D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
今までの修正は『Ⅱ』の修正が終わり次第、漸次行いますので、しばらくお待ちください。
また、その際に、台詞を誰が言ってるのか描写不足で分かりづらい、などの意見があれば、感想欄でお願いします。
変わりゆく世界
「おい」
「何?」
生徒会室でぶらぶらしていると、スライが入ってきた。
挨拶もなしに龍輝に歩み寄り、その胸倉を掴む。
どうやらただ事ではないことだけは分かる。
スライが龍輝を睨む。
逆に、龍輝もスライを睨む。
そして、スライが口を開いた。
「お前、彼女出来たらしいな……」
「……は?」
「は、じゃねーよ。お前、誰だよ、その彼女ってのは!?」
「何で知ってんだよ……」
「風見鶏の校内新聞読んだよ。記事の写真で、後ろの方でお前が女の子とイチャイチャしてるのがあったんだよ!ああ、くそ、うらやましー!」
それがどれだけ悔しいものなのか、当然龍輝には分かりかねる。
ただ、龍輝はこれで人生上スライに勝ち越せたのは分かった。
だから、龍輝はスライに対して軽くニヒルな笑みを浮かべてやった。
「だーーっ!!お前、何だよっ!余裕だなオイ!俺なんかクリスマスは紛争地域で暴徒鎮圧の依頼受けてて、ロマンチックなこと何一つやってないんだぞっ!だからあの女の子が誰か教えてください……」
最後だけお願い口調になってしまっている。なんとも情けない。
「ああ、その時はまだ付き合うとかそういう関係じゃなかったんだけど、リッカだよ。クリスマスパーティーの後に付き合い始めた」
あまりにも哀れだったので、とりあえず願いだけは叶えておいた。
「何、ということは2人っきりの雪の降るホワイトクリスマスイブの夜にロマンチックな雰囲気で愛を確かめ合ったとか、そういう感じなのか!?それに相手がカテゴリー5だとっ!?ふざけんな!認めたくない!リッカってなんだかんだで美人だろうが!それに孤高のカトレアだぞ!?」
また始まってしまった。
この男、やたらと生活内での異性分が不足しすぎているようで、その手の話には異常に反応する。
清隆のクラスにも似たような者がいるとかなんとか。
とにかく龍輝にとって鬱陶しいことこの上なかった。
「カテゴリー5とか、孤高のカトレアとか、そんなものは関係ない。俺は、リッカがリッカであったからこそ好きになったんじゃないかって思う。正直のところ、よく分かったわけじゃないんだけどな……」
「うっわぁ……」
龍輝の歯が浮くような科白に敗北を感じたようだ。
「まぁ……」
スライが立ち上がる。真剣な表情で、龍輝に忠告する。
「彼女のことが好きなら、最後まで責任もって付き合えよ。あの娘の悲しむ顔は、お前まで辛くさせるんだ。そのこと、忘れんなよ」
「ああ」
「それじゃ、俺今日も依頼があるから行ってくるわ。リッカのこと、しっかり支えてやれよ。あいつは多分、自分を強く見せようとして必死だからな」
それだけ言い残して、スライは地上に続くエスカレーターまで去ってしまった。
龍輝も予科1年A組の連中の見送りをするために、生徒会室を出たのだった。
学生寮の前に来た時、真っ先に視界に入った知り合いはサラだった。
サラもこちらに気付いたらしく、小さく礼をした。
「サラも帰省か」
「はい。お父様やお母様たちにも報告しなければならないこともたくさんありますし、お手伝いもしなければなりませんからね」
「流石だな。誇りある一族の娘ってのも、伊達じゃないか。でも、あんまり肩肘張りすぎるなよ。体と心と壊してしまったら元も子もない。休める時は、しっかり休めよ」
「はい。ありがとうございます」
サラは、没落して今では地位も低下しつつあるクリサリス家を、龍輝1人とはいえ、認めてくれていたのが嬉しかったのか、その頬は少し紅潮していて、どことなく嬉しそうだった。
そして互いに挨拶を交わし、サラはエスカレーターへと向かっていった。
するとほぼ同じタイミングで、清隆と耕助がやってきた。
おそらく彼らも見送りに来たのだろう。
「今の、サラですよね?」
「ああ。実家に帰るんだとさ」
「ふーん、名門のクリサリスの実家ねぇ。きっと家族もお堅い学者さんみたいな人たちばっかなんだぜ」
「お前とは大違いで何よりだ」
「……清隆、お前最近、俺の扱いが四季に似てきたぞ……?」
「きっと正しい扱い方なんだと思う」
「ひどっ!?」
男2人が楽しそうに会話している。
本来なら、自分もこんな風に友達と仲良く学園生活を送れるような世界があったのかもしれない、でも、今は今で、とても幸せな時間を過ごせていることに感謝し、同時に、そんな時間は、今までになくとも、これから作っていけばいいのだと思っていた。
「いたいた、兄さーん!」
着物姿の姫乃が歩いてくる。一緒に四季もいるようだ。
姫乃のその姿は、制服のときとはまた違って、一段と優雅に、そして美しく見えた。
「あっ、龍輝先輩、こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは。どうした、みんなこんなところに勢揃いして?」
見たところ、みんなそれなりにおめかしをしているようだ。
どこかに買い物にでも行くのだろう。
「ああ、クラスメイトの見送りついでにこれからみんなでリゾート島まで。それと、もうすぐさくらが来るはずです」
「さくらも?」
「やっほぉーーーーーーー!」
声のする方向を向くなり、小さな体躯が龍輝の体に突撃した。
見下ろした先に小さく映る、金色の頭。
どう見てもさくらだった。
「お前も行くのか?」
「うんっ!」
葵と並んでフレッシュ弾ける笑顔。
相変わらずの元気さに思わず苦笑する。
「ところで、今朝会ったリッカの表情がどうにも浮ついていたのはどうしてなんだろうねぇ~?」
見た目子供がよく気付く。
魔法使いだから見た目どおりの年齢ではないのかもしれない。
とにかく龍輝はとうとうなさくらの発言に動揺した。
「さぁ、何があったんだろうな……」
とりあえず誤魔化す。まだみんなに知らせるようなことでもない。
「え?リッカさんに何かあったんですか?」
「いや、特に何もないよっ!」
そして何もなかったかのような自然な笑顔を姫乃に向ける。
その笑顔は本当に何もないように見せることができた。
感じた。自分の中で、世界が変わっていくのが。
誰からとも距離を置いて、1人で生きてきた、冷たく、殺風景で、単調な世界から、いろいろな色彩で彩られた、本当はありふれたものでも、一つひとつがとても愛おしくて、暖かくて、自分には勿体無くて、だからこそ大切にしようと思える世界へと。
変わらないと思っていた。
変えてくれないと思っていた。
でも。
それは、たった1つの小さな出会いで変わっていった。
その出会いは、龍輝のささやかな希望だった。
そしてその出会いは、大きな変化を龍輝に、そしてリッカにもたらした。
2つの想いが重なり合って、1つの物語が始まった。
2つの想いが、2つの色が、他の想い、色を呼び、そこにの物語という名の1つの絵を作り上げていく。
それには、設計図など存在せず、完成もしない。
でも、だからこそ、未来がある。
きっとこれからも続いていくであろう、幸せに包まれた未来。
青年と少女が肩を寄せ合い、そして、その周辺をシャルルや清隆たちが取り囲み、2人を祝福しながら、みんなで歩いてゆく未来。
悲しみなど、ものともしない。
いつも、誰かが支えていてくれるから。
――だから俺は。
これから少しずつでもいい。
ゆっくりと、ゆっくりと。
与えてもらったものを。
みんなに返していこうと、心に決めた。
風見鶏生徒会役員、孤高のカトレア、そして本科生としての一生徒。
3つの顔を持つリッカは、
同じ時間を共有するには、時間が足りなかった。
そんな中で生まれた、ちょっとだけ甘いお話。
次回『研究と息抜きと』