D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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前の話のあとがきでも述べましたが、ここから先しばらくはD.C.と無縁のオリジナルストーリーになります。

※タグ「転生」を追加しました(神様転生とは別)




兄弟と、この指先と
曇り硝子の向こう


俺は、俺はこんなことになってたのか……

 

――思ったよりも、動じないんだな。もう少し取り乱すかと思った。記憶はなくても、かつては結ばれた相手との別れだというのに。

 

確かにそうかもしれねェ。でも、それでも俺は、やっぱり覚えてねェんだ。

 

――そうか。

 

もしこのビジョンが本当なら、ここから先が、『俺』の人生ってことか。俺の、どうしようもなくどうしようもなかった人生。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

空を見ていた。

それでも、見えていなかった。

きっとその先には綺麗な青空があるのだろうと思っていたのか、ただその先を思い描いて眺めていた。

曇り硝子を挟んで、少年と空は、繋がっていた。

 

「――」

 

彼は無口だった。

年齢にして7歳。

本来なら親の後ろを元気よく走ってついてくるくらいの年齢だった。

そんなものとは無関係なように、少年は、ただ無表情で、空を見ていた。

世界に、違和感を感じていた。

子供心ながら、ここは自分がいる場所じゃない、と、どこかで感じていたのだ。

答えはない。

自分はここにいる。

親はいない。

ただ、この窓から外を眺めるだけが、自分の生活。

自分は、何かに怒りを覚えていた。

何かを憎んでいたはずだった。

何を?

何を何を何を?

 

――分からない。

 

何も分からない。

1人自問自答に耽って、その年齢と行動のギャップの不気味さに、誰もが彼に近づきたがらなかった。

孤児院のスタッフでさえも、彼の無愛想ぶりには困惑していた。

何をしても興味を向けない。

何を見せても声を上げない。

ただひたすら、窓の外を眺めているだけの、生気のない、子供。

これほどまでに、恐ろしいものはなかった。

そんな時、人生に、転機が訪れた。

 

「ねぇ」

 

少年の背後から、更に幼い子供の声。

少年は振り返らない。

 

「ねぇってば」

 

また声がした。

いつものように、無視を決め込む。

返す言葉はないし、返す必要もない。

今はただ、自分の胸の中にある違和感と向き合いながら、ただ外を眺めているだけでよかった。

それから、どれだけ声を掛けられただろうか、一度たりとも返事はしなかったが、少なくとも、彼は、少年のことを、意識し始めたのかもしれない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ある日。

いつものように少年に声を掛けられる。

 

「ねぇ」

 

彼はまた、窓の外を眺めているだけだった。

 

「ねぇってば」

 

いつもと同じやり取り、いや、やり取りというには、彼の言葉は皆無に等しかった。

しかし、今回の少年はやけにしつこい。

少しずつ、自分の意識が外に漏れ始めてくる。

このしつこい、うるさい人間を何とかしなければならないと。

 

「ねぇねぇ」

 

「……ああ?」

 

出てきたのは、恐ろしく不機嫌な言葉。

普通の人間なら、返事に恐れをなして、やはり彼の周囲から人はいなくなっていたであろう。

しかし少年は――

 

「いっしょにあそぼうよ」

 

交流を、求めたのだった。

彼の中で、何かが少し変わった。

この少年との距離が、少し縮まった気がした。

でもやはり、行動は心についていけない。

 

「……いい」

 

彼は、首を横に振り、もう1度窓の外を眺めたのだった。

そして、そのような感じの日々が、過ぎていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

またある日だった。

孤児院に現れた男女の訪問者。

男の方は強面で、見た感じ少し恐ろしげな顔つきをしていたが、対照的に女の方は端整な顔立ちで、優しそうな印象を漂わせていた。

そして彼女は言う。

子供2人引き取らせてほしいと。

その理由は、女の方が生まれつき体が弱く、ある時発症した病のせいで、妊娠した時に母体にかかる負担が、今の彼女には耐えられず最悪死に至ることも考えられるらしい。

それで彼女は子供を作ることができず、それでも幸せな家庭を築きたいがために、孤児院の子供を引き取ることにしたのだそうだ。

これを院側はいい機会だと取った。

そう、あの無愛想でどこか恐ろしい少年を引き取らせようと考えたのだ。

そして院長から出てきた言葉は、こうだった。

今この孤児院には友達もできずにずっと独りぼっちで生活している子供がいる。いつも寂しそうで、子供たちの輪の中に入ればいいものの、何かを怖がっているのか、自分から入ろうともしない。だからお2方に引き取ってもらって、幸せな家庭の中で彼に元気と笑顔を与えてやってほしい、と。

院長の思考は、孤児院で子供を預かり育てるものとしては下種なものだったが、物はいいようとはよく言ったもので、その言葉は確実にあの少年を心配しているかのような内容となった。

この言葉を飲み込んで彼らはその少年を引き取ってやることにした。

そして、院長は少年の周辺環境をよく知っていたため、もう1つの提案をする。

 

「2人、と申しましたが、それならば、その子によく話しかけようとしている男の子もいるんです。いつもその子は話しかけている子に無視されるんですが、彼には間違いなく兄弟としてあの子を支えてあげられる資質があるでしょう」

 

女の方は、その環境に、少なからず夢を抱いた。

無愛想な兄に、人懐っこく付きまとう弟。

そしてそれを見守る自分たち両親。

なんとも理想的で、安らぎのある家庭だろうかと、そう考えていた。

そして日にちが経って契約も無事完了し、引き取る時が来た。

例の無愛想な少年は、その知らせを聞いて、少しばかり嬉しく思っていた。

どこか懐かしいような――それでいて、温かいような――

でも――

 

――何が懐かしい?

 

――何が温かい?

 

やはり、分からなかった。

そして、新しい両親と出会うと同時に、もう1人、見知った少年とも会った。

いつも話しかけてきていた、あの少年だった。

無垢で、優しい紫色をした、その眼を持つ少年。

最近近寄ってくるのは嫌には思わず、話しかけられたらとりあえずああ、だとか、んん、だとか適当な相槌を打って対応していたのだが、まさか同じ家族になるとは思っていなかった。

だから、少し――嬉しかったのかもしれない。

心なしか、体が軽いような気がしていた。

ちなみに、父の名は弓月慶次(ゆづきけいじ)、母の名は弓月雅(ゆづきみやび)と言った。

母の方が少年たちの前に腰を屈め、視線の高さを合わせる。

 

「そうねぇ、この子たちの名前、考えてある?」

 

「俺は苗字を与えることができる。名前はお前の字から使ってやれ」

 

「それがいいかしら。えーっと、お兄さんは、そうね、リュウガ、誰にも負けない龍のように強い、それでいて透き通った心を持った男の子、『龍雅』くん、それで、キミは、コウガ、みんなの心と未来を導く、明るくて頼もしい光のような存在になってくれる男の子、『光雅』くん」

 

これが、少年と、彼の弟となる存在の、新しい名前だった。

 

「それでいいんじゃないか。お前のネーミングセンスには脱帽だ」

 

「褒め言葉として受け取っておきましょうか」

 

新しい名前を授かった光雅は、体を目一杯に使ってその喜びを表現していた。

誰かと一緒に生活できる、それが家族となれば、その幸福感もひとしおといったところか。

一方、龍雅も、決して表情には現れてはいなかったろうが、やはり、どことなく嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。

それは、彼がここに来てから、一度も晒したことがなかった姿だった。




かつて誰かから聞いたような気がする。
大切な存在。
いつも傍にいてくれる存在。
そう言ってくれたのは、誰だったろうか。

次回『顔を上げれば』
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