D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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やっぱり完全オリストパートは需要ないんだな……
内容漏れがないように駆け足で進めます。

◇ ◇ ◇

失うものすら失って。
代わりに得たのは破滅の総意で。
その先に招かれた世界には、いつか見た、美しい大樹が存在していた。


終焉への誓い

弓月兄弟は事件の生き残りということで、なるべくマスコミを回避しながら事情聴取を済ませ、ほとぼりが冷めるまでなるべく外出しないでいた。

ショックを最も受けたのは紛れもなく龍雅だったが、彼はほとんど家に帰って来なくなっていた。

光雅も目が虚ろになり、いつものような元気も、前向きさも全く感じられていなかった。

彼らの両親も何も言うことができず、ただ遠くで見守ってやることしかできなかった。

輝夜と、隼翔の葬式には、龍雅は参加しなかった。

何人もの啜り泣きが聞こえてくる中で、光雅は泣けなかった。

何も感じられなかった。

未だに彼らが亡くなってしまったのを受け止めきれていなかったのだ。

ただずっと、式場に正座したまま俯いていた。

 

そしてそれから数日。

家に珍しく龍雅の姿があった。

とは言っても、彼の部屋の中で、誰も中を覗こうとはしなかったし、できなかった。

そして、両親が用事で外出いた後、まるでタイミングを見計らうかのように、龍雅は部屋を飛び出した。

慌てて追うようにして光雅も出てきた。

 

「待てよ!兄ちゃん!」

 

その恰好は、まるで家出でもしようという、自分たちから別離しようという恰好だった。

少ない荷物をバッグに纏めて、こちらを振り返らずに、龍雅は彼の呼びかけに立ち止った。

 

「うるせェんだよ!もうこんなところに用はねェ。テメェみてェな薄情者にも興味ねェ」

 

違う。

薄情者は光雅ではない。

理屈では分かっていた。

でも、自分の人格が、思考が、その現実と向き合おうとはしなかった。

自分があの時あの場所から離れていなければ、守ることができたかもしれないのに。

 

「……チッ、分かってんだよ、最初から俺がクズ野郎だったって事くらいよ。俺は生まれつき駄目だったよ。そうなんだよ、俺がアイツらを助けてりゃよかったんだ。俺がアイツらを助けられるくらいの力があれば。なぁ、光雅」

 

ずっと独りで生きていこうとして、それが自分のあるべき姿だと思っていて、それでも手を差し伸べられておいそれとそれを掴んでしまった。

自分で自分の生き方を通すことができなかった。

この悲しみは、この喪失感は自分への罰だったのだ。

生まれた時から、自分は間違っていたのだ。

最初から目の前の弟の声に、耳を傾けるべきではなかったのだ。

そう考えて、首を振り、思考を振り払う。

 

「そんなことねぇよ!だって、だって!」

 

光雅の言わんとしていることはなんとなく想像がついていた。

恐らく、自分は今まで彼らを幸せにできていた、だとか、守る力はあった、でも仕方なかった、などというつもりなのだろう。

 

「ハッ、見下し精神丸出しの同情なんていらねェんだよ。安心しろよ、お前たちの関係ないところで堕ちるとこまで堕ちるだけだ……」

 

自分でも無様だと、最後の語尾は吐き捨てるように流した。

自分と光雅は、共にいるべきではない。

光雅は光雅で、彼の持つもの(・・・・)を発現させなければならないのだ。

そのために、自分は邪魔になる。

だからここを去らなければならない。

いつか、この世界を終わらせるために。

 

「兄ちゃん……!」

 

「じゃあな、光雅、せいぜい栄光のエリートコースを堂々と歩めよ。――その内、俺がお前を潰してやる……」

 

龍雅は玄関を飛び出していった。

どこに行くのかは誰にも分からない。

それは龍雅自身にとっても同じことだった。

 

「兄ちゃん……」

 

光雅の呟きは、兄に届くことはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから更に数年、この世界で、彼にとって重大な変化が起きた。

突然、彼の弟の気配が、この世から消えたのだ。

そう、それは、光雅の死を意味していた。

冗談じゃない、と龍雅は思った。

隼翔が死んだ、輝夜が死んだ、そして残っていた新たなる世界への足がかりである、“力”を持った者がいなくなった。

それでは話にならない。

彼がいなければ、全てが成立し得ない。

 

「……いや、アイツの力だ。もしかしたら別の世界線にでも存在するかもしれねェ」

 

そう考えた彼は、とある魔法を発動することに決めた。

広い部屋の中央に大きな魔法陣を描く。

そしてその中央から見て全12方位、魔法陣の円の円周上に刃物――ナイフを突き立てておいた。

後はそこに、魔力を流し込み、術式の演算を始動させる。

 

「この世界からはもうおさらばだ。俺はお前を追い続けてやる。お前は、俺が潰さなければならねェンだ」

 

魔法陣が眩く光を放ち、視界を遮る。

そしてその光が消えた後、龍雅の姿は、そこにはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目を瞑らなければ目が潰されるような鋭い直射日光が降り注ぎ、荒地と化した村に、龍雅は降り立った。

急な視神経への刺激により、思わず腕で光を遮る。

辺りを見渡せば、そこにはかつて賑わっていたであろう村が、様々な建築物が破壊され、無残なものへと姿を変えていた。

先程行使した魔法は、ランダムに時間軸を移動する魔法。

平行世界として存在している時間軸の、そのうち1つ、以前の世界からずれた世界の、どの時間に存在するのか、そういった情報は現地で調達するしかない。

だが、龍雅には、ここが目的地であるような、そんな気がしていた。

しばらく歩くと、そこに、1人の青年が立っていた。

様々な武装を身に纏い、嘆くようにその場に膝をついて、こちらに背を向けていた、そう、絶望が感じられるような男。

その男からは、強烈な魔力が感じられた。

それこそ龍雅の足元にも及ばないが、並の魔法使いには及ばない、かなり強力な力を持った魔法使いのようだった。

龍雅は、この男に声をかけることに決めた。

 

「おい」

 

「……なんか用か」

 

その男が振り返った。

ぼさぼさの髪に、手入れのなされていないのであろう髭、そしてこれまで何人も人を殺してきたような眼が特徴的だった。

 

「ここはどこだ、何があった?」

 

簡潔に、そして確実に情報を得られる質問を叩き付ける。

相手の状況など、感情など、どうでもよかった。

 

「内紛だよ。向こうの街が匿っていたテロ犯罪者、賞金首を得るためにドンパチしててその被害を受けたそうだ。ここは俺と俺の妹が一緒に住んでた村でさぁ、住み心地は良かったんだよ。それなのに俺は、この村を、妹を、力を持っていたのに、守ることができなかった……!」

 

悔しさのあまりに唇を噛み締めて、涙を呑んで、ただひたすらに運命を、自分の力を恨んでいた。

 

「初対面のガキに何言ってんだか……」

 

「お前も絶望してンのか」

 

「あーそうだな、誰かを守るために力を手にした。でもその力は結局壊すことにしか使うことができなかった。その力で俺の妹は殺された。俺は何のために戦ってきたんだか……」

 

男は自分の意志とは裏腹に次々に言葉を紡いでいた。

目の前の少年に、なんでも話せるような気がしていた。

 

「一緒に世界を消してみないか?」

 

「……は?」

 

「言葉の通りだ。この世界を終わらせる。誰も守れない自分の力が嫌いなんだろう?だったらよ、破壊することで創り変えてみろよ。壊して、終わらせる。この不平等な世界を、この理不尽で、不条理な世界を」

 

「馬鹿じゃねーの?このクソガキが」

 

「ああ、確かに大き過ぎる話だ。でも、俺にはその力がある。そうしなければならない。これは俺の意志じゃない。世界の人間の総意だ。俺が世界を終わらせることで、誰もがゼロという平等なラインに立つことができる。お前の力は、壊すことで発揮される」

 

男は、龍雅の顔をまじまじと舐めるように見た。

その真剣みを帯びた表情に、気圧された。

そして、陶酔した。

 

――ガキの癖して、どんな生活送ってきたんだか、覚悟は1人前じゃねーか。

 

彼の言うことが全て正しく聞こえた。

彼に従えば素晴らしい世界が開かれると思った。

彼は間違いなく、世界を終わらせる男として相応しいと、男は考えた。

 

「いいだろう、その話乗ったよ。丁度大切な妹を亡くしてムシャクシャしてたんだ。俺の名は佐久間英嗣(さくまえいじ)、お前は?」

 

「悪ィな、身の都合上名乗るわけにはいかないが、そうだな……、――『ドラゴン』とでも名乗っておこう」

 

「ハハッ、そこまでの徹底ぶりかよ。面白れぇ、お前の遊びがどこまで世界を変えてくれるか見ものだぜ」

 

「遊びだと思ってたら痛い目見るぞ」

 

「痛い目なら慣れてるさ」

 

そして、2人でイギリスへと渡った。

なんでもこの世界において魔法使いは、イギリスが本場となり、そこで魔法に関する教育、そして運営が行われているという話だ。

だからまずは、目的の人間を見つけ出すために、そこの機関の右翼に働きかけ、何とか強硬派の組織の上層部へと上り詰めることに成功した。

あの時、あの地下鉄テロ事件の時、人格が融合しきった後に、龍雅は光雅の能力を見抜いていた。

それは生まれつきその能力に魅入られているような先天的なもので、その当時の彼には発現されておらず、光雅自身も気づいていなかった。

しかしそれは世界のパワーバランスを崩壊させるようなもので、それを手に入れることさえできれば、間違いなく龍雅の企みが成功することは分かりきっていた。

だから、超えなければならなかった。

正義のヒーローのような弟を、今頃はきっとこの世界に転生、召喚されて、どこかで苦しんでいる人を助けているであろう弟を、この手でねじ伏せなければならない。

自分の弟でもあり、憧れでもあった。

その眩い光のような存在に、何度も嫉妬した。

自分と対極の存在。

皆を信じ、ひたすら前へと進んでいく弟と、人の可能性を否定し、ここで世界を終わらせようとする兄。

どちらかが、潰れるしかなかった。

そして、そんな中、数年がたって――

 

「日本にて、それらしきと思われる魔法使いを発見、明確な証拠は存在しませんが、魔法を使って人を殺したと思われます。名を、『弓月光雅』、そして、本来ならそれを通達するはずの『監視者』である魔法使いの一族、葛木家の娘、『朝倉音姫』の2名です」

 

この報告をどれだけ待っていたことか。

彼がこの世界に存在していると信じて、ずっと待っていた。

 

「分かった。あいつもずっと待たされていたからな。ひと暴れさせてやろうか」

 

電話をとり、慣れた手で番号を押していく。

受話器に耳を当て、彼の受信を待った。

 

「俺だ。魔術規制法第29条、魔術の乱用に対する規制の違反者を発見、対象は『弓月光雅』及び近辺の『監視者』である、『朝倉音姫』。直ちに手筈を整え、処分せよ」

 

『了解』

 

スピーカーの向こうから、渋くて野太い声が返事をする。

その声は、喜びに満ちていた。

期待の気が、その声から溢れかえっていた。

そして、これが、2人を対立の道へと向かわせる。

2つの想いは、ここから枯れない桜の元へと、交錯していく。




繋ぐ者と、断ち切る者。
幸福と悲哀から始まった対立と衝突。
どちらも誰かの想いを背負って力を振るった。
どちらにも叶えたい世界があった。
敗者は、たった1人の家族の幸福を願う。

次回『振出しに戻る』
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