「ひっ……!」

 

≪加速運動(アクセラレート)≫を発動。視力を5倍以上に。

見えたのは。

 

――拳銃。

 

「サラっ!危ない!」

 

地面を蹴る。十数メートルは離れているが、能力を使えば飛び越えられないことはない。

 

「なっ!?」

 

予想だにしない方向から龍輝が飛んでくるのを見て、アンドリューは動揺する。

動揺した人間は、一時的に本能的に動いてしまう。

それはつまり。

 

――パンッ!

 

その音が聞こえたのは、龍輝が勢いでサラを庇ってそのまま押し倒す形となった瞬間であった。

その鉛玉は、まっすぐに龍輝の胴体に向かう。

龍輝は。

その玉を見る。判断は出来る。しかし、宙に浮いた体はどうにもならない。ゼロは倍にしてもゼロなのだ。

 

「……やべ」

 

そして、鉛玉は、龍輝の脇腹にめり込んだ。

歪む龍輝の顔に驚愕し、恐怖するサラ。

そして龍輝の痛覚は。

 

「ぐあぁあああああああああああああ!!!!」

 

激痛に悲鳴を上げる。現場に接近した清隆たちもその光景に衝撃を受ける。

 

「龍輝さん!」

 

「龍輝!」

 

「龍輝先輩っ!」

 

撃たれた青年の名を叫ぶ。返事はない。

 

「せん……ぱい……?」

 

「くふぅ……、さ、サラ、大……丈夫、か……?」

 

「せ……先輩ぃ……」

 

サラが泣き出す。軽くあやして、立ち上がる。そして、アンドリューに向き直る。

 

「お、お前が悪いんだっ!お前が急に出てくるからっ!」

 

「ああそうかい、そいつは悪かったな。でもな、こいつらに手ェ出すのは許さん……」

 

龍輝は、静かに怒っていた。

 

「≪加速運動(アクセラレート)≫。……ぐっ!」

 

能力を発動する。しかし、発動した瞬間、撃たれた脇腹に尋常ではない痛みが走る。

地面を蹴り、一気に距離を詰める。

 

「ひっ……!?」

 

アンドリューの首を鷲掴みにし、そのまま地面に叩き付けた。

 

「ぐはぁ……!」

 

アンドリューは一撃で気絶した。

龍輝はすぐに能力を解除する。

 

「り、リッカ、銃弾の除去と、治療魔法頼む……」

 

「わ……分かったわ」

 

リッカは龍輝の元に駆けつけ、すぐに術を発動する。

その途中。

 

「なぁリッカ、悪いけど、このまま寝ちまっていいかな……?」

 

「まったく、アンタはなんでそうやって無理するのよ。……まぁ、少しだけだからね」

 

術を終了させると、リッカは清隆と姫乃に指示を出す。

 

「私はこれからこの男をある人に引き渡すわ。3人は、他のクラスメイトに任務が終わったことを連絡して、国会議事堂前に集合するように伝えて。アンタたちも戻りなさい」

 

「えっ、でも、龍輝先輩はどうするんですか?」

 

「ああ、私が後で連れて行くわ」

 

「それって、かなり時間掛かりません?」

 

確かに、龍輝をここに置いていかない限り、リッカはこの場を離れることは出来ない。

それで犯人を引き渡すことは、その係の者から来ない限り不可能である。

 

「大丈夫よ。あいつならきっと来るわ」

 

この状況で、暗い雰囲気を打ち消すため、わざと無理矢理な笑みを浮かべた。

 

「じゃ、よろしくねー」

 

リッカは3人が視界から消えるのを見て、魔法で龍輝に掛かっている重力を軽くし、リッカが抱える。

そしてそのまま通路の端にもたれかかるように座り、龍輝の頭が自分の膝に来るように寝かせる。

その顔は、銃で撃たれたとは思えないほど安らかだった。

その後、リッカはとある男に冷やかしをされることに腹を立てたが、無事に犯人を引き渡すことには成功した。

その男は、ロンドン中にかなりの情報網を設けている集団のリーダーで、その名も――杉並、と言った。




針を動かす、歯車はついに軋み始める。
それは本来起こり得なかった“もう1つ”の禁呪によって――
プロジェクトの指導者は、無表情で、フィールドを見つめていた。

次回『『もう1つ』の禁呪』
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