D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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どれだけの者が犠牲になったろうか。
どれだけの者が破滅したろうか。
――そんなことは考えるだけ無駄なのだ。
全ては、自身にとって最高の結末を迎えるために――


『もう1つ』の禁呪

男は不敵に微笑んだ。

その男、『研究施設』の最高権力者である、シグナス・ルーン。

 

「さて、禁呪の準備は整った……」

 

場所は、薄い灰色のコンクリートで出来た、かなり広い部屋。物一つ押かれていない。

その床に、白いチョークで、正確かつ慎重に魔法陣を書き込んでいく。

その魔法陣は、玄人の魔法使いでも解読し難い高度の術式を複雑に組み込ませており、かなり強大な力を引き出す。

利用するのは、地上に広がる悪夢の禁呪。暴走するそれの力の流れを呼び込み、変換する。

そして、“幻”に“実体”を与えてやる。

そう、それは、禁じられた“召喚術”。

 

「変えてやる。最強にしてやるよ。日常と引き換えにな……」

 

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龍輝はドキリとした。

それは心地よいものだった。

目が覚めると、ここは寮の自室ではなく、保健室であることに気付く。

周りに、リッカやサラ、姫乃に清隆もいた。脱獄犯を捕えた時のメンバー、つまり、龍輝の能力を目の当たりにした者たちだった。

頭を働かせ、学園に帰着後、リッカたちに気圧され、渋々保健室に足を運んだのを思い出す。

 

「おはよう。調子はどう?」

 

「龍輝さん!」

 

「龍輝先輩!」

 

「なーに、余裕だよ、余裕。リッカの治療魔法も良かったしな」

 

「何が余裕よ。撃たれた時痛がってた癖に……」

 

「銃で撃たれたら誰だって痛いだろーが」

 

リッカは強がっているが、本当は凄く心配していることに、気付いていた。

龍輝ははにかみ、青髪の少女に目を向ける。

 

「せんぱい、……ごめん、なさい……」

 

目の前の、身を呈して自分を守った先輩の優しい笑顔に安心すると同時に、自分の不甲斐なさにサラは泣き始める。

そんなサラを見て龍輝は、上体を起こして微笑み、あやすように小さな頭を撫でる。

 

「何言ってんだよ。お手柄じゃねーか。犯人見つけて足止めしたじゃん」

 

「でも……でもぉ……!」

 

「俺は大丈夫だって。それより、サラが泣いてちゃ俺が体張った意味ねーじゃん。ほら笑えって」

 

それでもサラは泣き止まないようなので、龍輝はサラの頬を摘み、力加減をして縦横無尽に引っ張った。

 

「いふぁい、ひはいいぇふ~~!」

 

「はっはっはー。泣き止まないといつまでも続けるぞー」

 

「ちょっと、そのくらいにしときなさいって」

 

「うるさい、俺は泣く子がもっと泣く鬼軍曹だ」

 

「それ駄目じゃない……」

 

むにむにむに。

 

「もうっ、いい加減にしてくださいっ!……あっ」

 

可愛らしく怒って龍輝の両手を振り払うが、彼の術中にはまったことに気付き、ばつが悪そうに頬を朱く染めて俯いた。

 

「それでいいんだよ」

 

勢いをつけてもう一度ベッドに倒れ込む。

サラにはその呟きは聞こえなかった。

 

「ほら、もうチャイム鳴るぞ。教室戻れよ」

 

「そうね、そろそろ帰りなさい」

 

そう言うと、清隆たちは安心しきった表情で教室に帰っていった。

しばらくの沈黙の時間が流れる。

先に沈黙を破ったのは龍輝の方だった。

 

「なぁ、リッカ」

 

「何?」

 

リッカの返事と同時にチャイムが鳴る。

チャイムが鳴り終わるのを待って、龍輝が口を開いた。

 

「今から、かなり変なこと聞くぞ?」

 

「何よ。」

 

「俺って、みんなに認められてるかな……?」

 

いつもの龍輝らしくない、弱気な質問に少し唖然とする。

 

「そうね……、アンタが起きた時のみんなの反応と、さっきのサラの態度が物語っているわね」

 

龍輝は、そっか、と呟くと、嬉しそうに小さく微笑んだ。

 

「俺、もっと自分の人生楽しみたい」

 

「どうしたの、急に?」

 

龍輝の中で何かしらの変化が起こっているのには気付いていたが、聞かずにはいられなかった。

 

「スライ・シュレイドに怒られたよ。自分を大切にしろって」

 

「そう、あいつが……」

 

あのカテゴリー5は、シャルルの言うとおり、悪い人ではなかった、それを知って、少し安心した。

 

「俺、みんなと仲良くできるかな……」

 

言葉そのものはいたって幼稚だったが、そこに根本的な不安があるのをリッカは感じ取った。

だから、優しく返す。

 

「アンタなら出来るわよ。アンタの社交性には驚かされっぱなしなんだから」

 

「……俺を舐めるなよ」

 

龍輝が微笑む。もう迷いはなかった。

 

「これからどうするの?」

 

「俺はもう動ける。生徒会の手伝いがしたい。それが終わったら、さくらをチェスでボコボコにしてやる」

 

「そう、じゃ、行きましょ」

 

龍輝は、ゆっくり立ち上がった。

 

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生徒会室に行くと、巴は非番でいなかったが、シャルルが不安げな表情で向かえてくれた。

どいつもこいつも、と苦笑して自分が大丈夫であることを長い時間を掛けて主張してようやく安心してくれた。

いつものように談笑を交えながら作業をしていたのだが、心境の変化からか、いつもより楽しく感じられた。

 

さて、仕事を終わらせた帰り道のこと。

 

「あ、あれ、スライくんじゃない?」

 

シャルルが指差した先には、全身白を基調としたコスチュームを身に纏った魔法使い、スライ・シュレイドがいた。

 

「ホントだ、あいつ何やってんだ?」

 

龍輝の言ったとおり、スライはかなり奇怪な行動をとっていた。というのも、彼は道の端でしゃがみ、1人でブツブツ呟いていたのだ。

龍輝が近寄り、声を掛ける。

 

「おーい、何してんの?」

 

すると、スライに隠れて見えなかった小鳥が、逃げるように飛んでいってしまった。

 

「あ゛あ゛~~~~!」

 

切なげな瞳で、胡麻粒ほどにしか見えなくなった小鳥を見つめていたが、その表情は次第に怒りへと変わっていった。

 

「……お前、覚悟はできてんだろな?」

 

「えっ?えっ?」

 

訳の分からない状況に思考が混乱する。

気が付けば、目の前の男はいつの間にか氷の短槍を手にしていた。

 

「ウルルルァ!」

 

スライが肉薄し、槍を振るう。

 

「うわっ!?≪加速運動(アクセラレート)≫!」

 

瞬時に回避し、槍は龍輝の前髪を掠めた。

 

「こんのっ!」

 

スライは攻撃を外しても、慣れた動きでステップを踏み、相手に向き直る。

 

「ちょ――!?」

 

「もう、いい加減にしてーっ!」

 

シャルルの声に2人とも――いや、気をおかしくしていたのはスライだけたが――我に返る。

普段はおっとりとした性格のシャルルが、聞いたことのないような大声をあげたのて、そこにいた彼女以外の3人は例外なく凍りついてしまった。

 

「……今まで長い付き合いだけど、シャルルってそんな大きな声出るんだ」

 

驚きの中で無理矢理につくったリッカの笑顔は引き攣っていた。

 

「あー、えっと……」

 

「あーっ、シャルいたんだー!」

 

「まっ、まぁ、うん」

 

先程までのスライの剣呑な雰囲気から急激に一変して、シャルルは動揺を隠しきれない。

 

「そっちの金髪、名前は、……えーっと」

 

「リッカよ。リッカ・グリーンウッド」

 

「リッカ、って、あのカテゴリー5の!?うわ、マジ、本物かよっ?」

 

自分も同じカテゴリー5なのに無駄に興奮している。

そしてやはりと言うか、リッカは苦笑していた。

 

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寮に帰りながら雑談していると、いつの間にか話題が龍輝のことになっていた。

彼自身自分のことを話すのは少し苦手で、内心では照れまくっていた。

隣では何故かスライが拗ねた顔で龍輝を睨んでいた。

 

「お前みたいなネガティブ野郎がリア充とかマジ解せぬ」

 

「……は?」

 

「言われてみれはそうよねー。生徒会では私とシャルル、それから巴」

 

「うんうん」

 

「最近サラもなんかいい雰囲気になってるし、清隆と接触すれば姫乃もいるしねぇ」

 

「うんうん!」

 

「この前、フラワーズで陽ノ本さんをかっこよく助けてたっけ?」

 

「うぐっ……!」

 

「うんうんっ!」

 

なんだかリッカとシャルルが楽しそうである。

 

唸り声が聞こえると思ったら、隣でスライが泣きそうになっていた。

 

「なっ……なんだよ……」

 

「なんでっ!なんでお前はそんなに女の子との出逢いが多いんだよっ!?俺なんて、毎晩訪れてくるのは将軍職のむさいオッサンばっかなんだぞっ!」

 

「そっ、それはそれで哀れだな……」

 

「スライくん、あたしがいるよー……」

 

「やっぱシャルいい娘っ!」

 

スライがシャルルの胸にダイブし、おいおい泣き始めた。

 

「な、なんなのこいつ?」

 

「あははは……」

 

シャルルは多少嫌がってはいるものの、無理矢理引き剥がしたりしないところを見るに、それなりに心を許しているようだ。

 

――と。

 

魔力の流れを感じた。普通の魔力じゃない。

これは、地上から流れてくる魔力。それも、負でも正でもない、極限まで均一化されたエネルギーを感じる。

 

「なぁリッカ、今の、感じたか?」

 

「感じたって、何を?」

 

リッカは分からなかったらしい。

 

「スライは?」

 

シャルルから離れ、真剣な表情で首を横に振る。

 

「どんなのだ?」

 

「口で説明できないんだが、なんていうか、やばいっていうか、無理矢理流し込んでるっていうか……」

 

「流し込んでる?」

 

「ああ、地上からっぽいぞ」

 

「ちょっと待って。私たちで認知できない力の流れが龍輝にだけ感じられるってことは、均一化された、膨大な力なんじゃないの?何でそんなものが地上から……?」

 

「分からん。ただ、なんかやな予感がするんだよな」

 

龍輝とリッカが考え込む。

しかし、スライは驚くほど能天気に口を開いた。

 

「まぁ、分からないものは気にしても仕方ないだろ。この件は俺に任せろ。そんなことより龍輝、俺に女の子紹介しろっ!」

 

「はぁっ!?」

 

風見鶏で何が起きているのか――かなり気になるところだったが。

今はスライに任せて、さくらをどうボコにするか、複数攻め方を考えることにした。




身に纏う漆黒のローブ。
セミロングの赤毛の髪。
頬に散らばったそばかす。
そして、大きな深いエメラルド色の瞳。
存在するはずのない少女が、孤高のカトレアを前に、ただ、嗤っていた。

次回『霧の中の少女』
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