D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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霧は濃くなり、少しずつ視界は閉ざされていく。
そしていつかは周りが見えなくなり、そして、深い悲しみだけが残されてしまう。
何も見えない中1つだけ確かなのは、自分は周りから、認識されなくなったことだった。


全て分かる、今

ただ無限のように続く、暗闇の世界。

その中で龍輝は、ただ清隆の精神世界への入り口を探していた。

当てはない。

始めて来る場所であり、初めて使った魔法でもある。

だから、夢の中でいかに動くべきか、その定石も全く分からない。

だから、手当たり次第に歩き回るしかなかった。

どれくらい歩いただろうか。

一箇所から、遠いところで何か光っているのが見えた。

 

――これだ。

 

迷わずにその方向に向かって走る。

次第にその光源は近くなり、その光の大きさを増す。

そして、それを目の前にして――その光の中に飛び込んだ。

 

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龍輝が清隆とのリンクを探っている間、清隆の部屋では沈黙が支配していた。

清隆の隣で眠る龍輝を見て、リッカは心配そうに呟く。

 

「行っちゃったわね……」

 

「あたしたちにも、出来ることってないのかな?」

 

「シャルル、気持ちは分かるが、私たちにどうこうできる問題ではない。龍輝を、信じることしか出来んのだ」

 

「そう、だよね」

 

そしてまた沈黙が走る。

姫乃はただ清隆の手をとって無事を祈るばかりである。

 

「ここに4人もいる必要はないだろう。私は一旦学園長にこのことを報告してそのまま部屋に戻る。清隆たちのことは心配だが――」

 

「分かった」

 

リッカが返事し、巴は頷いて部屋を出て行った。

そして、そのまま何に変化もないまま1時間が過ぎた。

 

「姫乃、もう、部屋に戻りなさい。ここは私たちが見ておくから」

 

姫乃は、それに答えない。

 

「姫乃ちゃん、清隆くんが帰ってこれても、姫乃ちゃんが衰弱してたら彼も心配するよ?」

 

しかし、姫乃はやはり反応しなかった。

姫乃は、それほどまでに清隆が心配だったのだ。

リッカとシャルルは、説得を断念し、その様子を見守ることを決めた。

しかし。

次の瞬間、リッカに異変が起こった。

急な眩暈、朦朧とする意識、体の力が抜けていく。

 

「何……これ……――」

 

その場に倒れこもうとするのを、間一髪でシャルルが抱きとめる。

 

「リッカ!?大丈夫!?」

 

「――え?」

 

姫乃がリッカの異常に気付く。

突然のカテゴリー5の気絶。

残された2人は、ただ混乱していた。

だが、それだけでは終わらなかった。

毛布を準備し、リッカを寝かせたと思ったら、同じ現象が、シャルルにも起こった。

 

「あれ、あたし……も……?」

 

そのままうつ伏せに倒れこんでしまった。

 

「シャルルさん!?」

 

残されたのは姫乃1人。

しかし彼女には、なす術がなかった。

緊急事態に、先程部屋から出ていった巴をシェルで呼ぶ。

しばらくすると、巴がエリザベスと一緒に姿を現した。

 

「これは、リッカさんまで……。一体どうなっているのでしょうか?」

 

「リッカもシャルルもか……」

 

エリザベスでも、この状況が把握できず、何もすることが出来なかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方、光の中に飛び込んだ龍輝は、不思議な光景を目の当たりにしていた。

今の時代では見られない建築物。

そこで生活している人間は男女で違うが、同じ服装をしていた。

ちょうど、今の風見鶏のように。

となると、ここは学校なのだろうか?

しばらくその光景を見ていると、そこに1人の少年が、姿を現した。

 

――清隆だ。

 

一緒にいるのは、リッカやシャルル、サラや葵にそっくりな女性がいる。

何やら楽しそうに会話している。

その会話内容の一部は聞き取ることが出来た。

だが、文化の違いか、龍輝にとって理解しがたい言葉が多く、どのような意味なのかまでは把握し切れなかった。

とりあえず、そこにいるのは、間違いなく清隆の『意思』である。

ならば、それを連れ戻さなければならない。

清隆に触れようとして――視界に靄がかかった。

 

「これは……霧?」

 

霧は、次第に視界を覆い、完全に龍輝を取り囲む。

かと思ったら、その霧は次第に薄くなり、龍輝はまた別の場所に飛ばされたことを理解した。

そこに、少女が1人、佇んでいた。

龍輝にも見覚えがあった。

そこにいたのは――

 

以前彼も目にした――

 

――ジル・ハサウェイだった。

 

「久しぶりだね。何日ぶりかな?」

 

「挨拶は抜きだ。ここはどこだ?お前は一体何者なんだ?」

 

単刀直入に、必要な情報だけを求める。

 

「君も、なかなか自覚しないんだね。君自身の、この世界での『役割』に」

 

「余計なことはいい。俺の質問に答えろ」

 

「そうだね。……うん、分かった。ここはどこか、と訊かれても、はっきりと明言できない。でも、“私たち”は、『感情』そのものなんだよ」

 

そして少女は静かに嗤った。

 

「教えてあげようか。この世界の真相を――」

 

――君は、絶対の力と大いなる絶望に選ばれた。

 

――力は、全て想いの力、感情に起因する。

 

――君の力は、地上の人間の全員の感情によって成立したんだよ。

 

――そう、君の中に寄生している、龍のことだ。

 

――だけど君のその力は、まだ完成していない。

 

――その中で大きな役割を果たす、大きな歯車が、2つ残っている。

 

――そのうちのひとつが、私だ。

 

――リッカ・グリーンウッドの、『感情』。

 

――彼女は、変われなかったから、今ここに私がいる。

 

――そしてもうひとつ。

 

――ほら、来た。

 

ジルの背後から小さな男の子が姿を現した。

印象的なルビー色の瞳、美しい白銀の髪。

一発で分かった。

彼は――シャルルの家族だ。

 

――そう、今君が考えたとおりだよ。

 

――エト・マロース。

 

――シャルル・マロースの実弟であり、彼女の『感情』でもある。

 

――彼女もまた、過去の“存在しない罪”に縛られ続け、苦しんでいる。

 

――そして、この『感情』が自我を持ったのは、他でもない、地上の霧が原因なんだ。

 

――その霧は、人間たちの負の感情を集積し、それを媒体として、大きな力を作り出す。

 

――その力は、たった1人の少女の恩恵となって、活用される。

 

――その少女は自分の死を未来視し、運命に抗おうとして、挫けた。

 

――その先に出した結論は。

 

――『未来が来なければいい』。

 

――それが、今の世界の現状なんだよ。

 

――そう、この世界は、“永遠に同じ時間軸を繰り返す”。

 

――同じ旋律を幾度となく繰り返す、ダ・カーポのように。

 

「そんな……!その少女って、一体誰なんだ?」

 

――教えられないよ。いや、教えなかったところで、君はいずれ分かってしまうんだ。

 

――ただ、きっと、君のすぐ近くにいる。

 

嘘だと思いたかった。

自分の周りの誰かに、この世界をおかしくしている者が存在しているという現実を。

そして、今は分からなかったとしても、いずれそれを知る時が来てしまう。

その時、自分は何を思うのか。そして、何をしてしまうのか。

それがもし、自分の大切な人だったとしたら。

脳裏に、1人の女性の顔が浮かんで、すぐに打ち消した。

 

――君は、私とエト君、つまり2人の魔法使いの『感情』を取り込むことで、力を完成させるんだ。

 

――絶対の力、大いなる絶望。それを、今から君は手にする。

 

「その、大いなる絶望って、さっきから気になってるんだが、一体何なんだ?」

 

彼女の言葉が、龍輝の不安を喚起させる。

この不安は、かつても感じたことがあった。

黒龍を寄生させたあの時に感じた、自分が食われていくような感覚。

 

――大いなる絶望。それは、一体何なんだろうね。

 

ジルはまた嗤った。

 

「それじゃ、もう用は済んだかな。そろそろ――始めようか」

 

すると、先程まで見ていた清隆たちのいる光景が視界に戻る。

そして清隆を置いて、残りの4人――リッカ、シャルル、サラ、葵にそっくりな女性がこちらを向き、霧状になって龍輝の体に入ってくる。

これは、恐らく清隆の『感情』なんだろう。

ジルとエトも、次の瞬間霧状になり、龍輝が龍を寄生させたときと同じように、龍輝の体に入っていった。

その時感じたのは、恐怖。

また、自我が消えてしまいそうな気がした。

何者かに“龍輝自身”を乗っ取られそうな違和感。

異変。

または異常。

 

「く……あ……」

 

――ここから君の運命は変わっていく。

 

――たくさんの経験、たくさんの知識、そして、絡み合い1つとなった負の想いの力は、いつまでも君を放さないよ。

 

――それじゃ、物語の真の主人公は、返しておくよ。

 

頭の中で誰かが囁くのを聞いて、龍輝はこの世界での意識を断った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「――キ……―キ……ルキ……」

 

声が聞こえてきた。

先程までの混乱を頭の中で抱えながら、ゆっくりと目を開いた。

顔を覗かせていたのは、リッカだった。

不安と、安堵、2つの感情が垣間見えた。

 

「龍輝!」

 

「リッカ……?」

 

「よかった……!」

 

「さっきまで君たちも眠っていたろうに……」

 

リッカとシャルルが歓喜し、巴が呆れていた。

どうやらこの2人は龍輝が目覚める前に先に意識を戻していたようだ。

それはきっと、彼女たちの『感情』が、龍輝によって封印されたから。

だが、急な精神下での変化で、体に強烈なリスクを負ったらしく、節々の痛み、頭痛、吐き気がする。

 

「チッ……、クソッタレがァ……」

 

傍では、清隆も無事戻ってきていたようだ。

 

「龍輝……さん……?」

 

誰もが、龍輝に対して違和感を持った。

 

――いつもの上代龍輝ではない。

 

「何だ……清隆?」

 

「いえ……何も……」

 

「駄目だ、体調が悪ィ。今日はもう、部屋に戻る……」

 

「あの、龍輝先輩、ありがとうございましたっ!」

 

姫乃が涙を拭うことをせずに、龍輝に感謝を述べた。

しかし、龍輝はそれどころではなかった。

真実を知ってしまった。

全てを知ってしまった。

地上の霧、次々に起こる事件、黒龍の正体、そして、彼自身に植え付けられた魔法の知識の実態。

彼の知識は、地上の無数の人間の負の感情と共に、彼らの記憶、知識をも巻き込んだ霧が黒龍として構成され、そしてそれが龍輝に寄生すると同時に、それらが龍輝に宿ってしまったものだった。

だったら今、霧の影響を全て一手に引き受けているのは、間違いなく龍輝だ。

何度も感じてきた、他人に意識を乗っ取られるような感覚、それこそが、これだったのだ。

 

――精神が、破綻していく。

 

そして、今回の件で、強力な魔法使いのマイナスの『想いの力』を取り込み、黒龍は完成してしまった。

強力な力を手に入れたのは分かる。

後は、“大いなる絶望”が何なのか。

酷く恐ろしかった。

もしかしたら自分が、自分ではなくなるのかもしれない。

手に入れた幸せを、手放してしまうのかもしれない。

辛すぎた。

あまりにも、残酷だった。

廊下に出て、少し歩く。

おぼつかない足取りで、ふらふらしながら。

誰もいない廊下、憔悴しきった表情の青年。

苦しくて、苦しくて、今は、何も考えたくなかった。

気が緩んでしまえば、何かを壊してしまう。

傷つけてしまう。

 

「俺は、どうしたらいい……!?」

 

独り、呟く。

しかしその声も、誰の耳にも入らぬまま、廊下の向こうの闇へと吸い込まれ消えていった。

かつてない恐怖に、龍輝は、誰にも見せない涙を零した。




想い人を心配し続けた少女を宥めるために、青年はあることを思いつく。
2人だけの記念を創ろうと。
誰も真似しない、真似できないものを創ってみようと。
それは、2人だけの、秘密の魔法だった。

次回『2人だけの魔法』
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