D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
踏み出した。
でも、扉を開けた先にも、暗闇は、続いていた――
翌日、龍輝はシェルでテキストを受けとる。
差出人はシグナス・ルーン。
用件は、『これから最後の『実験』を行う、至急『研究施設』に顔を出すように』とのことだ。
龍輝は少しばかり『実験』に赴くのを億劫に感じたが、それでも最後の『実験』だ。
この世界全ての魔法使いが安全に魔法を行使できるようにするため、魔法に関する道具などの技術の向上を進めるために行われている『研究施設』の『実験』。
自分の我が儘のせいでその進行を遅らせることになるのには変わりはない。
そして、それによって自分に期待をかけて育ててくれた育て親を裏切ったことになる。
だから、せめてもの償いとして、最後だけはしっかりと『研究材料』としての使命を果たしてみようと、少しだけ思った。
シェルでリッカに『実験』を行うと連絡を入れて、『研究施設』に向かった。
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広大な部屋に、研究員が1人。
長い金髪を揺らして、巨大な魔法陣の中心に立っている。
その周辺には、恐ろしいほどの魔力が漂っていて、術式どおりの演算を始めてしまえば、かなり大変なことが起きるのは間違いないだろう。
研究員は地面に手を翳し、力を籠める。
すると魔法陣は強く光を放ち、そしてそこに、霧のようなものが集まり始めた。
地上から霧を絶えることなく延々と流し込んでいるのは、実際に目視することはできないが、地上からこの地下の部屋に、1本で繋がっている巨大な用水路のようなもの。
あくまでそれは概念的なもので、実際にそこに用水路のようなものがあるわけではないが、まるでそこに通路があるかのように、霧が流れてきていた。
それは次第に黒くなって、1箇所に集積し、形を成していく。
それを見届けることはせず、その研究員は背を向け、部屋を出て行った。
しかし術式の演算は続く。
黒い霧は、大きく渦巻き、旋回し、溶け合って、調和する。
少しずつ形になっていく。
黒く、大きく、そして、凶暴な――。
細長く、逞しくくねった、蛇のような胴体。
他を怯えさせ、震え上がらせ、戦慄させ、退ける、雄々しく禍々しい翼。
圧倒的な存在感を放ち、その眼で見るもの全てを凍てつかせる凶悪な眼。
その口から放たれるのは、何もかもを無に帰す、無双の咆哮。
そこに現出していたのは、紛れもない、夢幻にしか存在するはずのない、黒い鱗や甲殻を身に纏った、巨大な龍だった。
――プラン名、『凍結する世界の終焉(エターニティ・クリア)』。
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龍輝はサングラスをかけた体格のいい男からグローブを受け取り、手にはめる。
相変わらずこれが何を意味しているのか分からなかったが、何か『実験』に関係あるのだろうと、思考を中断する。
そして、実験室の隣にある小部屋に案内され、そこで待機するように促された。
その時、どこからか建物が破壊されて崩れる音がした。
その建物というのも、この『研究施設』であることには間違いない。
「な、何事だ……?」
待機を促されていたのだが、どうやら緊急事態であることを察して様子を見ようと立ち上がる。
すると、隣の実験室にて大きな音がなったので、急いで中に入ってみることにした。
そこで目にしたのは――
紛れもない、龍だった。
何故こんなものがこの世界に存在しているのかは分からない。
この生物は本来伝説上のもので、それこそ、誰にもその存在は信じられず、せいぜい伝承止まりでしか語り継がれなかった。
しかし、その御伽噺の体言が、目の前にいる。
「これは……!」
龍輝は、すぐさま『研究施設』代表であるシグナスを探すと同時に、目の前の黒龍から逃げるためにこの部屋から立ち去った。
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生徒会役員が事務作業をしているころ、校舎外にて謎の巨大な爆発音。
恐らくはそれほど近くはない場所での事件だろうが、それでも耳鳴りがするほどの大爆発らしい。
「な、何、今の!?」
「とにかく、現場まで行って確かめてこないと!」
そして、巴も連れて生徒会室から出ようとした時、その扉が向こう側から開く。
そこに姿を現したのは、『氷槍』、スライ・シュレイドだった。
「リッカ・グリーンウッドはいるか?」
「私はここよ!」
リッカが名乗りを上げる。
「今の爆発、かなり厄介だ。どうやら高等技術の魔法が絡んでいる」
「それって、どういうこと?そんな生徒は、この学校にはいないはずじゃ……?」
確かに、この学校は魔法を学びに来るところである。それなのに、そんな高等技術を持っている人間など、カテゴリー5のリッカや、周知の事実となってはいないが清隆くらいだろう。
「例の『研究施設』だよ」
「あれに関係しているの?」
「しているも何も、爆心地がそこなんだよ!」
「嘘でしょ!?それで、龍輝は?」
「分からない。でも、恐らく事件には巻き込まれている危険性がある」
何が起こったのか、そして、その原因究明をしなければならない。
スライを先頭にして、全員で現場に向かった。
しかし、どうやら現場まで向かう必要性はなかったようだ。
というのも、恐らく今回の事件の元凶が、校舎近くのグラウンドにまで接近していたのである。
黒い龍が、そこで浮遊していたのだ。
「こいつは……!?」
「これって、召喚術よね!?」
「こんなものを創り出すなど、どれ程の魔力の持ち主だ……?」
あたりを見渡すと、そこには既に先客がいた。
杉並である。
「……」
リッカが杉並に声をかける。
「杉並、これはあんたの仕業なの!?」
杉並が振り向く。
ある意味、この段階で杉並がいつものようににやついているのを誰もが期待していたのかもしれない。
しかし、その杉並の顔は、苦渋に歪んでいた。
彼は、左肩を押さえていた。
「ふむ、少しばかり油断していたら、一発もらってしまった……」
杉並が被害を受けているということは、この主人は杉並ではないことが分かる。
「ということは、犯人はいったい……?」
「多分、『研究施設』の連中だ。あの時龍輝が感じていたエネルギーの流れが、こいつを生み出したと見て間違いないだろ。そして、その流れを作り出していたのが施設の連中、多分その頭だろうさ」
しかしスライはそれを認めたくないのか、彼の顔にも疑念の色が浮かんでいた。
「それって……」
「そうでないと思いたいが……」
声に気がついてみんなが振り返ると、そこには龍輝がいた。
「お前、何か知ってるのか?」
「いや、施設中を探したがシグナスはいなかった。そして俺は咄嗟に脱出したんだが、あそこはもう瓦礫の山だ。『研究施設』があんなものを創りだしていたとはな……」
「なんで『研究施設』がそんなことをしでかすんだ?世界の不正を正すために『必要悪』を背負って、とか言うのがあの機関のポリシーなはずじゃ……?」
それなのに、今回の爆発事件、そしてこの黒龍は、『必要悪』どころか、ただの凶器と成り下がってしまっている。
「事故……の可能性が考えられるか?」
「事故?」
「お前みたいな大きな力を持つ魔法使いが、突如暴走したときのために発動する最終兵器で、つまりこいつが、他の研究員の不手際によって過失解放された、みたいな」
「考えられなくは、ないな」
「もしかしたら、召喚術のその実験過程を、それこそシグナス以外の権力者に牛耳られていたのかもしれない。かつて偉大な研究をしたものの、その結果がとてつもないものだった彼が、『研究機関』の責任者になることで、その力を使うようなことのないように……」
そう、龍輝にとって、シグナスとは、人生を縛られたこともあったが、それでも育て親に近い部分がある。更に、その聡明さと機敏さは、誰もが認める優秀な能力であった。
そんな男が、こんな破壊しか呼ばない化け物を創りだすとはにわかには信じがたい。
「だから、お前は例の力の流れの真相を掴めなかった、そりゃ、最大の権力者に隠れて他の権力者が今回のことを扱っていたからな」
「なるほど、それなら筋が通る。御託はいいから、とりあえずこいつを何とかしないとな!」
スライが構えると、その戦意、あるいは敵意を感じ取ったのか、黒龍はひとつ、咆哮した。
空気が揺れる。けたたましい鳴き声。
その一声で、まともな戦闘経験のないシャルルやその他の生徒会役員は怯んだ。
リッカや巴は戦闘経験そのものはないものの、自分の中で防御術が出来上がっているから問題ないようだ。
「大丈夫だよね……?」
「安心しなさい。なにしろ、こっちにはカテゴリー5が2人もいるのよ?」
スライは氷の翼を展開、そしてその表面から、大量の氷のつぶてを、吹雪のように黒龍に浴びせる。
「これでも食らいやがれぇ!」
更に光弾を両手のひらでつくりだし、そして、それを敵にかざす。
狙いを定め、照準を合わせる。
光の玉から放出されるのは、冷気の光線。
それは、黒龍に直撃――しなかった。
黒龍は、自らの体を霧のように分散させ、別の空間に自分の体を再構成した。
そして、その黒き体の周辺には、多数の魔力の塊である漆黒の玉。
それらすべて、一斉に黒き光線を打ち出し、狙いを定めず、周囲の空間を薙ぎ払う。
「みんな私から離れないで!」
リッカの指示に、龍輝とスライ以外がリッカに近づく。
ちなみに、龍輝はこの戦いにおいて、遊撃手的な役目を果たすため、常に主力2人とは離れた場所にポジショニングしている。
装備は以前『実験』で使用した≪追跡の弓(ホーミングアーチ)≫。
リッカたちの目の前を光線が襲う前に、シールドを魔法で展開。
光線がシールドと接した時、轟音が響いた。
「くっ……!なんて破壊力……!」
カテゴリー5のリッカでさえ、留めるのが精一杯なようだ。
その光線を阻むものがいた。
『氷槍』、スライである。
自ら氷の盾で攻撃から身を守り、それでいて、一瞬で発射口とリッカたちを結ぶ一直線上に、複数の氷の壁を生成した。
「もう持たねぇ!」
スライはその場を離れる。すると、黒い光線は、少しずつだが、その氷の壁を破っていく。しかし、今の場所から非難するには十分すぎる時間だった。
そして、次に攻撃に転じるのはリッカ。
その体を魔法によって中に浮かせ、そして、念じる。
巨大な力の塊、それによって操るのは、風。
すべてを消し去る、完全無敵、視認することさえ不可能な存在。
空気の流れによって生み出されるそれは、最強の攻撃手段となる。
「禁呪、≪偉大なるテュポーンの術≫!」
本来この禁呪は周囲に台風レベルの突風を巻き起こすものであるが、リッカはこれを一点集中させることでその破壊力を凝縮し、強力な攻撃力を生み出している。
大いなる風の力は、一箇所でせめぎあい、大きくなる。
そして、その自然の刃が、漆黒の巨龍へと煌く。
だが、その攻撃ですら、体を霧散させて無傷で凌がれてしまう。
あの龍にダメージを与えることは適わない。
「そんな……!」
驚愕したリッカに、龍の爪が襲う。
気付いている、しかし、足が動かない。
恐怖している。
リッカのいる場所に、その豪腕の爪が叩きつけられた。
地響き。
そして砂埃が舞う。
視界が広がった時、みんなはリッカの安否が気になった。
しかし、そのリッカは、瞬時に駆けつけた龍輝によって救出されていた。
「龍輝、だからあなたは、もう……」
「減らず口叩いてる場合かよ。こいつ、不死身だぜ……」
「ええ」
そして、リッカは、考えに考える。
しかし、その成果は、上がらなかった。
龍輝もありったけの魔力を一本の矢に変換して、黒龍を射抜く。
だが、何度同じことを繰り返しても龍には傷1つつけられなかった。
「自らの体に、寄生させろ……!」
声が聞こえた。
振り返ってみると、そこには白衣を身に纏った男がいた。
満身創痍、きっとこの男も被害にあったのだろう。
「シグナス・ルーン……!」
男は、シグナスだった。
「あいつは、不死身だ。あいつは莫大な魔力によって出来上がったバケモノだ。ならば、その魔力を上回る上代龍輝の魔力で封印させるのが一番安全で最速だ……!」
シグナスはそこで顔を背ける。
「しかし、そのあと、龍輝がその龍を体内で抑制させられるかが不安定要素だ。下手したら、暴走しかねない」
龍輝は、少し考えて――頷いた。
「ちょっと、龍輝、本気!?」
「何のための魔法だと、魔力だと思ってんだ。俺の、今まで使い物にならなかった無駄に多い魔力が、自分の体に少しリスクを課すだけで大勢の人間を守ることができるんだ。魔法使いってのは、守りたいものを守るのが究極の目的なんだろーが」
――やってやるよ。
龍輝は、覚悟した。
「どうすればいい?」
「誇張しろ。あの龍は自分を安定させる寄り代を求めている。自分の魔力をとにかく見せつけるんだ。そうすれば、そこの龍はお前に寄生しようとする。お前の傾きのない魔力に反応するはずだ」
「分かった」
そして、深呼吸の後、≪加速運動(アクセラレート)≫を発動する。
全能力値を最大限にまで引き上げるように。
そして、龍が振り向く。
ひとつの咆哮のあと、体を霧散させ、もの凄い勢いで、龍輝に寄生していった。
龍輝に突撃するように、そして、巻き付いて締め付けるように、霧は龍輝を取り囲み、体内に吸収される。
「がああぁぁぁあぁあああぁあああああああ!!」
苦痛に、悶え苦しむ。
それは、その光景を見ている人間にまで、間接的に苦痛を体感させるようだった。
「龍輝くんっ!」
堪らなくなったシャルルが悲痛な声で龍輝を呼ぶ。
しかし、その声は彼には届かない。
「ぐぅううぅうう……、うわぁああああぁぁぁあああああああああ!!!」
断続的に黒い霧が龍輝の体に溶け込んでいく。
龍輝は感じていた。
別の意志に自分が乗っ取られそうな。
そして、自我を完全に消し去られそうな。
そんな不快な感触を。
その別の意志は、自分に語りかけてくるようだった。
――あの時ああしていれば。
――あの時は楽しかった。
――時間なんて止まってしまえばいいのに。
――やり直したい。
――未来が怖い。
そして、霧は次第に薄くなり、そして――。
すべてが、龍輝に収まった。
おぼつかない足取り。
霞む視界。
今自分がどのような体勢をしているのか、立っているのか、倒れているのか、目は開いているのか、閉じているのか。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い。
何かが自分の中に押し寄せてくる。
自分じゃない何かに憑依された気分。
体がだるい。重い。辛い。
意識が朦朧とする中、みんなが駆けつけてくるのが分かる。
「龍輝、大丈夫!?」
「龍輝、しっかりしろ!」
龍輝の身を案じる声が聞こえてくる。
その声に答えるように、龍輝は笑った。
「はは、俺、やればできるもんだろ」
力を振り絞ってみんなの不安な顔に応えてみせる。
その声にみんなは安堵し、そして涙腺がはち切れたリッカは、耐え切れなくなって龍輝の胸で泣いた。
リッカの安堵と涙を見て、龍輝は意識を手放した。
事が終わった後、杉並は、周囲を見渡し、ある人物の影を探していた。
シグナス・ルーン。
非公式新聞部においても、まったくもってその情報を何も掴めていない人物。
そして、今回もその影はどこにもいなくなっていた。
「何か……あるな……」
そうして、今回の事件は、幕を下ろした。
『実験』は、確実に終わった。
これで彼は、正式に『研究材料』ではなくなる。
手に入れた自由。
手に入れた幸福。
彼は、浮かれていたのかもしれない。
この先に、何があるのか知らないで――
次回『手に入れたもの』
こちらでも非アカ読者さんからも感想を受け付けております。
もし何かあれば、どうぞ~。