D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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たくさんの平行世界での体験を記憶に持った少年は、少女たちとどう向き合っているのだろうか。
龍雅はそんな彼に、不安を抱いていたのかもしれない。
彼ももしかしたら、彼女に好意を抱いているのかもしれないと。


彼の想い

 

 

風見学園公式新聞部に所属している瑠川さらは、実はもう1つ、女子ソフトボール部に所属、すなわち部活動を掛け持ちしていた。

彼女が飛び級で入学当初から付属2年に所属したこともあって、同学年であっても年上が多い環境に放り込まれた彼女にとって、学園生活は肩身の狭いものであった。

その時に初めて清隆に声を掛けてもらったこともあって、さらは清隆に頼るようになる。

彼女が学園生活に馴染むにあたって、まずは部活動をどうにかすることにした。

確かに公式新聞部には所属しているものの、それだけで仲間の輪が広がるとは到底考えられない。

そこで彼女の主張もあって、さらはソフトボール部に所属することになったのだ。

ちなみに清隆もその時、さら1人ではいろいろ不安であることもあって、立夏の伝手もあって女子ソフトボール部のマネージャーとして仮に所属している。

龍雅は、本日はそんなさらのソフトボール部での部活動を見学することにした。

以下、放課後になって、清隆たちと龍雅が合流した時の会話である。

 

「部の掛け持ちか……。さらも大変じゃないのか?」

 

「いえ、確かに少し大変ですけど、森園先輩や先輩にもいろいろよくしてもらっているので、安心して頑張れます」

 

両手で鞄を持っているさらの視線は、自然に清隆の方へと向かっていた。

感謝と、別の温かい感情がこもっていたのだが、それには清隆も龍雅も気が付かなかった。

もっとも、さら自身はこれまでに何度気が付いてほしいと思ったか、枚挙にいとまもないが。

 

「龍雅先輩は、スポーツとか得意ですか?」

 

「風見学園の部活動を見て面白そうだったのは、バスケとか、サッカーとかだったかな」

 

勿論、龍雅はこの質問の答えとして、自身の魔法を使わない範囲での興味として答えている。

スポーツマンシップというのは弁えていて、これに関しては風見鶏時代でのグニルックのことが影響しているのだろう。

 

「見てて思ったんですけど、龍雅さんって、空間の把握とか得意そうですからね」

 

実は以前に新聞部の荷物整理を行ったのだが、その際に龍雅の空間把握能力は荷物の幅や大きさを瞬時に計算して、重ねる順番や取り出すときのことを考えて、奥にどのようにしまうかなどといったことを、的確に進めていき、その結果、完璧と言ってよいほど室内は整理整頓されてしまった。

龍雅は掃除などをさせるとかなり上手だと思ったのは、決して清隆だけではなかった。

 

「龍雅先輩って、本当に何でもできるんですね」

 

さらの、龍雅に対する尊敬の眼差し。

かつての龍雅ならいつものシリアス調に入ってしまっていただろうが、さすがに学習したようで。

 

「そう思うなら、困ったら何でも相談しに来い。出来る限り協力してやる。俺もそうだし、清隆もそうだろ?」

 

「勿論です。ということでさらも、何でも抱え込まずにちゃんと話すんだぞ」

 

「はい」

 

すぐに返事したのだが、実際、本当に言いたいことは未だに伝わっていない、いや、それとなく伝えたつもりで、向こうもなんとなく分かっているのだろうが、上手くはぐらかされたような彼女自身の気持ちもあった。

清隆は公式新聞部の仲間全員が好きだから、誰か1人を選ぶというのは身を引き裂かれるより辛いものだというのは分かってはいるつもりなのだが、自分の我が儘は、どうしても心の隅に残るのであった。

 

女子ソフトボール部の部室に到着し、さらも体操服に着替えて、ソフトボールの練習が始まった。

その前にさらの紹介で龍雅が通されたが、印象は良かったようだ。

ちなみに第一印象は『目が怖くて無口そうなイケメン』らしい。

勿論無口でもなく、目は怖くても感情は表に出すために怖そうであるという印象も解れた。

その後の、掛け声を合わせたランニングは青春そのものである。

さらは列の後ろの方にいたが、声もしっかり出していて、部活動に真摯に貢献しているようだった。

 

「清隆は、何かスポーツしないのか?」

 

グラウンドの隅に立って、龍雅たちは何気ない会話をしていた。

いろいろな部活動の掛け声や歓声をBGMに、龍雅はふと思いついた質問をする。

 

「いや、運動は好きなんですけど、やっぱり新聞部にいる時間が楽しくて、他の部活に入るとその時間が短くなっちゃうから、遠慮してるんです」

 

「なるほど。んじゃ、今度俺とバスケでもするか?昼休みに体育館でさ」

 

「あ、いいですね。バスケ上手いわけじゃないけど、俺もそこそこできますよ」

 

「そいつは期待できそうだ」

 

ふと視線を戻すと、ノックの練習で零れたボールがこちらに転がってきた。

龍雅はそれを拾い上げて掌で遊ぶ。

掌で転がして、指で回して、少し投げあげてアクロバティックにキャッチしてみたりもした。

 

「ほら清隆」

 

「うぉっ、とと……」

 

唐突に清隆にボールを投げる。

距離が離れているわけではないので手を痛めることはないが、それでも吃驚することに変わりはない。

 

「なぁ清隆」

 

「なんですか?」

 

返事と同時に、清隆が同じく近い距離でボールを投げ返す。

 

「少し話で聞いてさ、どうやらあの霧の中で世界がループしてたっていうけどさ」

 

「はい」

 

龍雅はまた掌でボールを遊ばせて、清隆に投げ返す。

 

「その世界の中で清隆はシャルルとか葵とか、今の公式新聞部の女子と結ばれたこともあるって話だけどさ」

 

「はい」

 

清隆のパスを受けて、龍雅は一旦ボールの動きを止める。

そして少し真剣な表情になって、こう言った。

 

「それってリッカにも手を出したってことだよな?」

 

悪戯めいた笑みを浮かべると同時に、ボールを投げる。

動揺し慌てた清隆の両手の平の中でボールが暴れ、落とさないように何とかキャッチするも、慌てたのはバレバレだった。

 

「いや、それはなんていうか、仕方ないじゃないですか!その時の俺はきっとリッカさんのことが本当に好きで、リッカさんを守ってあげたいとか思ってたんですから」

 

顔を赤くした反論も言葉に落ち着きがなかったが、それでもさらりと素敵なことを言ってのける清隆は、よほどできた人間であることが窺える。

 

「そんなことは知ってる。その世界に俺はいなかったし、清隆の気持ちも、リッカの気持ちもきっと本物だった。でもさ」

 

次に出てくるのは、清隆の気持ちを確かめる言葉。

その質問に清隆がどう答えるのか、龍雅にも全く分からなかった。

 

「過去にそんなことがあったなら、今でもそういう感情を抱いている可能性は十分にありうる。お前は立夏のことを、どう思っている?」

 

何故、再会した頃彼女に背を向けた自分が、こんなことを清隆に問うているのか、自分で理解していた。

龍雅はやはり立夏のことを想っていて、かつて清隆と一緒だったであろう時間に嫉妬したのだった。

 

「俺は――」

 

ボールを力いっぱい握り締め、そして思い切り振りかぶる。

視線だけを龍雅に向け、彼の胸めがけて、手加減をせずにボールを放った。

そこそこ運動神経のいい年頃の男子の投球は、至近距離で受け止めるには強すぎる。

龍雅は一瞬驚き、そして、パシィ、と音を立てて、ボールは龍雅の左手にしっかりと納まった。

強烈な激痛に、顔をしかめる。しかし視線だけは、同じく相手の、清隆の方へと向かっていた。

 

「俺は、立夏さんが好きです」

 

真剣な表情で、はっきりと言葉にする。その言葉が、龍雅の心を揺さぶることは、清隆にも分かっていた。

しかし清隆は、そのまま優しく微笑む。

 

「正しく言えば、立夏さん()好きです」

 

そう言って、照れたように視線を龍雅から外して、風見学園の校舎を見上げる。

斜陽の差し込む日光が窓ガラスで反射され、少し眩しい。

 

「こんなこと言ったら、やっぱりみんなに怒られるんでしょうけど、誰か1人を選ぶなんて、今の俺にはできないんです。さらも、葵ちゃんも、それから――姫乃にるる姉も、俺に少なからず友達以上の好意を寄せてくれます。いつかは決めなきゃいけない時が来るかもしれないけど、せめてそれまでは、みんなで楽しい時を過ごしたいんです。俺の我が儘なんですけどね……」

 

それに、と付け加えて、再び視線は龍雅を射抜いた。

 

「安心してもいいんじゃないですかね。立夏さんが本当に好きなのは、龍雅さんなんですから。立夏さんは、前世のことなんか関係なしに、今の龍雅さんに恋してます。俺は確かに立夏さんのことが好きで、立夏さんもまた、俺のことを好いていてくれるでしょう。それでも結局は、なんていうか、友達としてというか、仲間としてというか、まぁ友愛とか親愛の域を出ません。俺には立夏さんを幸せにすることはできないけど、龍雅さんになら、きっとできると思います」

 

いつになく饒舌な清隆の想いは、本気だった。

自分の気持ちと向き合って、龍雅や立夏の気持ちを自分なりに考えて、そして出た結論。

周囲から朴念仁と呼ばれることもある清隆の、精一杯の言葉。

龍雅が感動しないわけがなかった。

部活動の時間もそろそろ終わりが近づき、片付けに入る部もちらほら見えてきた。

女子ソフトボール部も同様で、用具の手入れや運搬を行っていた。

 

「あ、龍雅さん、そろそろ片付けなんで、球拾い、手伝ってくれますか?」

 

「あ、ああ」

 

清隆と2人、それから数人の部員で協力して球を拾っていく。

効率よく作業ができたために、ものの数分で作業は終了してしまった。

ボールのたくさん入った籠は部員が部室まで運んでいく。その背中が遠くなるまで、清隆たちはその姿を見つめていた。

 

「清隆」

 

声を掛けたのは龍雅だった。

 

「ありがとうな」

 

感謝の言葉に、清隆は苦笑する。

しおらしい空気はどうやら苦手なようだ。

 

「今週末、例の花見だろ?その時に、俺はしっかりと、自分自身と、それからあいつと向き合う。そう決心がついた。清隆のおかげだよ」

 

「俺は何もしてませんよ。龍雅さんは最初からその道を知っていて、それでも見失っていただけなんです。俺はただそれをほんの少し照らしただけですよ」

 

2人、夕焼けの下、笑いあう。

男同士の水入らずの会話で、2人の絆はより強く結ばれたようだ。

そして龍雅が、場の雰囲気を壊すようなことを最後に漏らす。

 

「なるほど、清隆がモテる理由がこれではっきりした」

 

「な、何言ってるんですか!?」

 

そのタイミングで、部活を終えて着替えてきたさらが戻ってきた。

そして今日の反省とやらを清隆と一緒にして、いろいろ指導をしてもらうらしい。

 

「今日のスイング、どうでしたか?前より上手くなったと思うのですが」

 

「確かにそうだけど、まだ腕で振ってるところがあるね。足から腰までしっかり使って振り抜かないと、力を使いきれないよ」

 

「それから視線がぶれてたな。もっとしっかり対象、ボールを見てないと、なかなかバットには当たらんぞ」

 

「えっ!?龍雅先輩、そんなところまで見えてたんですか!?」

 

「視力には自信があるからな。遠くで見ててもおかしいところは大体分かる」

 

茜色に染まる桜並木を、ゆっくりと歩いていく。

他愛無い会話が、燃える空へと溶けていった。

そして、週末の5月1日、風見鶏時代、禁呪の霧を晴らし、ワルプルギスの夜を乗り越えた次の日。

始まりの少女は、大人びた姿となって、枯れない桜の下で、待ちわびていた。




しんしんと、桜が舞っている。
少女は過去へと想いを馳せていた。
今は亡き、かつて恋した幼馴染の少年。
彼は自分の親友と結ばれて幸せになったけれど、それもまた、遠い思い出だった。
自分の祖母の思い出がたくさん詰まった大きな木に、体を預けながら。

次回『思い出の先に』
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