D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
大切な人と一緒にいて、それでも結局離ればなれになって、憎しみを向ける相手も見つからず、ただ、ひたすらに何かを壊す、そんな、恐ろしい夢。
少女を助けてしばらく経つ。
彼はずっとグラウンドの木陰で昼寝をしていた。
勿論、先程興味本位で少女を助けたことなど全くもって覚えていなかった。
訊いてない名前などもってのほかである。
目が覚める。空の色はまだ変わっていない。が、昼休みからそれなりに時間が経ったらしく、時計を見ると、もう3時を回っていた。放課の少し前である。
とにかく今日は1日中暇なので、ちょいとあそこに遊びに行くことにした。
風見鶏生徒会室。
彼は自分の立場もあるため、生徒会室には何度も足を運んでいる。だから、生徒会長のシャルル・マロース、そして彼女が絶対の信頼を置く、カテゴリー5の魔法使い、リッカ・グリーンウッド、そして、五条院巴(ごじょういんともえ)の3人とはそこそこ親交が深かった。
よって冷やかしついでにちょっと手伝ってやるか、と少し意気込んだ龍輝である。
さて、生徒会室前まで来た龍輝だったが、やはり本気で集中されていると冷やかしを入れても痛い子扱いで終わってしまうため、少し入るのを躊躇う、が。
「失礼しまー」
しまりのない挨拶で部屋に入った。
「ああ!龍輝くん、来てくれたんだー!」
龍輝が現れるなり、真剣な表情をすぐにとろけるような笑顔に変え、嬉しそうにするのは生徒会長のシャルル・マロースである。アッシュブロンドのウエーブが掛かったロングへアには良く似合った緑色のリボンをつけていて、左右対称に輝いているルビー色の瞳は彼女の美しさを際立たせる。
「あーもう、こんなときに何しに来たのよぉ」
龍輝が現れるなり、かったるそうに迎えてくれるのは、カテゴリー5の魔法使いのリッカ・グリーンウッドである。穢れのない金色の長髪と、サファイア色の瞳が特徴で、えらい身分の割には、大事なこと以外に関してはものぐさで、口癖が『かったるい』の、少しずぼらな女性である。だが、美人であることには変わりなく、ものぐさな態度も公ではあまり曝け出さないので、男子生徒はもちろんのこと、女子生徒の憧れの的でもあったりする。
「なんだ、また冷やかしに来たのか。残念だが仕事中だ。邪魔をするなら引き取ってくれ」
龍輝が現れるなり、人をからかうような目でそんな悲しいことをさらりと言うのは、五条院巴である。彼女は、葛木清隆、姫乃兄妹と同じ日本出身であり、ニンジャと似たような血族の女性であり、単独行動では生徒会で最も優秀らしい。黒髪のロングストレートへアが彼女のチャームポイントといったところか。性格はいたって意地悪で、他人の弱味を握っては玩具にするのが楽しいのだとか。
まあ、この3人が現在の生徒会の主要メンバーである。
「おいおい、今回はほんのちょっとだけ手伝ってあげようかなとか考えていたのに、その扱いはかなり酷くないか?」
よくあることである。例えるなら、これから勉強でもしようか、と思っていたところに、親から勉強しろ、ときつく言われることで、そのやる気を大きく削がれてしまう、そんな心情に近いだろう。
「それ本気?もー、整理する書類の量が多すぎて多すぎて……。はぁ~」
「カテゴリー5ともあろうお方が何をそんなことで弱音を吐いてんだか」
「うるさいわね~」
「手伝ってくれるのなら、そっちの書類の整理を頼めるか?」
巴が誰の手もつけられていない書類の束を指差している。
「分類ごとに分ければいいんだろ?」
「いつもどおりに頼む」
「了解、ってか、どうして俺はこんな仕事を覚えてしまったんだ?」
「口を動かす暇があるなら手を動かしてくれ。終わったらフラワーズで何か奢ってやるから」
「わあったよ。任せとけって」
「いつもごめんね~、龍輝くん」
「気にするなよ。俺は暇潰しにここに来たんだ」
それは間違ってはいなかったが、誰かとしゃべって過ごしたかった、というのは言わないでおく。それこそ巴の玩具への一歩を踏み出すことになる。
「手伝ってくれることは礼を言うわ」
リッカに忙しそうに書類に目を通しながら礼をされてもいい気分はしないはずだが、それでも龍輝は嬉しかった。
そもそも彼は友達が少ないのだ。
さて、作業を開始する、が、その前に龍輝は自分の能力≪加速運動(アクセラレート)≫を発動させておく。自分の身体能力が5倍以上に高まるということは、情報処理速度も高まるということである。
よって、他の生徒会役員の作業が終わる前に、自分のノルマを達成してしまった。
「はい、終わり」
「相変わらず仕事が速いねー」
「まぁ、能力が能力だからな」
シャルルは素直に褒めてくれるが、巴はどことなく皮肉を感じる。
「羨ましいわねー、その能力」
「生徒会役員は自力で作業しろよ……」
「分かってるわよ」
リッカが溜息を吐くのを聞いて、紅茶を入れることにした。
とりあえず、生徒会の他のメンバー、今は5人しかいないが、全員揃えばもっといる。
ティーカップを8つ用意し、それぞれのカップに紅茶を注ぐ。同時に、紅茶の言い香り鼻腔をつき、少しばかり気分が癒される。
先に他のメンバーに差し入れする。ありがとうございます、だとか、すみません、だとか、感謝の言葉を投げかけられるが、龍輝本人は別にそこまで言われることでもないだろう、と少し心の中で首を捻っていた。
そして、リッカ、シャルル、巴の3人にも差し入れする。
「お、これはすまない。それにしても、お前はいつからそんなに気が利くようになったんだ?」
「残念だったな、これは初期ステータスだ」
「あー、助かるわー、龍輝。ずずずー、あー、おいしー……」
リッカがかったるそうに紅茶を啜り、その余韻に浸る。
「せっかく龍輝くんがお茶淹れてくれたんだから、ちょっと休憩挟まない?」
「ご、ごめん……」
「あ、いや、別にリッカが悪いわけじゃないからね?」
「ううん、ありがとうぅ」
他のメンバーにも休憩の指示を出して、3人ともがリラックスする。
「あれ、龍輝は飲まないの?」
「俺?……別にいい。どうせだから仕事片付けとくから、それよこせ」
「ちょ!?アンタ今日ホントにどうしたの?そんな積極的な龍輝って初めて見る気が……」
「ああそうだ、気まぐれだからいつまでも持たん。気が変わらないうちに始めるぞ」
そう言って、龍輝はリッカの机の大量の書類を奪い、すぐさま仕事を始める。
「……あ、ありがと……」
「うーんっ!やっぱり龍輝くんがいると生徒会の仕事が楽しいよねー!」
俺がいるいないで何がそんなに変わるんだよ、と突っ込みを入れたつもりだったが、空気かな、といった、よく分からない返答をされて、まぁ、そうか、と曖昧なまま納得せざるを得なくなった。
取り留めのない会話を2、3分していると、まずはリッカの分をクリア、続いてシャルルの分を処理しようと思い、シャルルに声を掛ける。
「おーい、シャルル、こっちも片付けとくぞ」
「えー!?いいよぉ、そこまでしてもらっちゃ悪いわよ」
「却下。俺は早くこの作業を終わらせたい。よって、さっさと始めさせてもらう。みんなはのんびりしてな」
「お前もたまには英雄並の活躍をするじゃないか。見直したぞ」
褒めているのだが相変わらず巴はどこかからかっていた。
「だからこれは初期ステータスだと」
「龍輝くんって、本当に優しいよねー」
「……」
そんなことを臆面なく笑顔で言われると、自称人付き合いの苦手な彼はとたんに恥ずかしさで混乱してしまう。
そして、シャルルの残り分の書類も整理する。同じく自分の能力で、普通の数倍の速度で作業を終わらせる。
「はい、シャルル分終了っと」
「速いねー、ありがとう」
だから、その笑顔は反則ではないのか、と思いつつ苦笑する。というより、別のことを考えてないと変な気分になってしまいそうだった。
それからしばらくして、生徒会の仕事はひと段落ついたので、今日は解散することになった。
思いのほか仕事が早く片付いた3人は、なんだかいつもより嬉しそうな笑顔だった。
この地下の魔法学校は、まるで地上の都会のように機能している。
そのうちの1つの喫茶店に、太陽のような笑顔を持つ少女がいつも懸命に働いていた。
青年は、そんな彼女に興味を持った。
次回『喫茶店の看板娘』