D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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誰かに生んでもらって、捨てられて。
『感情』を知らなかったから、『憎』みもせす、『怒』りもせず、『悲』しみもしなかった。
望んだのかもしれない――何にも劣らない力を。
ある日、白衣を着た、滑らかな金髪の青年に、拾われた。

とある青年の、物心つく前の、記憶にない記憶。


邂逅、自分、彼女たち
出会いの始まり


時は2年ほど前に遡る。

これは龍輝が、3人の少女と出会い、打ち解けていく、過去の物語である。

見届けて欲しい。

何故彼が、『ここ』に居場所を作ることが出来たのかを――。

 

ちょうどその頃だった。彼が『研究材料』としての役目を負うことになったのは。

何の特徴もない、言い換えれば、純粋で、何にも染まっていない、そしてこれから先どうにでもなる魔力を持つ者。

その名を、上代龍輝と言った。

彼は生まれてこの方、親代わりの者、そして研究職の人間としか会ったことがなかった。

他人と、まともに接したこともない。

今日もまた――始まる。

過酷な、『実験』が。

 

「『研究材料』となるに当たって、お前は貴重な資源となる。ここロンドンも決して完全な治安維持が出来ているとも限らないからな。自衛能力だけは身に着けてもらわなければ困る。そこでだ」

 

シグナス・ルーン。

上代龍輝の父親代わりの人間で、『研究施設』の代表人物である。

また、とある偉大なる功績を挙げたが故に弾圧され、静かに研究に身を潜めることになった、隠れた大魔法使いでもあった。

龍輝にとって、シグナスは尊敬に値する人物であり、絶対服従することが至上の命題だと思っていた。

 

「お前には、身体能力向上の魔法を発現させる」

 

「――……」

 

「特徴としては、運動神経及び感覚神経の伝達速度の向上、各筋肉の強化と運動速度の向上、受容器と効果器の反応の鋭敏化だ」

 

――能力名は、≪加速運動(アクセラレート)≫。

 

簡単な説明を受けた後、龍輝はある一室に通される。

白い壁、白い天井。

白く広い部屋の中心には、寝台のような装置があった。

勿論魔術的加工がなされており、今回彼に能力を植え付けるための装置である。

龍輝は躊躇いもなく装置に歩み寄り、そして仰向けに寝台の上に横になった。

拘束具が龍輝の両腕、両足、首、胴の自由を奪う。

そこで初めて、龍輝は恐怖を覚えた。

この寝台がカプセルであるかのように、天井から半透明の楕円形の球体が降りてくる。

それはすっぽりと龍輝の体を隠し、そして、そのカプセル内に濃い魔力の霧を生成する。

その魔力に霧を吸い込むと、体全体が痺れるような感覚になる。

呼吸を繰り返すたびに、それは苦痛、そして激痛へと変わっていった。

 

「――――ッ~~~~~!!――――ッ~~~~~!!!!」

 

声にならない悲鳴を上げる。

自由を奪われたまま、もがく。足掻く。

動かない。それでも、我慢なんて出来るレベルじゃない。

龍輝にとって、力を振り絞って暴れて、叫んでいるつもりだったが、カプセルのせいで、それら全てが研究員に届かない。

動悸が激しい。

過呼吸に陥る。

あまりの苦痛に、目からは涙が零れ、体中から汗が噴出し、拘束具がはめてある部分にはくっきりと痣が出来てしまった。

体が刺激に追いつかなくなって、龍輝は、その場で意識を失ってしまった。

 

「気は失ったが、成功――だな」

 

部屋の外、制御室から龍輝の様子を眺めていたシグナスは、安心した面持ちで様子を見ていた。

制御室から出て行く時、その金髪のロングへアが、さらりと波を打った。

 

龍輝が目が覚める頃には、既に日付が変わっていた。

季節は夏。

風見鶏の生徒は、夏季長期休暇で、ほとんどの生徒が帰省して出払っている頃である。

視界がはっきりしてきた龍輝がまず目にしたのは、シグナスの姿だった。

 

「ああ、気がついたか。調子はどうだ?」

 

「……」

 

言葉は出ない、が、首を盾に振る辺り、気分は優れているようだ。

体を起こし、ベッドから降りて立ち上がる。

 

「今日からここがお前の生活の場だ」

 

ここは風見鶏の学生寮で、そこの男子量となっている。

部屋の構造は他の生徒と基本的に同じである。

新しい環境に適応するため、龍輝は軽く辺りを見渡す。

 

「で、例の能力の件なんだが――これから簡単にテストをする」

 

「……はい」

 

「では、イメージしろ。自分の魔力、力の流れが体内全体を隈なく埋め尽くすイメージだ」

 

言われたとおりに実行する。

イメージ。

力の流れが、爪先、踵、足首、脹脛、太股、股間、腰、腹、胸、肩、腕、手首、掌、指先、首、喉、口、耳、鼻、目、脳へと、順に流れ込んでいく。

すると、体に大きな変化が生まれたのを感じた。

 

「ほう、覚えが早い」

 

「くっ……」

 

出来上がったのはいいが、初めて行使する魔法、コストは大きく、適応できていない条件下でのデメリットは少なくない。

 

「解除するときは、それをふっと消すイメージだ」

 

再び言われるままに実行すると、体に走る不快感が消え去った。

同時に、極端な疲労感、倦怠感に苛まれる。

 

「――……」

 

「今はまだ苦しいだろうが、訓練を積め。さすれば、その内使い慣れる。さて、休んでいる暇はない。これからお前の処遇で風見鶏の校長と話をつけなくてはいけないのでな」

 

シグナスが部屋を出ようとするのに同行し、その後についていった。

久しぶりに見た外の風景。

特に、ぽつぽつと見られる桜の木には美しさを感じ取ることが出来た。

後の桜並木となる道を歩いていく。

長期休暇なこともあって、ほとんど人がいない。

今この道を歩いているのは、龍輝とシグナスだけだった。

しばらく歩いていると、前方に大きな建物が見えてきた。

風見鶏魔法学校。

多くの魔法使いが集い、魔法に関して勉強し、同時にその力を使って魔法使いの地位を向上するために貢献する場。

校舎内に立ち入り、廊下を進んで、階段を上がって、とある一室の前で立ち止まった。

シグナスがその部屋のドアを4回ノックし、返事を待つ。

 

「どうぞ」

 

中から聞こえてきたのは、おっとりした女性の声だった。

返事を貰ったシグナスは、龍輝をつれて入室する。

 

「失礼します」

 

「こんにちは」

 

声の主は、その部屋の一番奥の席で座っていた女性で、この学校の校長を務めている、エリザベスであった。

 

「そちらが、貴方の言っていた子ですか?」

 

「はい。今回『研究施設』において、魔法使いの地位向上のためにその素質を提供してくれる者です。名を上代龍輝、とある日本人の子供で、親の血筋は魔法使いではなく、ごく一般の家庭で生まれた人間、親に捨てられていたところを我々が保護し、育ててきた次第です」

 

シグナスの紹介が終わった後、エリザベスは龍輝を一瞥した。

そしてにっこり微笑み、立ち上がる。

龍輝の前に立って、そして手を差し伸べ――握手を要求した。

龍輝は少し躊躇ったが、その手を片手で握り、簡単に握手をするなり、すぐに手を引っ込めた。

 

「あらあら……」

 

龍輝の対応に軽く傷ついたようだ。

エリザベスは本題に入ることを提案し、シグナスもそれに同意する。

しばらく話し合った結果、ひとつの結論に辿り着いた。

 

「それでは、上代龍輝の処遇について結論を下します。上代龍輝は、本日から3年間、風見鶏の生徒として、本科1年生として扱い、クラスには無所属、『研究』に全力を注ぐことを命じます」

 

「……はい」

 

龍輝は軽く頭を下げ、――そして疲労でふらっとした。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

慌ててエリザベスに抱きとめられ、地面に叩きつけられるのを阻止する。

 

「しばらくここで休んでいってください。もう少しすれば、生徒会の皆さんにもお会いできると思いますし……」

 

「それでは、長くなりますが、上代龍輝のことをよろしくお願いします。私はこれから別の仕事が入っていますので、ここら辺で失礼します」

 

「お疲れ様です。龍輝くんは任せてください」

 

シグナスは一礼すると、学園長室から退室した。

エリザベスは龍輝を椅子に座らせ、一安心する。

 

「大分疲れているようですから、しばらく休んでいてください。ここはいつでも空いてますので、ゆっくりしててくださいね?」

 

そのタイミングで、再び扉が開いた。

入室してきたのは。

 

黒髪のストレートへア、堂々とした雰囲気の、五条院巴。

 

緑のリボンに銀髪でウェーブが掛かった、物腰柔らかな、シャルル・マロース。

 

そして、サファイアブルーの瞳、金色の美しい髪が印象的なカテゴリー5の魔法使い、孤高のカトレアと呼ばれる、リッカ・グリーンウッドだった。




部屋には見覚えのない青年。
俯いていて、陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
話しかけても返事をしてくれない。
それでもどうにかして、彼と話がしたかった。

次回『ツナガリ』
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