D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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作者のもう一つの作品、『D.C.Ⅱ.C.E.』の方が関連して、『Ⅱ』の原作キャラの原作その後の環境に大幅な違いがあります。この作品の進行に直接的な影響はありませんが、その所、ご理解をお願いします。


木漏れ日の桜
初音島


この島で、何度も咲いて、枯れた枯れない桜の大木が、再び咲いた。

その薄紅色の花びらが、1人の魔法使いに、その想いと記憶を運ぶ。

 

「……うにゃ」

 

寝ぼけ眼をこすって状態を起こすと同時に、その脳裏に鮮明で、それでいて覚えのないシーンが次々とフラッシュバックする。

風見鶏、魔法、桜、霧、禁呪、ロストボーイ、ダ・カーポ、枯れない桜の奇跡作戦、5人の少女、1人の少年――

 

――そして、その場にいた、自分自身。

 

そこにいた自分は、過ちに苦しんでいた。後悔に嘆いていた。

もしかしたらこれは、『彼』がこの世界にいなかったかもしれない、自分と『彼』が出会わなかったかもしれない、別の世界の、自分。

それは、全て自分が体験したことではなかったが、それでも、“もしかしたらあったかもしれないもう1人の自分”がそこにいたことくらいは、彼女には理解できた。

だとすれば、ここにまた、桜の物語が、再び幕を開ける。

久しぶりに潜り込んだ建前上(・・・)の弟のベッド、そこに横たわって寝息を立てる『彼』の髪を撫で、これからのことを、色思い巡らした。

 

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これで全て終わりだ。さて、さっさとくたばっちまおうぜ。もうここにいる意味もないし、無駄話してる余裕もないだろ。

 

――そうかもしれない。でもな、拍子抜けで悪いんだが、実はお前も俺も、まだ死んじゃいないんだ。

 

は?突然何を言いやがる?俺のあの魔法は間違いなく人間1人の生贄があって成立する魔法だぜ?

 

――ああ、確かにお前は死んだ。でも、俺は死んでいない。

 

馬鹿言え。お前もあの桜の下で恋人の前でくたばったじゃねェか。

 

――まぁそうだ。でも俺“たち”は転生したんだ。あの時光雅のもとに行ったのは何もお前だけじゃないんだぜ。肉体はきちんと俺のだ。俺という器があってお前が存在できているのを忘れるな。それで、お前はこの後死ぬが俺はまだ残っている。つまり、そういうことだ。

 

ちょっと待てよ。それじゃ、俺のクセェ最期はどうしてくれるんだ!?

 

――知るか。とにかく、俺たちにはまだチャンスが残っているらしい。どこの誰だか知らないが、俺たちのために願いをかけてくれたらしいぞ。それが奇跡となって今俺たちはここにいる。

 

ふざけンな。どうせ同じことを繰り返す。それこそダ・カーポのようにな。

 

――それは行ってみなければわからない。それに俺たちはまだ、本願を成し遂げていない。

 

本願、だと……?

 

――俺たちが最後、何を願ったか、覚えてるか?

 

『運命を創った愚者を潰すこと』……なのか……?

 

――そう、俺たちは糸口すら掴めていない。だが、俺たちは多分、誰かの掌でずっと踊らされているみたいだな。だったら、そいつには最後、必ずどこかで会うはずだ。

 

……面白れェ。やってやろうじゃねェか。

 

――だから、お前がもうすぐ消えてしまう前に、俺と一緒に来てほしい。俺と一緒に、最後の本願を達成してほしい。

 

グダグダ言うな。これで光雅の糞野郎をぶん殴る機会ができた。それと、そうだな。その野郎にきっちし借りを返さねェとな。

 

――かなり無茶なタイムスリップだ。俺の肉体年齢は多分遡行するだろうし、世界のどこに落ちるかも分からない。準備はいいか?いいならこの手を握ってくれ。

 

握手なンてのは癪だが、付き合ってやるよ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

海鳥が青空を舞う。

水平線より手前には、いくつかの島が視界に入る。

季節は春だろうか、温かな陽光が差し、ほのぼのとした空気がそこら中で流れていた。

海原の真ん中、少年が1人、沈みそうになっている。

 

「おい、ふざけんな!なんで開始早々ゲームオーバー寸前なんだ!?ってかここどこだよ!?」

 

時空移動が成功した矢先に、海の真ん中に落とされてしまったようだ。

彼の持つ『知識』の中に、泳ぎに関連するものはあるにはあるのだが、彼にはかつてその経験もなく、更には状況も状況だったのでそこまで思考が及ぶことはなかったようだ。

彼何やら奇怪なことを叫びながら、その少年は流されていった。

その方向には、薄紅色の風景が広がっていて。

かつては夢の島だった世界に、もう1度夢が運ばれて。

何度も繰り返される旋律に、誰もが胸躍らせながら。

そして始まる。

数多の悲しみを乗り越えてきた少年、青年の、夢のお話が。

そう、悲しみの終わりを告げる、夢物語の始まり。

 

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海岸近くを歩く2人の男女。

両方とも、それなりに本島ではよく顔を知られた有名人だった。

海岸に押し寄せる波の音を聞いては、夏の到来もそう遠くはないことを実感しながら、舗装されたアスファルトをのんびりと歩いていた。

片方は、桃色の髪を黄色いリボンでツインテールに分け。

もう片方は、ワックスでセットした茶髪を風で揺らしながら、人懐こい笑みを浮かべて。

ふと男が浜辺を見ると、男が1人、打ち上げられているのを見かけた。

 

「なぁ、あれ、どうしようか?」

 

「えーっと、とりあえず様子見てみようよ……」

 

2人の眼にはどうやら彼がそこでただ寝ているようにしか見えなかったらしい。

とりあえず接近して、様子を窺う。

近くで見てみると、どうやら呼吸はしているようだし、目立った外傷もない。

勿論命に別状はなさそうだ。

 

「もしかしたらコイツ、海の向こうからやってきたとか?」

 

「あー、それありえるかも」

 

偶然かどうかは定かではないが、正解を口にした男に、女も同調する、が、どこにも慌てる様子はない。

 

「大丈夫そうだし、一応水越病院にコネあるいいんちょにでも連絡しちまおうか?」

 

「渉くん、もうあの人委員長じゃないでしょー?」

 

「仕方ねーだろ、呼びやすいんだからさ。あ、でもそういやあいつ今本島で仕事中だったっけか」

 

「そういえばそんなことも言ってたっけ。じゃあ家で預かる?」

 

「そーしよーぜ」

 

こうして、海から打ち上げられた男は、謎の男女によって連れ去られてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

初音島――そこは以前、1年中桜が枯れない島として、日本でも有名だった。

しかし20年弱程前に急に桜は枯れてしまい、ただの桜へと戻り、季節を彩るようになっていた。

それがある時、再びありえない時期にその枝に花びらをつけたのだ。

そして、春真っ盛りのこの時期、丁度桜が咲く季節としては申し分ない咲き誇りっぷりは、現地の人々を喜ばせていた。

 

その中、とある住宅街の隅に、小さなケーキ屋が点在していた。

その近辺ではそれなりに賑わっているらしく、売り上げも好調のようだ。

基本的にはケーキとパンを主流として販売しており、その味は折り紙付きであるともっぱらの評判で会ったりもする。

その店の裏側、経営者の住み処となっている、とある一室にて、龍雅は横になっていた。

 

「あ……」

 

ふと、意識が戻ってきて、右腕を前に、いや、状況からすれば上に伸ばした。

それを凝視していた2人が急な行動に驚いて尻餅をつく。

龍雅が目を開けると、そこに2人の男女がいた。

 

「えっと……」

 

龍雅の声を聞くなり、男の方が人懐こい笑みを浮かべて、嬉しそうに身を乗り出した。

 

「おう、ようやく目ェ覚ましたか!」

 

染料で染めたのであろう、ワックスで固められた茶髪を揺らしながら、見た目二十代後半の青年が小躍りする。

それを見て、桃色の髪をした女性――同じく年齢は二十代後半だろうか――はそれを見て苦笑している。

男性の方は顔つきもよく、年もそれなりにあるようで、どこか渋味も出ていて好みとする女性は多いような印象である。

一方女性の方もはっきり言って美人である。それこそアイドル級といっても過言ではない。

 

「あの、ここは……」

 

知らない場所に戸惑う龍雅は、遠慮がちに男性に問う。

龍雅が緊張していることなど知らず、男の方は笑いながら簡潔に答えた。

 

「ここは俺の家だよ。表はケーキ屋やってるんだ」

 

胡坐を組みながら、彼はニヒヒと自慢げに笑った。

女性の方もその隣に姿勢よく正座し、龍雅の方を凝視する。

 

「早速で悪いんだけど、どうしてあんなところで倒れてたの?」

 

「ああそうそう、それ俺も気になってた」

 

龍雅は話そうとして――思い出した。

自分はかなり面倒臭い境遇に立たされていた。

死にかけてタイムスリップして海に落とされて打ち上げられた、なんて言った瞬間精神科のお世話確定である。

 

「あれ……すみません、何も思い出せない」

 

記憶喪失者の振りをすることにした。

海から漂着したほどの波瀾万丈っぷりである。

記憶喪失していてもおかしくはない。

 

「どこから来たのか、自分が誰なのかも分からないのか?」

 

「いや、自分の名前くらいは。俺は――」

 

そこで、迷った。

自分はどちらを名乗るべきだろうか。

かつて少年少女たちと楽しく過ごせた、『上代龍輝』となるか、それとも、絶望の只中でもがき続けた『弓月龍雅』となるのか。

そして、少しばかり逡巡して。

 

「弓月龍雅です」

 

『弓月龍雅』であることを選んだ。

そこには、自分の絶望と、希望が託されていた。

何がどうであろうと、自分自分の憧れでもあった自分の弟、弓月光雅の兄であること、そして、その正義のヒーローのような存在と正面からぶつかり合ったことに対する誇りから、そうさせた。

 

「弓月、かぁ。その苗字も久しぶりに聞くよな。もしかしたら、関係者なのかもしれねーな」

 

「そうだねー。今イタリアだっけ?」

 

少しひやりとした。

彼らが言っているのはほぼ確実に光雅のことであることは容易に想像がいった。

彼の兄であることがばれてしまえば、少なからず余計な騒動を起こすことは目に見えていた。

何せ、自分は光雅を、弟を殺そうとした張本人なのだから。

 

「俺は板橋渉(いたばしわたる)。ここの家主みたいなもんさ」

 

「私は白河(しらかわ)ななか。まぁ渉くんのサポーターみたいな?」

 

そこで板橋渉と名乗った男は苦笑しながら、窓の外を見る。

 

「いやぁ、俺たちも少し前までは本島で有名な音楽家だったんだ。それがちょっと事情があって、こっちに戻ってきてケーキ屋やってるってわけだ」

 

「そうですか」

 

「ところでさ、お前、龍雅っていったっけ?これからどうするつもりなんだ?」

 

実のところ、何も考えてなかった。

住居もない。

金もない。

そういうものを求められる当てもない。

 

「どこにも行くあてないんでしょ?だったらしばらくここにいたらどう?」

 

ななかがそう提案する。

その言葉自体は嬉しかった。

今抱えている全ての問題が一気に解決する。

でも、それではいけないような気がしていた。

だから、正当な妥協線を提示する。

 

「それはありがたいけど、やっぱり迷惑かけるわけにもいきません。仕事、いや、バイトでもしてある程度金を貯めることができたらここを出たいと思います」

 

「うおぉ、義之や光雅が言いそうなセリフがそのまま返ってきやがった……。分かった、それじゃ、それまでは家でゆっくりしていってくれ。それはそうとして、学校とか、どうするんだ?」

 

そういえば――

龍雅は中学を卒業する前に家出して、それ以来教育というものを一切受けてはいなかった。

だからその言葉に、龍雅は食指が動いた。

 

「行けるモノなら、行きたいな……」

 

「ふーん……。俺に任せとけ!その辺の話は、俺がつけてやる!」

 

自信満々に拳を自分の胸にぶつけた渉は、満足そうに笑みを浮かべて素早く立ち上がった。

同様にななかもすくっと立ち上がって、準備をするのだろう、1度部屋から離れた。

これから始まる、新しい日常に、龍雅は期待を膨らませていた。




それは、『出会い』か、『再開』か。
その偶然にして必然な対面は、彼の心を弾ませると同時に、苦しめる。
過去と現在に挟まれた存在は、果たしてどちらなのか――

次回『桜並木を通り抜けて』
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