D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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片方だけでは完成しない。
片方だけでは使えない。
そんな、2人だけの、2人を繋ぐ、道標。


2人だけの魔法

結局――

龍輝は新学期直前まで生徒会室に顔を出さなかった。

シャルルや巴はともかく、リッカが最も彼を心配していたようだ。

清隆を救出したというのに。

誰も失うことなくことを運ぶことができたというのに。

彼1人だけ、苦しそうな表情で何も言わずに部屋を出ていった。

その時は清隆が優先で龍輝に気を回す余裕がなかったが、ほとぼりが冷めてから考えてみると、やはり龍輝の様子はおかしいと思われた。

 

そんなある日、新学期直前に、龍輝は生徒会室に顔を出した。

やつれきった顔で、ボサボサになった髪を直そうともしていなかったが、いつも通りの雰囲気で、リッカたちに前に姿を現した。

 

「龍輝!」

 

心配そうな表情をしたリッカが、龍輝に慌てて駆け寄った。

リッカは何度も龍輝の様子を見に行こうとしたが、リッカは勿論、シャルルや巴も当時の彼に異常があったことを見抜いて、リッカに止めるように諌められたのだ。

しかしいつまでたっても龍輝は姿を見せず、ずっと部屋に閉じこもっていた。

さぞ、心配しただろう。

 

「悪い、心配かけたな。もう大丈夫だ」

 

「龍輝くん、何があったの?ずっと生徒会室にも顔を出さなかったから、心配してたんだよ?特にリッカが」

 

シャルルも龍輝の気楽な様子に安心したのか、責めるように状況を訊く。

 

「ああ、他人の精神世界に何の準備もなく飛び込んだもんだから、リスクがかかったんだろ。頭痛はするし、吐き気はするし、体は軋むように痛いし重いしで、大変だったんだぜ?それなのにお前らときたら1度たりとも見舞いに来てくれやしない。まあ、とにかく大丈夫だってことだ」

 

「よかった……」

 

リッカは涙目になりながらも龍輝の身の安全に安堵し、ため息を吐く。

そして龍輝の手を握りしめるように掴み、吐き捨てる。

 

「まったく、どれだけ心配したと思ってるの!?全く顔見せてくれないしシェルに連絡入れてくれないし様子見に行こうとしたらシャルルたちに止められるし……。あの精神世界へのダイブで精神がやられたんじゃないかって、もしかしたら自室で植物状態になってるんじゃないかって、もう一緒にいられないんじゃないかって、考えたんだから……っ!」

 

最後には、溢れかけた涙が、瞼の許容量を超えて、頬を伝っていった。

 

「本当に、よかった……!龍輝が無事で、本当によかった……!」

 

ぽろぽろと涙を流しながら震えるリッカを、強く抱きしめてあげた。

スライの言ったとおりだった。

好きな女が悲しめば、自分が悲しくなると。

だから龍輝は、その償いとして、自分はここにいる、という存在主張の意味を込めて、壊れないように強く抱きしめた。

 

「もー、龍輝くんったら、こんなところで見せつけてくれちゃって……」

 

「いいではないか。ここに映像もキャプチャしておいたんだし、しばらくは退屈しないだろう」

 

はっはっは、と巴がからかうように笑う。

その光景は、以前と変わらない、和やかで、明るくて、温かい生徒会室だった。

 

「なぁ、リッカ」

 

「……なに?」

 

「お詫びと言っちゃなんだが、ちょっとふたりっきりにならないか?」

 

「おいおい、龍輝、これから生徒会の仕事があるんだが?」

 

と巴が横槍を入れる。

確かに今は公務中、その最中に仕事を放って遊びに行くのは、風見鶏の生徒会役員として、あるまじき行為といえる。

 

「大丈夫だよ、巴。こういう時に分け合うのが仲間の役目じゃない?リッカだって龍輝くんと一緒にいたいでしょう?だったらその間は、私たちだけで仕事を頑張りましょう?その分後にリッカに働いてもらうもよし、龍輝くんをこき使うのもよし、だからね」

 

と笑顔でさらりと恐ろしいことを言ってのけるシャルル。

流石は風見鶏生徒会会長、生徒側で学園のトップに君臨するだけあって、情には厚いが、言うことはえげつない。

でも確かにそれが筋だというのも自明の理である。

リッカは1度龍輝の顔を見、それからシャルルたちを見た。

 

「……本当に、いいの?」

 

「リッカは私たち以上に苦しんでいるはずだから、その分、龍輝くんと楽しんでくるといいよ。エトもそう思うでしょう?」

 

「くっぴー!」

 

シャルルの足元にいるエトが元気よく鳴き声(?)を上げ、シャルルの意見に肯定(?)する。

 

「悪いな。少しばかり、リッカを借りていく」

 

「うん、楽しんできてねー!」

 

龍輝は、リッカの手を取って、リッカと共に生徒会室を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

龍輝がリッカを引っ張って連れ出したのは、グニルック競技場だった。

龍輝が足を止め、それに倣うようにリッカも足を止める。

 

「これからグニルックでもしようっていうの?」

 

グニルックの道具を何も持っていないリッカが龍輝に訊ねる。

 

「いや、そうじゃない。ちょっと、2人の記念にと思って、あることをさ」

 

「あることって?」

 

龍輝の言葉に、リッカは首をかしげて訊き返す。

 

「2人だけの、オリジナルの魔法を作ろうぜってことだ」

 

「ちょ、オリジナルぅ!?」

 

リッカが驚くのも無理はない。

そもそもオリジナルの魔法を作り出すのは、それなりに力のある魔法使いでも難しいことなのだ。

高度なものを作ろうとすれば、リッカほどの人物でも時間はかかるし、下手すれば失敗する恐れもある。

リッカが言うには、以前清隆が魔法を作ったらしいが、それはあくまで『和菓子を創る魔法』であって、効果もかなり限定され、用途に危険な要素がなかったため、それほど難しいものでもなかった。

 

「ああ。面白そうだろ」

 

そういう龍輝の表情は、何故か輝いていた。

いつも以上に、楽しそうに見えた。

リッカは、そんな龍輝を見られたことに喜びを感じ、ついつい同調してしまうのだった。

さて、独自の魔法を作る時、色々と考えないといけないことがある。

まず、当たり前だが、どのような魔法を作るかだ。

 

「どんなものがいいか……?」

 

「なんか、派手なのにしない?折角だから」

 

と、あまりにもリッカらしいことを言うので、思わず龍輝は吹き出してしまった。

 

「なによぉ……」

 

龍輝の反応に、リッカは頬を染めて視線を逸らす。

 

「いや、リッカらしいと思ってな……」

 

「私らしいって、何よ……」

 

そう答えれば、今度はリッカは頬を膨らませて機嫌が悪そうな顔をし始めた。

お互いに冗談だということは分かっているらしく、2人は笑い合う。

 

「もっと、いざとなれば使えるものにしよう」

 

「例えば?」

 

龍輝は例を問われて少し考え込む。

そして、いいアイデアを思いついたようで、ハッとしてリッカに振り向いた。

 

「逆に、対象の魔力をゼロにする魔法、なんてどうだ?これなら誰も真似しないだろうしな」

 

「そんな魔法、どこで使うのよ?」

 

「なに、実用性なんて二の次だ。用は俺とリッカが2人で作った、ってのが大事なんだよ。それに、もし凶悪な魔法使いを相手にした時に、先手で発動することが出来れば被害なしで対象の魔法を封じることが出来る」

 

「なるほど……」

 

するとリッカは懐からメモ帳のようなものを取り出し、パラパラめくっては眺めはじめる。

何か新しい魔法を作り出すのに必要なヒントを探し出しているのだろう。

もしかしたら、リッカの持っている知識の中に、そういった類の魔法があるのかもしれない。

 

「術式魔法を応用するのもありかもしれないわ。サラ辺りが詳しいだろうけど、自分や対象の魔力を強化する術式魔法、これを逆手にとれば、逆に相手の魔力を減衰させることも可能じゃない?」

 

「だが、それだと相手に密着する必要があるし、相手によっては時間がかかるよな?」

 

「そこを、汎用性のある魔法でカバーするのが魔法合成の基本でしょ?」

 

「それもそうだな」

 

リッカはそのメモ帳に、自分の知っている魔力強化術式をつらつらと書き連ね、じっくりとそれを眺める。

ある1つの効果を持つ術式でも、複数のタイプの型があり、式の難しさでその効果の強さや精度が変わる。

ここが一番難しいところである。

更に、魔法同士には相性というものがあり、それを複雑に組み合わせる際、相性が良ければそれだけ成功率も上がり、効果も相乗される。逆に、相性が悪ければ、展開も難しくなり、成功率も下がって、効果もうまく発揮されなくなる。

リッカはそれを考えて、書き連ねた術式を眺めていた。

 

「これとこれ――それからこれも使えそうね」

 

「これはちょっと厳しいんじゃないか?式が長過ぎて展開に時間がかかるし」

 

「うーん、確かにそうかぁー」

 

簡潔であることと効果が強いこと、それから他の魔法と相性がいいこと、これだけの条件を揃える術式は、そうそうないようだ。

 

「拘束魔法――」

 

龍輝がボソッと呟く。

 

「え?」

 

「いや、拘束魔法を組み込めば、相手の行動を制限しながら術の行使ができるんじゃないかと思ってな」

 

「なるほど、でもそれじゃ、かなりかったるい合成になるわよ?」

 

「リッカなら大丈夫さ、俺もいるんだし」

 

と、根拠のない励ましを龍輝は言う。

それでもリッカにとっては十分だったようで、すぐに納得してしまった。

相変わらずこの2人は無茶が好きというかなんというか。

そして、理論の構築は終了した。

構成はこうである。

拘束魔法で相手の行動を制限する魔法が最初に展開されるように設定し、それに続くように魔法に組み込まれた術式魔法を展開、相手の魔力をゼロにするというもの。

龍輝とリッカは、隣同士で並び、前に手を翳して、そこに魔力を流し込む。

2人だけのものだと、アカウントのようなものを設定し、パスコードを仕込む。

それから、必要な魔法と、術式を織り交ぜ、魔法を合成させていく。

出来上がっていく魔法陣。

青白く輝いて、少しずつ大きくなっていく。

そして、やがて魔法合成の全過程は終了し、2人にとって扱いやすいように再フォーマットすることで、完成した。

 

「ようやく、完成か……」

 

「なんか、いいわね、こういうの」

 

「ああ……」

 

試しにリッカがワンドを取り出して、魔法陣を宙に展開し、パスコードを流し込む。

そうすることで、魔法は正確に起動した。

後は照準を定めて、対象に向かって仕掛けるだけだ。

リッカは満足したように魔法陣を閉じ、ワンドを仕舞う。

 

「完璧じゃない」

 

「それでこそ、俺の恋人だ」

 

「当り前よ。2人で作った魔法だもの。失敗するわけないでしょ」

 

「……そうだな」

 

龍輝は空を見上げた。

高い高い、魔法によって作られた、偽物の空。

その空は地上の障害物を全て透過し、本物の空を“映し出していた”。

リッカはその横顔を覗き見た。

その表情は、達成感というより、むしろ、何かの焦燥感に駆られているようにも見えた。




見えないから届かない。
暗闇のなか伸ばした手には、その先に触れることはできない。
ほんの少し暗いだけなのに、その光景は、あまりにも2人を不安がらせる。

次回『暗く霞むその奥』
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