D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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偶然は、突然やってくる。
未来へと続く真っ暗な道は、目の前に現れた金色の光に照らされて――


運命の再会

――あたしはこうして安心して過ごすことができるんだよ。

 

それは弟を可愛がる姉のような存在で。

 

――で、でも、あと10分――ううん、5分だけ、こうしてちゃダメ?

 

それは兄を陰ながら見つめて慕う、妹のような存在で。

 

――ほ、ほんとに、頼ってしまっても、いいですか?

 

それは、能力に反して、弱々しくて、小さくて、助けてあげたくなる存在で。

 

――なんか、おにいちゃんみたいです。

 

それは、温かな笑顔を持つ、優しくて、癒しのある存在で。

少女たちは、1人の少年と出会う。

その出会いは偶然であり、必然だった。

その偶然の再開は、最後の1人の存在で、成立する。

 

――みんなの歯車の中心、みっけ。

 

少年の前に舞い降りた少女は、彼を目の前に、更にこう付け加えた。

 

――見つけたわ。共に戦った運命共同体、第1号!

 

――またみんなで集まって、私の運命を呼び覚ますわよ!

 

彼女は少年に、そんな突拍子もなく、現実味のないことを口走ったのだった。

それは、『彼』がここに現れる、ほんの半程前――

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、龍雅は約束の時間に学園長室に来ていた。

その恰好は、学校には似つかわしくない私服。

だが仕方のないことである。彼は昨日ここに漂着したばかりなのだし、金も時間もない彼に制服など買う余裕など存在しない。だからある程度派手過ぎないような格好で今ここにいるわけだ。

視線の先には例の小柄な女性の学園長。

何か面白いことが起こるとでも言わんとばかりに、こちらを見て不敵な笑みを浮かべている。

 

「それじゃ、弓月くん、もうすぐ担任の先生がここに来るから、それまでゆっくりして頂戴」

 

「はい」

 

学園長はさっと自分の白銀の髪を手先で払って、逆の手で卓上のカップを取り、中の飲料を啜る。

彼女がカップを置いてほっと一息つくのと同時に、扉は開いた。

中年の男性がそこには立っていた。

恐らく龍雅の担任の先生と見て間違いない。

 

「それじゃ、弓月くん、行こうか」

 

彼は学園長に一礼し、そのまま学園長室を去る。

教師の真似をするように一礼して、龍雅も部屋を出た。

教師に従って廊下を進んで、とある教室の前に立つ。

 

――1-C

 

ここが龍雅の教室であるらしい。

教師はここで待つように言うと、先に教室に入っていった。

それと同時に教室の中では慌ただしく生徒が席に座る音がガヤガヤと鳴り渡り、やがで静けさを取り戻す。

どうやら、転入生を紹介する時の、定番の流れが行われるらしい。

そして教師が話し終えたのか、室内から入ってくるように指示が出された。

不安と期待を胸の内に押し込みながら、教室の中に入る。

教壇の傍まで歩み寄る間に、軽く教室を見渡す。

逆に教室内の生徒もまた、龍雅の一挙一動に注目するように、まじまじと眺めていた。

一度落ち着き、黒板に振り返って白いチョークを手に取る。

そして少し逡巡して、黒板に大きく自分の名前――弓月龍雅と、縦に書き込んだ。

 

「弓月龍雅です。よろしくお願いします」

 

質素な自己紹介を終えた後、教師はそれに付け加えるように説明を始める。

 

「えー、彼はちょっとした事情があって、記憶喪失なんです。覚えているのは自分の名前くらいで、後は覚えていません。それでもここにいる限りは皆さんの仲間です。助け合って学園生活を送りましょう」

 

そして、教師に促されて、教室の後方窓際に空いた席に座った。

まだ好奇の視線は絶えないが、龍雅は気にすることはなくそれに対して軽く笑顔で返してみせた。

 

「それじゃ、折角なんで先生はさっさと退散します。聞きたいことはいろいろあるでしょうが、他のクラスはHR中なんで、あまりうるさくし過ぎないように」

 

それだけ残して、担任の教師は教室を去ってしまった。

それから、質疑応答の弾幕は容赦なく始まった。

主に記憶のこと、それから趣味、私生活、人間関係などなど……

答えられることには全て笑顔で返答したが、答えられないことは流石に答えなかった。

それでもクラスのみんなは彼を仲間と認め、龍雅はすぐにクラスに溶け込み馴染んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして昼休み。

親睦も兼ねて龍雅に積極的に関わろうとした男子生徒2人と一緒に、学園内の案内ということでいたるところを歩き回っていた。

既に学食及び購買、職員室などを案内してもらい、現在は特別教棟にいる。

 

「ここが化学室な。んで、隣が物理室。上の階には美術室とか実験室があるから、覚えておくよーに!」

 

「了解」

 

「特別教棟もこんなもんか。七不思議の話しても面白くねーし、こんくらいにしてそろそろ飯食いにいこーぜ」

 

実は彼らは先に購買までダッシュしていた。

というのも購買及び学食はすぐに生徒同士で混み合ってすぐに品切れや席を取り損ねることがあるからだ。

それで先に購買でパンを買っておいてうろうろしていたわけだ。

購入したパンの袋をぶらぶらと持ち歩いて廊下を歩いていると――

 

「――!?」

 

ふと、足が止まってしまった。

それは、どう言った感情だったのだろうか。その、思考が止まった一瞬が、いやに長く感じられた。

煌めくような金の光を携えて歩く少女。

その堂々とした姿は、まるで、そう、かつての、彼女のようだった。

 

「ああ、やっぱいいよなー、リッカさん」

 

「だなー」

 

クラスメイトは、間違いなく『リッカ』と呟いた。

ならば、それは、偶然か、否か。

知る由はない。知る由はないが、それでも、どうしても知りたかった。

振り返った時には、その姿はすでに角を曲がったのか、消え去っていた。

 

「リッカ・グリーンウッド……」

 

アルバイト先で出会った陽ノ本葵といい、何かしらの縁と、心に生まれた僅かな希望を、彼は感じ取っていた。

その場でしばらく呆けていると、クラスメイトから声がかかる。

 

「おい、お前もリッカさんに一目惚れか?あーいうのタイプなのか?」

 

「いや、まぁ……」

 

「すっげー美人だもんなー。なのに予科3年の芳乃と来たらあいつ、学園の華を丸ごと独り占めするように新聞部とかで囲いやがって羨まし―」

 

この後は、2人のモテない恋愛話を延々と聞かされながら、昼食を教室でとったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後。

学園生活初日を無事に終え、1度担任のところに報告をして、いろいろな連絡事項や配布物を受け取り、重い鞄を肩に掛けて昇降口を出る。

グラウンドを見れば、陸上部やサッカー部などが部活動を行っており、賑やかに掛け声や歓声を上げて活動に勤しんでいた。

そんな光景を見て、龍雅も少し、過去のことを思い出していた。

あの時、風見鶏にいたころ、初めて仲良くなれた少女と行ったスポーツ、グニルックのこと。

ルールもコツもよく分からないまま、見よう見まねでとりあえずショットした玉は、あまりにも強力過ぎて障害物を破壊してしまったことは、少しばかり記憶に残っている。

現在4時過ぎ、まだアルバイトまでには時間があるので、少し部活動を見学させてもらおうとグラウンドの隅の斜面に腰を下ろす。ふと脳裏に過ぎったのは、昨日の陽ノ本葵の姿。

彼女は自分のことに気が付いていなかった。ということは、彼女は、彼女であって、『彼女』ではない。

当然、彼女には、『彼女』として、かつての龍雅と過ごした時間の記憶など、あるはずがないのだ。

そう思うと、どこか、切ない気分になる。

別れ際に恋人に放った台詞が、ここまで重く圧し掛かるとは思ってもみなかった。

 

――夢はいつか覚めるものだろ。縋り付いちゃいけない。それは、また悪夢を呼び起こす。

 

――だから、さよならだ、リッカ。

 

再び、あの時の彼女たちと再会を果たすことなどできやしないのだ。

それこそが夢で、幻で、奇跡でも起こらない限り、ありえないから。

その奇跡は、今ここにいられるだけで十分存在する。これ以上望むのは、傲慢というものだ。

それでも、やはり、辛くて、寂しくて――

その姿を、優しさを思い出して、悲しみに呑まれる前に立ち上がる。

少し早いが、仕事場に向かおうと決心した時だった。

 

「やっと見つけた」

 

ふわりと、奇跡が舞い降りた。

薄紅色の奇跡。金色の奇跡。そして、見捨てようとした、奇跡。

金色の美少女が、軽やかに着地する。

そしてその視線は、他でもなく龍雅に向かっていた。

 

「私の、運命の人」

 

その視線に、迷いはなかった。

だからこそ、さらに辛かった。

彼女が何を思ってそんなことを口走ったのかが理解できなかったから。

ただの一目惚れか、それとも、新入生を見つけてからかっているだけか、あるいは――

 

「人違いじゃ……ないかな」

 

出てきたのは、そんな諦めの言葉だった。

誰も、あの時のことを覚えているはずがない。龍雅の中に眠る魔法の知識が、それを確証に変えていた。

誰1人として、自分のことを知る者はいないはずなのだ。

それこそ、かつてこの島で起こした事件に関わっている者以外は。

 

「人違いなんかじゃいわ。私は、あなたを知っている。それで、あなたも私を知っている。そうでしょ?」

 

自信満々で、彼女はそう言った。

その顔には、満面の笑みが浮かべられていた。

 

「俺の、何を知ってる?」

 

半ば嫌になってきて突き放すように鋭い語調で言葉を飛ばす。

 

「私を支えてくれたこと。私と一緒にいてくれたこと。私を好きでいてくれたこと。私を好きにさせたこと。そして何より――私の背中を押してくれたこと」

 

彼女はその温かな両手で龍雅の左手を包み、そして瞳を閉じて、こう囁いた。

 

「変わらないわ。10年も、100年後も。あの時の想いは、今でもまだ刻まれたまま消えることはないの。私たちは、運命の赤い糸で結ばれてるんだから」

 

彼女の瞳には、彼の瞳には、うっすらと涙が滲んで、夕日がその露を、綺麗に染め上げていた。




再会したはいいものの、そこには、過去と現在の、大きな隔たりがあった。
時空を超えた出会いは、時空によって引き裂かれる。
彼は、認めなければ前に進めなかった。
彼女は、自分の想いを追い続けた。
交差の先に、1つの結論が生まれる。

次回『過去と未来の狭間で』
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